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第04話 ゴーレム、一般常識講座を受ける。

 

 

 

 

 早乙女源一郎改ヴェクシオンと成った俺は、岩ゴーレムのレックスと共に蒼く輝く月明かりに照らされ明るい草原を、ノンビリ話しながら連れ立って歩く。その話の中でレックスが帝国兵に襲われた自分の村が心配だと主張し、俺に同行を求めたので特に行く宛も無かった俺は、レックスの道案内に従ってゴーレムの村に向かっている。

 うん。本人が自覚しているか分から無いけど、要するにテイの良い護衛扱いだよな。道中の話は色々、異世界事情に疎い俺には参考に成るけど。  


 「へー、ハイゴーレムって、そんなに数が少ないんだ」

 「そうっすよ!何せ、俺っち達ゴーレム族の上位種何っすから!」

 「そうなんだ」


 レックスは興奮気味に話してくれるが、身長差から来る威圧感が凄いので身を乗り出しながら話し掛けないで欲しい。

 しかし、レックスの話を聞く限り、初対面でハイゴーレムと名乗ったのは失敗だった。ゴーレム種に限らず、ハイと付く種族は元々数が少なく、自力でハイ種に進化した者は昔話に出てくる位だそうだ。


 「そうなると、俺もハイゴーレムと軽々しく名乗るのは控えた方が良いな」

 「そうっすね。ヴェクシオンさんがハイゴーレムだと知れ渡ると、帝国以外の国々もヴェクシオンさんを捕まえに来る様に成ると思うっす」 

 「はぁ……」 

 「だから、ハイゴーレムであるヴェクシオンさん、表向きはアイアンゴーレムの変異種とした方が良いと俺っちは思うっすよ」


 面倒な状況に成ったな。異世界で生まれ変わったこの体には、俺が知らない内にプレミア価値が付いたようだ。


 「そもそも、何でゴーレムが他の種族から奴隷のような扱いを受ける様に成ったんだ?」

 「……それは」


 俺の質問にレックスは言いにくそうに口篭った後、ポツリポツリと話し始めた。


 「少し長くなるっすよ。元々俺っち達ゴーレム族と、他のヒト種は今みたいな関係だった訳じゃ無かったっすよ。互いに交流も有ったすっし、時には協力して強力なモンスター達と戦う事もあったっす」

 「……それが何で、今みたいな関係になったんだ?」

 「魔法っすよ」

 

 魔法、さっきの帝国兵も使っていたが、異世界では割と良くあるファンタジー要素である。しっかし、それがゴーレム族が奴隷扱いされている事と、何の関係があるんだ? 


 「ヴェクシオンさんも知っての通り、魔法は世界に満ちる魔素を利用する技術っす」


 ゴメン、知らないんだけど?俺は内心首を傾げていたが、レックスは気付かず話を続ける。 


 「魔法の燃料は、魔素を変換し生成される魔力っす。生成された魔力を糧に魔法は様々な現象を引き起こすっす。でも、基本的にヒト族には魔素を魔力に変換する能力が乏しかったんっすよ」

 「?でも、さっき戦った帝国兵の中には結構な魔法を使っていなかったっか?」

 「魔晶石っす」

 「魔晶石?」


 魔晶石……ああ、魔法を使った帝国兵が持っていた杖の先端に付いていた、あの宝石。 


 「魔晶石は、モンスターの体内から採取される魔石を加工して作られているっす。この魔晶石は、後に大賢者と呼ばれる事に成る研究者によって製法が確立され、魔力精製に乏しかったヒト族に魔法と言う技術を齎したっす」

  

 文明開化……いや、産業革命か?蒸気機関や内燃機関の代わりに、魔素を利用する魔法が浸透するっと。


 「っすけど、何事にもプラスの面だけで無く、マイナスの面もあるっす。ヒト族は魔法を使える様には成ったっすけど、魔法を使う才には種族で優劣の差が出たっす」

 「……?」

 「少数種族の妖精族等には高い魔法の才が発言したっすけど、ヒト族最大人口を誇る普人族は一部を除くと余りパッとしなかったっす」


 妖精族……エルフか?と言う事は、普人族はヒューマンに成ると。うん、お決まりのパターンだな。

 

 「それ故、魔法の才に恵まれなかった普人族は、魔法を才に関係なく扱える魔法具を作ったっす」

 「魔法具、魔法の均一化か……」

 「そうっす。自由度は減るっすけど、普遍化された魔法に才は関係無く、魔力があれば誰でも使えるように成ったっす」

 

 うん。まぁ、順当な対応かな?質に難があるなら、それなりの質で数を揃える、っと。


 「そして、魔法を手に入れたヒト族は、生存圏を広げる拡大期に入ったっす」

  

 産業革命と同時に大航海時代が始まった、って感じかな?


