第12話 戦争意志『アレス』
謎の地震と共にみんなに送られてきた内容。それはとても恐ろしいものだった。
内容は次の通りだ。
【緊急事態発生について】
現在、11時23分頃に「戦争意志『アレス』」の発生を確認しました。場所は獣人国のべスティア王国と隣国の聖人国、サンルミナス王国との国境付近。
原因は現在行われている領土を巡った大規模な戦争によるものと推測されます。手の空いている隊士は直ちに現場へ急行してください。
ただし、アレスの階級は少なくともΦ級です。アレスから小さな戦争意志『軍神』が生成される恐れもあるため警戒を怠らないように。
「なんで、今になって戦争意志が...」
「戦s...」
「考えたくもねぇ。戦争意志っつうのは簡単に言えば、戦争の時に溢れる『負の念』によって発生する幽霊の1種だ。」
ヴィジが声を出した瞬間、レイは被せるように説明し始めた。
「でも、たった2国間の戦争で生まれるのはおかしい。」
「そうだね、最終発生は革命の時代の末期、天界第三階層で起きた革命戦争のとき。戦争意志の発生条件は一般人が発する念が最低でも約100億人分必要。能力持ちが一般人の10倍程度の念を発する事を考慮しても、最低3~4ヶ国間が戦争しないと発生することはまずないはず。」
「と、とにかく1度端末型転移装置で本部まで転移し、準備をしてから本部の国間転移装置でべスティアかサンルミナスまで行くわよ。」
「そうだな、急ごう。」
9人は本部へと向かった。本部に着くと既に誰もいない。みんな現場に向かったようだ。
みんなは素早く準備を済ませ、べスティア王国とサンルミナス王国の国境付近に座標を合わせ、転移装置で転移した。
「なんて不快な神力なんだ...いや、霊力...呪力と言うべきか。」
現場に着くと、そこは広大な荒野で禍々しい『気』で包まれている。
戦争は中断され、戦士達は全員避難済みのようだ。奥では祓魔師達が多くの軍神と戦っている。2m程の人型の化け物だ。
「俺達も加勢するぞ!!」
「おっけー!」
9人は軍神の元へ走り出した。
「俺らも加勢するぜ!」〈風撃砲〉
「お前達は第零階層の!俺はカローラ。『権天者』でここの指揮をしている。状況を手短に話すが、まずアレスはサンルミナスへ向かった。俺達はここで軍神を殲滅させ次第、他の部隊に援軍に向かう。
アレスについてはスパルーム様が相手をしているため近づかないように。巻き込まれるから。」
「わかりました。」
「すまないな、別階層の隊士を巻き込んでしまって。」
指示を受け、9人はそれぞれ軍神の相手をしに向かった。祓魔師の人数は100人程、軍神の数は約1万はいるというところ。戦況はかなり厳しそうだ。
「ヴィジくん、大丈夫!?」
「こっちは大丈夫。」
「訓練の成果を試すいい機会だな。」
ウェントとヴィジとレイは3人で固まって戦闘をしている。いわゆるフォーメーションというやつだ。
「こいつら、βからγレベルの強さを持ってるのか。力はなんとかなるが、数が多い。それなら――。」〈多重風雷砲〉
「やるねレイ!僕たちも広範囲攻撃で行くよ!訓練のように最大出力だ!!」〈業火炎舞〉
「任せて!」〈霊魂滅破〉
複数の砲撃や広範囲攻撃で一気に敵をなぎ倒していく3人。しかし、
「くっ、流石に数が多いなぁ。」
「そうだね。」
「このままじゃ...」
「あっ!?レイ、後ろ!!」
「はっ、しまっ...」
突如レイの背後から軍神が襲ってきた。殺られそうになった次の瞬間、
〈虚空拳〉
〈黒喰〉
と、ネリンの力で敵を飛ばしミカの攻撃で撃破した。
「何ボケっとしてんのよ。」
「助かったよ。ネリン、ミカ。」
「礼なら勝ってからにするんだよ。まずはこいつらを片付ける。」
「よしっ!いくぞ!!」
カローラの部隊とヴィジ達の助けもあって、その場にいた軍神達はどんどんその数を減らしていく。
「これならいける!」
「みんなーー!!敵は残りわずかだ。油断せず一気にかかれーーー!!」
カローラが士気を上げ、残りの軍神も始末していく。最後の仕上げと言ったところだ。しかし、ここに来て予想外の事態が起こった。
