第69話 ランキング戦④
長いようで──短かった。
気付けば、ランキング戦は一つの区切りを迎えていた。
「......終わった、のか」
誰にともなく呟く。
各ブロックの優勝者が出揃い、いよいよ最終段階へと移行する。
ここからは──Top10を決めるための、最後のランキング戦。
改めて顔ぶれを見る。
Aクラス。
目に見えてその割合が高い。
だが──
「偏ってるわけじゃなさそうだな」
全クラスから、最低限の代表は出ている。
完全な独占ではない。
それだけでも、多少は救いがあると言えるだろう。
「まぁ、俺には関係ないけどな」
観客席の一角。
体を預けながら、静かにその光景を眺める。
決勝で負けた俺は、もう当事者ではない。
だからこそ──
「気楽に見れるってもんだ」
そう思った矢先。
『それでは、これより最後のランキング戦を行います』
アナウンスが響く。
『Top10の順位付けを行うにあたって、これまで通りトーナメント形式で行います』
「またトーナメントか」
思わずぼやく。
しかも、ペア決めはどうやらくじ引きで決めるらしい。
耳を疑う。
「馬鹿みたいなやり方だな」
率直な感想が口をつく。
総当たり戦の方が、よほど公平だろうに。
だが、決まったものは仕方がない。
「どうなるか見物だな」
俺は腕を組み、その行く末を見守ることにした。
『トーナメントが決定したので、5分後に認定戦を開始いたします』
会場がざわつく。
今回の認定戦は、これまでとは違う。
一試合ずつ、順番に行われる。
つまり──
全員が、全員を見ることになる
実力が、丸裸になる。
隠しようがない。
「......面白くなりそうだな」
そして、アナウンスが入った。
『認定戦 Aクラス 付焼 龍 対 Eクラス 塙 剛』
最初のカードが発表される。
『試合──開始です』
── ── ── ── ──
「じゃ、塙君」
フィールド中央。
Aクラスの付焼が、柔らかく笑う。
「こちらから行かせてもらうね──《呼応し受け継がれる魂》......」
──静寂が訪れる。
音が消えた。
ざわめきも、風も、足音も。
全てが消え失せたかのような、完全な無音。
そして──
「いや〜危なかったですね!」
「すぐに気付くことができて良かったです!シロ先生!」
「ふぅ......」
別の声が応じる。
「本当に間に合って良かったよ。機転が早くて助かるな」
だが、その声音には緊張が混じっていた。
「ただ、ここからどう動かすかが問題だ。佐藤、時間のルールを無視できるのはお前だけだからな」
「分かってますよ!」
佐藤と呼ばれた少女が、軽く手を振る。
「ん〜っと......先生?」
佐藤が首を傾げる。
「この人......なのかな。誰なんですかね?」
視線の先。
そこには──
黒い“何か”があった。
人の形をしているようで、していない。
影のようで、物体のようでもある。
「私的には暗殺者の身なりだと思ってるんですけど......」
「知らんな」
シロは短く答える。
「だからこその私たちだ。警戒を緩めるなよ」
「はーい......っ!先生!」
「ああ」
その時だった。
ピクリ、と。
“それ”の一部が動いた。
「......今、動いたか?」
「......見えました」
空気が張り詰める。
「すまない」
シロが静かに言う。
「一度、認定戦が始まる前まで戻させてもらった」
「......やっぱりそうなりますよね」
「どのような危険があるか不明だからな」
時間が、巻き戻る。
だが、それでも。
「先生」
佐藤が少し真剣な顔になる。
「私たちに干渉できる可能性を持ったスキルだったら、どうします?」
「......」
「もう終わりじゃないですか?普通に勝ち目とかないですよ」
軽い口調とは裏腹に、その言葉は重い。
「......そう焦るな」
シロは言いかけて、止まる。
「と言いたいところだが、確かにそうだ」
認めるしかなかった。
「このままではジリ貧も同然だ──っと、構えろ」
「んえ?」
佐藤が目を丸くする。
「でもこのままだと、さっきと同じ状況になりますよ!」
「いや」
シロは首を振る。
「今この場にはいないが、連絡を取った」
「え?」
「遠隔だが、通信越しに伝達を行う。先程より正確に状況を探れるはずだ」
その瞬間。
ドォォォォォン――!!
天井が、破壊された。
轟音と共に、瓦礫が落下する。
「......っ!」
佐藤が目を見開く。
「これは......私と同じ......じゃない......?」
「そうだな」
シロが頷く。
「コイツのスキルは、お前の“停止”とは違う」
落ちてくる“何か”を見上げながら、続ける。
「“遅延”だ」
「遅延......?」
「今の状況を説明するなら」
シロの目が鋭くなる。
「1秒という時間を、何千何万と刻んで動かしている」
「この謎の物体が、お前の停止空間で動いたというのなら」
シロは断言する。
「無限に刻まれた“時”を動かせば、干渉は少なくとも不可能になる」
「......」
「ほえ〜」
佐藤が素直に感心する。
「先生って賢いですね」
「馬鹿にしているのか?」
「そんなことないですよ!」
慌てて手を振る。
「でも先生、この作戦って......」
少し困ったように笑う。
「私、干渉できないですよね......?」
「......」
シロは答えない。
「......」
「......まぁまぁ!」
空気を変えるように、佐藤が明るく言う。
「今はこのヒトの観察をしましょうよ!」
指をさす。
ゆっくりと落下してくる、あの“存在”を。
「地面に辿り着くまでに、時間もありますし!」
「......そうだな」
シロも小さく頷く。
だが、その目は鋭いままだった。
── ── ── ── ──
〈調停者〉
「時間」にはルールが存在する。動いている時間に別の時間が干渉することは出来ない。
ただ、時間停止のみ例外であり、「時間」のルールを無視することができる。止まっている時間は何者にも干渉できず干渉されない。また、時間停止のみ誰かの時間を干渉させることができ、時間停止だけが誰かの時間に干渉できる。
名前:佐藤 彩凪
成績ランキング:???
固有能力:【時絶ノ理】
【時絶ノ理】
時間を停止する。
停止する範囲は全世界に及ぶ。部分的な停止は不可能。
「最も強力な矛であり、最も強力な盾である。そして、最も中立の立場にあるスキルである」
1-A 担当 シロ
固有能力:【刻還ノ書】
【刻還ノ書】
時間を戻す。
戻す範囲は全世界に及ぶ。部分的な巻き戻しも可能。




