第4話 初任務
初任務の日。
「今日はヴィジの初任務だ。こいつらも一応実戦経験は先輩だから、分からないことは聞け。」
「わかりました。」
早朝から任務に向けて出発準備をしている。
「そしてお前たちもまだ初心者だから、分からないことは俺に聞くように。」
「「「「はい。」」」」
「よし。今日の任務は、先日行方不明者が出たと言われる山の調査と、原因の対処だ。
普通は警察などの仕事ではあるんだが、怪奇事件として調査する場合、祓魔師が出動することになる。
行方不明者は既に警察によって保護されているため、ここからの操作は我々祓魔師の専門となる。
今回はメンバーでの初任務ということで、少し軽めのやつだ。だが、油断はするなよ。」
任務の内容を伝えると、みんなは例の山に歩きで向かった。
「ただの行方不明ってことは無いんですか?」
向かっている途中レイが質問する。
「事件が起きる前日、山から微弱な神力を観測した。
神力は能力を使わなくても、常にオーラとして漏れ出ている。ちょうどヴィジの能力みたいに。
だから今回の任務で、相手の神力から気配を察知する『気配感知』と自分の気配をけす『天賦力制御』を覚えてもらう。」
それを聞いたヴィジは仲間を殺した男のことを思い出した。
(あいつらもオーラを纏っていたな。気配を察知されたのもそのせいか。見た目からして祓魔師ではなく警察のようだったけど。)
「ヴィジは必殺技なんかも考えようぜ。昨日夜通しでいくつか技を作ったんだし。」
「ほぉ。2日目にして夜更かしとはいい度胸じゃねぇか。」
「やっべぇ。」
「...まっ、他の軍だったら大変だったな。うちの軍は緩いから、まぁ気にするな。」
レイはホッと胸を撫で下ろす。
「初任務が終わったら、祝いとしてどこかに食べに行きましょ。」
「緩すぎるのも良くないぞ、ネリン。」
「もちろんダクラ様持ちですよ。」
「ちっ。あのお気楽野郎に、倍に請求してやる。」
「え、それってミル様のことですか?」
和気あいあいとしていると山に到着した。
「ここがその山だ。今から山に入るが、その前に天賦力制御をしろ。」
「どうやるんですか?」
「力が溢れないように抑えるイメージだ。」
「アタシも上手く出来ないけど、トイレを我慢する感じだよ。」
「ネリン、もっとマシな例えをしてよ。」
ネリンの発言に、ウェントかハァっと頭を抱える。
(力を抑える...イメージ。)
言われた通り集中すると、ヴィジのオーラがだんだん消えていった。
「完全に消し去るのは並の実力者でも難しいから、今の感じで大丈夫だ。それを今回の任務中継続すること。」
「途中で暴発しそうだなぁ。」
みんなは不安を抱えながら山に入っていった。
調査を始めてしばらくすると、異様な雰囲気が漂い始めた。
「うーん。この気配は魔物かな?」
「魔物って?」
「実はバグというのは総称で、様々な種類が存在するんだ。グリッチとか幽霊とかな。
魔物っていうのは『魔力』によって形成された幽霊の動物版。また、ウイルスというバグの一種に感染した動物のことだ。
ちなみに魔力や神力の違いは、電磁波が波長によって性質が変わるように、プログラムコードの『純度』によるもので、本質は同じものだ」
ダクラは立体映像を見せながら説明する。
「恐ろしいわね。」
「まぁ、天者や地者はだいたい耐性を持ってるから大丈夫だけど。
耐性を持ってないものは取り憑かれてバグ化したりするから大変だな。」
「それで、今回のは魔物なんですよね。」
「そうだ。魔物は魔力を持っているわけだから、強い個体は魔術などを使ってくる。今回の敵は幻術を使ってるな。道に迷わせ、巣へと誘い込むのか。」
「だから行方不明になってたのかぁ。」
「レイ、ヴィジ、フラクタ、お前達3人で討伐してこい。」
「さ、3人でですか!?」
ヴィジは突然のダクラの言葉に驚いた。
「お前達はチーム以前にトリオだからな。まぁ心配するな、下手な幻術は気配感知で敵を見つけることができる。
気配感知はその名の通り、気配に集中するんだ。」
3人はしぶしぶ山の奥へ進んで行った。
山の奥は霧に包まれたような雰囲気だ。
「不気味な雰囲気だぜ。」
「幻術って怖いなぁ。神力を制御してるとはいえ、すぐ見つかってしまいそうだ。」
そう考えてると、突如後ろから殺気を感じた。その瞬間、
「ピャャャャャ!」
と言う鳴き声とともに、巨大な鳥のような魔物が2体襲いかかってきた。
「幻術関係ないじゃん!物理攻撃かよ!」
レイは慌てて攻撃を避けた。
しかし、鳥は勢いを落とすことなくどんどん襲いかかってくる。
「まずいっ、回避だけじゃ間に合わない。防御!」
ヴィジは一か八か、ドーム状のオーラのシールドを張った。すると、鳥の攻撃はキンッと弾かれた。
