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第02話 ゴーレム、敵と遭遇す ★

文の構成を、三人称を一人称に変更しました。

  


 「こうして呆けて居ても如何しようも無いよな。取り合えず、別の場所に移動するか……」


 俺は腰掛けた岩から立ち上がり、射爆場と化した岩場を一瞥しする。溶けガラス化した地面、散乱する大小様々な岩石、ほんの数分で随分と様変わりしてしまった物だ。 

 まっ、俺がやらかしたんだけどな。


 「うん。ここが無人の岩場で、本当に良かった」


 大惨事と称しても過言では無い元岩場の有様に、周囲に誰もいなかった事を確認し俺は胸を撫で下ろす。


 「さてと、周囲は見渡す限り岩場?だけど、どっちに行けば人に会えるんだ?狭間の住人からの手紙にも、どっちに行けば街があるとは何一つ書かれていなかったしな」


 移動しようと決意するも、見渡す限り岩が林立する光景に俺は途方に暮れる。岩以外に何の目印も無い場所で、どっちに進めば良いのか見当も付かない。


 「それにコンだけ大きな音を立てても今だ野次馬の類が誰も集まる気配がしないって事は、ここは未開地か相当人里から離れた秘境って所か?はぁ、こうなったら運任せで行き先を決めるか」


 俺は近くに落ちていた先が尖った石を手に取り、空に向かって軽く放り投げる。投げた石はクルクルと回転しながら放物線を描き飛翔し、数秒後に地面に乾いた音を立てながら落ち、数度地面を転がり止まる。 


 「あっちか」


 俺は石の先端が指した方向へ、ゆっくりとした足取りで歩き出す。一歩一歩周囲の様子を観察しながら慎重に歩いていると、岩が林立している岩場の先に森らしき緑の影が見えた。そのまま歩いて近付くと、遠目に見えていた森の様子が良く分かった。森には巨木と言って良い木々や、背の高い下草が鬱蒼と茂っており、とてもでは無いが人の手が入っている様な気配は微塵も感じられ無い。

 その森の姿は正に、人の出入りを一切拒絶する樹海だった。

 

 「入りたくねぇ……。でも、他に選択肢も無いしなぁ。はぁ、取り合えず中に入ってみるか」


 得体の知れない森に入るのには躊躇を覚えたが、この森に行き着くまでの道程は只管岩場が続いた。森の中に入る以外に選択肢が無いなと、内心愚痴を漏らしながら得体の知れない森へと足を踏み入れる。

 森の中に入ると予想以上木々が大きくお生い茂っており、日光は遮ら森の中が薄暗かった。入り口付近に茂っていた様な背高く成長した下草の姿も少なく、古木と苔が蔓延る森と言った印象を受ける。

 暫く森の中を宛も無く歩いて行くと、突然俺の背中に軽い衝撃が走った。


 「ん?何だ?」


 不思議に思い周囲を見渡すと、俺の後方に体長80cm程の角の生えた白いウサギの様な生き物が、何時でも俺に向かって飛び掛れる前傾姿勢で対峙して居た。俺が振り向いた事に気が付いた角ウサギは、俺に向かって小さな威嚇の唸り声を上げ牙を剥く。 


 「……はい?」


 突然勃発した事態に、状況が今一良く分からず惚けていると、前傾姿勢だった角ウサギが俺目掛けて突進を開始する。角ウサギは角の先端を俺の腹部に狙い定め、突撃の勢い緩める事無く流れる様な動作で跳躍し衝突する。

 下方から抉る様な角度で飛んで来た角が俺の腹部に接触すると、森の中に甲高い音が響くと同時に角ウサギが大きく弾き飛ばされた。弾き飛ばされた角ウサギは猫の様に空中で体勢を整え、両足で地面に滑る様にして勢いを殺しながら着地。俺から視線をずらす事無く警戒したまま、威嚇の唸り声を上げる。  

 たいして角ウサギの渾身の突進を受けた俺は、コレと言った傷を受ける事も無かった。しかし、未だに角ウサギに襲いかかられると言う状況が飲み込めず、混乱する頭は疑問符で溢れている。


 「えっ……と?これって、もしかしてアレか?ポップ音が鳴って『角ウサギが現れた!』って表示される、定番の奴?」


 俺は自分がモンスターに襲われていると言う事実を、漸く現実の物として認識する。角ウサギは未だ動きを見せ無い俺への攻撃を諦めておらず、再び棒立ちしている俺への突進を再開した。

