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私に一途な従姉妹の愛が重すぎる  作者: 北条S


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【プロローグ.それは夏休みの終わりに突然に】

 高校一年の夏休みだというのに、することもなく自堕落な日々を送っている。

 やりたいこともない。遊びに行く人もない。何の予定もない。ついでに宿題もしていない。


 そんなどうしようもない人間が、私、高柳和泉だ。


 面倒くさかったけど、漫画を取りに体を起こした時、インターホンが鳴った。


「……通販で何か頼んでたっけ?」


 首を傾げつつ、玄関へと向かう。


 にしても、今年の夏は去年より暑い気がする。そのせいで格好もだらしないものになっちゃってるけど、まぁ荷物受け取るくらいなら一瞬で終わるし別にいいでしょ。


 我ながら女子高生としては大分どうかと思う軽い気持ちのまま、上着も羽織らず玄関の扉を開けた。


「あ……」


 そこにいたのは、宅配の人ではなく美少女だった。


「……え?」


 誰だ――と思ったのは一瞬で、すぐにその子の正体は分かった。


 背中を覆い隠すほど長い髪はゆるやかに広がり、触れたら柔らかそうな印象を抱く。こちらを真っ直ぐに見つめる大きな瞳が、くるりと揺れた。

 どこか凛とした佇まいは、私の記憶の中にある彼女よりも遥かに大人びた印象を受ける。


「さ――結城、さん……」


 名前を呼ぶと、彼女は少しだけ眉をひそめた。


「和泉ちゃんに名字で呼ばれるのなんて初めてだから、なんか変な感じ」

「……なんでこんなところに?」

「従姉妹の家に遊びに来るのが、そんなに変?」

「いや、だって……」


 彼女――結城桜乃とは、小学生の頃は長期休暇の度に遊んでいた。けど、ここ数年はロクに連絡すら取っていない。それがいきなり家にやって来るのは、私からしたらかなり変だ。


「……何の用で来たの?」


 言ってから、冷たい言い方になってしまったとちょっと後悔したけど、相手は特に気にしていなさそうだった。


「伯母さんたちから聞いてない?」

「聞いてない……」

「んー、言い辛かったのかな」


 この言い方的に、私以外のみんなは今日結城さんが来ることを知ってたのか?

 なのに誰も何も教えてくれなかったって……しかもみんな揃って出掛けてるって……色々と作為的なものを感じる。


「……和泉ちゃん」

「…………なに?」

「会いたかった」

「な、」


 何か言うよりも先に、体が衝撃を受けた。視界が微かに揺れて、柔らかい感触がして、ようやく抱きつかれたことに気が付く。


「……は? ちょ、な、なに、急に」

「ごめんね、会いに来るのに時間がかかって……」


 ぎゅうっと強い力で抱きしめられて、「ぐぇっ」と、つぶれたカエルみたいな声が漏れてしまった。


「あ、あの、恥ずかしいんだけど……」

「んー……もうちょっとだけ」


 ええええ、本当になにこの状況……数年ぶりに会っただけでも混乱してるのに理解が追いつかない。

 大体こんな気軽にスキンシップしてくる子だったっけ?

