第2話 ミル様
3人はミルのもとへ向かった。人気のない切り立った崖の上に巨大な城がある。
まさにお化け屋敷のような雰囲気だ。
「おい、下級の隊士が何故ここにいる?そいつは誰だ。」
長い城の階段を上って門の前まで行くと、さっそく門番に呼び止められた。
「じ、実は会わせたい人がいて...」
「ミル様は暇では無いんだぞ。そんな勝手に客人を連れてきても――。」
「良い。」
一瞬禍々しい雰囲気がして、その場にいるみんながゾッとした。前を見てみると、そこには白い髪の美青年が立っていた。
白装束の様な服に内が白、外が黒のマントを纏っていて、背中にでっかいゼロをモチーフにしたマークが描かれている。目は緑とピンクの綺麗なオッドアイで、不思議な雰囲気だ。
年は少し年上くらいに感じた。
「み、ミル様!」
その姿を見るや否や全員が跪く。ヴィジも遅れて跪いた。
「お前たちは?」
「初めてお目にかかります。私はレイと申します。」
「フラクタと申します。」
会ったことなかったんかい!と、ヴィジは心の中でツッコんだ。
「僕はヴィジと言います。」
「ヴィジか...俺に似ているな...
よしっ!レイ、フラクタ。スカウトしてきたお前たちはヴィジとトリオを組め。」
「「!?...承知しました。」」
ミルの急な命令に、レイとフラクタは少し驚くも、すぐに承諾した。
「トリオ?」
「一緒に任務などをこなすチームみたいなものさ。」
「ふーん...」
「そして...おい、ダクラ!いるか?」
ミルがそういうと、
「はい、ここに。」
と、どこからともなく一人の男が現れた。白い隊服に並々ならぬオーラ。まさに強者の風格がある。
ミルよりは大人びていると感じた。
「この3人をお前の部隊に加える。本部を案内してやれ。」
「はい。」
「だ、ダクラ様の部隊に!?」
「なんで!?」
急な展開に動揺する2人。
「ダクラ様って?」
ヴィジが質問をする。
「ミル様の側近で祓魔師の中でも2番目の権力者、『主』の称号を持つお方よ。」
「ミル様が言ったことだ。大人しく着いてこい。」
ダクラがそういうと、本部の周辺を案内し始めた。
「はぁ、だりー。面倒押し付けやがって。」
しばらくすると、ダクラは愚痴をもらし始めた。
「「え?」」
「あぁ、3人もミル様にそこまでかしこまらなくていいからな。
お前らはまだ入って間もないから知らないかもしれないが、ミル様は上下関係を嫌っている。
普通に温厚でお調子者だから、別に怖がる必要も無い。」
「そうなんですか?大君主はもっと恐ろしい存在だと思っていましたが...」
「温厚な大君主は割といるぞ。」
「なるほどー。てかそんなことより、2人は新人なの?」
「あぁ、さっきのがデビュー戦だ。」
初めてなのかよ!と、心の中でツッコんだ。
そして、
「そ、そうなんだ...あっ、話変わるけど、ミル様は僕と同じだって聞いてここに連れてきたんでしょ。実際はどんな人なの?」
と、2人に会ってから、ずっと疑問に思っていたヴィジが質問をした。
「あぁ、それはな、俺も詳しくは知らないんだが...」
それを聞いて、ダクラがゆっくりと話を始める。
「はるか昔、神話の時代の終わり頃、ミル様は突如として天界に現れた。
人々は、ミル様を人に近いバグだとみなし、追放しようとした。そしてある大事件が起きたんだ。
内容は詳しく知らないが、それがきっかけで、その存在は常世にいる14人の大君主の耳に入り、大君主たちの裁判にかけられた――。」
「そんなことが...」
レイ達もこのことは知らないようだ。
「そして、ミル様は天界と地界の狭間にある大量のバグが存在するバグの温床。通称『システムの墓場』へ追放された。
その場所はバグの影響で空間も何もかも歪んでおり、祓魔師達も対処出来なかった。追放されたミル様を見せしめとして、その映像を常世全体に中継した。
誰もが死んだと思った。
だがミル様がその地に降り立つや否や、中継が途切れた。それと同時に恐ろしいほどの神力を各地で観測した。
映像が復活するとそこは何もかも消えていた。虚無だった。
その圧倒的な力は最強の支配者、大君主に匹敵すると言われ、彼は15人目の大君主となり、かつてシステムの墓場だった場所が支配地として与えられた...と言う神話がある。」
「そう、それがミル様。私達が言った救われたというのは、このバグの温床の影響を受けなくなったこと。」
「天界と地界はそれぞれ七階層あり、天界第一階層と地界第一階層は特にバグの被害に悩まされていたんだよ。俺もフラクタも、天界第一階層の家系出身で幼なじみなんだ。」
「そういう事だったのかぁ。」
ヴィジは話を聞いて、納得したようにそう言った。
「一階層につき1人の大君主がその階層全体を治めている。
ミル様の階層は常世零階層と呼ばれ、今や多くの移住者で溢れかえっている平和な階層だ。」
その後も祓魔師の話と、本部の案内を続けた――。
「その〜、僕が化け物を倒した時のあれは何なんでしょうか...」
しばらく歩いていると、ヴィジがダクラに質問をした。
「ふむ。そうだなぁ...まずは能力の把握をしないとな。」
それに対しダクラは説明を始める。
