表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/51

第33話 二度とごめんだ

「読みより遅い。よその橋の騒ぎが、この時間を作った」


 葵さんへ通信を繋ぐ。


「増援が来てます。大型影、二。こちらは撤収します」

「了解しました。こちらも長居はしません」


:誰に報告してる?

:やっぱ自衛隊と繋がってる?

:大型影ってまたBULKかよ


 っさんがリールを回し、ケーブルを巻き取る。


「そのまま載せろ!」


 タロンを荷台に乗せる。


「撤収で、いったん音声オフね」


 配信のマイクをミュートにし、熊のマスクを脱ぐ。


 トラックはすぐに発進し、裏道へ逃げ込む。


「ギルマス。さっきの突入、計画より早い」


 首輪デバイスから伝わる月読の声は、作戦成功の少し緩んだ空気を引き締める。


「市民に向くのは非殺傷。我慢が正解」

「けど、テーザーで毎年人が死んでるって言ったのは月読だろ」

「……言った」

「それに、あの痛さは食らって分かってる。目の前で撃たれてくのを、黙って見てられるかよ」


 短い沈黙のあと、月読が小さく続けた。


「……死なれたら、困る」

「心配かけてごめんな」

「次は、勝手に出る前提で見る」

「はい、お説教はそこまでですわ。全員無事に通過した。今夜は満点ですの」


 アヤの声が、わざと明るく割り込む。


「団長、台船の貴重な経験が早速生きたじゃねえか」

「二度とごめんだ」


 運転席で、っさんの笑い声が揺れる。


 市川橋は、またすぐに灰色の機械に塞がれる。

 けど、あの子供は、もう向こう側にいる。



 配信画面の隅で、同接の数字が見たこともない速さで回っている。


からすねぐら 配信中 視聴者数:7.5万〉


 始まりは千八百だった。

 配信はSNSで広がり、ダンボールラジコン機が飛び立つ頃には数千、避難民が橋を渡り始めた頃には万を超えていた。


 俺は配信マイクを戻す。


「無事逃げ切れた。今日、橋を渡れた人がいる。あれは、みんなが作って、飛ばしてくれたおかげだ」


:おつかれ

:泣いた

:ダンボール最高だった

:橋渡れた人いた

:うちの親戚、向こうで保護されたって

:工作勢、お前らすごいよ

:鴉、ありがとう


「今日はここで切る。みんな、ありがとう」


:また呼んでくれ

:7万人が見てた歴史的瞬間

:次も飛ばす

:登録した


 俺が配信を終了しようとした、その時だった。


 ヘッドセットに、ノイズが混じった。


〈――ザザ〉


 聞き覚えのない、平坦な声が、割り込んできた。


『特異人的資源の候補を発見しました』


 俺は、指を止めた。


『既存評価、総合C+、カリスマB。実測評価、カリスマS級以上、特異人的資源の可能性を有します。貴方の能力は、集団誘導に有用です』


 ぞっとする。

 声は礼儀正しい。

 なのに、俺を人間じゃなく、機械みたいに見ている。


:今の何?

:誰か喋った?

:鴉以外は音声オフじゃないの


 俺は配信を切った。


「玉さん。今の、何だ!?」

「分からない。配信に外から割り込んできた。誰かが、いや、何かが君の配信を見ていた」


 俺は、ゴーグルを外した。

 トラックの中は、いつも通りの暗さだった。


 俺は、橋を渡る人のために声をかけた。

 その声を、向こうは「集団誘導に有用」と言った。

 

 膝の上には外した熊のラバーマスクがある。

 舌を出した、間抜けな顔。


 今夜、七万五千人が橋を渡る人たちを見守っていた。

 その中に、人間じゃない目が一つ混じっていた。


 黒くなった配信画面の奥で、さっきの声だけがまだ残っている。

 川を一つ渡らせた夜に、俺たちは、もっと大きな何かに見つかった。


 笑えねえ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