 というか、あまり強く抱きしめられると髪が当たってくすぐったいし、なんか全体的に柔らかくて良い匂いがして頭が回らなくなりそうで……


「も、もういいでしょ!」


 力いっぱい体を引き離すと、結城さんはキョトンとした顔をした後、軽く微笑んだ。


「ごめん、外ですることじゃなかったね」

「いや……、というか結局なんでここにいるの?」

「とりあえず中に入れてもらってもいい? ちょっと暑くなってきちゃったから」


 確かにお客さんといつまでも立ち話というのも失礼な話かもしれない。

 少し嫌な気持ちはあったけど、追い返すわけにもいかず、素直に招き入れることにした。



 嫌だったのは、結城さんを家に上げることじゃない。この惨状をよそ様に見られることの方だ。


「……わぁ」


 漫画やゲーム、ラノベやBDで埋め尽くされたリビングを見て、結城さんは笑顔を保ちつつも、どことなく引いているような声を上げた。


「……どうしてどのパッケージにも、脱ぎかけとか薄着の女の人が描かれてるの?」

「私の趣味」


 もうどれだけ引かれたっていいやと思い、投げやりな気持ちで答えた時、玄関の扉が開く音が聞こえた。

 それから少しして、勢いよくリビングに姿を現したのは、私のお兄ちゃん。


「おー、やっぱり! 靴があると思ったら、もう着いてたのか!」

「いっちゃん、久しぶり」

「久しぶり! いやー会えて嬉しいよ、サクちゃん」


 兄の名前は樹なので、結城さんは昔から”いっちゃん”と呼んでいる。

 にしても、なんか仲良さげだし、このまま私は立ち去っても構わないんじゃないだろうか。

 と思って、二人を置いて部屋に戻ろうとしたら、結城さんに服を掴まれ阻止された。


「和泉ちゃん、いっちゃんも帰ってきたし、話の続きしてもいいかな?」

「……あー……はい。で、今日はなんでウチに?」

「ああ、悪い。お前に言うのをすっかり忘れてた」


 私の問いかけに答えたのは、結城さんじゃなくてお兄ちゃんだった。


「何を?」

「サクちゃん、今日から一緒に住むことになったから」

「………………は?」


 思わず間抜けな声が漏れる。

 今なんて言った? 一緒に住む? 結城さんがこの家で?


「ちょ、ちょっと待って! そんな話聞いてないんだけど!」

「だから忘れてたって言っただろ。ま、そういうわけだからよろしくな」

「いやいやいや!」


 おかしいだろ。一体いつの間にそんな話になったのか。

 混乱しているのは私だけのようで、お兄ちゃんは呑気に冷蔵庫からジュースを取り出している。


「大体、なんでいきなりそんな話に!?」

「お父さんの海外転勤にお母さんがついていくことになって……私は向こうの学校に通う勇気がなかったから、それならウチで一緒に住まないかって伯父さんたちが言ってくれたの」

「……叔父さんたちは許したの? こんな年頃の危険な男がいる家に、女の子一人で居候なんて」

「おい、失礼だな」

「うん。こっちのご家族に迷惑をかけなければ……って」


 本当に、いつの間にここまで話が進んでいたんだ?

 なんでお母さんたちは教えてくれなかったんだ?

 そりゃ二人は仕事で忙しくて家にいる時間も少ないし、ゆっくり話す暇もそんなにないけど……だからってこんな大切なことをみんな揃って言い忘れるなんて、あり得るんだろうか。

 ……まさか、あえて黙ってた?


「んじゃ、早速サクちゃんの部屋を決めるか」

「あ、私はお世話になる身だから、部屋はなくても大丈夫だよ」

「そういうわけにいかないって。それこそ年頃の女の子なんだから、プライベートが必要だろ」


 なんだか目の前でどんどん話が進んでいってるんだけど……止めたところで無駄な気がする。そもそも既に家族ぐるみで決定されたこと、私一人が何か言ったところで誰も聞いてはくれない。


 色々と諦めてキッチンに行き、冷蔵庫から牛乳を取り出して、それをコップに注いで飲み干した。

 まあ、私に被害が出なければ別にどうでもいい――


「しかしちょうどいい部屋がないんだよな…………そうだ、和泉の部屋を明け渡そう!」

「おい! 私のプライベートがなくなるじゃん!」


 流石に聞き流せない台詞だったので、急いでキッチンからリビングに戻った。

 しかし私の抗議を聞いたお兄ちゃんは、知ったこっちゃないって顔をしている。


「別にいいだろ。寝るとき以外使ってねーんだから」

「そうだけど……私にだってプライベートは必要だよ」


 私達が無言で睨み合っていると、結城さんがおずおずと手をあげた。


「えっと……私、本当に部屋はいらないから」

「いやいや。でも父さんの部屋を勝手に渡したら怒られるだろうし、そもそも加齢臭しそうだしな……」


 お兄ちゃんはしばらく考えるように目を瞑った後、ぽんっと手を打った。


「ならこうしよう。和泉とサクちゃん、二人で一部屋だ」

「フタリデヒトヘヤ?」


 予想外の提案過ぎて、思わず片言になってしまった。


 いやいやいやいや、それはない。いくらなんでもありえない。そもそも私と同じ部屋なんて、結城さんが嫌がるに決まって、


「あ、それいいかも」


 あれ?


