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回帰○(リターン・ゼロ)~平凡な俺の前世が『神』だった~  作者: トランス☆ミル
第六章 小さな厄災編

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第42話 ほのぼの探検

 ダンジョン調査から2日後。その日は、プリムンズにとって貴重な休日だった。


「……平和だ」


 寮の共有スペースのソファに寝転がりながら、レイがしみじみと呟く。


 窓の外では、冬のやわらかな日差しが静かに差し込んでいた。


「ここ最近ずっと濃すぎたからねぇ……」


 ネリンはテーブルに突っ伏したまま、ぐでっとした声を出す。


「山吹っ飛ばしたり、神話級の宝物庫見つけたり……情報量が多すぎるんだよ」


「全部アート絡みなのが怖いよな……」


 ウェントが遠い目をする。


 フラクタは椅子に座りながら本を読んでいた。


「でも、今日は本当に暇なのね」


「まぁ、こういう日も必要でしょ」


 ヴィジはコーヒーを淹れながら苦笑する。


 そんな穏やかな空気が流れていた、その時。


 ――バァン!


 勢いよく共有スペースの扉が開いた。


「みんなー!!」


 元気いっぱいの声。


 そこに立っていたのは、もちろんアートだった。


 猫耳をぴこぴこ動かしながら、満面の笑みを浮かべている。


「探検行こ!!」


「……」


 一瞬で、空気が凍った。


「……また?」


 レイが嫌そうな顔をする。


「今回はなに壊れるんだ……?」


 ウェントも警戒を隠さない。


「失礼だなぁ。今日はほのぼのだから大丈夫だよ! 散歩みたいなもの!」


「その台詞が一番信用できないんだけど……」


 ネリンが即座にツッコむ。


 だがアートは気にした様子もなく、ぴょんとソファの上へ飛び乗った。


「今日はね、とっておきの秘境に連れてってあげる!」


「秘境……?」


 ヴィジが眉をひそめる。


「すっごく綺麗なんだよ! 空気も美味しいし、生き物もいっぱいいるし!」


「危険じゃないの?」


 フラクタが冷静に尋ねる。


 するとアートは少し考えてから、


「まぁ、ちょっとは危ないかも?」


 と、悪びれもなく答えた。


「ほらやっぱり!」


 レイが叫ぶ。


 しかし、アートはそのまま楽しそうに続ける。


「でも今日は任務じゃないし、みんな暇でしょ?」


「まぁ……そうだけど」


「だったら決まり!」


 アートはそう言うと、ぱんっと手を叩いた。


「え?」


 次の瞬間。空間が、ぐにゃりと歪む。


「ちょ、待っ――」


 ヴィジが言い終える前に、視界が白く染まった。


 ふわりとした浮遊感。足元が消える感覚。


 そして――


「うわっ!?」


 気づけば、5人は巨大な森の前に立っていた。


 見上げるほど巨大な木々。澄み切った空気。どこまでも広がる深緑。


 知らない鳥の鳴き声が響いている。


「……え?」


 ウェントが呆然と呟く。


 その隣で、アートは満足そうに両手を広げた。


「到着ー!」


「……どこだよ、ここ」


 レイが引きつった声で聞く。


 するとアートは、胸を張って答えた。


「小国ラムダ! その中にある『ヴィルミント大樹海』だよ!」


「……は?」


 ヴィジ達は、一斉に固まった。


「いや待て、ラムダって……本部の国から2つ隣じゃなかったか!?」


「うん!」


「『うん!』じゃねぇ!!」


 レイのツッコミが、大樹海に虚しく響いた。


 そんな風に困惑する5人を見て、アートは楽しそうに笑う。


「じゃあ、探検スタートー!!」


 そして小さな背中は、巨大な樹海の奥へと駆け出していった。


「……行くしかないか」


 ヴィジは額を押さえながら、小さくため息をつく。


 こうして、プリムンズ5人による、ほのぼの(?)な休日探検が始るのだった。


