第41話 みんなで任務
アートが来て3日目。パトロールの疲れがまだ抜けきらないまま、プリムンズの5人とアートは、支部の一室に集められていた。
「今日は少し緩めの任務がある」
開口一番、ダクラがそう告げる。
「内容はダンジョン調査。最近、街の外れで古代遺跡が見つかってな」
「ダンジョン……ですか?」
ヴィジが復唱する。
「あぁ。古代の祭壇や神殿の類だ。内部構造は不明、僅かながら魔力の反応も確認されている。こういった未知の機構を調査するのも、我々祓魔師の務めなんだ」
淡々と説明するダクラの横で、
「ダンジョンかぁ〜!」
と、アートが楽しげに声を上げた。
その様子に、5人は一瞬だけ顔を見合わせる。
(……嫌な予感しかしない)
誰も口には出さなかったが、全員同じことを思っていた。
「俺は今回も同行する。昨日の件もあるからな」
ダクラの視線が、ちらりとアートへ向く。
アートは気にした様子もなく、鼻歌を歌っている。
「準備ができ次第出発する。各自、装備を整えろ」
「「了解」」
こうして、プリムンズとアート、そしてダクラの7人は、ダンジョンへ向かうこととなった。
ダンジョンは車では行けないため、ダクラの能力で飛ぶこと数十分。街を抜け、さらに外れへと進んだ先。山岳地帯。
そこには、ひっそりと佇む遺跡があった。
「……これがダンジョンか」
レイが呟く。
入口と思しき、崩れかけた石造りの建造物。蔦が絡みつき、長い年月を感じさせる外観。
一見すれば、ただの廃墟だ。
「外見は普通ですね」
フラクタが淡々と観察する。
「だが油断するな。内部がどうなっているかはわからん」
ダクラは短くそう言うと、入口へと歩き出す。
その背中に続こうとした時――
「……あれ?」
不意に、アートが立ち止まった。
くん、と空気を嗅ぐようにして、遺跡をじっと見つめる。
「どうした?」
ダクラが振り返る。
アートは首をかしげた後、
「あ、ここ――」
ぱっと顔を明るくした。
「知ってる」
「「え?」」
プリムンズの声が、綺麗に揃った。
「……詳しく聞こうか」
低く抑えた声で言うダクラに対し、アートは悪びれる様子もなく笑う。
「うん。前に来たことあるよ」
「このダンジョンは一体何なんだ?」
「それは後でのお楽しみ!」
さらりと言い放たれたその一言に、嫌な予感がさらに一段階強まった。
やがて、
「じゃあ、案内するね!」
と、無邪気な笑顔と共に、アートは迷いなく遺跡の中へと駆け出した。
「あっ、おい待て!!」
ダクラの制止も虚しく、
小さな背中は、暗い入口の奥へと消えていく。
「……行くぞ」
短くそう言い、ダクラも後を追う。
ヴィジ達も顔を見合わせ、覚悟を決めるようにゆっくりとうなずいた。
(……絶対、普通の任務じゃない)
そんな確信と共に、7人はダンジョンの中へと足を踏み入れた。
「……ッ!?」
一歩、足を踏み入れた瞬間。空気が、変わった。
ヴィジは思わず足を止める。
さっきまで見えていた石造りの通路は、どこにもない。
代わりに広がっていたのは――
「な、なんだよこれ……」
レイが呆然と呟く。
そこは、星が瞬く空間だった。
頭上も足元も、壁すらも存在しないかのように、無数の光点が広がっている。まるで宇宙の中に放り出されたかのような錯覚。
だが、確かに足場はある。
透明な床が、淡く光を反射しながら続いていた。
「ダンジョン……って、こういうものなの?」
ネリンが困惑した声を漏らす。
「いや、普通はもっと……こう、石の通路とかだろ……」
ウェントも周囲を見渡しながら答える。
その時、
「こっちだよ〜」
と、先を行くアートが軽い足取りで手を振った。
まるで慣れ親しんだ遊び場のように、迷いなく進んでいく。
「……待て、勝手に動くな」
ダクラが低く制止するが、
「大丈夫だって〜、危ないとこは覚えてるし」
と、振り返りもせずに言う。
「覚えてるって……」
ヴィジは小さく呟きながらも、その後を追う。
他の5人も続き、透明な回廊を進んでいく。
やがて、空間が大きく開けた。
中央には、巨大な螺旋階段。
だがその階段は、上下という概念を無視するかのように、空中をねじれながら伸びている。
「……どうやって登るんだ、これ」
レイが顔を引きつらせる。
「普通に登ればいいよ?」
アートがぴょん、と軽く跳ねて階段へ乗る。
それに続き、ヴィジたちも階段に足をかけると、突然重力が変わった。
「うわっ!?」
ヴィジの体が、ぐいっと引っ張られる。
