第03話 ゴーレム、同族を救う。
「……何だアレは?」
俺は自分に向かって近づいて来る悲鳴を上げる岩で出来たゴーレムと、その後ろから同一デザインの鎧を纏い剣や槍等の武器で武装した集団を、オカシな物を見る様な眼差しで眺める。何せ、俺の思い描くモンスターと人の戦闘風景と逆の光景が眼前で繰り広げられているからだ。
と言うか、何であのゴーレムは全力で逃げてんだ?
岩ゴーレムは次第に俺に近付き、その石で出来た姿がハッキリと目視出来た。荒く削り加工した砂岩の様な茶色の岩肌、胸部に埋め込まれたエメラルドの様な緑石の球体が組み合わさっり、2m程の大柄な人型がをしている。
「そこの人!助けて欲しいっす!アイツ等、ゴーレム狩りの連中っすよ!」
「……ゴーレム狩り?」
聞き覚えの無い単語に首を傾げていると、岩ゴーレムは走るスピードを更に上げ素早く俺の背中に隠れる。って、おい!
岩ゴーレムは俺の背中を押し、追ってきた集団に対しての盾にする。
「……何やってんの、君?揉め事の様だけど、巻き込まないで欲しいんだけど?」
「いやいやいや、頼むっすよ!?同じゴーレム同士、ここは助けて欲しいっす!」
「イヤ、助けてと言われても……ねぇ?」
事情が丸で飲み込めない。俺が背後の岩ゴーレムへの戸惑っていると、岩ゴーレムを追って来た集団が俺達から少し距離を置いて立ち止まる。追跡者集団は俺達が逃げられ無い様に、慣れた様子で前衛後衛の2人1組に分かれ扇状に半包囲体制を敷く。
数秒で包囲を完成させると、赤い宝石が付いた金属製の杖を構えた二人の兵に護られる様に控えていた、不敵な笑みを浮かべた指揮官らしき口髭を生やした壮年男が横柄な態度で声を掛けてくる。
「まったく、ストーンゴーレム如きが余り手間を取らせるな。我々は他にも確保しなければいけない獲物が多いのだ。お前一体如きに掛ける時間は多く無いのだぞ?」
「ストーンゴーレムじゃ無いっす!アンな物と俺っち達を一緒にするなっす!」
優位を確保した上での上から目線の降伏宣言に、俺の後ろに隠れている岩ゴーレムは及び腰ながら男に噛み付く。俺を挟み言い争いが続く状況に、置いてきぼりの俺は益々両者が抱える事情が分から無く成って来た。
「ふん!ストーンゴーレム如きが戯言を。おい、そこのお前」
「……俺か?」
取り合えず成り行きを見守っていると、唐突に指揮官らしき男の弁舌の矛先が、岩ゴーレムに盾扱いされている俺へと変わった。
嫌な予感がする。
「見た事無いが奴だが、貴様もゴーレムだな?なら、我々と一緒に来て貰おう。しかし、逃げ足が速いストーンゴーレムを追って来たら、珍しいアイアンゴーレムの変異種を見付るとはな。我々は運が良い、この一体で捕獲ノルマが大幅に埋められる」
「巫山戯るなっす!誰がお前ら何かと一緒に行くっすか!俺っち達は、お前らの奴隷に何か成ら無いっすよ!」
「ふん!貴様如きストーンゴーレムの意見など聞いていおらん!さぁ、抵抗せず我らに下るか、殺され魔石を抉られるか、好きな方を選ぶが良い!」
指揮官らしき男の問い掛けを契機に包囲している集団は武器を俺達に向け、合図で何時でも攻撃出来る様に指揮官からの攻撃指示を待つ。包囲している者達の目に油断は無く、彼らの豊富な経験と高い練度を物語っていた。
1人状況が掴め無い俺は、自分の背に隠れ包囲する男達に威嚇している岩ゴーレムに事情を聞こうと、問い質す様な口調で話しかける。
「おい、どう言う状況なんだコレは?ゴーレム狩りや奴隷など、穏やかでは無い単語が聞こえたんだが?」
「!何を言ってるっすか!?アイツ等は、フィヴェール帝国のゴーレム狩り部隊っすよ!俺っち達ゴーレム族を、帝国の労働奴隷にしようと活動している碌でも無い奴らっす!」
「……はぁ?」
岩ゴーレムは捲し立てる様に大きな声で、包囲している集団の概要を俺に説明をする。国を挙げての奴隷狩りって、正直意味が分からない。
「碌でも無いとは心外だな。我々は帝国の繁栄の為に、日夜精力的に活動している立派な軍人と言う勤労者だ。云われない誹謗を受ける覚えは無いのだがな?」
「巫山戯るなっす!お前等がやっている事は、人攫い以外の何者でも無いっすよ!お前ら今まで幾つ、俺っち等ゴーレム族の集落を襲い滅ぼしたっすか!」
「全く、ここまで無知とは嘆かわしい。我々は人攫いでも無ければ、襲撃者でも無い。我々は野生化した危険なゴーレムを、帝国臣民に被害が出る前に回収又は討伐しているだけだ。そもそも、貴様等ゴーレムは人では無い、単なる物だ!」
うーん、双方の意識差が根深い上、酷いな。
岩ゴーレムと男の罵り合いを横で聞いていると、俺は何と無くだが双方の抱える状況が飲み込め始めた。
つまり、目の前の帝国軍を名乗る集団とゴーレム族の明確な敵どうしであり、現在ゴーレムである俺の敵でもあると言う事だ。
そうすると、指揮官の男が投げかけてきた先程の問の答えも自ずと決まってくる。
「さあ、どうする?大人しく捕まる気になったか?」
「ふん、断る」
俺は短く、だが断固たる拒否の意を込めた返答を返す。何が悲しくて、異世界生活を奴隷として過ごさねばならん?