 ヴィジ達はアートの後を追い、大樹海の中へと足を踏み入れる。


 ――その瞬間。


「「……ッ」」


 5人は小さく息を呑む。


 空気が違う。


 冷たい冬の風は消え、代わりに森特有の湿った空気と、どこか甘い花の香りが漂っていた。


 見上げれば、空を覆うほど巨大な樹木が枝を広げている。


 幹は建物のように太く、根は地面を這うというより、もはや壁のようだった。


「でかい……」


 ウェントが思わず呟く。


 木漏れ日が、淡い光となって地面に降り注ぐ。その光景は、どこか幻想的だった。


「すごい……」


 フラクタも感嘆の声を漏らす。


 森の奥では、青白く発光する植物が静かに揺れていた。


 空中には、蝶のような淡い光を放つ生物がふわふわと漂っている。


「なんか……飛んでない?」


「飛んでるねぇ……」


 ヴィジとネリンが呆然と見上げる。


 そんな中、アートだけは慣れた様子でどんどん進んでいく。


「こっちこっち!」


「待て、先に行くな!」


 レイが叫ぶが、アートは気にせず巨大な根の上へ飛び乗った。


 仕方なく5人も後を追う。


 根は天然の橋のようになっており、その下には透き通った川が流れていた。


「うわ、綺麗……」


 ネリンが川を覗き込む。


 すると、水面の中を、小さな光が泳いでいった。


「今の何?」


「発光魚だよ!」


 アートが即答する。


「食べるとちょっと光る!」


「食べれるのかよ……」


 レイが引いた顔をした。


「この森はマナの巡りが良いからねぇ。身体に優しいの!」


 アートはそう言いながら、どんどん奥へと進んでいった。




 その後も、一行は樹海の中を進んでいく。


 巨大な花畑を抜け、透明な羽を持つ蝶の群れに囲まれ、時には木の上をリスのような生物が駆け抜けていく。


 まるで、絵本の中の世界だった。


「ラムダってこんな場所だったんだな……」


 ヴィジが感心したように呟く。


「ここはラムダの中でも特別な場所だからね〜」


 アートは振り返りながら笑う。


「昔から神様とか精霊とか、いっぱい住んでるんだよ!」


「……その"昔"ってどれくらい前なんだ?」


 ウェントが聞くと、


「ん〜、ミルにぃがこの階層を作った後だから……数兆から数千億年前くらい? 忘れた!」


 と、アートは無邪気に答えた。


「ちょ――!? いやまぁ、そんなもんか……神話の時代後期辺りの話だもんな」


 5人はもはやツッコむ気力すら薄れてきていた。


 そんな風に歩いていると、不意にアートが立ち止まる。


「……あ」


「どうした?」


 ヴィジが尋ねる。


 アートは、少し嬉しそうに笑った。


「いた」


「……?」


 その瞬間。


 ――ガサッ


 茂みが揺れた。


 全員が反射的に身構える。


 だが、現れたのは魔物ではなかった。


「……鹿?」


 レイが目を瞬かせる。


 そこにいたのは、一頭の巨大な白い鹿だった。


 だが、普通の鹿ではない。


 体毛は雪のように白く、身体の表面には星のような淡い金色の紋様が浮かんでいる。


 そして何より、その枝分かれした角が、まるで水晶のように透き通っていた。


「綺麗……」


 フラクタが小さく呟く。


 鹿は静かにこちらを見つめている。


 その瞳は、驚くほど穏やかだった。


「これってもしかして……!?」


神獣しんじゅうだよ!」


 ウェントの驚く声に、アートが嬉しそうに答える。


「神獣――神力しんりょくを宿した、神聖な生物。一生に一度、会えるかどうかの伝説の動物じゃないか!」


「御伽噺でしか、聞いたことなかったわ……」


 みんなは、超希少な動物を前に唖然とした。


「そうそう! この子はね、『星彩鹿せいさいろく』っていうの!」


 アートはハイテンションで説明をする。


 すると星彩鹿は、ゆっくりとアートへ近づいてきた。


 警戒している様子は、一切ない。

 