「即興で何とかできた。次は攻撃を打ち込む。みんな!」
「了解!」
「任せて!」
弾かれた鳥が再び攻撃に迫ってきた。
「今だ。くらえ!」〈雷撃〉
レイの鋭い雷のビームで魔物を1体倒した。
「それ!」〈共鳴波〉
「ナイス、フラクタさん!よしっそこだ!」〈霊力破壊〉
フラクタが魔物を麻痺させ、ヴィジのとてつもない爆発と共にもう一体の魔物も消し飛ばした。
「やはりアイツらのポテンシャルは凄まじいな。」
と、遠くから観察していたダクラが呟いた。
「...少し力入りすぎちゃったかな。」
見るとヴィジの目の前には巨大なクレーターができていた。
「はぁ、怖かった。」
みんなと合流すると、ヴィジはそうため息を漏らした。
他の2人も疲れた様子。
「よくやったな。今日の任務は終了だ。帰るぞ。」
その日の任務を終え、みんなは寮へと向かった。
「アタシ達何もしてないけど、ヴィジくん達の入隊記念も兼ねてパーティーしましょ。」
「俺は遠慮しとくぞ。主ってそんな暇じゃないんだから。」
「でも朝は行こうとしてましたよね。ミル様に請求するとか何とか。」
「ほぉぉぉ...お守りも仕事。お守りも仕事。頑張れ俺。」
ダクラはミルから下級組の世話を任されていた。慣れないお守りにかなり疲弊しているようだ。
「だ、ダクラ様って苦労人なんですね。」
「厳格なイメージが崩れて来てるな。」
「別に俺も過度な上下関係は嫌いだから、崩れてくれた方がありがたいが。変な遠慮は要らないよ。」
「でも、無理はしなくてもよろしいんですよ。」
フラクタは少し遠慮してそういった。
「フラクタちゃん、大丈夫よ。」
「お前は少し遠慮しろ!」
「はーぁい。」
「はぁぁ。じゃあ俺は午後の任務もあるから、夕方くらいに寮の玄関前集合な。」
「わかりました。」
「やったー。」
夕方になり、出かける準備を終えると玄関前に集まって、祓魔師専用の貸切った宴会場に向かった。
「今日はどっと疲れたぜ。」
ダクラがため息をつく。
「では、チーム初任務完了という事で、乾杯。」
「「「「「カンパーイ!」」」」」
みんなは初任務の事などを話ながら食事を始めた。
「あぁ、そうだ。」
しばらくすると、ダクラが改まって話し始めた。
「今度の親善大会なんだが、1対1トーナメントの出場選手は、うちの軍からはヴィジを出そうと思う。」
「えっ!?僕ですか!?」
ヴィジはその提案に、思わず大きな声を出してしまった。
「アタシもそれがいいと思うわ。」
「僕も、ヴィジくんなら大丈夫だと思うよ。」
「俺も。」
「私もそう思うわ。」
「で、でも僕はまだ初心者で...」
「心配するな。親善大会は交流のための大会だ。勝ち負けにこだわることはない。
それにお前は負けない。今まで見たきたどんなやつより、才能がある。自信を持て。
もちろん稽古はつけてやる。」
「...わかりました。みんなの期待に応えるよう頑張ります!」
ヴィジは根負けして、提案を受け入れた。
「よしっ。バトルロワイヤルは君たち5人で。」
「え〜。」
「お前らは俺に苦労かけたんだから、このくらいの頼みは聞けよ。」
「俺らは全然大丈夫だぜ。」
「わかったよぉ。」
「決まりだな。」
ネリンは不満がっていたが、他はやる気満々だ。
「そういえば、親善大会の特訓はミル様もしてくれるってよ。」
「そ、そうなんですか!?」
「うん。『あいつらを親善大会に出すんだろ?だったら俺が鍛えてやろう。』って張り切ってたぞ。」
「ミル様直々に教われるなんて、光栄です。」
「そうだな、ミル様の軍は、皆ミル様に忠誠を誓ってる。俺たちにとっては命の恩人だからな。」
「僕も、ミル様のご尊顔を拝見したかったのでぇ...」
「アタシもー!エヘヘヘヘ。」
2人の顔がイッている。
「やばい宗教だな。アホな神の信者もアホか。」
「ネリンとウェントは尊敬の方向性が違うような...」
その後もどんちゃん騒ぎで、互いの親睦を深めあった。
ダクラが次の日休みを取ったのは言うまでもない。
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〈主な登場人物〉
ヴィジ〈神ノ加護:霊力支配〉:今作の主人公
レイ〈神ノ加護:神線〉:陽気な性格。意外とまじめ。
フラクタ〈神ノ加護:波動〉:穏やかな性格をしている。
ウェント〈神ノ加護:炎魔法〉:優しい性格の持ち主。頭が良く、判断力に優れている。
ネリン〈神ノ加護:サイコキネシス〉:天真爛漫で活発な性格の女の子。頭はあまりよろしくないが、攻撃力はピカイチ。
ダクラ:大君主の側近、主の称号を持つ。真面目な性格。
ミル:常世零階層を統べる大君主。厨二病でお調子者。とても寛大。




