第四話 王殺しの“七代目”
「すげぇ……」
カミラに連れられてやって来た王宮の書庫。
が、そこは書庫というよりも大きな図書館のような場所だった。
前も横も天井まで続く本棚で埋め尽くされており、至るところに本と書類の束が詰められている。
こんなところから探すのか。
下手したら年単位でかかる。
だが、文句ばかりでは何も始まらない。
慎吾は手前の棚からしらみ潰しで探していくことにした。
しかし、
「見つからん!!」
探し始めて三時間。
表紙だけ見て繰り返して五つほどの本棚を洗ったがカミラの言ってた特異体質に関する記述書は見つからない
見つかったのは天使様を崇めよ魔族共はクソだという内容のものばかり。
せめてもの収穫と言えば戦闘や王宮内の人物についての記録があったぐらいだ。
というかやはり母数が多過ぎる。
こんな宗教本ばかりなのにどうやってこの量を作ったのか不思議なぐらいだ。
とても一人で見切れる量じゃない。
いつの間にかカミラもいないし、今日のところは彼女を探して帰ろう。
そう思い、最後の本を棚に戻そうとしたその時だった。
「痛っ!?」
頭の上に何かが落ちてきた。
表紙はところどころ破れていて焦茶になった古臭い本。
さっきまではなかったそれが、彼のそばに転がっている。
「なんだよこれ。 上の本棚からか?」
上にはハシゴでもない限り届かなそうな棚もいくつかある。
が、ぱっと見本が入りそうな隙間の空いてる箇所はなかった。
突然降ってきた謎の本。
ふとその本に目を落とす。
題は字が削れていて読めない。
だが、なぜだか興味をそそる本だった。
「まああと一冊増えても変わんないしな」
そう思い開いた瞬間、慎吾目を疑った。
その本こそ、彼があれだけ探しても見つけられなかった特異体質に関する本だったのだ。
興奮をぐっと抑え、ゆっくりとページを進めていく。
初めに記されていたのは特異体質というものの正体についてだった。
〜〜〜 〜〜〜
“特異体質、魔法研究記録”
・研究対象:七代目召喚勇者 シアン
◯記録一日(召喚当日)
ステータス鑑定にて“特異体質”という未知の結果を観測。
武力値:1000
魔力値:750
知能値:400
実戦値:2150
共に召喚された勇者スカーよりも遥かに高い数値を記録。
ただしスキル、適正魔法の記載なし。
◯記録二日(鍛錬初日)
基礎魔法《魔弾》を放つ際炎を生成。
《身体強化》では体が熱いと悶え失神。
魔法ではありえない使用者にも影響がある炎であると断定。
◯記録三日
一人で修行の間に向かう。
火の粉のような小さな炎を作り続ける様子を確認。
数時間続けた後、その火の粉を空中で操作していた。
目的:魔法の練習(?)
◯記録四日
先日同様修行の間へ。
同じように火の粉を出して操る練習のような行動。
本人への聴取に成功。
曰く「慣れるため」らしい。
(中略)
◯記録四十六日
実戦鍛錬中魔族との接敵。
その際に炎を用いた魔法(仮)の使用を確認。
自然炎系統の《火球》《獄炎刀》《火槍》に類似していた。
さらには身体に炎をまとわせるという現存しないものも確認。
◯記録四十七日
先日の一件の聞き取りを行った。
使用したのは魔法ではなく、魔法を参考に魔力で生成したものであるとのこと。
運用方法は基礎魔法と同様であると推察される。
異常な効力は“制約を強制される”ためである可能性がある。
(以下黒塗り、破損)
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「火球、獄炎刀…。 これまじなら俺でもできるんじゃね?」
記録の二日目は慎吾と同じかそれより酷い状況のように思える。
であれば、自分にも炎が使えるのかもしれない。
そう思うともう興奮を抑えられずにはいられなかった。
早速試しに…っと行きたいところだが、この本がどこに入っていたものか調べて返さないと。
そう思った時、
「お望みのものは見つかったようですね慎吾様」
