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他人事症候群  作者: ココロ
お嬢様と一人の執事
10/12

10-感染

「どうかされましたか? 行きますよお嬢様」

「あ、ごめん」

センマの言葉でふと我に返った。あれ? なんで我に返った?

考え事をしてた? いや…記憶にない。

「お嬢様、早く来てください。私もそれなりに忙しいのですから」

「あ、ごめん。ミナ」

「いえいえ。それよりも大丈夫ですか?」

「なにが?」

「顔赤いですけど…熱でもあるのでは? 診察しますか? してあげますよ?」

「でも…他人事症候群の話も…聞きたい…」

「なら、診ながら話しましょうか?」

「うん…そうして」

「かしこまりました」

ミナは、踵を返し、多分診察室へ行った。

ダメだ。頭がぼーっとする。足取りがおぼつかない。

「お嬢様。無理はいけませんよ」

「…だ、大丈夫だよ。センマ」

「お嬢様、診察室が空いておりましたので…なんだか、診察どころじゃなさそう。センマ、お嬢様を私の部屋に連れてって。もう…すぐ無茶しちゃうんだから」

「はい。分かりました」

それから、センマの後をついて行って…ミナの部屋で…寝たのかな? うん。寝たんだと…思う。


「うわっ!」

「起きましたかお嬢様」

センマ…? あれ? 誰?

「いや…こないで…」

「お嬢様?」

「来ないでって言ってるで…しょ…あれ? センマ…?」

「センマですよ。ミナさんを呼んできます。心配ですよやっぱり」

「うん。お願い」

一人になった。身体を起こした。ここはソファーの上だ。

「センマ…早く…」

頭痛が酷い。頭の中を何かが駆け巡る。その何かは過去の記憶を引っ張り出す。あの時の記憶も…思い出す。

「ごめんね…ミナ…今日もあの時も心配かけて…ごめんね…」

涙が流れる。

これまで幸せに不自由なく生きて…ごめんなさい…。

「お嬢様! これは…センマ! 精神科医の先生を呼んできて! 早く!」

身体が起こされる。あれ? さっき起こしたはずなのに。

「精神病は、少しは心得てるけど…こんな大病、無理だよ…」

私はもうミナの泣き顔は見たくない…

ああ、なんだか調子狂うな…ミナが泣いてるなんて…。


ここで私の意識は切れた。


「ミナ…?」

「! お嬢様、ミナですよ」

「あ…誕生日おめでとう。確か今日だったよね」

「あ、あ…ありがとうございます。覚えていて…くれたんですね」

「…当然じゃない。でも、プレゼントは忘れたわ。後で家に取りに来て」

「…分かりました。分かりました」

「…あと、ごめんね。あの時、お礼言ってないや。助けてくれたのにね」

「ええ。ええ。そのくらい許してあげますよ…」

「…そうだ」

「え? どうしたんですか?」

「私はこっちの人間じゃない。そろそろ、夢も大概にしなきゃ…」

「夢? これは現実ですよ…? いや、まさか! 行こうとしてるの…? そちら側に…。ダメ! お嬢様! お嬢様!」

「なによ…煩いわね…。それよりもセンマを出しなさいよ…こんな時に私のそばに居ないなんて…執事失格よ…全く…」

「話が繋がってない…そろそろ、限界近いってことなの?」

「ミナ…抱いてよ…私を抱いて…上に被さって…私の逃げ道を消して…」

「ミナさん、精神科医の先生を連れて来ました!」


私は目が覚めた。

「センマ!」

「お嬢様、大丈夫ですか?」

隣にいたミナが心配そうに聞いてくる。

「ミナ…? うん。大丈夫だよ」

ミナはセンマと場所を交代して、お医者さんと話しをしはじめた。

「お嬢様、本当になにもないですか?」

そばにきたセンマがそう聞いてくる。

「なによセンマまで…大丈夫って言ってるでしょ」

「よかった…。お嬢様、私は少し、風に当たって来ます。ミナさんとお話しでもしておいて下さい」

「分かったわ。ありがと」

センマは部屋から出て行った。

「お嬢様、無事で何よりです」

話は終わったのか、ミナがまた近寄ってきた。

「なに泣いてるのよ。ミナは笑顔じゃないと」

「今日は泣きたい気分なんです」

「それで…私、どうかしてた? なんだか、記憶がかなり飛んでいるんだけど」

「…他人事症候群の初期症状が出ておりました」

「そう…。また心配かけちゃってごめんね」

「初期症状で治ってよかったですよ…本当…初期だけは治るらしいんです…普通は鎮静剤飲んで、カウンセラーと対話して治すんですけど…流石お嬢様ですね」

「でしょ? …なんだか夢を見たわ。私が居ない世界の夢だったわ。センマは学校の先生やってた。ミナは変わらずお医者さん。お父さんとお母さんも変わらず世界旅行に行ってて…でも、みんな何か物足りない顔してた。ずっとその事を考えてた。なにが足りないんだろうって…。お金かな名誉かな地位かな幸せかな…それとも私なのかなって。私って答えが出たら、目が覚めた」

「他人事症候群って呼ばれる病気は、自分を度外視する病気なんですよ。末期まで行くと全てがどうでもよくなって、ほぼ人形状態になるんですよね。そうなる前に自殺する人が多いのです。この病気が危険と言われているのはそう言うことです。だいぶ初期症状が分かってきまして、段々と見つかりやすくはなっているのですが…それでも死亡者は増えていく一方で…」

「ねえミナ、さっきのこと、覚えてる?」

「さっき?」

「誕生日のこと。今日でしょ?」

「ああ。そうですね。仕事が終わり次第、家に行きますよ」

「うん。そうして」

チラリと、部屋のドアを見る。センマがいつ帰ってくるか気になるのだ。

「ふふ。センマのこと気になるんでしょ?」

「そ、そんなことない!」

「行ったほうがいいですよ。センマくん、ああ見えて察せない人ですから」

「…うん。わかった」

私はミナの部屋を後にして、風に当たりに行ったセンマを探しにいった。

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