第3話 この世界とは
入隊2日目。ヴィジ達トリオは、ダクラ部隊の支部の教室で座学を受けていた。
「今日は昨日言っていたように、この世界の事について、説明しようと思う。前の資料を見ながら聞いてくれ。」
そう言うとダクラはプレゼンを始めた。
「まず世界の構成について。この世界は階層のように、幾つもの世界が折り重なって出来ている――。」
【資料1】
〈〈世界階層構造〉〉
1、〈宇宙〉:最小単位の世界で、数多の種類が存在する。
2、〈多元宇宙〉:宇宙の集まり。宇宙団とも言う。一纏まりの数は数百~無限。
3、〈高多元宇宙〉:多元宇宙の集まり。
4、〈超高多元宇宙〉:高多元宇宙の集まり。
5、〈極高多元宇宙〉:超高多元宇宙の集まり。
6、〈並行分岐宇宙〉:宇宙1つひとつに存在する、無限に分岐した全ての並行世界を内包する構造。
7、〈全次元宇宙〉:全ての次元の並行分岐宇宙を内包する構造。
8、〈仮想宇宙〉:宇宙にいる1つひとつの生命の思考、想像、妄想などを具現化、実現、また想像不可能な事象も内包する構造。架空宇宙とも言う。
9、〈外宇宙〉:概念の存在しない暗闇。全ての外側。
10、〈全越宇宙〉:形而下、形而上、概念、非概念、内包可能な事象、不可能な事象など、文字通り全てを内包する構造。構造の最終形態。
11、〈高外宇宙〉:全越宇宙の外側。
12、〈天越宇宙〉:我々の住む神の世界。全てを超越した原初の世界。楽園宇宙、単に楽園とも言う。
「今知られているのは、この辺までだな。仮想宇宙は人気の観光スポットでもあるぞ。ゲームやアニメ好きにはたまらん場所だからな。」
ダクラは資料を指しながら説明する。空中にホログラムを浮かべ、視覚的に階層構造を映し出している。
「常識だね。」
「僕は知らなかったよ。僕たちって結構すごい存在なんだね。」
ヴィジは驚きながら必死にノートを書いている。
「そうだな。宇宙と生活感はあまり変わらないが、俺たちは世界の管理者でもある。
祓魔師の仕事はバグの対処だけではなく、全越宇宙の管理もしなければいけない。
――だが、これだけではないんだ。」
ダクラが急に真剣な顔になった。
「伝説でしかないが、実は天越宇宙の更に上もあると考えられている――。」
「その話、都市伝説で聞いたことがあります!下々の世界が祓魔師によって管理されているように、天越宇宙の『原初の存在』も創造神の娯楽によるもので、そのプログラムの不具合こそバグの正体だと。」
「シミュレーション仮説ね。宇宙でも『怨霊』とか『前世の記憶』とか『タイムスリップ』みたいに似たような現象があるものね。それも全部システムの不具合によるものだし...」
レイとフラクタは都市伝説の話で盛り上がっている。
「まぁ、詳しい話は未だ研究されているが、おそらく大君主は何か知っていると俺は思っている。」
「何故そう思うんですか?」
「...勘だよ。それより次は歴史だな。」
【資料2 】
〈〈時代〉〉
1、〈原初の時代〉:全ての始まり。
2、〈創造の時代〉:宇宙、構造などの世界、全てが創られた時代。
3、〈神話の時代〉:最初の人類が誕生し、国家などが創られた時代。
4、〈革命の時代〉:大きな革命が起きた時代。
5、〈新星の時代〉:革命後の新たな時代。現代。
「ミル様が新たに大君主になって革命の時代に入ったんだ。他はあまり覚える必要もないな。」
「ミル様ってそんな昔からいるんですね。」
ヴィジは初めて知ることだらけで、興味津々だ。
「あぁ、詳しい年代は知らないけどな。最後は祓魔師についてだ――。」
【資料3】
〈〈祓魔師の階級制度〉〉
〈〈下位三階級〉〉
1、〈称号なし〉:1番下の階級。
2、〈大〉:称号なしのまとめ役。
3、〈権〉:部隊の統率する隊長。
〈〈上位三階級〉〉
4、〈能〉:能力や技術に長けた者。
5、〈力〉:攻撃や防御など、戦闘に特化した者。
6、〈主〉:全ての部隊を統率する大隊長。
〈〈特別階級〉〉
7、〈大君主〉:祓魔師のリーダー。軍の総帥。
「お前たちはまだ称号なしだな。だいたい理解出来ただろ。質問は受け付けるぞ。」
「はい。」
「なんだヴィジ。」
「1つの軍につきだいたい何部隊くらいあるんですか?また人数はどのくらいですか?」
「そうだな。うちの部隊は10部隊程だが、他は平均30部隊くらいだ。人数は少なくて、うちは約5000、他は約20000人程だな。」
「階層ごとの人口から見てもかなり小人数ですね。人口が1番少ない零階層ですら500億人はいますから。」
フラクタも口を挟む。ヴィジは納得した様子でうなずいた。
「他に質問あるか?もっと砕けた質問でもいいぞ。」
「はい!神ノ加護はなんですか!」
「教えん。」
ダクラは座学を続けた。
「よしっ、座学は終わりだ。明日は初任務に行ってもらうから、寮に戻って準備をしろ。」
そう言われて、3人は寮に戻った。
「おかえり。」
「帰ってきた!」
帰ると、昨日仲良くなったネリンとウェントが出迎えてくれた。
ウェントはヴィジとレイ、ネリンはフラクタのルームメイトだ。
