魔法と武器の扱い方って難しいよね
難産でした…。
フランとの出会いから早2ヶ月が経った。
俺は本を読んだり、こっそり護衛隊の稽古を覗きに行ったり、隠れて魔力の操作練習や魔法の練習をしていた。
「初級魔法までなら、隠れて敷地内で練習できますが中級魔法になるとバレますわよね…」
俺は5元素と2要素の初級魔法は本で学び、実行し問題なく実行できた。
どこかしらで躓くと思っていただけあって、簡単に取得できたため驚いたものだ。これが転生特典というものだろう。
魔法には、以下の工程で実行される。
・魔法陣を展開
・対象を指定
・詠唱により、魔力を込める
・規定量の魔力を満たした時、魔法が放たれる
俺はここで思った。
丁寧に実行してると、あまりにも遅いと。
では逆に、素早く魔法を行使するとどうなるのかと。
結果は、威力まばらで着弾位置もバラバラ。
正直実践で使えたものではなかった。
俺はここで、魔法陣展開から対象の指定を素早く出来るように特訓を初めた。
あそこ(場所)に向かって放つというふうに指定しなければ最短での発動ができないと思っていところもあり中々苦戦したが、あれ(物)に向かって放つという思考を自然にできるように調教していった結果、対象指定までの時間を短縮できたのだ。
また兵学の本を読んでた時に、魔法使いの戦い方というものを知った。
軍隊での戦いの場合、範囲魔法による攻撃により多数を行動不能にし、剣士クラスの間合いまでの距離を稼ぐ補助を行う戦い方がメインである。故に魔法耐性であったり足止めされないように隊列を調整したりするとかあったりする。
1VS1の場合は、初動は牽制、そこから足止めもしくは行動範囲を制限し、自身の最大火力の魔法で相手を仕留める。が一般的な戦い方ではあるが、初動において一撃で仕留める方法もある。
ここで問題になってくるのが詠唱である。
難しい魔法ほど詠唱に必要な呪文が多くなってくる。
詠唱とは何かと言うと初級魔法「ファイアーボール」を例にとる。
詠唱は「火の玉よ飛べ」
各魔法にはそれに追随する呪文があるのだ。では、この呪文を省くことができないのかというと出来る。
魔力を込める時に、脳内に発動する呪文をイメージすることにより発動することができる。この現象を詠唱破棄というのだが、メリットとデメリットがある。メリットは、発動までの工程が極端に短いことにある。奇襲や牽制にちょうど良い。デメリットは威力にある。詠唱するよりも威力が減衰するのだ。これは、どの本を読んでも原因がわからなかったが、ひとつの仮説はある。
それは、詠唱の呪文というのはその文に長年蓄積された歴史が魔法陣に影響を与えているのではないかということである。
この仮説の元、自分である技術を考えた。
脳内で呪文を唱えることで、口に出すという工程を省いて詠唱短縮が出来るのではないかというものである。
・魔法陣展開
・対象を指定
・脳内で詠唱をし、魔力を込める
結果を言うと、詠唱破棄より時間は少しかかるが、威力は上がった。
故に「詠唱破棄<詠唱短縮<詠唱あり」という威力の違いがあった。発動時間はその逆となる。
が、ここで問題が発生した。
実戦向きではないということ。脳内での詠唱が問題となるのだ。口に出すという工程が無い分、詠唱ありより早く発動するのだが、脳内で唱えることにより思考のリソースをそっちに持っていかれることにより、次の行動への移行が詠唱ありや詠唱破棄より遅くなりやすい。というより、並列思考ができないと使えないまである。故に浸透しなかったんだろう。
が、これに関していえば、俺にデメリットはない。何故かって?この体、並列思考ができる。なんなら、複数魔法を同時展開までできる。
こっちの魔法を展開しながら、こっちの魔法を展開させるというこの世界にしては規格外の才能を持っている。
詠唱短縮しながら、複数魔法を発動させる事ができるように特訓していたのだ。
地道な努力を3歳の頃から行い、今になっては初級魔法であれば完璧にこなせるようになった。
今は自由時間が多いのだ。毎日やってればできるようになる。養殖ハイスペ万歳!