「うわっ! びっくりさせないでくださいよカミラさん」
さっきまで姿も見えなかったカミラが突然現れた。
一体どこに行っていたのだろうか。
まあ今戻ってきてくれてるからどこでもいいんだけど。
「よろしければ試してみませんか? 一応勇者様には貸し出し許可もありますし」
「え、そうなんですか?」
そんなの初耳だ。
というかここら辺に管理人っぽい人もいないし、セキュリティがガバガバすぎる。
本当に大丈夫なのだろうか。
しかしそれが本当なら持って行きたい。
もし分からないことがあったりしてまたここに探しに来るなんて絶対にごめんだ。
「修行の間はいつでも空いています。 いかがいたしますか?」
「…そうですね。 じゃあちょっと借りてきましょう
」
慎吾は少し悩んだが、結局持ち出すことにした。
こっちは勝手な事情で呼び出されてるんだし、これぐらい(じゃすまないけど)許されるだろう。
ーーー ーーー ーーー
「やっと着いた」
再び修行の間に向かう慎吾たち。
にしてもこの王宮は本当に広いな。
カミラの案内がないと多分辿り着けない。
自分の部屋を覚えるのにもどれだけかかるやら。
だが今はそんなことより実験だ。
「早速試してみるか」
頭でイメージを整え、ゆっくりと両手に魔力を集めていく。
「よし、これならあったかいぐらいだな」
今回はジンとやった時のような大きい炎は作らない。
出したのは爪の大きさ程の小さな火の粉。
まずはこれでいい。
慎吾はその火の粉を押し出し、ゆっくりと前進させる。
「やっぱ体から離れると熱くないな」
今のところ問題はない。
続いてもう一つ、二つと火の粉を増やしては飛ばしておくを繰り返し、結果数十個の生成に成功した。
「あとはこれをどうやって操るかだよな」
しかしそれも難しくはない。
今前に動かすときも手のひらで押し出すような動作をしたが物理的な接触はなかった。
つまりは今のと同じように、目的にあった動きで魔力に指向性を持たせればいい。
慎吾は試しに指先を向けてそっと横に弾いてみる。
するとそれに倣うかのようにして、一つの火の粉が横へと移動した。
「………ん? 一個だけ?」
不思議に思い別の火の粉で試してみる。
が、結果は同じだった。
「全部が移動するわけじゃないのか」
だがこれもすぐに解決した。
火の粉一つに集中するのではなく、全てを繋いで考えればいい。
電車のように前後で繋がれた一つの塊として捉えるのだ。
「…よし、もういっちょ!」
再び指先を弾く。
しかし、今回は一度に全ての火の粉が同じ軌道を辿って動いてくれた。
「よっしゃ! やっぱそうだ!」
魔力魔法は感覚で使う。
ジンが言っていたことだが確かにイメージとそれを扱う感覚が鍵だった。
「おめでとうございます慎吾様」
カミラが拍手を送る。
「ありがとうございます。 でも一個あたりはこの大きさが限界なんですよね」
そう謙遜する慎吾だったが、カミラは充分すぎるという。
「自分の魔法に対する耐性がない状態なのですから、生成して操っているだけでもすごいことなのですよ?」
自分の魔法の耐性。
考えてみれば不思議なものだが自分の放つ攻撃魔法、例えば炎や雷は自分に痛みを与えない。
これは毒を打ち続けて抗体を得るのと似ていて、体に魔力を慣れさせることで自分の魔力を媒介にした魔法の痛みを軽減できるという仕組みらしい。
そう考えると、確かに二度目で操れたのはまあまあすごいことなのかもしれないな。
「何も焦ることはありません。 鍛錬もしばらく続きますし、いきなり魔界へ放り出されることもありませんから」
そう言ってカミラは下がる。
結局この日、慎吾は夕食に呼ばれるまでここにいたそうだ。
ーーー ーーー ーーー
そうして、火の粉を作っては操るを繰り返して約一ヶ月。
徐々に火の粉を大きくしていき、一個だけなら初日に失敗したのと同じ大きさまで痛みなく作れるようになっていた。
これが耐性というものなのだろうか。
