第78話 念願の
あれから一週間が経とうとしていた。
たった7日。されど7日。
黒煙という得体の知れない侵入者が学園に現れたあの日から、王立魔法学園は半ば非常事態体制に入っていた。
侵入者がいた。
それだけならまだいい。
問題は、その侵入者が堂々と学園の中心部まで入り込み、多数の生徒を巻き込みながら暴れたことだ。
当然、学園のセキュリティは大問題となった。
そしてもう1つ。
内部協力者の存在。
つまり誰かが手引きした可能性である。
その調査のため、授業は一時停止。
生徒たちは一週間の待機期間を与えられることとなった。
とはいえ、別に外出できるわけではない。
街へ遊びに行く?無理。
買い物?無理。
観光?論外。
学園から出ること自体が禁止されている。
まあ当然だろう。
こんな状況で生徒を外に出したら、それこそ管理責任を問われる。
だが学園もそこまで鬼ではない。
元々この学園にはアミューズメント施設みたいなものが揃っている。
食堂に関わらず、図書館や温泉。
運動施設。
ゲームセンターや映画館だってある。
意味不明なほど充実している。
退屈はしない。
少なくとも普通なら。
そんな中、俺は何してたかって?そりゃあもちろん寝てたよ。
ひたすら寝てた。
「いやだってさ」
俺はベッドの上で天井を見上げながら呟く。
「ここ最近イベント多すぎるだろ」
イベントというイベントが詰まりすぎてたから、まともに休息できる機会なんて無かったんだから仕方がない。
そりゃ疲れるよ。人間なんだから。
俺はまだお子様ですよ。
だから寝た。
ひたすら寝た。
食って寝て。起きて寝て。
風呂入って寝て。
まるで冬眠である。
おかげで体調は万全だ。
頭もスッキリしている。
ただ、寝る以外に何もしてなかったわけじゃない。
ちゃんと有意義なこともしていた。
例えば──
アリスとの会話。
「会話だけ?」と聞かれたら。
会話だけである。
え?会話だけなんてショボイ?
そんなこと俺だって理解している。
ただこれでも大きな進歩なんだぜ?
アリスの種族ってサキュバスだから、俺があんなことやこんなことをしたいと思っていても、な?
まぁ察してくれや。そんなだから、そういうことはやってないんだ。
だから俺は今まで何もしていない。
本当に何も。
健全。
超健全。
驚くほど健全。
つか、俺も男だしな。
転移前は好きな子とかいたけど今はアリスに骨抜きってな!ガハハハハハ!!......
俺は部屋の中を入念に見回してから本音を漏らした。
「俺だって女の子とイチャイチャしたい!!」
誰もいない。
よし。
「ずっとお預け食らってるんだけど!?」
叫ぶ。
「いや俺が選んだ道なんだけども!!」
叫ぶ。
「でも男だぞ俺は!!」
叫ぶ。
誰もいない。
よかった。
もし誰かいたら社会的に死んでいた。
好きな子くらいいた。
転移前にも。
もちろん。
そんな簡単に忘れられるわけがない。
だから俺は決めている。
この世界でモテる。
絶対モテる。
強くなってモテる。
有名になってモテる。
アリスも許してくれるだろう。
たぶん。
知らんけど。
──
そんなある日。
俺はアリスと雑談していた。
そこで面白い話を聞いた。
アリスのスキルって【色欲の罪】だろ?
でだ、この前の中川のスキル。あれも言えば【強欲の罪】なわけだ。
転移する前のアニメや漫画でもよくあるキリスト云々の元ネタに準ずる「七つの罪源」が存在していた。
つまり、この世界においてもそれに応じたスキルが存在すると断定できる!