ということで、中級魔法に入りたいのだが、問題がある。
中級魔法は、威力が中々大きいものが多いのだ。
どういう魔法があるのかは分かるのだが、如何せん規模が読めない。
これで辺り一帯を焼け野原や氷漬け、水没してしまったら目も当てられない。
ということで、魔法を使ってもバレない練習場所が欲しい。
しかもタイムリミットは6歳までだ。
6歳になれば嫌でも時間は取れなくなるだろう。
方法はある。
が、手段が思いつかない。
方法とはなにか。
それは、ダンジョンに潜ること。
この世界には、ダンジョンがあり魔物がいる。ダンジョンであれば、魔法の練習にもってこいなのだが問題もある。
死と隣り合わせであること、イレギュラーが常にあると警戒し続けないといけないこと。なにより、自衛手段を持たないといけないこと。
詳しく話すと、まず基本的に、貴族はダンジョンに潜らない。
どういうことかと言うと、貴族はダンジョン外のモンスターへの対処はするのだが、外より危険度が高いダンジョンへは理由もない限り行かないのだ。
理由は単純に、ダンジョンのイレギュラーに巻き込まれて死んでしまった場合、自地の混乱を招くからだ。現当主だろうと、後継だろうと最悪の想定をした場合理由もない限り行くことはない。
王都への学校入学後に行くことはあるのだが、俺としてはそこまで待つつもりがないのである。
貴族、しかも公爵家となるともう周りから止められる。本人の意思関係なく物理的に拘束されてしまうのだ。兄がそうだったから。
兄でそうだったのだから、女である俺は絶対に止められる。父と母が泣き叫びながら止めるまであるかもしれない。
この問題を乗り越えたとしても、まだ問題がある。魔法職が1人でダンジョンに潜ることはないという点。魔法職ないし、遠距離職の最大の弱点というのがある。
ダンジョン内で魔物を殲滅できるのであればいいのだが、撃ち漏らしがあったり素早くて狙い付けられずに懐にはいられたら最期なのだ。
だからこそ魔法職や遠距離職はパーティを組む。
パーティのメリットは大きく、役割を分担することにより自分の労力を減らすことができるのだ。
パーティには、斥候、剣士、盾持ち、魔法職、遠距離職という組み方が一般的であり、偵察、罠解除を斥候。近距離戦を剣士。敵の攻撃を逸らす、隙を作る盾持ち。遠距離攻撃による殲滅を魔法職。牽制を遠距離職が行う。
それぞれが役割を持ってこなすことにより、生存率が飛躍的に上がるのだ。
デメリットがない訳でもなく、これは油断に繋がりやすくちょっとした油断でパーティが壊滅することもある。
慣れと言うやつだ。人は同じ繰り返しで同じ結果を得続けると慣れてしまう。
慣れてしまうとセオリーから外れても、今まで大丈夫だったからと油断してしまう。その油断が命取りとなるのだ。
と、パーティのメリットとデメリットを並べたが、これはダンジョン攻略における話だ。
俺は、魔法の鍛錬をしたい。そうなると、他の人が邪魔であり、公爵家の令嬢とバレるリスクが高い。それが嫌なのだ。
こういうこともあり、パーティを組むという手段が取れない。ので、近距離戦ができるようになりたいが、クレアが許してくれない。
クレアが意地悪を言ってるのでなく、成長に関係するのだ。無理な筋トレは成長に悪影響が出やすいからだ。
主に骨にダメージが行くこと、悪化することそれを考えるとクレアとしてもおいそれ許可をくれない。女児の体と筋力量だ。武器を持っての鍛錬は多大な負荷がかかることは想定されるだろう。
が、それは魔力による身体能力の強化が出来ない前提での話だ。
魔力での身体能力強化の技術は、近距離職における必須技能である。
体の必要箇所に、魔力を巡らせることにより筋力強化や視力強化ができる。
が、やりすぎは良くない。かけすぎた魔力はそのまま筋肉や視力にダメージを与えてしまい最悪の場合、障害が残ってしまうのだ。
