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最初の依頼人は老人5
「即答とは肝の座った人だね君」
豪快に田中 栄太が笑って言った。
「そんなつもりでは……」
事務所で応対するビジョンが俺の脳内で広がる。悪くない提案、むしろ渡りに船。しかし、こんな話はうますぎる。断った方が賢明だろう。
「いえ、土日に貸し出されても、そのうちの9割以上を使わないままにしてしまう可能性が高いです。せっかくの申し出ですが……」
後ろ髪を引かれながら断る言葉を続ける俺に、
「なら、次の依頼の連絡が来たら私に一言部屋を借りられないか相談するってのはどうだ?」
と田中 栄太が食い下がる。
「田中さんにどんな利益があると言うんですか?」
なんとも奇妙な構図だ。普通、貸してくれと言って頭を下げるものじゃないだろうか。
「友達を助ける満足感と言うのはうれしいものだろう?」
田中 栄太がニヤリと笑って答えた。
そのまま押しきられるようにして月に2度ほど掃除を請け負おうことを条件に俺の事務所が決まった。
掃除の条件は俺から出した。あまりに自分ばっかりが得をしているように思えたから。
「鳴海君、根っからの真面目なのに、こんな事をする思いきりもあるなんて本当飽きないな」
田中 栄太は、俺の提案を聞いてさらに嬉しそうにするのだった。




