第4話 知識の扉
「......うわ、やっべ」
王都の中央にそびえ立つ建物を見上げた瞬間、思わずそんな言葉が口から漏れた。
煉瓦と白石でできた荘厳なその建物は、まるで巨大な城のような佇まいだった。
見上げれば三階建て、壁一面に刻まれた魔法陣らしき装飾。中央の大扉は、大人三人が横に並んでも余裕があるくらいデカい。
――ここが『王都中央図書館』。
「え?これ、図書館だよな......?本置いてあるだけだよな......?」
まるで王様が住んでそうなスケールに圧倒されながら、恐る恐る中に入る。
すると中は静寂と知の気配に包まれていた。
魔法の光で柔らかく照らされた書架、整然と並ぶ本の数々。そして何より、天井のシャンデリアがちょっと豪華すぎる。
「本気すぎるだろこの国......」
受付で「基礎魔法体系」の棚を尋ね、案内されたのは魔法理論コーナー。
慎重に一冊を取り上げ、パラパラとページをめくっていく。
「ほぉー......基礎魔法は『属性』って分類がされてるのか」
どうやら、この世界では魔法属性が明確に分類されているらしい。
1.火・水・風・土・雷――これらが"5大属性"
2.派生属性として、火から光、水から氷、土から草がある
3.これらの属性以外に特質属性として、聖・闇・無がある
「派生まで入れると、11属性ってわけか。......無属性とか、逆に強そうなんだけど」
思わず苦笑しつつ、メモを取る。ページを進めるごとに、魔法の奥深さを世界観の広さに目が回りそうになる。
「歴史上、全属性を統べた者は存在しない。大賢者ですら、8属性止まりか」
ふと、ページの片隅にそんな記述があった。
「へぇ......」
ページの隙間に指を挟んだまま、悠真はニヤリと笑った。
「俺が全属性使えるようになっちゃったら、どうしようかなー。最強になっちゃうなー。あいつらのこと、つい見下しちゃうかもしんねーなぁ?ラノベ主人公なら全属性扱えてなんぼでしょ!」
誰に向けるでもない軽口を一つ。
けれど、その目はどこか本気だった。
――ページをさらにめくると、「祝福」と呼ばれる加護についての説明が目に飛び込んできた。
この世界では、生まれたときに"神の祝福"を一人一つ授かるらしい。
それは個別性が強く、他人と被ることのない"ユニークスキル"として扱われる。
「......ってことは、俺たちが転生時にもらったスキルもユニークスキルってやつだったのか。」
空間魔法――というぶっ壊れスキル。確かに唯一無二感はある。
あれ、でも、被りはなくても似たスキルは存在するのか......?
「よし......やっぱ俺、面白くなってきたわ」
知識で興奮した心を落ち着けるように本を閉じ、図書館を後にする。
......と、その前に。
図書館に隣接する小さな本屋に立ち寄り、初心者向けの魔法基礎本と、魔力制御に関する教本を数冊購入した。
「ふふ、これで俺も知的冒険者の仲間入りってやつだな」
――静かに、しかし確実に。
水谷悠真の異世界生活は、"学び"を"探求"を通して、その輪郭を強め始めていた。