「ふん!アイアンゴーレムと言えど、所詮はゴーレムと言う事か。この状況が理解出来んと見える。まぁ良い、アイアンゴーレムの物なら魔石だけでも価値はある」
俺から拒否する旨の返答を受け、指揮官の男は右腕を頭上に上げる。指揮官の腕の動きを受け、俺達を包囲していた帝国兵達が何時でも飛び出せる様に僅かに体勢を低くし、指揮官の合図を待つ。
「アワワッ、ま、拙いっすよ!奴ら、俺っち達を殺す心算っす!」
「みたいだな。しかし、捕獲部隊と言っていた割には、えらく簡単に捕縛対象を討伐しようとするな。先ずは、捕まえる努力をしてみないのか?」
「な、何を呑気な事を言ってるっすよ!」
動揺し震え始める岩ゴーレムと、平然とした態度で捕獲部隊の動きを見定め様る俺。対照的な様子の俺達を見て、指揮官の男は不敵な笑みを浮かべながら愉快気に腕を振り下ろす。
「殺れ」
短い命令と共に、指揮官の男の腕が振り下ろされ、帝国兵達は命令に従い行動を開始しする。指揮官の両隣に待機していた2人の兵士は杖の先端を俺達に向け早口で呪文らしき物を詠唱し始め、クロスボウを構えた4人の弓兵は照準を俺達の頭部に合わせる。
「「ウインドカッター!」」
詠唱を終えた兵士の杖の先端から、翠に光る半透明の風の刃がバツ印に交差する様に放たれた。合わせて4人の弓兵が俺達の回避ルートを塞ぐ為に、回避予想ルート上に矢を放つ。
うん。悪役全開の役どころだけど、軍隊らしく抜目が無い見事な連携だな。
「うわぁぁ、もうダメっす!」
「……五月蝿いなぁ」
風の刃は俺と岩ゴーレムを葬ろうと猛烈な速度でバツ印の軌道を取り飛来し、岩ゴーレムは悲鳴を上げながら俺の背後で蹲る。俺は意識を戦闘モードへ移行して、迫り来る風の刃と飛来する矢を見据え左手を体の前に掲げた。風の刃と矢が俺達に到達する直前、腕の装甲が展開しエネルギーシールドが展開される。風の刃はエネルギーシールドに接触すると解ける様に弾け散り、飛来した矢は硬質な音を立て跳ね返され力無く地面に落ちた。
「なっ!?」
呆気無く自分達の攻撃を弾かれた捕獲部隊は動揺し、背後で蹲っていた岩ゴーレムは驚愕した様子で俺を見上げる。
「ば、馬鹿な!何故ゴーレム風情に、こんな力が!有り得ん!」
「……!す、凄いっす!」
帝国兵の攻撃を防ぎ終えると展開していた腕の装甲を元に戻し、俺は掲げていた左腕をゆっくりと下ろす。まっ、見え透いた挑発だな。
そして予想通り、如何にも何でも無いと言った俺の態度が癇に障ったのか、指揮官の男は苛立たし気に兵に再攻撃の指示を出す。
「くそっ!調子に乗りおって!遠距離攻撃が効かないのであれば……前衛!直接あのアイアンゴーレムを切り刻め!魔石が確保出来なく成っても構わん!」
予想外の結果に動揺していた帝国兵は指揮官の破壊命令を受け、無理やり動揺を収めた近接武器を持った4人の兵達が相互に連携を取りながら、帝国兵の動きを伺っている俺達との距離を詰めてくる。
ってか、破壊って何だ?お前らの仕事は捕獲じゃないのか?