 「そして広がった生存圏の開拓にも、魔法や魔法具が積極的に使われたっす」

 「まぁ、そうなるな。で?」

 

 レックスは一瞬口篭った後、話を切り出す。何か言い辛らそうに、俺の方をチラリと見る。


 「その開拓作業には、魔法で作られたゴーレムが使用されたっす。無論、俺っち達ゴーレム族と違い自由意思は無い只の人形っすけど」

 「あー……」


 何か、展開が読めてきた。つまり、魔法で作られたゴーレムをヒト族は、開拓地で重機替わりに利用していたと。


 「でも、この魔法で作られたゴーレムは、そんなに使い勝手の良い物じゃなかったっす」

 「何か欠点でも?」

 「稼働時間っす。魔法で作られたゴーレムは、作られた時に術者に寄って込められた魔力が切れると自然崩壊して元に戻るっす。術者によってバラツキは有るっすけど、そう長くは持たないっす」

 「……魔法具は使えなかったのか?」


 別の方式は試さなかったと言う俺の問いに、レックスは首を左右に振る。


 「試しては見た見たいっすけで、割に合わないと言う結論に達したそうっす。当時の魔法具の性能は今と違って、それ程良い物じゃなかったそうなんっすよ。当時、空になった魔晶石に魔力を補充する事が出来ず、短期間で定期的に魔法具に使われている魔晶石を使い捨てで交換する必要があったっす。コスト計算すると魔法具式と魔法式はとどっこいどっこいで、寧ろ魔法具式のゴーレムの方が魔晶石を大量に必要とする分、使い勝手が悪かったそうっす」

 

 えっと?つまり当時の魔道具式ゴーレムは、魔晶石を乾電池の様に使い捨てにしながら稼働していたと?で、その乾電池替わりの魔晶石は生産性が悪く、当時は安定して大量供給する事に難があった……と?

 うわ。


 「特に優秀な魔法使いの少ない普人族の国の上の方では、コストパフォーマンスの悪いゴーレムの使用を一部を除き辞めようと言う意見も出たっす。でも開拓現場からの多数の嘆願で、ゴーレムの使用禁止には待ったが掛かったっすよ」


 うん、まぁ、重機無しで開拓は困難だよな。でも、予算に限りがある以上、上層部の言い分も分から無いでは無い。


 「現場では疲れ知らずで開拓作業に従事するゴーレムは必要とされていたっすけど、その需要を満たすだけの魔晶石は供給出来無いと言うジレンマに陥っていたっす」

 

 えっと……どこかの燃料不足の空軍みたいな話だな。


 「優秀な魔法使いが少ない普人族は他の種族と取引をして、魔法使いを派遣して貰っていたっす。でも、その取引による不利益は次第に膨れ上がっていき、開拓事業その物に重い負担を掛ける事に成っていったっす」

  

 あぁ、リース料が高騰したのか。優秀な魔法使いを供給して貰う立場の普人族は強く出れず、不利な取引条件を飲むしかなかったと。 


 「そこで当時、普人族の上層部は試行錯誤を繰り返し解決手段を捻り出そうとしたっす」

 「魔法使いの育成とか、魔法具の改良とかか?」

 「それらも出たそうっすけど、短期間で成果が出る様な案じゃ無いっすよ。当時の上層部は、短期間で成果が出る案を欲していたっす」

 「まっ、道理だな」


 人材育成や技術開発には、早くとも数年から十数年は掛かるからな。必要な事ではあるが、早急な現状改善には向かない案でもある。  

 と言う事は、現在の状況を考え即効性のある案となると……。


 「そして試行錯誤の結果、普人族の上層部は一つの提案を採用したっす」

 「……それが」

 「ゴーレム族を奴隷として徴用する案っす」 


 やっぱり、そうなるか。


 「無論、初めは普人族の中でもゴーレム族を奴隷として徴用する話に異論がでたっす。でも、国が本格的にゴーレム族捕獲に動き出すと、異論を唱える声も次第に減って行ったっす」


 長い物には巻かれろと言った所か?でも……。


 「そんな事をして、ゴーレム族と普人族の間で争いには成らなかったのか?それに、他の種族からの抗議何かも出そうだぞ?」 

 

 自分達だけの都合で一方的にそんな事をすれば、普通どんなに理由を付けても戦争になる。それに他種族、特に少数種族等は、ヒト族の中で最大人口を誇る普人族の蛮行を何の抗議も無く見逃せば、何れ自分達にも飛び火すると考える筈だ。


 「成ったっすよ。ゴーレム族は馬鹿な決定をした普人族に抗議をしつつ、普人族との戦争の準備を始めたっす。他種族も激しく普人族に抗議を行い、貸出していた魔法使い達を自国に引上げさせる等し、提案撤回の為の圧力を掛けたっす」