「よし、そうと決まれば、早速荷物を部屋に移動させようぜ」

「意義あり!」

「却下」

「当人の了承も得ずに勝手に決めるな!」

「サクちゃんはオッケーしてくれただろ」

「私のことだよ!!」

「じゃ、俺が荷物を部屋に持ってくよ」


 ダメだこいつ、何を言っても聞きやしない。

 これ以上叫ぶのもめんどくさいので、ガックリと項垂れることしか出来なかった。



 結城さんの荷物が入っているらしいキャリーケースを引っ張り、リビングを後にするお兄ちゃん。恐らくあのまま私の部屋に向かうんだろう。


「和泉ちゃん」

「……なに?」


 名前を呼ばれたけど、顔は上げずに声だけで返した。自分の部屋を守り切れなかった虚無感からである。


「こうして直接顔を合わせるのは、あのとき以来だね」


 顔を合わせるのは――なんて言ってるけど、あれから一度も電話やメッセージのやり取りすらしたことないじゃん。声を聞いたのだって、意思を疎通したのだって、あのとき以来だ。


「……私のこと、怒ってる?」

「別に……昔のことは忘れたいから」

「そっか……」


 彼女の顔を見てないから、どんな表情をしてるのかは分からないけど。その声音は、少しだけ寂しそうに聞こえた。



 しばらくすると、お兄ちゃんがリビングに戻ってきた。手にしていたはずのキャリーケースは今頃私の部屋のどこかに置かれているんだろうと思うと、あの能天気な顔をぶん殴りたくなってくる。


「サクちゃん、昼から外行かないか? ついでにこの辺案内するからさ」

「うん。ありがとう」

「和泉も来い。とりあえずその前に昼飯だな」


 なんで私だけ命令形なんだ……しかも拒否権すら無しか。

 この世の理不尽を嘆きつつ、リビングを後にするため歩き出す。


「和泉ちゃん、どこか行くの?」

「……友達と遊ぶ約束してたの思い出した」

「お前友達いないだろ」


 くっ、人が気にしていることをあっさりカミングアウトしやがって……。


 嘘を貫くのも空しいので大人しく再びソファーに座り、テーブルかお兄ちゃんを蹴飛ばしたい気持ちをグッと抑える。


「私は行かないから。案内役ならお兄ちゃん一人で十分でしょ」

「数年ぶりに従姉妹と再会したっていうのに、冷たい奴だな」

「冷たくて結構」


 わざとらしく溜め息をつくと、結城さんは私の方を見てクスクスと笑った。

 ……一体なにがおかしいんだろうか。馬鹿にされている気がして、ちょっとイライラする。


「和泉ちゃんは変わらないね」

「そんなこと結城さんに言われたくない」

「おい、もう少し優しく接しろよ」

「従姉妹相手にそんな必要ない」

「都合がいい時だけ従姉妹扱いするなよ……」


 お兄ちゃんはかなり呆れていたけど、気にしないことにした。


 不貞腐れている私の手に、結城さんがいきなり触れてきたものだから、驚いて跳ね上がった。


「あ、ごめん、ビックリさせちゃった。……なんか和泉ちゃんの反応、猫みたい」


 人の醜態を笑うな、恥ずかしい。


「和泉ちゃん、改めて今日からよろしくね」

「……私は、よろしくしたくない」

「でも私はしたいなぁ」


 言いながら、するりと結城さんの手が私の手に絡んできて、頭の中に「!?」がたくさん浮かび上がる。


「なん……え、なんかさっきから……そんなキャラだっけ?」

「んー、会わない間にちょっと変わったかも。……昔のままの私だと、本当に欲しいものは手に入らなさそうだから」


 彼女が一体何を言いたいのかさっぱり分からない。ポエムにしか聞こえない。

 隣でお兄ちゃんが「なんかエロいな」と言っていたので、今度こそ蹴飛ばしてやった。


「これから変なこと言ったりしたりするかもしれないけど、よろしくね、和泉ちゃん」

「……変なことというのは?」

「内緒」

「……」


 よろしくしたくない――ってまた言っても無駄な気がしたので、とりあえず無言で頷いたら、嬉しそうに微笑まれた。



続く

本日二話同時掲載してるので、よかったら続きも読んでもらえると嬉しいです。

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