表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/46

第10話 ギルマス、腕なまった?

「クリア。団長、貴重な経験したな。俺は味わいたくもねえけどな」

「テーザー、死ぬ人もいる。笑い話は雑」

「笑えねえ……」

「ダーリン、今のは本当に笑えませんわ。アヤ、画面の前で固まってましたわよ」


 月読の毒は、俺にも向いた。


「ギルマス、腕なまった?」

「なまってない。あそこでNPI(インスタンス)がかがむのが読めるかよ」

「そこまで読めるのが一流」

「うるさい」

「……生きてるから許す。次は当てる」

「はい、切り替え。棚で停止中のドローンは、すぐにバッテリーを外して」

「現在、5分30秒経過ですわ」

「船は予定通り、高砂諏訪橋たかさごすわばしまで曳航えいこう開始して」


 玉さんの指示で、俺たちは動き出す。

 正確には、俺だけはほとんど動けない。

 ボートの底に片肘をつき、まだ震えている手で青い機体を着陸させた。


 っさんが、まだ煙が残る中、棚に並ぶ八機の腹を開ける。

 ごつい職人の手が、手際よくバッテリーを外していく。


 っさんは続けて曳航えいこうロープを結び、台船のアンカーを上げる。

 俺はボートの航行パネルから、登録してあった高砂諏訪橋手前のポイントを呼び出して、実行だけ押す。


「橋の上は問題なし。工事現場の通行止めに近づく人影もない。クレーン、トラック、どちらも準備完了」


 ボートがゆっくり向きを変える。

 潮止まりの黒い水面を、作業台船がゆっくり動く。


「作戦開始から10分経過ですわ」


 台船の上のコンテナが、橋の外側に吊った古タイヤへ押し当たる。

 ぎゅ、とゴムが潰れる。


 ようやく立てるようにはなった。けれど、足元はまだ信用できない。


 煙は晴れ、偵察で見た暗がりが目の前にある。

 いろいろな棚や作業台。

 その奥に、灰色の巨体がしゃがみ込んでいる。


 BULK(バルク)だ。

 立てば三メートルを超える機体が、膝を胸元まで抱え込むように畳まれている。

 背中のレールガンが天井につかえないように、少し前のめりだ。


「ベルト下ろす」


 橋の上から、玉さんの声が飛んできた。

 っさんが受け取ったベルトを巨体に回し、肩の吊り環(つりかん)へ金具を掛ける。


っさん、一人で大丈夫?」


 自分の声は、まだ少し震えている。


「問題ねえ」


 重い金属音が、コンテナの中で響く。

 俺とっさんが入口のシートを外す。


 橋へ上がる前に、っさんが熊のラバーマスクを脱ぐ。

 ここからは、工事関係者に見えないとまずい。


「団長も外せ。熊のままクレーン見てたら通報される」


 俺も汗で張りついたマスクを剥がす。


「上に行く。川の流れが出る前に吊り上げんぞ」


 っさんがコンテナをよじ登り、橋からクレーン車へ移る。


「巻くぞ」


 橋の上でクレーンが動き、ベルトにテンションがかかる。

 玉さんが割り込む。


「待って。車が来た」


 橋の向こうで、ヘッドライトが止まった。

 誰も動かない。

 クレーン車のエンジン音だけが、やけに大きく聞こえる。


 数秒後、ヘッドライトが横へ流れた。

 玉さんの声が戻る。


「看板を読んでいただけだ。もう行った」


 クレーン車が低く唸る。

 ベルトがコンテナ入口の天井側をこすり、BULK(バルク)のタイヤが床を転がった。


 前のめりにしゃがんだ姿勢のまま、灰色の大型機が暗がりから引き出される。

 入口を越えたところで宙に浮き、背中の砲身が、縁すれすれを抜ける。


「位置は合ってる。ゆっくり下ろして」


 BULK(バルク)がトラックの荷台へ降りる。

 通信を鈍らせるため、BULK(バルク)の頭部へ災害用のアルミ保温シートを、何枚も巻く。

 素早く幌をかけると、灰色の巨体はただの積み荷になった。


「載ったぜ。装甲の交換パーツと専用工具は当然として、他はどこまで持ってく?」


 俺は、コンテナの奥に残ったラックを見る。


「ドローン本体とバッテリーまでだ。武器と弾薬は川に捨てる」

「いいのか。使えるぞ」


 俺は首を振った。


BULK(バルク)には効かない。NPI(インスタンス)を止めるだけなら、今日の水風船でいい。素人が市街地で扱うのは危険だろ」

「たしかにな」


 玉さんも同じ判断だ。


「今の東京に武器を残すのはまずい。デモも荒れてるし、誰が拾うか分からない」

「そうだな」


 弾薬箱とNPI(インスタンス)用の武器が、台船のふちへ運ばれる。

 水面が続けて跳ね、潮止まりの川に波紋が広がった。


「作戦開始から30分。増援が来てもおかしくありません。急いで」


 っさんは装甲パネルや専用工具を、プラスチックの折りたたみコンテナへ押し込んでいる。

 俺も、まだ震える指でドローン本体を別のコンテナへ放り込む。


 呼吸も心拍も、もう普段に近い。

 けれど、針跡が擦れるたびに痛み、四肢ししはまだだるい。


っさん、台船を岸へ。くくったら船は自動操船で帰してくれ」

「おう」

「翔大は、看板とコーンを」

「了解」


 玉さんの指示で、台船を岸壁に固定し、橋の上の夜間工事の偽装ぎそうが、手早く片付けられていく。


「玉さん、先に出してくれ」


 トラックが動き出す。


 幌の下で、灰色の巨体が揺れている。

 まだ動くかどうかも分からない切り札(ジョーカー)

 それでも、妹へ届くための最初の手札が、俺たちの側に渡った。

「面白そう」「続きが気になる」と思ったら、【ブクマ】【★評価】で応援してもらえるとうれしいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