「今度は直接仕掛て来たっすよ!ど、如何するっすか!」
岩ゴーレムは武器を持ち向かってくる帝国兵を指差し、俺に向かって引き吊った様な声で叫ぶ。剣を持つ2人の兵に槍を持つ2人の兵、彼らはフェイントを織り交ぜつつタイミングを合わせ各々武器を俺の胸部に繰り出す。首筋から脇腹目掛け袈裟斬りに剣を振り下ろす二人の剣兵、腹部目掛けて槍を突き出す槍兵。俺は彼らの同時攻撃を良く観察し、武器が体に当たる寸残に動き出す。
「……ふっ!」
俺は帝国兵の剣や槍が装甲に接触する寸前、一歩後退しつつ首筋を狙う剣を片手の白羽取りで両方の剣を受け止めながら、膝を曲げ態勢を低くしつつ脇腹を狙う槍頭に肘打ちを叩き込んだ。すると、剣兵は剣先を中心に宙を舞い、槍先を打ち下げられた槍兵も槍頭を中心に宙を舞う。
結果、宙を舞った剣兵と槍兵は空中で衝突、何かが砕け折れる音を立てながら地面へと叩きつけられた。
「「「「ぐはっ!?」」」」
「うをぉぉぉ!凄いっすよ!」
近接攻撃仕掛けた帝国兵達は口から血を吐きながら苦しそうに呻き声を上げながら地に這い蹲り、岩ゴーレムは俺の早業に歓喜の声を上げる。
「なっ、何、だと……」
予想外の結果に終わり指揮官は絶句、目を見開き大きく開いた口から意味不明な呻き声が漏れる。他の帝国兵も同様に、多少の違いはあれど俺を化物でも見る様な眼差しを向けて来た。
屈んだ状態だった体を起こしながら、剣兵から刀身を掴み奪った剣を正しい方向に持ち替え、右手に持った方の剣の剣先を指揮官の男に向ける。
「……で、如何する?まだ続けるか?」
「……」
うん、映画の1シーンの様に決まった。
俺から向けられる剣と無言の重圧に、指揮官の男は逃げ道を探すかの様に部下達へ目線を泳がせた。残った兵も怯えた眼差しを指揮官の男に向け無言で即時撤退を懇願する。
しかし、今までゴーレム等下等な物だと考えていた指揮官は自身の高いプライドから、俺達ゴーレムを前に無様に撤退と言う選択肢を選べ無いで居ると俺は予想した。
だから中々態度が煮え切ら無い指揮官に、俺は逃げ道を作ってやる為にある提案を出す。
「今引くなら、コイツ等を含めて全員見逃してやるし、お前等の後も追わ無い」
「……」
血を吐きながら呻いている帝国兵に剣先を向ける。
「如何する?早く治療を施さ無いと、コイツ等は長く持たずに死ぬぞ?良いのか?」
「……っ!」
うん。自分で言っていて何だけどコレ、悪役のセリフじゃないか?あれ?どっちが悪役だったっけ?一応、俺は指揮官に、“部下の命を救う為に仕方無く撤退した”と言う逃げ道を示してやった筈何だけどな……。
その俺の意図を察した指揮官は怯えていた眼差しを怒りの眼差しに変え、射殺す様な視線を向けてくる。悔しそうに唇を噛みながら、指揮官の男は決断を下した。俺に与えられた逃げ道を受け入れると言う、屈辱的な撤退と言う提案を。
「糞……撤退する。総員、負傷者を収容しつつ駐屯地まで後退!魔法兵、駐屯地に到着するまで治療魔法にて負傷者に応急処置を施せ!死なせるなよ」
「「「「了解!」」」」
撤退の意を示した指揮官と喜々として受け入れる兵達を見て、俺と岩ゴーレムは警戒しつつその場から数歩下がり負傷した帝国兵達から距離を取った。
俺達が負傷兵達から離れた事を確認し、弓兵が慎重に負傷兵との距離を詰めながら其々のペアに駆け寄る。弓兵はペアの怪我の具合に表情を厳しくしたが、手早く重量物の鎧を脱がせて傷に負担が掛からない様に気を付けつつ、横抱きに抱え上げ指揮官の男が居る位置まで下がった。指揮官の側に控えていた魔法兵は、4人の怪我の具合を確認し慌てて治癒魔法を掛ける。
「……今回は見逃してやる。その姿、決して忘れ無いからな」
