第50話 何を見せられてるんだ
:二機来てる!
:道路ふさがれた
:タロン逃げ場なくない?
:鴉、いけええええ
:後ろに抜けられたら終わりだぞ
:タロンがんばれ
コメント欄は、応援で埋まっていた。
偶然じゃない。
アヤが配信前にフィルターを仕込んでいる。
今も、WWU容認派の書き込みは、流れ込んだ瞬間に消されているはずだ。
画面の裏で、アヤも戦っている。
二車線の道路を塞ぐように、灰色のBULKが二機、肩を並べて走ってくる。
すれ違いざまに、一撃離脱をする隙間はない。
そもそも、タロンの背中からは、光ケーブルが伸びている。
一機も後ろに通せない。
選択肢は多くない。
左スティックを、小刻みに倒す。
右。
左。
また右。
かかとのタイヤが鳴き、黒い巨体が車線の間を縫う。
背中の線が遅れて振られ、運搬ドローンが必死に追ってくる。
:スラロームすなw
:酔いそう
:レレレ撃ちw
:的を絞らせないやつだ
:道路幅ぎりぎり
:でかいのにその動きすんのか
対ダンボール機は学習されていた。
市川橋のタロンの動きも、学習済みだろう。
だが、敵はタロンの改造を知らない。
右、左、右、左――急にリズムを崩して、タロンが右前へ沈み込み急加速。
間合いが、一気に潰れる。
こっちも、向こうもタイヤを軋ませ、強烈なブレーキをかけながら減速。
時速50キロからの急制動で、アスファルトから白煙が上がる。
距離、10m。
右腕のパイプレンチを振りかぶる。
右の敵機が反応する。
ナイフが迎撃に上がる。
:ナイフ!
:ヤバ
:あぶな
:ナイフ来る
だが、遅い。
牙っさんが削った装甲。
玉さんが組み込んだ玉手箱。
軽くなった機体と、先に準備を始めている関節。
タロンとBULKとの速度差は、体感で1.2倍。
レンチが、先に着く。
ガキィン!
対戦車ナイフが上がり切る前に、横殴りのパイプレンチが、敵の胸部を打ち抜く。
灰色の上半身が止まり、脚だけが一歩遅れて前へ。
巨体が膝から崩れ落ちる。
ミニマップの赤が、一つ灰色に変わる。
:入った!
:一撃!?
:え、もう終わった?
:タロン、動きが別物なんだが
:残り一機!
敵も、この隙を逃すはずがない。
右手のパイプレンチは、まだ振り戻しの途中。
タロンの上半身も、まだ一機目へ流れている。
そこへ、二機目のBULKが踏み込んだ。
対戦車ナイフが、右肩から左腰へ落ちてくる。
袈裟斬り。
:よけて!
:それ無理
:間に合わない
俺は、タロンの上半身を大きく反らした。
ゴーグルの視界が、曇天の夜空へ跳ねる。
白い刃がタロンの装甲ギリギリを滑っていく。
:は?
:のけぞったw
:イナバウアーかよ
:ロボの動きじゃなくて草
:腰どうなってんの
これも、敵は知らない。
コアAIユニットを積まず、追加装甲も剥がした。
その軽さで、タロンはBULKより、上半身の可動域が広がっている。
ナイフが振り切られる。
敵の右腕が、伸びたまま一瞬止まるタイミング。
上体を戻しながら、左手を伸ばす。
タロンの左手が、ナイフを握る敵の右手首を押さえる。
逃がさない。
何百回も負けて覚えた、左手の使い方だ。
上半身を反らした反動のまま、右のレンチはもう振りかぶっている。
ガゴンッ!
パイプレンチが、二機目の頭部へ真上から入った。
火花を散らしてセンサーユニットが砕け、頭部へ入った衝撃で、胸部装甲まで歪む。
掴まれた腕を残して膝から崩れる。
ミニマップの赤が、また一つ消えた。
:うおおおおお
:勝ったあああああ
:二機目おおお
:つよすぎるだろ
:何を見せられてるんだ
:タロン強すぎ
:鴉、ヤバ
〈視聴者数:11万〉
いつのまにか同接の数字が、跳ね上がっている。
60秒も使っていない。
俺はコントローラーを握り直し、タロンの目を小菅教育センターの建物へ向けた。
道路が空いた。
:空いた!
:そのまま行け!
:正面のNPIまだいるぞ
:ここからどうすんの?
タロンを走らせ、建物へ近づく。
正面のNPIたちが、一斉に放水をやめた。
ノズルを投げ捨て、建物の中へ下がろうとする。
:ホース持ってるやつ逃げてる
:ダンボール部隊どこ行った?
「今だ。ダンボール部隊、全機突入。温存しなくていい」
玉さんの指示が、操縦者チャンネルに飛ぶ。
:了解!
:いくぞ
:待ってました!
:飛ぶ前のドローン狙う
:全機、続けええええ
:さっきの仕返しだ!
すでに建物の近くまで来ていたダンボール機が、一気に低空へ出た。
逃げるNPIの背中に、墨入りの水風船が割れる。
二機目、三機目と続けて激突し、センサー部も含め、墨が、灰色の身体を黒く塗り潰す。
飛び立とうとした自爆ドローンにも、ダンボール機が突っ込む。
まだ地面に並んでいたドローンの列へ、後続が続けて刺さり、自爆するドローンも現れる。
それでもなんとか飛び立った自爆ドローンには、空中でダンボール機が真正面からぶつかった。
入口前が、墨とダンボールで、ぐちゃぐちゃになっていく。
:カオスすぎる
:墨まみれw
:飛ぶ前に潰すの草
:特攻隊みたいなことしてる
視界が閉ざされたNPIの中には、腕を振り回す機体もいれば、壁に手をついて進もうとする機体もいる。
タロンで走り抜けながら、NPIを順番に薙ぎ払う。
交通事故みたいな音が続いて、次々と地面や壁へ叩きつけられた。
中の人の避難を邪魔させないためにも、逃がすわけにはいかない。
タロンが、小菅教育センターの入口前に立つ。
ガラス扉の奥は暗い。
この向こうに、さくらがいる。
:NPIが人形みたいに飛ぶ
:てか、なんでここ攻めてんの?
:東京拘置所だよな
:小菅教育センターって何する所?
コメントの流れが、少しだけ変わる。
俺は、息を一つ吸った。
「俺の妹が、ここに捕まってる」




