2人目の少女が依頼に来た
田中栄太の依頼が終わってから数日も経たない内にその知らせは来た。
「あなただけの物語屋」へのメール。
「はじめまして。三鷹 聡子と申します。
ホームページの”あなただけの物語屋”って言葉に惹かれてメールしています。料金は1文字1円からとの事ですが、他に追加料金などかかるのでしょうか?
また、ネットで知り合った人と対面することに強い抵抗があるのです。電子メールのみで売っては……いただけませんか?お支払方法や特別に道理を曲げていただく事への追加料金は覚悟します。あまり沢山は支払えませんが、できる限りお支払するつもりはあります。」
俺は文面を読んでかれこれ20分ほど唸っていた。名前から推察するに女性だろう。ネットで知り合って実際に合うことに抵抗があるのは当然だ。
――また、簡素な作りで実績も載せていないようなホームページの呼び掛けに答えるのは心理的ハードルがすごく高い。これは田中 栄太に指摘されたことだ。シンプルな方が分かりやすいと思って作っていた俺はその言葉にひどく驚いたものだった。田中 栄太曰く「夢で見たことをそのまま実行してしまうような酔狂な人間がそう何人もいてたまるものか」ということらしい。
となると、三鷹 聡子には高いハードルを越えてまで作って欲しい物語があるということになる。そこまで望んでくれるのならば、特例にしてしまいたい。
「どう思う?田中さん」
三鷹 聡子と会うとしたら、事務所を借りなくてはならない。俺は、仮抑えの名目で田中 栄太に電話を掛けた。
「そこは特例にするべきではないところだね」
きっぱりと言い切られた。驚いた俺が
「でも……」三鷹 聡子の気持ちも分からないでもないと続けようとしたのを田中 栄太に制される。
「確かに、鳴海君は年頃の男性だ。しかし鳴海君、君は何を売り物にしているのかその本質を分かっているのかね?」
と畳み掛けられた。そうだった。
ただ文字の羅列を渡すのなら、わざわざ枕詞に「あなただけの」という言葉は必要ない。早くも見失いかけていた初心を思い出させてくれたことにお礼を言って俺は電話を切った。
「ご丁寧な挨拶恐縮です。ペンネームは牛弌論咲、本名を鳴海 創と申します。三鷹様のご不安なお気持ちはお察し致します。ただ、実際にお会いすることでインスピレーションを得ていることもあり、メールのみでの対応はお断りさせていただいております。こちらといたしましては、事務所での話を想定しておりました。しかし、人が周りにいた方がなにかと安心でしょうから、カフェでの対応もいたします。せっかく気に留めていただいたのに、ご要望にお応えできず、申し訳ございません」
俺は三鷹 聡子に当てたメールを作成すると、なるようになれ! と送信のエンターキーを押す。この時点で断りの連絡が入るものだと覚悟していた。しかし、その後届いた返信には「カフェでよろしくお願い致します」と書かれていたのだった。