  

 まぁ、そう言う対応に成るよな。

 

 「でも、その他種族達の圧力のせいで、普人族は追い詰められより頑迷に成ったっす。ゴーレム族を奴隷にしなければ自分達に未来は無いって。実際、魔法使いが引き上げられた影響で開拓作業は全体的に停滞し、一部では開拓作業が中止にも成ったみたいっす。開拓停止で経済も停滞し、開拓作業に従事していた人々は職を失い治安も悪化したっす」

 「現状改善の為に自分達が吐いた提案で、自分達の首を絞めたって事か。謝罪と賠償で穏便に事を収めようとはしなかったのか?」

 「しなかったみたいっす。でも、当時の普人族は本気で未来は無いって思っていたそうっすよ」


 何だろ、このグダグダ感は。

 いや、寧ろゴーレム族を奴隷にする為に、態と自分達を追い詰めたんじゃ無いかと疑いたい。追い詰められれば、普通では通らない提案も通るだろう。例えば、現状改善の為にはゴーレム族を奴隷にするのは仕方が無いと言う大義名分。通常なら動員不可能な数の兵数を、失業者対策という名目での大規模徴兵する事など。

 仮に俺の考えた通りならば、当時の普人族の上層部は随分と強かだった様だな。国民を騙して死地に送り込んでも、労働力確保と言う目標を達し用とは。

 

 「そんな調子だったっすから、普人族とゴーレム族との間で行われていた交渉は大方の予想通り決裂したっす。結果、当時の普人族は10万人に及ぶ兵を動員し、ゴーレム族の捕縛に動き出したっすよ」

 「10万人か……」


 10万人の動員が多いのか少ないのか良く分から無い。後方支援込みでの10万人ならば、実働戦力は1〜2万人だろうか?


 「普人族とゴーレム族との争いは数年に渡ったすっけど、最終的には普人族が戦いに勝利したっす」


 レックスは無念そうに、小さな声で結果を呟く。まぁ、確かにその戦争の結果が現状を作っていると思えば仕方ないだろう。


 「魔力流動阻害結界何て言う魔法が作られなければ、ゴーレム族が負ける事なんて無かったっすけどね」

 「……魔力流動阻害結界?字面から推測すると、魔力の流れを阻害する物だとは分かるけど」

 「俺っち達ゴーレム族が、戦争で普人族に負けた直接の原因す」

 

 はい?


 「俺っち達ゴーレム族は魔素を核で魔力に変換し、体の周囲を覆う事で動いてるっすよね?その魔力の流動を阻害されれば、マトモに動く事も出来無く成るっす」


 えっと?つまり、この世界のゴーレムは、力場に寄る外部駆動方式で動いていると?で、その力場は魔力に寄って作られているから、魔力の流れを阻害されると行動に支障を来すと。

 不躾ではあるが、隣を歩くレックスの体を上から下まで品定めする様に一瞥する。うん確かに、ただ岩が重なっているだけで、とてもでは無いが人間の筋肉に値する内部駆動機構があるとは思えない。


 「普人族は一大決戦を行うと見せてゴーレム族の戦力の大半を誘い出し、魔力流動結界によってゴーレム族を行動不能にして大半を捕縛したっすよ。戦力の大半を失ったゴーレム族には悔しいっすけど、マトモな残存戦力は無く降伏するしか無かったっす」 

 

 これは、切り札を最後まで隠し通した普人族の作戦勝ちと言う事な? 


 「この戦争いこう、ゴーレム族は普人族の隷下に置かれ、開拓事業の労働力として扱われる事に成ったっす」


 うん、まぁ、うん。戦争に負けた以上、そうなるか。

 レックスは話が終わった後は何か思う事があったのか押し黙り、暫し無言のまま俺達は夜の草原を歩き続けた。俺もゴーレムである以上、聞いておいた方が良い話題ではあったのだが、レックスの落ち込む姿を見ていると何とも言えない気分になる。

 

 

 

 

 

 「あっ、そろそろ俺っち達の村があった場所に付くっすよ」


 レックスは小高い山の裾野に広がる森を指さし、俺に目的地が近い事を教える。


 「そうか、漸く到着って……ん?あの灯りが見える所か?」

 「灯りっすか?」


 俺は森の入口辺りに見える、淡い光を指さし確認を取る。レックスは俺の指先を辿り、明かりの位置を確認すると血相を変えた。


 「違うっす。村はあんな所には無いっすよ」  


 レックスのその一言で、厄介事の気配が漂い始めた事を俺は感じた。

 

 

 

 

 

 


ゴーレムが奴隷扱いされる様になった原因は、文明が発達して活動領域が広がり安価な労働力を確保する必要があった為、と言う事に成りました。


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