書けない5
「でも、それならば何故”ストーリーテラー”を運営してるんですか?」
俺はふと、思い至った疑問を投げ掛けた。ワザワザ関わろうとしなくてもいいはずなのに。
「鳴海さんみたいにね、作家であることに苦しむ人を1人でも減らしたいの」
柔らかく笑う佐藤 梅子。
「悩んだ時にまず相談するのは同じ世界に身を置いてる者に、でしょう?苦しまなくっていいよって、もっと素敵な世界もあるよって教えてあげたい。特にこれから家族を持つような若い子にはね。早いうちに視野を広げてあげたいの」
佐藤 梅子はそう言うと、伝票を手にする。話はここで終わりだとその態度が言っていた。
「鳴海さん、書くの止めてしまうんですか?」
大森 朱音の声に振り向いた。眉尻を下げ、残念そうな顔をしている。
「というより、書けないんだよ」
なんとなく、後ろめたく感じてそう言い訳めいたことを口にする。
「小説を書くよりも、大事にするべきことは沢山あります。それが良いと思いますよ」
佐藤 梅子が俺の肩に手を乗せて、俺の気持ちを肯定してくれた。
「そうだ、俺に頼まれてた小説、”ストーリーテラー”さんに依頼し直さないか?差額は俺が持つから」
佐藤 梅子の手に勇気付けられるようにして提案する俺。
「どうだろう? ちょっと兄と相談してみますね」
明らかに気乗りしていない表情で大森 朱音が答えた。
ふと店内を見渡すと客がまばらになってきている。
慌てて、メニューを開いていつものを頼んだ。佐藤 梅子は食器を片付けやすいように端に寄せ、レジへと向かっていく。それを追いかけて、大森 朱音が俺の前から立ち去った。
「創さん、心配してたんですよ」
会計を済ませた佐藤 梅子が店を出て行くのと入れ違いに大森 誠が話しかけてきた。
「客が少ないのかと思って来てみれば……」
俺は店内を見渡す。最後の客がレジにいる大森 朱音に支払いをしているところだった。
「俺が来なくても問題なかったんじゃないか?」
俺は思わずそう言ってしまってからなんて子供っぽいことを言ってしまったのかと恥ずかしくなった。目をそらした俺の視界の端で大森 誠が屈託なく笑うのが見えた。
「あぁ、やってメールしたら来てくれると思ってましたからね」
心底嬉しそうな声が俺の耳に届く。
「俺は何か力になれるかと……」
必要ないなら来なかったと続けた俺に、
「えぇ、そういう人ですよね、創さんは。だから、必要だってメールしたんですよ」
と、大森 誠が目を細めた。




