第01話 ゴーレム、スペックを検証する
「はぁ、まぁ良いか。取り合えず他の項目確認も進めるか。えっと、次の項目は武装か……」
スペックシートの武装の項目を確認すると、一瞬目眩を思える。目頭を押さえつつ、幾度目に成るか分から無い溜息が漏れる。続きを読みたくなく成るが、読むべきだろう。
「……何と言うか、見覚えが有ると言うか見慣れていると言うべき文字が並んでいるな。ファンタジー世界ぽいのに、俺だけガチガチのSF装備かよ」
高エネルギー粒子切断剣、ロボットアニメでは有名かつポピュラーな武装で、膨大な熱量で対象物切断する近接兵装で、とある作品ではお湯を沸かす等の応用力のある優れ物だ。
単分子振動ナイフ、高周波振動を刀身に発生させ切断能力を向上させた物理短刀だ。
可変出力凝集光銃、軽い火傷から特殊合金を溶断とまで幅広く使用される、出力を変えられるエネルギー銃だ。
重力加速投射銃、重力加速により弾頭を加速し質量弾を投射する物理銃、SFでは幅広く用いられるポピュラーな物理銃だ。
局所防御力場、両腕部にある発生装置から発生させたエネルギー場で、質量兵器からエネルギー兵器と幅広く攻撃を防ぐ非実体盾。
どれもこれも、俺が居た地球世界では実用化されてい無い、SF武装である。
「何処と戦争をさせる心算だよ。本当にこんな重装備が必要なのか、この世界は?」
狭間の住人が、生存困難な世界で生き抜く為に必要として餞別にくれた力だが、まだ見ぬ世界の修羅さ加減に些か恐怖心が沸き起こる。元の世界の基準で言えば、先進国の正規軍隊を相手にしても正面から戦えるであろう装備が、護身用として渡されたのだ。これで与えられた装備がスタンガンや催涙ガスと同程度の価値しかないのだとしたら、俺には無事にこの世界で生きていく自信が一切湧いて来なかった。
「嫌だぞ、某怪獣王みたいな巨大生物が跳梁跋扈している様な世界だったら」
俺は日本が世界に誇る有名怪獣映画の最強怪獣が、他の巨大生物と激しい生存競争を繰り広げているシーンを思い浮かべ、処置無しと途方に暮れる。罷り間違っても、絶対に遭遇したく無い最悪な場面だ。これっぽっちも生き残れる自信が無い。
「はぁ、只の過保護による過剰救済処置だと思おう。その方が幾分精神的には良い。真面目に考えると、思わず死にたくなる」
俺は頭を左右に振り、自分が想像した嫌な想像を振り払う。悲観視よりはまだ、お気楽な楽観視の方が良い。 何より、絶望を抱きつつ異世界生活など送りたくない。
「それにしても、この技能……ユニークスキル『機械神の恩恵』。漸くファンタジーっぽい単語が出てきたけど、マジかよこれ。何で使用不可に成っているんだ?」
俺は『機械神の恩恵』の詳細を読み取り、不安感に満ちていた心に些か高揚感が芽生える。ユニークスキル『機械神の恩恵』……それは『眷属召喚』『主従合体』の二つのスキルが複合したスキルだった。『眷属召喚』は文字通り、自身の眷属たる機械獣を3種3体召喚するスキルであり、『主従合体』は召喚した機械獣と合体し、パワーアップを果たすスキル。要するに、スーパーロボット系列のアニメで良くある、サポートメカの登場と合体によるパワーアップである。
しかし、残念な事は『機械神の恩恵』を調べると、現状では『機械神の恩恵』を使用する事は出来無い事が判明した事だ。
「異世界に来て、スパロボごっこをする事に成るとは……うん。元の世界で愚痴を零しながら燻っているより、この世界で生きて行くのも良いか」
ロボット好きの俺にとって望んだ状況では無い物の、この事実は望郷の念を吹っ切る切っ掛けには成った。親兄弟は居るが、家族全員自分の好きな事に打ち込み突拍子も無い行動を取る事が多いので、自分の行動も家族的には問題は無いだろう。両親はトレジャァハントすると言ってフィリピンに行っているし、兄も野生のペンギンを見てくると南極に旅立っている。ここに俺がロボット生活すると言って、異世界に残っても言いのでは無いか?会社も入社1月も立たず辞める事に成るのは心苦しいが、人型ロボット開発プロジェクトを中止にした会社だ、辞める事自体に後悔は無い。