次の瞬間、足場だったはずの床が"壁"になり、螺旋階段が"地面"になる。
「重力が……切り替わった……?」
フラクタが冷静に分析する。
アートは楽しそうに笑った。
「ほらほら、遅いよ〜!」
そのまま、ぴょんぴょんと階段を登っていく。
ダクラは小さくため息をつくと、
「……ついていくぞ。離れるな」
とだけ言い、先頭を追った。
しばらくして螺旋階段を抜けると、景色が再び変わる。
今度は、石造りの普通の通路だった。
「……戻った?」
ネリンが周囲を見回す。
壁の一部には、星のような文様が埋め込まれ、淡く光っている。
「ここからは普通の迷宮だよ」
アートが振り返って言う。
「たぶん、魔物もいるよ〜」
「たぶんって……」
レイが呆れたように言いかけた、その瞬間、ぞわりと空気が揺れた。
「来るぞ!」
ダクラの声と同時に、影が蠢く。
壁や床から滲み出るようにして、黒い獣のような魔物が姿を現した。
数は、五体。
「β級か……!」
ヴィジは即座に構え、掌にオーラを集中させる。
「よしっ、いくよ!」
「了解!」
ウェントとヴィジが前に出て、ネリンとフラクタ、レイが後方支援に回る。いつもの陣形。
そして、戦闘が始まった。
「いくぞ!」〈雷撃〉
――バリバリ!
レイの一撃が魔物を弾き飛ばし、ウェントが追撃する。
ヴィジは前線でオーラの剣で敵をなぎ倒し、ネリンがそれを補助するように魔物を固定する。
フラクタは戦闘の衝撃を利用して敵を倒し、さらにダンジョンが傷つかないようにカバーしている。
次々に湧き出る魔物に対し、5人は善戦している。
「左、来る!」
「よしきた!」
連携は、完璧だった。
数分後。最後の一体が、ヴィジの一撃によって霧散する。
静寂が戻った。
「ふぅ……」
ウェントが息を吐く。
「この程度なら問題ないな」
レイも肩の力を抜いた。
その後ろで、
「えー、私やりたかったのに〜」
と、アートが不満そうに頬を膨らませていた。
「お前はやらなくていい」
ダクラが即座に切り捨てる。
「えぇ〜……」
アートはぶーぶー文句を言いながらも、すぐに気を取り直したように歩き出す。
「まぁ、仕方ないか……じゃあ次、行こ!」
その背中を見ながら、ヴィジは小さく息を吐いた。
(……やっぱり、おかしい)
道を迷う様子は一切ない。罠も、敵の位置も、まるで最初から知っているかのようだ。
神話の時代から生きているのであれば、古代のダンジョンを実際に知っているのは不思議ではないが、これは"経験者"どころではない。
(まるで――)
そう考えかけて、思考を止める。
「……行くぞ」
ダクラの声に、全員がうなずく。
そして一行は、さらに奥へと進んでいった。
どれほど進んだだろうか。いくつもの通路と空間を抜けた先で、巨大な扉を開けると、不意に視界が開けた。
「……ここが、最奥……?」
ネリンが息を呑む。
そこは、これまでとは明らかに違う空間だった。
円形に広がる広大な部屋。天井は見えず、まるで夜空のように無数の光が瞬いている。
その中心には、古代の祭壇。
「……祭壇か」
ダクラが静かに呟く。
床には幾何学的な紋様が浮かび、電子回路のような光が走っている。
そして、一段高くなった台座。その上に、淡い光を放ちながら浮かんでいるものがあった。
透き通るような結晶でできた、細長い物体。
ゆっくりと回転しながら、静かに脈打っている。
「……なんだ、あれ」
レイが警戒した声を出す。
「触っていいやつなのか……?」
ウェントも慎重に距離を保つ。
だが、その時。
「それ、鍵だよ」
アートが、あっさりと言った。
「鍵?」
「うん。あれ取らないと先行けない」
そう言うと、アートは躊躇なく祭壇へ向かって歩き出す。
「待て、アート! それには何重もの防衛術式がかかっているぞ!」
ダクラが制止するが、
「大丈夫だって〜」
と、軽く手を振るだけ。
そして、そのままひょいと鍵を掴んだ。
同時に、空間に微かな振動が走る。
「……ッ!」
ヴィジたちは一斉に構える。
だが、何も起きない。
――ゴゴゴゴ……
やがて低い音と共に、壁の一部が動く。
現れたのは、巨大な扉だった。
高さも幅も、これまで見たどの扉よりも大きい。
「……あれが、本命か」
ダクラが目を細める。
「うん」
アートは鍵をくるくると回しながら、無邪気に笑った。
「じゃあ、開けよっか」
「いや軽いな!? 本当に大丈夫なのか!?」
思わずウェントがツッコむ。
だが、アートは気にせず扉の前へ立つと、鍵をすっと差し込んだ。
――ギィン!