 アートも、気にする様子もなく、


「ほらほら、触っていいよ!」


 と、5人を手招きした。


「え、いいのか?」


「大丈夫!」


 恐る恐るヴィジが近づく。


 星彩鹿は逃げるどころか、じっとヴィジを見つめていた。


 ヴィジがゆっくりと首元に触れる。


「……あったかい」


 毛並みは驚くほど柔らかかった。


「うわ、すごい……」


 ウェントも感動したように撫で始める。


 一方で――


「……めっちゃ見られてるんだけど」


 レイだけは、なぜか星彩鹿にじーっと見つめられていた。


「嫌われてるんじゃない?」


 ネリンが笑う。


「なんで俺だけ!?」


 その様子を見て、アートはケラケラと笑った。




 その後も、アート達は探検を続けた。


 しばらく歩き続けると、不意に視界が開けた。


「――着いたよ!」


 アートが両手を広げる。


 その先に広がっていたのは、大きな湖だった。


「……うわぁ……」


 ネリンが思わず声を漏らす。


 湖面は鏡のように澄み渡り、空と森をそのまま映し出している。


 水の中には淡い光がゆらゆらと漂い、まるで星が沈んでいるかのようだった。


 湖の周囲には巨大な木々が立ち並び、その枝葉の隙間から木漏れ日が降り注いでいる。


 静かで、神秘的で――どこか心が落ち着く場所だった。


「すっげぇ……」


 ウェントが感嘆する。


「ここ、本当に現実か?」


 レイも素直に驚いていた。


「ここねぇ、あたしお気に入りなんだ〜」


 アートは嬉しそうに湖の縁へ駆け寄る。


 その後ろ姿を見ながら、ヴィジはふっと息を吐いた。


 ここまで来る途中、アートはずっと楽しそうだった。


 危険な気配もない。ただ純粋に、"みんなと遊びに来た"という感じだ。


「……今日は本当に平和かもな」


「今のところはねぇ」


 ネリンが苦笑する。


 するとアートが振り返った。


「じゃあ、お昼にしよっか!」


「……そういえば、もうそんな時間か」


 ヴィジが空を見上げる。


「でも弁当とか持ってきてないぞ?」


 ウェントが言うと、アートはニヤリと笑った。


「大丈夫!」


 次の瞬間。湖畔の草地に大きなバスケットとシートが現れた。


「「……え?」」」


 5人の声が綺麗に重なる。


「はい、お弁当!」


 アートは得意げに胸を張った。


 バスケットの中には、サンドイッチやスープ、果物、焼き菓子などが綺麗に詰め込まれている。


 しかも湯気まで立っていた。


「いや、待て待て待て」


 レイが頭を抱える。


「そんな事もできるのかよ」


「まぁ、ミルにぃの便利能力だし?」


「やっぱミル様と同じなのか……」


 ヴィジ達は半ば諦めながら、湖畔にシートを敷いて腰を下ろした。


 空気は澄んでいて、水のせせらぎと鳥の声だけが静かに響いている。


「……美味しい」


 フラクタが小さく呟く。


「でしょ? これ、昔ミルにぃと一緒に食べたやつを再現したんだ〜」


 アートは楽しそうにサンドイッチを頬張った。


「ミル様と?」


 ヴィジが聞き返す。


「うん! 昔ね、よくいろんな場所に遊びに行ってたの。ミルにぃ、忙しいくせに、たまに急に『旅に出るぞ』って言い出すから」


「なんか想像つくな……」


 レイが苦笑する。


「その……少し気になったんだけどさ、アートってどうやってミル様と出会ったんだ?」


 そんな中、不意にウェントはアートに質問をした。


 みんなも「確かに、知りたい」と言わんばかりにうなずき、アートは少しだけきょとんとする。


「ん〜……どうだったっけ」


「忘れてるのか?」