だからアリスにそういうの聞いてみたんだけど、どうやら本当にあるっぽい。
だって気になるだろ。
異世界だぞ。
七つの大罪とか絶対強いじゃん。
ただ「そういう罪」を基準にしたスキルは必ずしも魔物系統に与えられるわけではないとのこと。
まぁそれは中川で証明されてるからね。
で、俺は聞いたんだよ。どのスキルが1番強いの?って。
だって気になるじゃん?男の子だし。
「じゃあ一番強いのは?」
「知らない」
「即答!?」
「でも傲慢とかは強そう」
「傲慢かぁ......」
正直よく分からない。
だが名前だけならラスボス感はある。
「それより強欲の方が怖いかもね」
「中川?」
「ええ」
アリスは珍しく真面目な声になった。
「あの子、自分の能力を理解したらユーマより強いと思う」
「え?」
ちょっと待て。
聞き捨てならない。
「本気で言ってる」
「いやいやいや」
俺は腕を組んだ。
「じゃあ俺がそれ以上に害悪になればいいか」
「発想がおかしいのよ」
アリスが呆れていた。
──
そしてもう1つ。
もっと重要な話がある。
俺に林田から継承された【昇華】のこと。
【昇華】には圧倒的な自強化が施されるけど、その後の絶技には基本的に自身のやりたいことが反映されると思ってる。
だから人によって異なる影響がでたり、人と被ったりもする可能性が存在する。
何を持ってしてこの【昇華】が発現するのか本当に分からないんだよな。
だから俺的には林田がこのスキルを所持していたことにすごく驚いている。
でだ、このスキル。
今は俺の物だが、直前までは林田の物だった。
じゃあ、林田が望んだ絶技も気になるよな?俺は気になる。
でも調べる方法がない。
いや待てよ? 完全に無いという訳じゃないな......。
──
俺はある部屋の前に立っていた。
コンコン。
ノック。
しばらくして扉が開く。
そこにいたのは。
泡渕だった。
「誰──って」
泡渕は目を丸くした。
「これは珍しい客人だね」
「よぉ」
「水谷くんが僕の部屋に来るなんて」
「まあ同じ部活のよしみで」
「いいけど」
泡渕は苦笑した。
「どうして僕に?」
「まあ色々」
「もしかして小松さん?」
「まあそんなとこ」
「気にしてないよ」
即答だった。
「僕も聞きたいことがあったしね」
「ん?」
「林田くん」
やっぱりか。
「調べさせてくれなかったんだよ」
「だろうな」
「もしかして今日の用件も?」
「ぐうの音も出ない」
──
部屋に入り向かい合って座る。
泡渕は少し目を閉じた。
「じゃあ始めるよ」
「頼む」
「ただし僕にも見えないことはある」
「分かってる」
「うん」
部屋に静けさが訪れる。
数十秒が経過する。
そして。
「......あー」
泡渕が頭を掻いた。
「ダメかも」
「マジ?」
「空だ」
「カラ?」
「うん」
泡渕は少し困ったように笑う。
「もう何も残ってない」
「......」
「林田くんの意思も」
「記録も?」
「ほぼゼロ」
なるほど。
「つまり、今の所有者は完全に水谷くん」
そういうことらしい。
「じゃあ収穫無しか」
「いや」
泡渕は首を横に振った。
「進展が無いわけじゃない」
「ん?」
「僕も【昇華】には興味がある」
泡渕の目が少しだけ輝いた。
「正直かなり特殊なスキルだ」
「だろうな」
「また何か分かったら教えてよ」
「了解」
──
そんな訳で結局、林田の絶技については分からなかった。
予想通りと言えば予想通り。
少し期待していたと言えばしていた。
まあ仕方ない。
人生そんな都合良くいかない。
だけど。
俺は満足していた。
何故なら、俺にもようやく手に入ったからだ。
念願の。本当に念願だった。
俺だけのスキルが。
強力な切り札が。
未来への可能性が。
まだ使いこなせてはいない。
発動条件も曖昧。
応用も未知数。
だけど。
だからこそ面白い。
新しい力。
新しい可能性。
新しい挑戦。
そういうものは男心をくすぐる。
俺は窓の外を見る。
夕焼けが綺麗だった。
「次の試験くらいまでには」
自然と笑みが浮かぶ。
「使いこなせるようになりたいな」
ランキング戦は終わった。
黒煙の騒動も一旦は終わった。
けれど。
終わりじゃない。
むしろ始まりだ。
退屈なんてしていられない。
俺は立ち上がる。
胸の奥にある高揚感を確かめながら。
新しい旅の始まりを感じていた。
── ── ── ── ──
名前:泡渕 平
成績ランキング:6位
固有能力:【世界記録者】
【世界記録者】
世界に起きた全てを知り、読み取ることが可能。
リアルタイムで状況を知れるが12時間のタイムラグが生じる。
人に触れることでその人のことも知ることができる。
人を知ることにタイムラグが生じることは無い。