ただし、俺はちょっと特別なのだ。生まれた頃から魔力の操作をし続けたことにより、他の人より魔力の操作がバカみたいに得意なのだ。このお屋敷の屋根まで飛び乗ることや飛び降りて無事に着地することは余裕でできる。
故にかけすぎることはないと思う。ただ、筋力量の差により必要魔力量が変わってしまうため大人相手に真っ向勝負はできないが。
故に筋力量で負けるのであれば、流すという技術を取得したいのだが中々機会に恵まれないのである。
どうしたものか。
ここまでの問題をクリアしてもまだ問題がある。
ダンジョンに入るには、冒険者協会通称「ギルド」への冒険者登録が必要である。
これは、王都の学校に入る際に入学届けと同時に登録依頼もするのだが入学するまで待てんというのが実情。
故に、身分を偽って登録したいのだが俺の記憶が正しければ身分を証明出来なければ登録できないと認識している。
身分を偽り、身分を証明する手段はないものか…。
と考えてると、ノックが響く。
「フランです」
「ええ、どうぞ」
「失礼いたします、お嬢様。夜分に失礼します。相談がありまして…」
「あら、どうしたの?」
「実は…」
配膳の仕方が覚えられないとの事だった。
この世界は全体的に中世のヨーロッパなのに生活水準が前世の現代日本なのだ。
故に、和食と洋食が出てくる。
前世でもそうなのだが、格式の高い場所だと配膳の位置やマナーというのがまぁめんどくさい。しかし、和食に関しては、仏教的な意味合いがあったりするのだ。
今世でも、ルールは変わらない。
「なるほどね、軽く話すわね。まずは覚えやすいのは和食…。東洋のルールね。東洋は一汁三菜を基本としいるわ。食べる人の左側に主食、右側に汁物を配置するのが鉄則なの。なぜかって言うと、お米への感謝や、利き手での食べやすさを追求した歴史的な知恵に基づいているわ」
「そうなんですね、逆にしてはいけないのはなぜなのですか?」
「それは宗教的な理由ね。東洋にある宗教には、葬儀の際にお供えする配置になってしまい、縁起が悪いとされていますからよ」
詳しく話すと忌み配膳等の話になるのだが、それはおいおいだな。
「なるほどですね…。東洋食は宗教に影響受けてる部分があるのですね」
メモしながらフランは聞いてくれる。
「西洋食は、食器やグラスを置く位置は左側にフォーク、右側にナイフとスプーン、右奥にグラスとなるわ。これは右利きの人が最もスムーズに食事をできる合理的な動線から生まれているの。右手でナイフを持って料理を切り、左手のフォークでそれを口に運ぶため、最初からその手に近い位置にセッティングされているの。フォーク(左手)で食べ物を突き刺して固定し、ナイフ(右手)で切り分けるという行為が、中世の戦場における盾(左手)で防ぎ、剣(右手)で攻撃するという騎士の動きに由来しているという説があるのよ。故に貴族社会に影響を受けてるといえるわ」
「なるほどですね…。そうなるとその置き方に習って配膳するべきですね。」
「ええ、基本的には使いやすい場所に配膳するイメージであってるわ。詳しくはこの話を踏まえてクレアに聞いてみなさい。私が間違っている箇所もあるかもしれないわ」
「ありがとうございます。勉強になりました」
諸説あるがだいたいこんな感じのはずだ。
「それはそうとして、フランに聞きたいことがあるの」
「私に分かることであれば」
「フランはギルドの冒険者登録って詳しいかしら?」
「ええ、詳しくはという訳でもありませんが」
「ギルドの冒険者登録ってストリートチルドレンや教会で保護されている孤児の子達も登録できると聞いたことあるのだけど、私の記憶では身分の証明も必要だと認識してるのよ。身分を証明できない場合ってどうなるのかしら?」