多少熱さは感じるが本当に慣れてしまってきている。
それだけではない。
ジンたちの鍛錬を経て着実に魔力総量も体術技術も成長していた。
ダリウスに至っては初日のような組手稽古だけでなく地の利を活かした戦術、些細な動作に至るまでの指導が入ったおかげでタイマンでも戦えるようになりつつある。
今日も今日とて鍛錬のためあの修行の間へと向かった。
しかし、
「本日より少々鍛錬内容を変えさせていただきます」
今日はどうも様子が違うようだった。
「行うのは連携を軸とした“実戦”。 我々王国が管理するダンジョンに潜って魔物と戦っていただきます」
実戦。
今までは単に技術を学ぶか組手程度だった鍛錬が、いよいよ本番になってくる。
「まずは四つの班に分かれていただきます」
次に指示されたのは指定されたグループに分かれること。
実戦に際し、今の魔法、体術、武器戦術に特化した今の分かれ方ではあまりに不適切。
そこで各班のバランスを整える必要があるのだ。
しかし、そう言って分けられた班だったが、慎吾にはあまり均等というわけではないように思えた。
「よっ! なんか久々に一緒んなった気がするな!」
「蓮じゃん!」
慎吾の班は蓮、美久、それに苳也という男子を加えた四人。
他の班は十人以上いるにも関わらず、彼らの班はたったそれだけだった。
気になることはそれだけではない。
「俺がお前らの担当だ。 よろしくな!」
「拙者が任されたのはお主らだな」
ジン、ダリウス、アリオン。
その三人はそれぞれ人数の多い班に分かれていく。
残った慎吾たちの班には誰も来ない。
「あの、俺たちの指導は誰が…」
不思議に思い問いかける慎吾。
その言葉、背後からの声が遮る。
「俺様だ」
瞬間、背筋に冷たい線が走る。
振り返る慎吾たち。
その視線の先にいたのは圧倒的なオーラを放つ巨漢だった。
「だ、誰だよお前」
いつもなら強気に話している蓮が震えるような声で聞く。
それに対し、男は笑みを浮かべていた。
「そんなに警戒する必要はねぇよ。 俺様はスカー。 お前らと同じ“召喚勇者”だ」
「え!?」
「俺たちと同じ!?」
慎吾たちと同じ召喚勇者を名乗る謎の男、スカー。
しかし、さっきから感じているこの空気、間違いなく只者ではない。
ひょっとすると本当に…。
そんなことを考えていたところだった。
「とりあえず着いて来い。 お前らは別メニューだ」
スカーはそれだけ言ってゲートの方へと振り返る。
慎吾たちは訳が分からなかった。
が、すでに他の班ではダンジョンの説明が始まっており横から入れる空気じゃない。
ひとまずスカーに着いていくしかなさそうだ。
「……とりあえず行くか」
「ええ。 それしかなさそうですね」
慎吾たちは結局ゲートへと向かう。
その先ではスカーが貧乏ゆすりして待っていた。
「やっと来やがったか。 こっちだ」
そう言ってスカーは“000”と書かれた唯一ゲートのない空の空間に手をかざす。
「開け」
スカーの一言に応えるかのように渦を巻く空間。
やがて黒い煙が立ち上り、他よりも一層大きな円を成した。
「んじゃ行くぞ。 今度はチンタラすんなよ」
さっき待たせたのが気に入らなかったのだろうか。
心なしか苛立っている気がする。
今度はスカーに張り付くようにして、ゲートの中へと入っていった。
ーーー ーーー ーーー
「なんだここ…」
「薄暗くて何も見えないじゃん」
「でもお互いのことははっきり見えるね…」
気味が悪い。
蓮や苳也の言う通り、彼らが案内された部屋は周囲に何も見えないほどの闇に包まれている。
しかし、それと同時に互いの姿だけははっきり見えていた。
「まだ灯りつけてねぇんだよ。 それと………」
スカーの声。
僅かな沈黙。
慎吾が不思議に思い彼の方を見る。
その手には一つの水晶玉が握られ、表情はどこか曇っているように思えた。
「この話、誰にも言うんじゃねぇぞ」
そう言って水晶を掲げるスカー。
途端、瞬く間に広がる閃光が慎吾たちを包み込む。
