表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/51

第50話 何を見せられてるんだ

:二機来てる!

:道路ふさがれた

:タロン逃げ場なくない?

からす、いけええええ

:後ろに抜けられたら終わりだぞ

:タロンがんばれ


 コメント欄は、応援で埋まっていた。


 偶然じゃない。

 アヤが配信前にフィルターを仕込んでいる。

 今も、WWU(ユニオン)容認派の書き込みは、流れ込んだ瞬間に消されているはずだ。

 画面の裏で、アヤも戦っている。


 二車線の道路を塞ぐように、灰色のBULK(バルク)が二機、肩を並べて走ってくる。


 すれ違いざまに、一撃離脱をする隙間はない。

 そもそも、タロンの背中からは、光ケーブルが伸びている。

 一機も後ろに通せない。


 選択肢は多くない。


 左スティックを、小刻みに倒す。

 右。

 左。

 また右。


 かかとのタイヤが鳴き、黒い巨体が車線の間を縫う。

 背中の線が遅れて振られ、運搬ドローンが必死に追ってくる。


:スラロームすなw

:酔いそう

:レレレ撃ちw

:的を絞らせないやつだ

:道路幅ぎりぎり

:でかいのにその動きすんのか


 対ダンボール機は学習されていた。

 市川橋のタロンの動きも、学習済みだろう。


 だが、敵はタロンの改造を知らない。


 右、左、右、左――急にリズムを崩して、タロンが右前へ沈み込み急加速。

 間合いが、一気に潰れる。


 こっちも、向こうもタイヤを軋ませ、強烈なブレーキをかけながら減速。

 時速50キロからの急制動で、アスファルトから白煙が上がる。


 距離、10m。


 右腕のパイプレンチを振りかぶる。


 右の敵機が反応する。

 ナイフが迎撃に上がる。


:ナイフ!

:ヤバ

:あぶな

:ナイフ来る


 だが、遅い。


 っさんが削った装甲。

 玉さんが組み込んだ玉手箱。


 軽くなった機体と、先に準備を始めている関節。

 タロンとBULK(バルク)との速度差は、体感で1.2倍。


 レンチが、先に着く。


 ガキィン!


 対戦車ナイフが上がり切る前に、横殴りのパイプレンチが、敵の胸部を打ち抜く。

 灰色の上半身が止まり、脚だけが一歩遅れて前へ。

 巨体が膝から崩れ落ちる。


 ミニマップの赤が、一つ灰色に変わる。


:入った!

:一撃!?

:え、もう終わった?

:タロン、動きが別物なんだが

:残り一機!


 敵も、この隙を逃すはずがない。


 右手のパイプレンチは、まだ振り戻しの途中。

 タロンの上半身も、まだ一機目へ流れている。


 そこへ、二機目のBULK(バルク)が踏み込んだ。

 対戦車ナイフが、右肩から左腰へ落ちてくる。


 袈裟斬り。


:よけて!

:それ無理

:間に合わない


 俺は、タロンの上半身を大きく反らした。


 ゴーグルの視界が、曇天の夜空へ跳ねる。

 白い刃がタロンの装甲ギリギリを滑っていく。


:は?

:のけぞったw

:イナバウアーかよ

:ロボの動きじゃなくて草

:腰どうなってんの


 これも、敵は知らない。


 コアAIユニットを積まず、追加装甲も剥がした。

 その軽さで、タロンはBULK(バルク)より、上半身の可動域が広がっている。


 ナイフが振り切られる。

 敵の右腕が、伸びたまま一瞬止まるタイミング。


 上体を戻しながら、左手を伸ばす。

 タロンの左手が、ナイフを握る敵の右手首を押さえる。

 逃がさない。


 何百回も負けて覚えた、左手の使い方だ。

 上半身を反らした反動のまま、右のレンチはもう振りかぶっている。


 ガゴンッ!


 パイプレンチが、二機目の頭部へ真上から入った。


 火花を散らしてセンサーユニットが砕け、頭部へ入った衝撃で、胸部装甲まで歪む。

 掴まれた腕を残して膝から崩れる。

 ミニマップの赤が、また一つ消えた。


:うおおおおお

:勝ったあああああ

:二機目おおお

:つよすぎるだろ

:何を見せられてるんだ

:タロン強すぎ

:鴉、ヤバ


〈視聴者数:11万〉


 いつのまにか同接の数字が、跳ね上がっている。

 60秒も使っていない。


 俺はコントローラーを握り直し、タロンの目を小菅教育センターの建物へ向けた。


 道路が空いた。


:空いた!

:そのまま行け!

:正面のNPIまだいるぞ

:ここからどうすんの?


 タロンを走らせ、建物へ近づく。


 正面のNPI(インスタンス)たちが、一斉に放水をやめた。

 ノズルを投げ捨て、建物の中へ下がろうとする。


:ホース持ってるやつ逃げてる

:ダンボール部隊どこ行った?


「今だ。ダンボール部隊、全機突入。温存しなくていい」


 玉さんの指示が、操縦者チャンネルに飛ぶ。


:了解!

:いくぞ

:待ってました!

:飛ぶ前のドローン狙う

:全機、続けええええ

:さっきの仕返しだ!


 すでに建物の近くまで来ていたダンボール機が、一気に低空へ出た。


 逃げるNPI(インスタンス)の背中に、墨入りの水風船が割れる。

 二機目、三機目と続けて激突し、センサー部も含め、墨が、灰色の身体を黒く塗り潰す。


 飛び立とうとした自爆ドローンにも、ダンボール機が突っ込む。

 まだ地面に並んでいたドローンの列へ、後続が続けて刺さり、自爆するドローンも現れる。

 それでもなんとか飛び立った自爆ドローンには、空中でダンボール機が真正面からぶつかった。


 入口前が、墨とダンボールで、ぐちゃぐちゃになっていく。


:カオスすぎる

:墨まみれw

:飛ぶ前に潰すの草

:特攻隊みたいなことしてる


 視界が閉ざされたNPI(インスタンス)の中には、腕を振り回す機体もいれば、壁に手をついて進もうとする機体もいる。


 タロンで走り抜けながら、NPI(インスタンス)を順番に薙ぎ払う。

 交通事故みたいな音が続いて、次々と地面や壁へ叩きつけられた。

 中の人の避難を邪魔させないためにも、逃がすわけにはいかない。


 タロンが、小菅教育センターの入口前に立つ。


 ガラス扉の奥は暗い。

 この向こうに、さくらがいる。


:NPIが人形みたいに飛ぶ

:てか、なんでここ攻めてんの?

:東京拘置所だよな

:小菅教育センターって何する所?


 コメントの流れが、少しだけ変わる。

 俺は、息を一つ吸った。


「俺の妹が、ここに捕まってる」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