「昨日はほぼ挨拶しかしてないから、今日はたくさんお話しよう。」
5人で晩ご飯を食べながら話をした。
「ヴィジくんはミル様と同じで象徴がないんでしょ。アタシ興味あるわ。」
「最上位部隊のネリンちゃん達でもミル様を見た事が無いの?」
「写真くらいは見た事あるけど、僕たち下級の隊士が会えるような方じゃないからね。せめて『権』以上の称号持ってないと。」
「超精鋭部隊って下級隊士でも入れるんだな。」
「見習いみたいなものさ。階級ってそんな直ぐに上がるものじゃないし、素質があったら上位の部隊に派遣されるんだ。
僕やネリンも元々別の部隊から来たし、下級の隊士は僕たち5人だけだよ。」
3人はそうなんだとうなずく。
「君たちはミル様を見たことがあるんだってね。羨ましいよ。どんな人だったの?」
「うーん。髪が白くて、背が高くて、すごく顔が整ってた。まさに天者って感じで。」
「へぇ〜。あんた達ラッキーね。」
2人はその後も質問を続けた。
ご飯を食べ終わると部屋に戻った。
そして女子が男子の部屋に集まり、明日の任務の話を始めた。
「明日の任務、この5人で行くらしいわよ。」
「そうなのか。」
「そうなのよ。新人トリオと派遣されたアタシたち下級隊士に実戦経験を積ませるって。」
「ふーん。ところで2人の能力ってなんだ?」
レイが能力について質問した。
「そういえば言ってなかったわね。アタシの神ノ加護は『サイコキネシス』。文字通り念動力でものを操る能力よ。」
と、ネリンはコップを浮かせて見せ、
「僕の神ノ加護は『炎魔法』と言う炎系の魔法さ。」
と、ウェントは指先から炎を出して見せた。
「2人とも強そうな能力ね。」
「あなた達はどうなの?」
3人もそれぞれ自分の能力を紹介した。
そして、色々な話をし始める。
「3人ともなかなか面白そうな能力だね。拡張性もある。親善大会に出場できるかも知れないね。」
「親善大会?」
「4年に1度開かれる祓魔師総合親善大会のことで、常世全階層の祓魔師が実力を試し合うんだ。
目玉は同じ階級同士での一騎打ちトーナメント。試合は下位三階級のうち、『大』と称号なしの者のみ出場可能。
上位の階級が出れないのは、規模が大きすぎるから、底を見せないため、など様々な理由があるらしい。」
「不定期に大君主親善試合というのもあるらしいけど、神話の時代以降やってないらしいな。」
「そんなものがあるんだ。」
「生配信で見なかったの?ちなみに親善大会は今年で、約1ヶ月後だ。」
「ヴィジはちょっとした事情で、あまり世間に詳しくないんだ。」
「そうなんだ。ヴィジくん達のこともっと知りたいな。」
その後も祓魔師になる前の話や、ミル様が愉快な人だったことなど、色々な話をした。
「そうだ。消灯時間までまだ時間があるし、寮の外にある湖まで散歩しない?」
解散する間際、ネリンがそう提案した。
「近くに湖があるの?」
「寮の敷地は意外と広くて、自然豊かなの。その湖は『星の湖』と呼ばれている人気スポットなのよ。」
誘いを受け、5人は湖へと向かった。
「夜はバグが活性化するって聞いたけど、大丈夫かな。」
「祓魔師の拠点は結界が張られているから安心よ。」
「そうなんだ。」
歩いていると、森の向こうに大きな湖が見えてきた。
「これが...星の湖。」
天に輝く星々が水面に反射して、とても幻想的な空間が広がっていた。
森の木々も月灯りに照らされて、キラキラしている。
「すっげー。」
「すごく綺麗だわ。」
5人はその美しさに目を奪われた。
「この世界の星は私たちに命を与える神の光。『太陽』と『月』の欠片なんだ。
階層を、常世と現世をまたぎ、世界に光と闇をもたらす創造と破壊のオブジェクト――。
そういう言い伝えがあるわ。」
上を見ると、大きな満月が煌々と輝いていた。
「今日は満月だったから、来たかったのよね。」
「とっても綺麗だよ。連れて来てくれてありがとう。」
「こちらこそ。みんなで明日がんばろうね!」
「そうだな。」
しばらく湖と星空を堪能したあと、寮に戻った。
「あぁ、綺麗だった。」
「そろそろ消灯時間だし、部屋に戻ろう。」
「明日から忙しくなるなぁ。」
そう言いながら、今日は解散した。
――ヴィジ達は部屋に戻っても話を続け、その日は夜更かしするのだった。
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〈主な登場人物〉
ヴィジ〈神ノ加護:霊力支配〉:今作の主人公
レイ〈神ノ加護:神線〉:陽気な性格。意外とまじめ。
フラクタ〈神ノ加護:波動〉:穏やかな性格をしている。
ウェント〈神ノ加護:炎魔法〉:優しい性格の持ち主。頭が良く、判断力に優れている。
ネリン〈神ノ加護:サイコキネシス〉:天真爛漫で活発な性格の女の子。頭はあまりよろしくないが、攻撃力はピカイチ。ボブのピンク髪。
ダクラ:大君主の側近、主の称号を持つ。真面目な性格。
ミル:常世零階層を統べる大君主。厨二病でお調子者。とても寛大。