 角ウサギは効果が無かった腹部への突進を止め、今度は俺の顔面目掛けて跳躍する。これには惚けていた俺も驚き、体勢を崩しながらも慌てて右方向へサイドステップで跳躍し角ウサギの突進を回避した。


 「あっぶねぇ!何だよ、このウサギ!顔目掛けて飛んで来たぞ!」


 角ウサギの突撃に身の危険を感じた俺は漸く角ウサギに対し警戒を顕にし、角ウサギの一挙動一挙動を注意深く観察する。角ウサギは俺に突進を回避され着地した後、俺が頭部への攻撃を回避した事から頭部への攻撃が有効であると認識した様子で、再攻撃のチャンスを伺い唸り声を上げていた。


 「っち!異世界で最初に遭遇したのが、角の生えたデカいウサギかよ!しかも、あからさまに非友好的な態度で襲い掛かって来ると来たもんだ!」


 俺は愚痴を漏らしながらも両手の拳を握り締め、テレビで見たボクシングの構えを見よう見真似で拙い構えを取り、襲いかかろうとする角ウサギの動きを警戒する。

 俺の戦う意思を感知した体は自然と戦闘モードに移行し、顔にはバイザーが下り、胸の動力炉の出力が上昇した。角ウサギは隙の多い俺の拙い構えを見て、一定の距離を保ったまま俺の周囲を円を描く様に飛び跳ね始める。

 角ウサギの突然の行動に驚きつつ角ウサギの姿を目で追うが、殴り合いの喧嘩の経験も乏しい俺には次第に跳躍スピードを上げて行く角ウサギの動きについて行け無く成り一瞬、角ウサギの姿を見失った。そして、見失った角ウサギの姿を無理に追おうと体勢を崩した瞬間、角ウサギは連続跳躍で得た勢いを殺さず俺の顔面目掛けて突撃する。


 「……!?」


 体勢が崩れロクな回避行動も取れ無い俺は言葉を無くし、回避不能の一撃を放った角ウサギは跳躍中に短い喜びの鳴き声を上げた。

 万事休す、今まさに角ウサギの角が俺の顔面に突き刺さろうとした瞬間、俺が苦し紛れに振るった右腕の拳が角ウサギの顎の先端に微かに接触。角ウサギは跳躍軌道を90度変え、近くに生えていた巨木に叩き付けられ真っ赤な血を撒き散らしながら爆発四散した。

 その光景は丸で、力一杯地面に叩き付けられた水風船の様だった。


 「……げっ」


 俺は咄嗟に顔を逸らす。何故なら角ウサギが衝突した巨木は、角ウサギだった肉片と幹を伝い滴り落ちる粘度が高い血潮がブチ撒けられており、直視するに耐え難い凄惨な姿に変貌していたからだ。無い筈の込み上げて来る吐き気を気合で抑え意を決し巨木を見るも、角ウサギの血で真っ赤に染まった樹皮には強烈な忌避感が沸き起こってきた。


 「うえっぷ。行き成りこんなグロシーンは、平凡な一般人には一寸キツイな」


 角ウサギは明確に俺の命を奪おうと言う意志の元に襲ってきたので、自身の行為は正当防衛だと内心強く主張するも、目の前の惨状を目にすると込み上げてくる物があった。普通に生活していれば、現代日本では先ず見る事の無い悲惨な死体に、俺は欺瞞だと認識しつつ角ウサギが爆散した巨木に両手を合わせ合唱しながら冥福を祈る。


 「……はぁ。それにしても、この体は素の身体スペックも可成高いみたいだな。真逆、苦し紛れに出した拳が掠っただけで、あんな威力に成るなんて……。戦闘モードに移行していたとは言え、動力炉もホンの僅かしか稼働率が上がってい無いのに、この出力」


 俺は自身の手を見ながら、新たに発覚した問題に溜息を漏らす。力加減が良く分かってい無い現状で、下手に拳を振るえば爆散した角ウサギと同様の惨状が量産してしまう。森の中に居る内に力加減の練習をすべきかと悩んだが、俺が結論を出る前に次のトラブルが発生する。

 森の奥から2mを超える巨大な角ウサギに率いられた、十数羽の徒党を組んだ角ウサギが現れ、相互に連携を取りながら林立する木々を利用し、巧みに木々で身を姿を隠しながら俺を取り囲んだ。


 「……勘弁してくれ」


 角ウサギの集団を見た俺は、巡り合わせの無常さを嘆き思わず天を仰いだ。何が悲しくて、トラウマに成りかかっている角ウサギに襲われなければ成らないんだ?