「しっかし、第2動力炉は封印中で『機械神の恩恵』も使用制限を受けているって……まさか、強敵相手にぶっつけ本番で制限が解除されるとか言う展開じゃ無いだろな?」
妙な制限を掛けた狭間の住人の意図が分からず俺は困惑し、自身の知らない制限が他にもあるんじゃないかと疑心暗鬼になりスペックシートを精査するも、只の文字列が並ぶだけで事実関係は良く分からず不安だけが残った。
「まぁ、良いか。取り合えず武装品のスペックを実地で検証するか。手紙の追伸にある通り、ここが人里離れた無人地帯なら標的に成る岩石もあるし、少々派手に成ったとしても変に注目を集める事も無いだろうから丁度良い筈だ。しっかし、はぁ、何だかなぁ」
不安を紛らわそうと務めるが、やはり何処か釈然としない。
俺は近くの大きな岩石から数mの距離を取り、向かい合う様に立ち岩と対峙する。
「さてと、武装の確認をするとして、まずはコレから行ってみるか?」
左腕に意識を集中すると手首の内側辺りの装甲が展開し、直径3cm長さ15cm程の筒状の柄が飛び出す。俺は右手で飛び出した柄を掴み引き抜き、岩に対し正眼に構える。
構えると同時に自然と体が戦闘モードに移行したのか、目を保護する様に黒く不透明なバイザーが目を覆い隠し、胸部の第1動力炉は稼働率が僅かに上昇させ生成したエネルギーを勢い良く吐き出し始めた。体内を満たす力強いエネルギーの脈動に、自分が些か成りとも高揚している事を感じる。
「えっと、柄へのエネルギー供給の方法は……こうか?」
俺は恐る恐る半信半疑の心持ちで、右手に持つ柄へと動力炉からの生み出されたエネルギーを注ぎ込む様に意識する。すると、筒状の柄の先端から稲光を纏う蒼白い光が飛び出し、1.2m程の長さの蒼白く光り輝く刀身を形成した。
「おお!見た目は完全にビームサーベルだな!」
幾度と無く見た、アニメの中で巨大ロボット達が振り回す憧れの一品を目の前にし、俺は大いに興奮した。剣を軽く振るうと、残像の様に残る光る刀身の光跡が何とも言えない。
一通り感嘆の声を上げた後、俺は昔学校の体育の授業で習った剣道の剣の振り方を思い出しながら素振りをする。上下左右斜め、米の字を書く様に剣を振り回す。数度の素振りでビームブレードの感覚を何と無く掴んだ俺は、試しに近くに乱立する身の丈程ある岩石に向かって袈裟懸け切りの要領で剣を振った。
結果。
「げっ!マジでか!?」
振り抜いた剣は一切の抵抗無く岩石を切り裂き、切り裂いた岩石の上半分が響く様な音を立てながら地面へと落下し転がった。切断された岩石の切断面を観察すると、表面は高温で真っ赤に熱されており一部は溶けてガラス化していた。俺は驚きの眼差しを蒼白く光る刀身へと注ぎ、ユックリと柄の角度を変え刀身を体から遠ざけた。
「俺自身は全く熱く感じないけど、剣自体はヤバイ熱量を出しているよな、コレ。下手に刀身に触れたら、俺も問答無用で消し炭に成るんじゃないか?」
刀身に触れない様に気を付けながら剣を振り、数個の岩石を色んな角度から切り裂き、他にも柄へのエネルギー供給を増やし刀身の長大化等も試した。そして、辺りの岩石の背が低くなった頃、俺は漸く満足し剣へのエネルギー供給を停止し柄だけの状態に戻し、使用した柄を軽く観察した後、柄を元の左腕のホルダーへと戻す。
最初の一品目から、中々強烈な体験だった。
「中々だったな。えっと、次は単分子振動ナイフ、コレか」
右腕の手首内側辺りの装甲が展開し、ホルダーから二つ折りになったナイフのグリップ展開し飛び出す。俺がグリップを掴み引き抜くと、長さ30cm程のコンバットナイフが姿を見せた。
「ふーん、見た目は普通のナイフっぽいな」
反射光が出ない様に黒く艶消しコーティングされた刀身を、俺は興味深そうに眺めた。元の世界ではナイフコレクションの趣味も無かったので、実際にナイフの実物を手に取って見たのは今回が初めてだったからだ。
そして、ビームソードと同様にナイフにエネルギーを供給すると、ナイフの刀身の色が赤く変色し甲高い高周波音が周囲に響きだす。
「……うん。この体の装備品が普通な訳無いか」
起動したナイフを慎重に数度素振りした後、ビームソードで試し切りした岩石とは別の岩石に向かって上かるナイフを振り下ろす。ビームソードの時と同様に岩石から来る抵抗感は無く、容易く刀身が岩石へと突き刺さった。岩石に突き刺さったままナイフを軽く引き下げると、容易く岩石を豆腐の様に切り裂く。