ズズンという重い音と共に場の空気が一変した。ふと前を見るとそこに50mはあろうかという巨大で禍々しくも神々しい人型の化け物が現れた。軍神は全て化け物に吸収されていく。
本能から拒絶し、気が動転しそうな程の恐怖がみんなを襲う。
「な、な、なんでここに...スパルーム様の...いや違う。みんなーー!!」
カローラは冷静さを取り戻し、みんなに呼びかけた。
「こいつは戦争意志だ!!スパルーム様のとこと別個体が今ここで生まれたんだー!『能』や『力』は全員被害の大きいスパルーム様の周辺にいる。こちらに来るまでここは俺達で食い止めるぞーー!!」
カローラが必死に呼びかけるも隊士達はもう戦意喪失している。そんなカローラ自身も心の中で半ば諦めかけていた。
それに追い打ちをかけるように化け物がギャアーーっと大地が揺れるような声で叫んだ。その衝撃と風圧だけで隊士達は数十メートル吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。
「こんなの...こんな...耐えられる訳が...」
隊士達が泣き言をいっていると、口から砲撃のようなビームを放ってきた。地面を根こそぎエグるような攻撃に隊士達は即座に力を合わせシールドを張るも完全には防げず、再び吹き飛ばされてしまった。地面には大きな跡が残っている。
「スパルーム様でもまだ倒し切れてない化け物を、俺達だけで...か。」
カローラも折れかけている。
「カローラ様、援軍は呼んだのですか?」
「俺に別階層から援軍を呼ぶ程の権力はない。仮にあったとして、助けに来ることはなんてないだろう。国同士の戦争に関係の無い第三国が参戦してくることはないだろ。俺達は当たり前のように行き来しているが、別階層は本来、分断された別世界なんだよ。」
「そんなぁ。」
「それと悪い知らせだ。同時刻にスパルーム様達がいるサンルミナス王国に3体目の戦争意志が発生したようだ。唯一の希望は...絶たれた。」
「「!?」」
隊士達はそれを聞いた瞬間、ガクッと膝から崩れ落ちてしまった。
「ザイオン様の軍隊には3人の主がいる、そのうち1人はザイオン様の急用について行った。アンタナ様も管理の仕事を誰かに託し、主戦場のサンルミナス王国にいる。アレスの影響でここの比にならないくらい軍神が湧いてるからな。
だから...ここに助けは来ないんだ...来ないんだよ。」
カローラもとうとう座り込んでしまった。
前を見るとアレスが再び砲撃を打とうとエネルギーを溜めている。しかし、先程のは比べ物にならないほどのエネルギーだ。
そして、凄まじい咆哮と共に戦場どころか、遥か後方にあるべスティア王国の都市まで消し飛ばすほどの砲撃を放った。
「あぁ、これが...」
その場にいる誰もが死を悟った。走馬灯が見える。
だが次の瞬間、辺りは闇に包まれた。
隊士達が死の世界かと悟っていると闇が晴れ、再び明るくなった。
「ん?あれ...俺達生きてるのか...」
「た、助かった...?でもどうして...」
みんなが混乱していると、
「はぁ...ったくあのニヤけ厨二上司野郎、人をあごで使いやがって。
...でもまぁ、当たりだったな。」
と、声が聞こえてきた。前を見ると、目の前に1人の男が立っている。
「だれ、だ。この声どっかで...!?」
「「ダクラ様!!!」」
零階層組の5人はそう叫んだ。
「ダクラ様!?あのミル軍唯一の主にして、各階層の主天者の中でもトップクラスに強いと言われている...なんで!?」
カローラや他のザイオン軍の隊士達は驚きを隠せないでいる。
「まぁ、なんでと言われればミル様の命令に従っただけなんだけど――。
ちょっとミル様達の大事な用事に付き合ってたら、『なんか嫌な予感がするからちょっくら天界第一階層に行ってきてーw』って言われて。」
「そ、それで来てくれたのですか。」
「あぁ、状況もだいたいわかっている。あとは任せろ。
おい!特にそこの5人はしっかりと俺の力を目に焼き付けろ、いずれ超えないと行けない壁だからな。」
そう言うとダクラはふぅーと一呼吸置いてアレスの元に向かった。
ダンッッと地面が割れるほどの踏み込みでダクラは一瞬にして500m程離れた場所にいたアレスの元に移動し、一撃をくらわせた。拳には黒い渦のようなものが纏わりついている。