「だって、昔すぎるもん。3兆年くらい前の話だよ?」


 アートは湖を見つめながら、少し考える。


「ミル様との出会い……ロマンチックな出会いだったりして!」


 ネリンは、微笑みながらそう口にした。


 それを聞いて、みんなも微笑む。


 しかし、アートの反応は予想外のものだった。


「いや、それだけは絶対になかったと断言できる」


 アートは、いつもと違う声色と表情で語り出す。


「あたしとミルにぃは、ずっと追われてたの。あたしが追われてた理由は忘れたけど……ミルにぃの境遇なら、ヴィジがよく知ってるでしょ」


 アートはそう言うと、ヴィジに視線を向けた。


神系象徴デウスシンボルがないから……迫害されてたのか」


 ヴィジの言葉に、他の4人もハッとする。


 アートとミルの出会いは、想像より残酷であったことに5人は気づいた。


(ミル様にも、僕と同じ過去が……)


 ヴィジは少しだけ思う。ミルとアートの関係は、主従とか家族とか、そういう言葉だけでは表せないのかもしれない、と。


「……意外だね」


 フラクタがぽつりと呟く。


「あんなに強くて陽気なミル様にも、暗い過去があるなんて……」


 その言葉に、4人はうなずく。


「まぁ、めっちゃ昔の話だし、今となってはいい思い出だよ」


 そんな中、みんなのしんみりとした表情を見たアートは、そう笑って見せた。


 その言葉に、みんなも「そうだね」表情を緩ませ、気を取り直してランチタイムを満喫したのだった。




 食事を終えた後、5人はしばらく湖畔で休憩していた。


 湖の水面は静かに揺れ、森を吹き抜ける風が心地いい。


 星彩鹿がいつの間にか戻ってきており、ネリンが嬉しそうに撫でている。


「なんかもう、帰りたくなくなってきたな……」


 ウェントが寝転がりながら呟く。


「わかる」


 ヴィジも空を見上げながら頷いた。


 その時だった。


「あ、そうだ!」


 突然アートが立ち上がり、ニコッと笑った。


「せっかくだし、秘密基地見せてあげる!」


「……秘密基地?」


 レイが眉をひそめる。


「うん!」


 アートは得意げに胸を張った。


「昔、ミルにぃ達と作った場所なんだけどね、めちゃくちゃすごいんだよ!」


 その瞬間、ヴィジ達の脳裏に、嫌な予感がよぎった。


(また普通じゃないやつだ)


 全員が同じことを思った。


 だが、アートはお構いなしに森の奥を指差す。


「こっちこっち!」


 そして、楽しそうに駆け出していく。


 ヴィジ達は顔を見合わせた後、


「……行くか!」


 と、小さくため息をつきながらも、どこか楽しそうな表情でその後を追った。


 任務でもパトロールでもない、ただの遊び。


 まだ、この探検は終わっていなかった。

 

少しでも、


「面白い!」「展開が気になる!」


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〈主な登場人物〉


ヴィジ〈神ノ加護:霊力支配〉:今作の主人公


レイ〈神ノ加護:神線〉:陽気な性格。意外とまじめ。


フラクタ〈神ノ加護:波動〉:穏やかな性格をしている。


ウェント〈神ノ加護:炎魔法〉:優しい性格の持ち主。頭が良く、判断力に優れている。


ネリン〈神ノ加護:サイコキネシス〉:天真爛漫で活発な性格の女の子。頭はあまりよろしくないが、攻撃力はピカイチ。


アート:通称"小さな厄災"と呼ばれる女の子。少女の見た目をしているが年齢は不詳。神話の時代から生きているので、少なくとも"兆"は超えている。性格は無邪気な子供の様。

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