「その場合は、適正の確認と実力を確認する実技テストを行い合格を得ることで冒険者として登録ができるようになります。冒険者になることでギルドカードが発行されますのでそれが身分の証明になるのです」
「そうなのね。適正の確認と言うと魔法の適性だと思うのだけど祝福の義みたいな確認方法になるのかしら?」
「いえ、的当てですね。打てる魔法の種類を試験官に言い、威力や魔法の発動までの時間を見ていると聞いてます」
「ありがとう。勉強になったわ。詳しいのね」
「いえいえ、孤児の子達の冒険者登録に付き添ったことがあったので。それよりどうされたのですか?いきなりギルドの冒険者登録について聞くなんて」
「ギルドの冒険者登録ってそういや詳しく知らなかったと思ってね。なんとなくよ」
「そうなのですね、では私はこれで失礼いたします」
「ええ、頑張ってね」
そう言ってフランは退出して行った。
…これはイケる。ストリートチルドレンになりすますことは出来る。そして、グレーではあるが身分を偽れる。
ただし、フランソワ家領地内ではないところでやるしかない。療養地があるのだ。そこで冒険者登録すればいい。夏に行きたいと我儘言うことになるが聞いてくれるかなぁ…。
さて、こうなると後は自衛手段を覚えることだな。進展しだぞ!
が、もう夜だ。明日考えよう。
ー翌日
「ちょっと修練所を覗いて見ますか」
色々考えたが修練にこっそり混ざることにしたのだ。
木刀がぶつかり合う音が響く。
「あら、お兄様もいらっしゃるのね」
遠くのところで兄が稽古してる姿を発見した。
姿勢は良さそうであるが、力でどうにかしようとしてるように見受けられ技を感じられない。
暫く見ていると、近くの近衛隊長が俺の存在に気づき声をかけてきた。
「お嬢様、おはようございます。なにか御用でしょうか」
「ごきげんよう、鍛錬の邪魔をして申し訳ないです。今日は見学しようと思いまして」
「そういうことですね、ええご自由に見学してください」
「ありがとう」
許可を得たし、堂々と見学しよう。
他の者を見るがさすが公爵家お抱えの騎士だけあって技と力を感じる。
そうやって観察してると、兄が俺に気づいて声をかけてきた。
「おはよう、シルヴィ。修練所に来るなんてめずらしいね」
「おはようございます、お兄様。本日は鍛錬を見ようと思い、来た次第です」
「そうか、ゆっくりしていって」
「ええ」
兄はまた修練に戻っていった。
観察しているがやはり違和感が強い。力任せな気がする。
「くっ…。また押し返されたか…」
「筋はいいのですが、技の練度がまだまだですね」
「ああ、そうだよな…。こうではいざと言う時に自分さえ守れないな…」
何度か撃ち合いをし、休憩していた。
そこに近づく。
「お兄様、見ていて思ったことがあるのです」
「教えてくれるかい?」
「少しこちらお借りしますね」
立てかけてあった木刀を持った。
ふむ、少し重いが筋力強化をすれば…。
うん、振れるな。筋トレしといてよかった。というか、筋肉質にならなくてよかった…。マッチョになりたい訳では無いのだ。
兄が驚いた顔したが、無視。兄の練習相手に振り向き。
「申し訳ないのですが、少しお手伝い頂けるかしら」
「え?あっ…。はい」
間合いをとって木刀を構える。
「お兄様の修練を見ておりましたが、どうも力押しのように見受けられます。魔力で筋力強化されてるようですが、基本的に筋力の差により押し返されるのは当たり前です。このように」
こうして斬り掛かるが押し返されて元の位置に戻る。
ふむ、思った以上に体が軽い。これはイメージ通りというか教本通りに動けるな。
「力で押す方法としては、単純な筋力差で押す。もしくはスピードを載せる方法」
そう言いながら、足に魔力を込めて飛び込む。その勢いで剣を振るが受け止められた。
「しかし、これは技術差によって止められてしまいます」
元の位置にもどった。
あれ?そんなに手に響いた?