光がひいた直後、彼らの視界に映ったのは“戦場”だった。
「きゃあ!!!」
「何だよこれ…急いで逃げろ!!!」
美久の悲鳴、慌てふためく蓮と苳也。
しかし、慎吾だけは落ち着いていた。
というより目を離さずにはいられなかった。
ある一人の人間、たった今現れた目の前の少年に。
「落ち着け! これはただの映像だ!」
響き渡るスカー。
その言葉で固まった蓮たち。
ゆっくり呼吸を整えつつ辺りを見回す。
すると確かにスカーの言う通りだった。
周囲に広がる光景、そのうち彼ら五人はピクリとも動いていなかったのだ。
映し出されていたのは緑の草花が生い茂る平野。
そのど真ん中にある、百メートル近くにわたって地表が露出した場所。
片方には純白の翼を持つ男女数百名。
さらにはその中心に立つスカーらしき男。
そのそばに両足と片手以外が欠損した亡骸が転がっている。
だが異様なのはもう片側にたった一人で立つ少年、慎吾が見つめていた男の方だ。
身体中から血が流れ、腹から片方の胴が抉れている。
にも関わらず、まるで獅子のような鋭い眼光をスカーに向けていた。
それだけではない。
その少年は、全身に真っ黒な“炎をまとっていた”のだ。
「八百年も前の話だ。 俺様とあのガキンチョ、“シアン”は一緒にこの世界へ召喚されたんだ」
スカーから語られる八百年前。
それは伝説にもならない、“古の聖戦”についてだった。
自慢じゃねぇが、俺様とシアンは強かった。
それこそ天使共にも負けねぇ、下手すりゃ魔王にすら届き得るレベルでな。
実際シアンは先代の魔王とタイマン張って白星あげやがった。
勝ったんですか!?
でも僕たちは魔王を倒すためにって呼ばれたんじゃ…。
ああそうだ。
魔王のクソ野郎にはガキがいたんだ。
今はそいつが魔王の代理をやってんだよ。
しかも死ぬ直前、シアンに命懸けの“仕掛け”をしやがったんだ。
命懸けの仕掛け?
魔族に限らずだが種族には固有の能力がある。
だがその能力は適正のねぇ身体には馴染めねぇだ。
それを逆手にとって自分の“深淵”、固有の力をシアンに捩じ込んで暴走させやがった。
だから今の状況に…。
まあな。
手負だったおかげでなんとかなったが天使軍は半壊。
魔族共に復旧の時間を与えちまったんだよ。
復旧の時間…。
つまり聖戦はそれで終わらなかったというわけですね?
あんまし言っていいことじゃねぇが今は冷戦状態だ。
だが漂う“深淵”で勝手に生まれる魔族どもと、女神から命を吹き込まれなきゃ作れねぇ天使ども。
時間が経てば経つほど俺らの方が不利になる。
だから“異世界召喚”なんて法外やらかしてんだよ。
法外?
語りの終わりとともに周囲にノイズが走る。
映像が途切れると、そこにあったのは普通の部屋だった。
本当に何もない、ただの部屋だ。
「今度はあんなヘマはしねぇ。 お前らはこの世代で一番だって話を聞いてる。 俺様の役目はそのお前らが最前線レベルになるまで守ることだ。 四六時中付き合ってやれるわけじゃねぇが稽古もつけてやる。 特に慎吾、お前はな」
そういって慎吾を指さすスカー。
友人を失ったことを思い出してか、それとも魔族への憎しみからか。
その目の指先には怒りがこもっている。
「特異体質の本質は魔力云々なんかじゃねぇ。 お前だけは何があっても俺様が管理する」
これから始まる実戦鍛錬。
スカーの提示した内容は、今の彼らにとってあまりにも過酷なものだった。
<人物紹介>
個体名:三井 苳也
武力値:100
魔力値:200
知能値:450
実戦値:750
スキル:《賢者の秘技》
魔法適正:解析
その他:なし
◯スキルについて
適正魔法に限り無詠唱かつ完全同時展開が可能となる。
また魔法同士を組み合わせることで新魔法開発ができ、その術式も保存できる。
※本来の魔法開発は緻密な魔力操作による術式の試作から始まるため時間も労力もかかる。 とてもじゃないが一人でできていい芸当じゃない。