「まずは天地者。つまり選ばれた者だけに与えられる力を『神ノ加護』といい、1人につき1種類の特殊能力を持つことが可能だ。
神ノ加護は人々が持っている『天賦力』と呼ばれる力を使って発動する。天賦力は主に『神力』や『魔力』、『霊力』に分類され、そのうちの『神力』か『魔力』を使うんだ。
天賦力体力のように切れると力を使えなくなるし、自然回復もする。」
「神ノ加護って、普通は成長と共に自覚するもんなんだけどな。死に直面したことで、覚醒したのか。」
「確かに、今まで追っ手から逃げるとき、身体能力が高くなってた気がする。一度も捕まったことが無いし。」
「その兆候はあったということか...ちょっと見せてみろ。」
「わかりました。」
ヴィジは手を前に出した。すると身体からオーラのようなモヤが溢れてきた。赤、黄、緑...様々な色が混ざりあったオーラはまさに芸術の様だった。
「うーん...見たことない能力だなぁ。神ノ加護を扱うには能力を理解しイメージすることが重要だ。それで何ができる?」
「えぇ〜と〜、あの時みたいに爆発を起こしたりできそうですね。」
「オーラを操る能力と言ったところか?まぁ、時期に理解できるだろう。」
ダクラは静かに笑みを浮かべた。それを見て、ヴィジも少し嬉しい気持ちになった。
「それはそうと、能力名は何にするんだ。」
「能力名?」
「能力には呼び名があった方がいいだろう。能力名は、魔法系や相伝以外は基本的に個人で名付けるもんだ。」
ダクラがそう説明すると、レイとフラクタが、
「ちなみに俺の神ノ加護は『神線』。強力なビームを打てる。風や水、炎なんかも打てるぞ。」
「私の神ノ加護は『波動』。あらゆる『波』を操る能力よ。」
と、自身の能力について説明した。
「能力名か...オーラを操る能力だから、かっこよく『霊力支配』。なんてどうかな?」
「かっけぇじゃん。」
「私も素敵な能力名だと思うわ。」
「決まりだな。」
そう言うと、また案内を始めた。
いよいよ最後の案内場所へたどり着いた。
「疲れた〜。この本部広すぎるよ〜。」
「だね〜。」
すっかり日も落ちて、3人はかなり疲弊している。
「一応ここで最後かな。」
そこには巨大な扉があった。
「ここは?」
「ミル様の部屋。いわゆる王室みたいなものだ。」
「勝手に入っていいんですか?」
「いい。」
ダクラは失礼しますと、扉を開けた。
ギギッという音と共に扉が開いた。そこには白と黒の色調の立派な玉座があり、まるで昼と夜の狭間のような空間が限りなく広がっていた。
星々も輝いている。
玉座にはミルがまるで魔王のような格好で座っており、
「よく来たな。実に素晴らしい空間だろう。」
と、魔王口調で出迎えた。
「ここがミル様の部屋...」
「ミル様は厨二病を拗らせている。」
ダクラが口を開いた。
「お堅い君にこの良さは伝わらないさ。この神王と魔王の間が融合したような神秘的空間。
まさに天界と地界の狭間の管理者と言った感じだ。」
「わかったか。ミル様はこんな人だ。尊敬するに値しない。」
「偉大なる大君主をこんな人呼ばわりとは。」
「み、ミル様って結構愉快なんですね...」
そんな2人の会話を聞いて、3人は唖然とした。
「大君主は寛大なんだよ。一部を除いて(小声)。
階層の支配者という肩書きで、階層内にある各国の支配者である神王や魔王、上級貴族のように独裁的で恐ろしい存在だと思われがちだけど、そんなことは無い。」
「大君主は階層内の支配者達をも支配しているからな。勘違いするのも無理はない。」
「へぇー、僕の知らない事ばかりですね。」
「ヴィジくんはまだよくわかってないもんね。」
「まぁ、そのことは後日説明する。」
「ダクラ、こいつらを隊の寮に連れて行け。お前たちも、今日からそこが新しい家だ。」
「「「ありがとうございます!」」」
そうして4人は寮へと向かった。
「初めまして。今日、部隊に配属されたヴィジと申します。よろしくお願いします。」
寮に着いて、隊員達に自己紹介をしていた。
「初めまして。同じくレイと申します。」
「初めまして。同じくフラクタと申します。」
「ミル様の軍はそこまで堅苦しくなくても大丈夫だからな。みんなも仲良くしてやってくれ。今日は遅いから馴れ合いは明日にしろ。」
ダクラの部隊は約30人程しかいない。超少数精鋭部隊らしい。
寮のみんなとも仲良くなり、楽しく過酷な日々が始まるのだった――。
少しでも、
「面白い!」「展開が気になる!」
と思ったら、ぜひ☆☆☆☆☆評価、感想で応援お願いします。
ブックマークがいただけると、大変励みになります。
〈主な登場人物〉
ヴィジ〈神ノ加護:霊力支配〉:今作の主人公
レイ〈神ノ加護:神線〉:陽気な性格。意外とまじめ。
フラクタ〈神ノ加護:波動〉:穏やかな性格をしている。
ダクラ:大君主の側近、主の称号を持つ。真面目な性格。とても紳士な見た目をしている。人間で言う25歳くらいの見た目。実年齢は3億歳超え。
ミル:常世零階層を統べる大君主。厨二病でお調子者。とても寛大。白髪、高身長、右目が緑、左目がピンク色のオッドアイでアースアイ。人間で言う19歳くらいの見た目。実年齢不明だが、神話の時代から生きてるため少なくとも100億歳以上。