 しかも、何でウサギが徒党を組んでいて、俺を袋叩きに来るんだよ!最初に襲い掛かって来たのは、お前らの仲間の方だぞ!


 「……はぁ」


 俺が顔を背けていた事を好機と捉えた白いモコモコの集団は、一際は大きい角ウサギの合図に合わせ一斉に唸り声を上げながら、身を隠していた木々から姿を現し俺に殺到する。それぞれの角ウサギは僅かにタイミングをズラシつつ、俺目掛けて突撃を仕掛けて来た。その際、角ウサギ達は突進する軌道の対角線上に仲間が入らない様に注意をしつつ、全方位から一斉に襲い掛った。


 「ちっ!こうなったら……ふっ!」 


 俺は目前まで迫る角ウサギに、力加減を考えず右の拳を繰り出す。拳が正面から角ウサギとぶつかった、結果、角ウサギは拳が接触した瞬間に風船の如く爆散し血肉を撒き散らしながら大地を赤く染めた。

 しかし、角ウサギ達による俺への攻撃は止む事無く続く。角ウサギは仲間が爆散した事に怯まず、拳を振り抜き体勢が崩れている俺の体に数羽の角が接触し甲高い音を立てる。だが俺の体にウサギの角が食込む事は無く、傷一つ無く全くの無傷だった。攻撃を受け止められ動きを止めた数羽の角ウサギ目掛け、俺は回し蹴りの要領で足を横一線に振り抜く。結果、数羽の角ウサギは瞬時にその身を血霧に変え、新たに大地を赤く染めた。

 その惨状を見た残りの角ウサギ達は突撃を一時中止し、俺の手足の届か無い距離まで引き下がり唸り声を上げ警戒する。


 「ふう、これで分かっただろ?お前らが幾ら一斉に飛び掛って来ても、何の痛打も与えられず死ぬだけだぞ?あんな末路は嫌だろ?」


 俺は取り囲む角ウサギ達に仲間が爆散した跡を目線で指しつつ、このまま大人しく引き下がら無いかなと撤退を促す。だがその願いも通じず、大角ウサギに促され配下の角ウサギ達は悲壮な呻き声を上げた後、再び俺に飛び掛かって来た。俺は角ウサギ達を全滅させる覚悟を決め、突撃してくる角ウサギ達目掛け拳を繰り出す。

 そして数分後。


 「後はお前だけだぞ?仲間を無謀に突っ込ませ続けたんだ、まさか逃げたりしないよな?」


 拙い構えで拳を握る俺を中心に、緑がお生い茂っていた森が角ウサギ達の大量の血で真っ赤に染まっていた。拳を構えイラつく眼差しを向けた先には、俺に対し怒り狂う大角ウサギがいる。仲間を尽く爆散させられた大角ウサギは怒りに満ちた唸り声を上げ、今正に俺へ飛び掛ろうとして居た。自分で仲間に無謀な突撃を繰り返させた割に、随分と身勝手な怒りだと思う。俺は腰を僅かに落とし、大角ウサギに何時でも拳を繰り出せる様に準備をする。

 そして、合図を出していないにも関わらず、俺と大角ウサギは示し合わせて居たかの様に同時に駆け出し距離を詰めた。そして……。


 「……俺の勝ちだ、大角ウサギ」


 俺は拳を振り抜いた体制で、大角ウサギに対し静かに勝利宣言を告げる。

 大角ウサギは俺の拳に当たる直前、急減速で突撃タイミングを瞬時に変え一度は拳を交わし、伸びきった腕の脇下目掛けて角を突き出した。それに対し俺は、交わされたと認識した瞬間、咄嗟に伸びきった腕を強引に引き戻し、不完全ながら肘打ちらしき攻撃を大角ウサギの脳天目掛けて繰り出す。大角ウサギは攻撃が当たる直前のタイミングで放たれたこの攻撃は交わしきず、俺の肘打ちモドキの直撃を脳天に受け、他の角ウサギと同様に爆散し血肉を大地に撒き散らした。

 俺は再びウサギの増援が無いか心配し、暫く周囲を警戒する。数分の警戒で追加の増援が無い事を確認し、漸く安堵の溜息と共に気を緩めた。同時に、無意識に起動していた戦闘モードも解除、バイザーは収納され動力炉の稼働率も平時の物へと切り替わる。


 「……ふう。全く、行き成りウサギに不意打ちで襲われるとか無いだろ。しかもアイツ等、かなり高度に統率されていた上に、それぞれに仲間を援護しつつ戦術的行動を取ってくるなんて。……真逆とは思うけど、アレが異世界のモンスター達の、ポピュラーな戦闘ドウクトリンって訳じゃ無いよな?」