そんなじんじんしたような顔して…。
「それは当たり前なのです。魔力のコントロールがどんなに上手くとも体の筋力の密度が違うのです。成長中のお兄様と成長し鍛えた兵士とでは、鍛えた量も質も違います。相手によっては、お兄様のやり方でも勝てますが、そもそも、力で押すのであれば剣である必要がないのです。もっと力を乗せやすい武器を選択すれば済むのですから」
例えば、棍棒。ヌンチャク。ハンマー。斧。様々な武器がある。これは技術で振り回し筋力量を技術でカバー出来る。
「では、なぜ剣を使うことが多いのか。それは汎用性と携帯のしやすさにあります。鞘に収めると、両手を自由にしたまま、いつでも身につけておけることにメリットがあります。また、突然の奇襲に対応しやすいことが挙げられるため剣術を学ぶことが多いのです。」
「そうなのか…」
あれ?
兄が真面目に聴き始めた。というか周りの人達も手を止めて聞き始めてる…。
「汎用性とはなにか?それは剣が総合格闘武器的側面があるからです。まずは、突く。」
魔力を足に込めて、そのまま突きを繰り出す。受け止められるがすかさず下から上に木刀を弾いた。バランスを崩した為に簡単に隙を作れた。
「次に殴る」
柄頭を相手の顎に向けて振り上げる。
が、寸止めする。
そのまま元の位置に飛んだ。
「最後に斬る。剣最大の特徴ですね。突くであれば、槍や弓。殴るのであればナックルでいいですからね。木刀を横に構えてくれませんか?」
俺の言う通りに構えてもらったため、間合いに入る。
目を閉じ、すぅーと空気を吸い、呼吸を整える。
指南書には、瞑想のすすめがあった。それは心を無にして周りの雑音や世界を外に追い出し、究極の一へ到達しえる極地。
周りの雑音が消え、無の中に自分の心臓音だけになった。
多分この感覚。まだ足りないかもしれないが今至れるのはここまでだ。
ゆっくりと目を開ければ、周りの景色はゆっくりに見えて…。木刀を振りかざした。
相手の木刀に当たる感触があったがスっと切れる感覚があった。そのまま地面に剣先が触れた。
景色は段々と元に戻っていき、静寂が場を支配する。
ージグリス視点
妹であるシルヴィは、変わっていた。
シルヴィと同い年であった時は、僕は遊び回ってた。お父様に、お母様に構ってもらったりのびのびと遊ばせてもらい色んな経験をした。僕に与えられた自由な時間でいろんなことをしたものだ。が、シルヴィは遊ぶことしないで、勉学に励み、こっそり魔法の練習してたり普通の子とは違ったのだ。
それを見て、僕も見習わないとと思ったものだ。
シルヴィは本当に博識で、テーブルマナーや勉学で詰まった所はシルヴィに相談すると噛み砕いて説明してくれる。その後、改めて先生の話を聞くと理解できたものだ。
自慢の妹である。というか、嫁に出したくない。
そうやって1つずつ苦手を減らしていったが、僕はとある壁にぶち当たっていた。
それは、剣術である。最初の頃、型を真似る。木刀を振る。間合いを学ぶ。
ここまでは順調であったが、対人修練になった途端に上手くいかなくなったのだ。
何人かから、1本は取れるのだが練習相手が強くなるにつれ負けることが多くなり悩んでいた。
シルヴィに相談してみるか考えたが、シルヴィが剣術に詳しいとも限らないしそもそも見ないと覚えられない気がしたのだ。
そう気がしていたのだが、今日、珍しくシルヴィが修練所に来た。それだけでも驚いたのに僕の修練を見た瞬間にアドバイスをした。
シルヴィの話を聞く度に、僕の思い違いを思い知らされた。それだけでも助かったのに、実践して見せたのだ。シルヴィが体に纏わせる魔力の質と量が周りの兵士なんて比べれないぐらい精密な操作で必要最低限の魔力量で最大限の力を発揮させていた。
僕でもここまでコントロールできない。
そして、剣の戦い方を実演してくれた。