扉に光が走る。
次の瞬間、
――ゴゴゴゴ……
と、重厚な音を響かせながら、扉がゆっくりと開いていく。
中から、光が溢れた。
「……っ!?」
思わず目を細める。
そして、完全に扉が開いた時――
「……うわ」
ヴィジの口から、思わず声が漏れた。
そこは、宝の山だった。
床一面に積み上がる金貨。宝石。武具。魔導書。
棚や台座には、見たこともないような装備が整然と並んでいる。
どれもこれも、ただの品ではない。
放たれる気配だけで、"格"が違うとわかる。
「な、なんだこれ……」
「規模、おかしくない……?」
ネリンとフラクタも言葉を失う。
ダクラでさえ、わずかに眉をひそめた。
「……これは……」
その時。
「ここね、金庫だよ」
アートが、あっけらかんと言った。
「「は?」」」
全員の声が揃う。
「ミルにぃと、ラプねぇが作ったやつ」
「……ラプねぇ?」
ヴィジが聞き返す。
「うん。地界第五階層の大君主。ミルにぃの友達」
さらっと、とんでもない情報が出てきた。
「……待て」
ダクラが低く言う。
「つまりここは――」
「ただのダンジョンじゃなくて、宝物庫だよ!」
アートは笑った。
「昔、ミルにぃが面白がって作ったんけど、あんまり使ってなかったから放置してたの。あたしも作るの手伝ったんだけど、ほとんど遊んでたんだよねぇ」
「放置ってレベルじゃねぇだろ……」
レイが頭を抱える。
ヴィジは、ゆっくりと宝の山を見渡す。
(……これ、一つでも持ち出したら大騒ぎになるレベルじゃないか?)
「もっと早く言えよな……」
ダクラがため息をつく。アートは頬を膨らませた。
「だって、驚かせたかったんだもん」
それを見て、ダクラは少し考えた後、そっとアートの頭をなでた。
「いや、とっても驚いたぞ。ミル様からそんな話、聞いたことないからな」
その声には、昨夜ミルから言われた思いが籠っていた。
アートはそれを聞いて、ニコッと笑う。
「では帰還するぞ。調査報告は……いらんだろ」
そしてダクラはそう指示をすると、踵を返した。
「はーい!」
アートが元気よく返事をする。
こうして、予想外すぎるダンジョン調査は幕を閉じた。
帰路につく7人。その背後で、巨大な扉が静かに閉じていく。
まるで、何事もなかったかのように。
(……なんか、とんでもない任務だったな)
ヴィジは苦笑しながら、空を見上げる。アートは、その隣で楽しそうに歩いていた。
まるで、ただの遠足の帰り道のように。
少しでも、
「面白い!」「展開が気になる!」
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〈主な登場人物〉
ヴィジ〈神ノ加護:霊力支配〉:今作の主人公
レイ〈神ノ加護:神線〉:陽気な性格。意外とまじめ。
フラクタ〈神ノ加護:波動〉:穏やかな性格をしている。
ウェント〈神ノ加護:炎魔法〉:優しい性格の持ち主。頭が良く、判断力に優れている。
ネリン〈神ノ加護:サイコキネシス〉:天真爛漫で活発な性格の女の子。頭はあまりよろしくないが、攻撃力はピカイチ。
ダクラ:大君主の側近、主の称号を持つ。真面目な性格。
アート:通称"小さな厄災"と呼ばれる女の子。少女の見た目をしているが年齢は不詳。神話の時代から生きているので、少なくとも"兆"は超えている。性格は無邪気な子供の様。