 角ウサギ達との戦闘を思い返し、俺は憂鬱な気持ちに成った。狭間の住人が俺の身の安全を危惧し過剰とも思える装備を与えたのは、単体で危険なモンスターの存在だけを危惧したのでは無く、弱いモンスターでも集団で襲い掛かって来る危険を考慮した物では無いかと思い直す。

 検証作業で見た標的の成れの果てを思い返せば、余程強力な個体でなければ攻撃能力過剰であり、対群を想定すれば過剰とも言い切れない。今回の角ウサギの襲撃は偶々正面から襲いかかってくるスタンスだった為、武器を用いる事無く徒手格闘で対応出来たが、特殊能力を持つ敵集団や更に数が多かった場合は対応出来ない可能性が出てくる。

 数十の敵は容易に蹴散らせたとしても、高度な連携を取りながら組織だった行動をする集団を相手にすれば、如何に強力な力を持っていても戦略戦術策謀に疎い自分では勝利は覚束無い。


 「はぁ、前途多難だな。今回は単に大きなウサギが相手だったから良かったけど、ファンタジー物の代表格のドラゴンが組織だった集団戦を仕掛けてきたら如何対処すれば良いんだ?」


 俺は恐らく空を高速で飛翔し重装甲かつ高火力の攻撃手段を持つと思われるドラゴンが、自身に対し集団戦を行う姿を思い浮かべた。この状況を例えるなら、数十数百に及ぶ戦闘機が単艦行動を取る超弩級戦艦を組織的に包囲殲滅しようと襲いかかる様な物だ。

 軽くでもミリタリー物に触れた事のあるのなら、その想定の結果は容易に想像が付き憂鬱に成るだけだった。


 「……うん、無理。考えれば考えるだけ、現状での打開策は無いな。真正面から戦うのは論外だし、奇襲も俺一人じゃ無謀としか言え無いな」


 自身の持つカードを見返し、ドラゴン相手になると玉砕覚悟の抵抗か逃亡以外取れる方法は無いと結論付た。


 「まぁ、合った事も無いドラゴンを想定してもしかた無いな。取り合えず、この陰気な森を抜けるか」


 俺は角ウサギの血肉で染まったその場を後にし、森の中へと重い足取りで進みだす。暫く歩いて行くと、角ウサギの血の匂いが染み込んだ俺を狙い、再び狼や猪の様なモンスター達が襲い掛かる。角ウサギとの戦闘により最低限の心構えが出来ていた俺は、無駄に慌てる事無く冷静に対処しモンスター群を殲滅していった。

 だが、それでも問題は発生する。遭遇したモンスター達が尽く組織だった集団戦を仕掛けて来ると言う、自身の考えが強ち間違った物では無いと証明してしまった事だ。


 「マジ勘弁して欲しいよな。この世界のモンスター達は全種族が組織戦闘を仕掛けてくるのかよ」


 腕に付いたモンスターの血を振り払いながら、愚痴を漏らしつつ歩みを止める事無く森の中を進んで行く。幸い体表面に撥水加工が施してあるのか、血等の汚れは簡単に振り払えた。

 

  

 

 

 

 そして、日が稜線に落ちる前に俺は、モンスター達が問答無用で襲いかかってくる物騒な森から抜け出した。森を抜けるまでに数十に及ぶモンスター達の襲撃を受けたが、特に被害を受ける事も無くその全ての襲撃を撃退し、嫌と言う程の集団戦闘の経験を積んだ。御陰で、当初持っていた生き物を殺す忌避感も、今や擦り切れ高レベルのグロ耐性を得た。 


 「漸く森を抜けたか。はぁ、全く何て森だ。こんなに間を置かずに襲撃され続けるとは、思っても見なかったよ」


 俺は腕を頭の上に伸ばし体を解しながら、森の抜けた先に広がる草原や小川を眺め感慨にふける。日が落ち掛け辺は薄暗いが、中々雄大な景色だと思った。

 だが、そんな感動を無造作に踏みにじる騒動が、小川の方から複数の足音と悲鳴と共に現れる。


 「だれか~!助けて~くれっす!」


 十数名の統一された服を身に纏う集団の先頭を走る、体が石で出来たゴーレムが情け無い悲鳴を上げながら、盛大な土煙を立てつつ俺の方に向かって凄い勢いで走ってきた。

 

 

 挿絵(By みてみん)

 

 

 

 

 

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