「……これも切れ味がヤバイなぁ」
惚けた様な気分で岩の切断面のを観察すると、切断面は鏡面の如く滑らかで微かに擦った様な痕がある程度だった。エネルギー供給を停止すると赤く変色した刀身は黒色に戻り、俺が慎重にナイフを右腕のホルダーへ戻すとナイフは二つ折りの状態に変わり腕の中へ収納された。
「これ以上の検証作業をやりたく無く成る様な結果だな、はぁ。でも、一応人口密集地に行く前に全武装の確認はやっておか無いと拙いよな。はぁ」
検証は半分も終わっていないが、予想以上の検証結果に俺のヤル気がダダ下がる。振り払った筈の嫌な予想が俄かに現実を帯び始め、振り払おうとも振り払えない様に感じられた。
「次は射撃装備か……どうせコレも、トンデモ武装何だろうな」
テンションが下がったまま意識を向けると、左右の腰の装甲が展開し中からグリップが飛び出す。俺は左右の手で銃を引き抜き、取り合えず銃口を正面の大岩に向ける。右手の銃は銃口にはカバーの様な不透明なレンズがあり、左手の銃は銃身が上下の二股に分割されていた。双方共にSFに出てくる様なデザインの銃で、俺はは中々カッコイイと銃だと思った。
「レーザーガンにレールガン、か。どっちも元の世界では実用化されていない、空想兵器の代表格だよな。如何やったらコンナに小型化出来るんだ?」
俺は両手に銃を構えたまま、周囲の岩を仮想ターゲットに見立て素早く左右に振り回す。どんなに激しく両手の銃を振り回しても、銃口はピタリと狙いを定めた仮想ターゲットを捉え続けた。
「……銃口が一切ブレ無いな、銃なんて小学校の頃にエアーガンで遊んだ事しか無いのに。……実は火器管制装置が組み込まれていて動作補正でも掛かっているのか?」
初めて使う銃で一切ブレる事無く仮想ターゲットを捉える続けるなど、訓練した事無い者が行える様な事では無いだろう。そして、俺はそんな訓練を受けた覚えはない。
「はぁ、多分これも狭間の住人が好意で仕込んでくれた物なんだろうけど。勝手に体が動くって言う感覚は、余り良い物じゃ無いな」
疲れた様に溜息を吐いた後、俺は右手のレーザーガンの銃口を50m程離れた場所にある10m大の大岩に向ける。レーザーガンにエネルギーを供給すると、グリップの左側面に積み重ね式のバーメーターが表示された。数秒でエネルギーチャージは完了し、グリップに10本のバーメーターが表示される。俺は最初の試射に
用心に用心を重ね、出力調整レバーと照射時間調整レバーを回し最低値に設定した。準備が整った事を確認した後、俺は銃口を大岩に向け狙いを定めトリガーを引く。銃口から蒼く輝くか細いレーザーが飛び出した後、大岩の表面から煙が上がった。
「うーん、最小出力だと岩の表面が焦げる程度か。照射時間を伸ばせば、ライター替わりの着火機として使えるかな?まぁ、対人戦では威嚇に使える位かな?」
最初の試射結果を確認した後、俺は設定を変更し出力と照射時間をを50%まで上げる。再び大岩に銃口を向けトリガーを引くと、銃口から蒼い閃光がはしった。着弾したレーザーは大岩には拳大の穴を空け、空いた穴からは反対側の景色が良く見える。
「うげっ!半分の出力でコレかよ!あの大きさの岩を貫通するとか、人に向けて撃つ様な威力じゃないだろ、コレ」
綺麗な円形に抉り取られた岩石の断面は未だ沸騰しており、穴から漏れる熱気が周囲の空気を歪め陽炎の様に揺らめいていた。
「はぁ、激しく気は進まないけど、こうなった以上は一応最高出力も試しておかないと拙いよな」
俺は再度出力と照射時間の設定を変更し、銃口を穴の空いた大岩に向けトリガーを引く。銃口から極太の蒼いレーザーが走り、大岩を容易く溶解させて行く。
「……何、これ?」
光の中に姿を消した大岩を目にし、俺は自分が手にしているレーザーガンに幾度と無く信じられない物を見る様な眼差しを繰り返し送った。大岩を跡形も無く消し飛ばすと言う、予想外の威力に空いた口が塞がら無い。大岩は僅かな残骸を残し消え失せ、残った残骸も溶けてガラス化していた。