突きの話の時は、追うのが難しいぐらい素早く飛び込み突きを放った。兵士も反応し切れず体制を崩していた。殴る説明では、そのまま体勢崩した兵士の木刀を上に弾いて懐に入り込み、柄頭を兵士の顎に向けて殴り掛かり寸止めし、元の位置に戻るという離れ業をして見せた。
近衛隊長や副隊長が絶句したものだ。
そして、斬る説明。
シルヴィは、兵士に構えるように指示し、間合いを取った。そのまま上から下へ振るだけだと思った。その予想は裏切られた。
シルヴィは、瞑想に入ったのだ。
呼吸が整い、静寂に入った。剣術の指南書は読んだ。最強へ至る方法。瞑想について読んだが理解ができなかったのだが、シルヴィが実践した。
誰かの飲む音が響く。
ゆっくりと目を開けたシルヴィ。その瞬間、とてつもない闘気が場を飲み込む。
震えが止まらないもの、威圧によって呼吸困難になるもの、身構えるもの。反応それぞれ。対面してる兵士は震えていた。動けないのだ。下手に動いたら死ぬと本能で理解したから。
そして、気づいた時にはシルヴィは振り終わっており、兵士が構えていた木刀が斬られた。
音を立てて木刀の刀身が落ちた。
「なんだよそれ…。」
誰かが呟いた声。
答えられる者はいなかった。
ーシルヴィ視点
うん、斬れた。
何で斬れたのだろうか?
指南書において、瞑想を学んだ。今まで日課の魔力操作練習してた故に瞑想の感覚は分かっていた。
元男ってだけあって、究極の極地というのを体感したかった。が、できるとは思ってなかった。
だって、読んだだけなんだもん。イメトレしたけど実践してないし。
とりあえずカッコつけて木刀で払って、兄に向き合う。
「これが斬るです。他の方法として、叩き切るというのがあります。叩き切るというのは、筋力と剣の刀身の厚さ、角度により可能でありますがそれやるなら斧でいいのです。斬るとは、物を紙のように割くような技術とお聞きします。その技術を、剣術を極めた先。究極の極地へ至る時、何でも斬れるといいますね」
「それがその結果って言うこと?」
「ええ、やろうと思えば木刀ごと人を斬れたと思います」
それを聞いた兵士が震え上がった。
やらないよ…。
「他の汎用性でいうと、間合いの短さや取り回しのしやすさ、死角の少なさにあります。槍と斧でいうと、槍は懐に入ると無力化しやすいですが剣には対応しきれます。斧は振り回す場所に制限ありますが、剣にはありません。そういうところで剣は好まれるのです」
「だから、剣の修練が多いんだね」
「ええ。ですがデメリットもあるのです」
「例えば?」
「1つは決定力に欠くところです。」
「どういうこと?」
兵士に向かって一閃を放った。
が、防具に阻まれた。
「防具で固めてる相手に行動不能にさせるほどの威力は出せません。斧やハンマーであれば防具の上から叩けます」
「なるほど…」
「もうひとつは、リーチです」
「メリットって言ってなかった?」
「ええ。ただ、デメリットでもあるのです。剣のリーチは槍より短いです。そして、遠距離武器よりも短いです。故に単純にリーチ短さにより相手に届かず一方的に攻撃されてしまうデメリットがあります。これが技術的レベル差があると顕著に現れます」
「槍や遠距離武器に打つ手はないの?」
「あります。と言っても技術になります。最低限の回避行動により懐に入り込む。飛んでくる物を斬り落とすこのように」
槍を持ってもらい、突きをしてもらう。
目の強化を行い、最低限の行動で槍を避け懐に飛び込む。
「という感じです。お兄様のやり方は誤ってるように感じますので見直してみてください。書庫の剣術の指南参辺りが役に立つと思います」
ふむ、思った以上に近接戦できるのがわかったし、冒険者登録に向けて、偽装準備するかぁ…。
そう考えながら、屋敷へ歩みを進める。
「シルヴィ様、この中の誰より強いんじゃないか?」
そんな声を聞き流しながら修練所を後にした。