衝撃がカローラ達にまで伝わってくる程の威力だ。
「は、速い!」
「なんて力...」
他の隊士達はその戦いに釘付けだ。
「流石に硬いなぁ、生半可な一撃じゃ傷一つつかないか。ならば――。」〈闇黒滅死・斬〉
ダクラは浮遊しながら鋭い闇の刃でアレスの腕を切り落とした。ズズンっと落ちた腕は即座にグリッチと共に消え、新しい腕が生えてきた。
そしてアレスも負けじと反撃をする。口から砲撃を出したり、目からビームを出したり、エネルギー弾を打ってきたり多彩だ。
「アイツの体事態エネルギーの塊みたいなもんだ。ただのパンチでも相当な威力だな。」
ダクラもやる気全開の様子。
「いつまで持つかな。」〈闇黒炎〉〈闇黒滅死・爆〉
凄まじい爆発にアレスはボロボロになるもすぐに回復し反撃をする。
しかし、どれだけ反撃してもダクラには1ダメージも入っていない。無傷のままだ。
「ダクラ様の能力って一体...」
「そっか、お前らは新人だから知らないのか。」
ヴィジ達の問いかけにカローラが答え始めた。
「ダクラ様の神ノ加護は『闇黒』。闇を操る能力だ。」
「闇を...操る?」
「闇は全てを無に返す。物理攻撃どころか精神操作系の能力も無に返され通用しない。
そして、闇は全てを破滅に導く。闇の形は暗闇だけでは無い。人の闇、社会の闇、この世の闇。恐怖、トラウマ...死。あらゆる破滅の形を再現し敵を闇に葬る。
それが主天者ダクラの能力だ。」
カローラの説明に5人は目を丸くする。ダクラの能力が5人の想像の遥か上をいっていたからだ。みんなは主の称号の恐ろしさを身をもって理解した。
一方ダクラ達の戦闘は終わろうとしていた。
「やっぱり核を破壊しないと無駄かぁ。
はぁ、気が引けるけど見せしめとしてはちょうどいい。ミル様直伝の超大技。出力を必要最小限に抑えて放つ。使わせてもらうぞ。
くらえ...」〈闇超新星〉
その瞬間、暗く輝いた光が辺りを包んだ。音すら飲み込んだ闇の光は辺りを暗く照らす。
ダクラは隊士達の前に移動し、被害が出ないようガードした。
「い、今のは...」
みんなが目を開けると、目の前には崖ができていた。
よく見てみると半径3km、底が見えない程の巨大なクレーターができている。みんなはアングリと口と目をかっぴらいて固まってしまった。
「ハハッ、壮観だな。事後処理はミル様に任せるか。さて、みんな帰るぞ。」
ダクラの声にみんなは正気を取り戻し、頭を下げた。
「ありがとうございました、ダクラ様。部隊の指揮官でありながら、お手を煩わせてしまったこと深くお詫び申し上げます。」
「いいって、それに他のところも終わったみたいだしな。」
カローラが端末を確認すると、無事アレスを2体とも討伐できたと報告が入っていた。
「よし、これにて一件落着だーー!」
みんなは安心し、喜びあっている。ヴィジ達もホッと胸をなで下ろした。
そして、無事にみんなで本部へと帰還するのであった。
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〈主な登場人物〉
ヴィジ〈神ノ加護:霊力支配〉:今作の主人公
レイ〈神ノ加護:神線〉:陽気な性格。意外とまじめ。
フラクタ〈神ノ加護:波動〉:穏やかな性格をしている。
ウェント〈神ノ加護:炎魔法〉:優しい性格の持ち主。頭が良く、判断力に優れている。
ネリン〈神ノ加護:サイコキネシス〉:天真爛漫で活発な性格の女の子。頭はあまりよろしくないが、攻撃力はピカイチ。
ゼノシュ〈神ノ加護:剣神〉:物静か。冷静な判断ができる頼れる兄貴分。
サーガ〈神ノ加護:万糸〉:活発でゼノシュとは正反対の性格。少しおバカ。
アストラ〈神ノ加護:雷魔法〉:青髪に黄色いメッシュの入った女の子。少しおてんば。
ミカ〈神ノ加護:黒喰魔法〉:黒髪ショートの女の子。少し変わってるところがある。
カローラ:ザイオン軍の一部隊の指揮官。権天者。真面目で優しい。
ダクラ〈神ノ加護:闇黒〉:大君主の側近、主の称号を持つ。真面目な性格。実は全階層の主天者の中でもトップクラスの強さをもつ。