忌々しそうな眼差しで俺達を睨みつけながら、指揮官の男は押し殺した声で負け惜しみを口にする。俺は何処吹く風と言った様子で聞き流したが、後ろに隠れている岩ゴーレムは雰囲気に飲まれ体が僅かに震えていた。……ヘタレゴーレム。
そんな俺の態度が益々気に入らなかったのか、指揮官を殺気混じりの眼差しを向けだした。
「っ、撤退!」
指揮官は兵達に撤退命令を出し、俺達を警戒しつつ慎重に後退し始める。俺達との距離が離れるまでの暫くの間は帝国兵達は追撃を気にしていたが、数百メートル距離が開くと俺達に背を向け一目散に走り去っていった。
帝国兵達の姿が消えた事を確認すると、岩ゴーレムは緊張が途切れたのか地面に力無く大の字で倒れ込んだ。
って、おい!お前は何もしていないだろ1
「た、助かったっす。……っは!」
うつ伏せに倒れた岩ゴーレムは、小さな小声で心からの安堵の声を漏らしている。そして何かを思い出した岩ゴーレムは、うつ伏せの体勢から即座に正座で座り直し地面に頭を擦りつけた。
「危ない所を助けて貰って、ありがとう御座いますっす!もう少しで俺っちは、俺っちは……!!」
御礼を述べる程度に礼儀は弁えている様だ。
しかし、岩ゴーレムによる全力の土下座。その珍妙な光景に如何反応すれば良いのか、俺は反応に困り戸惑う。岩ゴーレムによる感謝の言葉は止めど無く、吐き出され続ける感謝の言葉は一向に終が見え無い。俺は目線を合わせる様に岩ゴーレムの前の地面に腰を下ろし、落ち着かせる様な穏やかな口調で話しかける。
「あのさ?感謝の気持ちは十二分に分かったから、そろそろ俺の話を聞いてくれ無いかな?」
「……っは!も、申し訳ないっす!申し訳ないっす!」
「いや、別に責めてる訳じゃないから。後さ、その土下座?もしなくて良いから」
「は、はいっす!」
漸く土下座を止めた岩ゴーレムは正座で座ったまま顔を上げ、正面に座る俺に尊敬の視線を向けてくる。
正直居心地が悪いから、辞めて欲しい。
「それでさ、君って誰なの?成り行きでアイツ等と戦ったけどさ、何でアイツ等に追われてたの?」
「っは!も、申し訳ないっす!俺っちの名前はレックスっす!ロック種のゴーレム族っす!」
岩ゴーレム……レックスは再び頭を下げ、土下座の体勢に移行する。もう良いよ、それ。自己紹介が遅れただけで、土下座されていたら話が進まないから。
「レックス君って言うんだ、よろしく。俺は……」
些かレックスの大げさな態度にウンザリしつつ、俺も自己紹介をしようとして言葉が止まる。ふと、以前の名前をそのまま名乗って良いのモノか?と言う考えが脳裏を過ぎったからだ。
折角ロボットっぽい姿で異世界に転生したんだから、名前もソレっぽい物の方が良いよな。うん、ソレが良い。
自分の考えを自分で納得し、俺がこれから異世界で名乗る名前に頭を捻る。
「あの?如何かしたっすか?」
自己紹介の途中、突然言葉を止め悩み始めた俺にレックスは心配そうに声を掛けてくる。
うん。ちょっと待って、直ぐ考えるからさ。
「ん?あっ、ゴメンゴメン、何でも無いよ。自己紹介が途中だったね、俺の名前はヴェクシオン。一応ハイゴーレム族に成るのかな?まぁ、よろしく」
早乙女源一郎改、ヴェクシオン。ロボットの名前の伝統に従って、語尾をオンにして韻を踏んでみた。新しい名前を俺が軽い口調で語り掛けると、レックスは動きを止めて文字通りの石に成っていた。
そして数瞬の間を空け、レックスは驚愕の絶叫を上げる。
「ハ、ハイゴーレム!?!?」
レックスの叫びが、日が沈み月明かりと星明かりが照らし出す静かな暗闇に包まれた草原に響いた。
えっ?俺、何か拙い事を言ったか?
主人公の異世界での名前を、ロボット物に多い語尾がオンで終わる名前にしてみました!
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