「ヤバイ、ヤバイ、何と戦う為の武器だよコレ」
自分が手に持っている銃がトンデモ無く危険な代物だと再認識し、戦々恐々の面持ちで右手のレーザーガンを慎重に腰のホルダーに戻す。
「と言う事は、これもレーザーガン同様危険物と言う事だよな」
俺は左手に持った銃身が二股に分かれた銃、レールガンを疑わせ気に見る。SFに出てくるデザインの銃みたいでカッコイイと思っていた感情は消え、何か禍々しい物の様に見えた。
悩んでいても如何しようも無いと感じ、俺は気を取り直し左手に持ったレールガンへのエネルギー供給を開始する。すると、レーザーガンと同様に数秒程でエネルギーチャージ完了を示すバーメーターがグリップの右側面に表示された。
「やっぱり、最初は最低出力からだよな」
レールガンの出力設定を最低値にし、発射弾数も単発に設定した。設定に間違いがない事を確認した後、俺は銃口をレーザーガンの標的にした岩とは別の、20m程の大岩に向ける。レーザーガンと言う前例がある為、些か不安感を感じつつも大岩に狙いを定め意を決しトリガーを引く。銃口から椎の実の様な形をした弾頭が飛び出し、大岩目掛けて一直線に飛翔する。弾頭は数瞬で大岩に到達し、大岩の表面を僅かに抉り力無く跳ね返された。
「最低出力だと、スリングショット位の威力か?狩猟や威嚇には使えそうだな。はぁ、レーザーガンと同様、此処までは良いんだけどな……よし!次は出力50%を試すぞ」
俺は出力設定を変更し、銃口を再び大岩へと向けトリガーを引く。弾頭は銃口から射出されると直ぐに、大気との摩擦で赤熱化し弾頭は光の尾を引いて大岩へと飛翔した。光る弾頭が大岩に着弾した瞬間、弾頭は運動=熱エネルギー変換現象を引き起こし大爆発を起こす。
着弾の衝撃で土煙が舞い上がり、大岩の表面を覆い隠した。
「げっ!」
土煙が晴れて俺が見た大岩には、着弾点を中心に多数の亀裂が走り大穴が空いている。その有様は昔ネット映像で見た、自衛隊の総合火力演習の標的の様だと思った。
「出力50%で戦車砲並みの威力か……すると100%って」
嫌な予感しかしなかった。不安気な眼差しを自分の左手に収まるレールガンに向けながら、緩慢な動きの手で出力設定を変更する。変更が終了した後、俺は大穴が空いた大岩に銃口を向けトリガーを引く。銃口からは光の線とかした弾頭が飛び出し、一瞬で大岩に突き刺さった。
「うわっ!?マジか!?」
弾頭が大岩に着弾した瞬間、大岩は内側から爆発する様に大小の塊にを飛散させた。俺は慌てて距離取ろうとするが、大岩が爆散すると言う光景に驚を突かれ一瞬回避動作が遅れる。高速で飛散する岩石群を回避する事は出来ないと判断した。俺は咄嗟に両腕を体の前で交差させ、両腕部のとある装置へにエネルギーを供給する。エネルギーを供給された腕は装甲の一部が展開し、中から半円形の結晶が出現した。結晶は蒼い光を放ち、俺の腕の数cm前方に体全体を覆い尽くすサイズの光の大盾を形成する。
爆発の勢いそのままで飛来した岩石は大盾に直撃するも、その尽くが弾かれるか砕け散った。
「あ〜、吃驚した。まさか標的の大岩が爆散するなんて。一体、如何言う威力しているんだよ、これ」
飛散する岩石が無くなったのを確認した後、両腕のエネルギーシールドを解除し、左手に持ったレールガンをホルダーに投げやり気味に戻した。俺が近くに有る手頃な大きさの岩に腰を下ろし座り込むと同時に、戦闘モードが解除されたのか自動的に保護バイザーも外れ、エネルギーを吐き出していた第1動力炉も元の状態へと戻る。
「はぁ、思わぬ所でエネルギーシールドの強度検証をした形に成ったな物だ。低出力だと分からないけど、一応最大出力なら結構な防御力が見込める事が判明したな」
両腕を摩りながら、俺は感心した様に呟く。レーザーガンやレールガンと違い、普段遣いとして問題なさそうだ。
「装備品を総評すると、本当にこんな物が必要な程この世界は危険に満ち溢れているのか?だな。いやはや、先が思いやられるよ、本当」
検証の結果、前途多難な展開が予想出来、俺は力無く肩を落とした。
スペック検証回です。
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