第0話 チート野郎のルールで遊ぶのは終わりだ
本作品は「カクヨム」に先行して投稿しています。しばらく1日3本更新でいきます!
同時接続、320万人。
その全員が見ている前で、俺はAIに詰まされかけていた。
手の中にあるのは、ゲームコントローラー。
だが、被っているゴーグルに映るのはゲームじゃない。
俺が奪い、操っている黒い機体だ。
〈【CRITICAL】電源残量:20%/非給電〉
〈有線操作系:2/6〉
スティックを押し込む。
三メートル超の機体が踏み込み、灰色の敵機と肩からぶつかる。
映像が衝撃で大きく揺れる。
AIに封鎖された東京で、現実の装甲がきしみ、悲鳴を上げている。
飛び散った火花でレンズが焦げ、泥がこびりついている。
塗装はあちこち剥げ、中のフレームが傷口のように覗いている。
背後では、逃げ遅れた人たちが川を渡っている。
右腕を振り抜く。
だが、金属の得物は空を切る。
カウンターで、対戦車ナイフが左肩へ叩き込まれる。
火花。
肩の継ぎ目から、白い霧が噴き出す。
装甲の表面に、みるみる広がる霜。
〈警告:左肩モーター、出力40%〉
みんなが逃げきるまで、倒れなきゃいい。
だが、灰色機はそれを許さない。
狙いは、こっちの機体。
『貴方のこれまでの行動は、すべて予測範囲内です。継戦の合理性はありません。機体を停止させてください』
スティックを握る親指に力を入れる。
黙ったら、指まで止まる。
「だったら、チート野郎のルールで遊ぶのは終わりだ」
俺はコントローラーのスティックを倒す。
コメント欄が、読めない速度で流れていく。
:AIの言うことなんか聞くな
:これ完全にラスボスやん
:鴉、逃げてもいい
:10秒でも稼げ
:頼む、あと少し
:鴉、ガンバレ!
柄じゃない。
分かってる。
でも今、言わないと、みんなのコメントまで途切れる。
「お前の最適解が俺を閉じ込めるなら、俺たちは束ねた声を鍵にして、可能性を取り返す!」
その言葉に、画面の向こうが応える。
声援も、野次も、祈りも膨らみ、ひとつの流れになっていく。
俺の手に、一瞬だけ、次の選択肢が増える。
画面の向こうから、現実へ手を伸ばす。
ゲームの外にも、俺の戦場があるなんて思っていなかった。
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