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二章劣情に似た衝動《インテンス》 其は憤怒《インペイラー》也 第三話

『君だけが持っているなんてズルいじゃないか。不公平だ。

 だから君の全てを奪わせてもらうよ。それできっと公平だ』






 どこまでも穏やかな空気が流れるは聖堂。

 まるで昨夜の悪夢のような喧騒など夢幻であったかのように……静かで暖かい時間が流れていた。

 俺は自分の掌を広げる。


『そう、目覚めたな……我は《憤怒(インペイル)》。八獄脅威の一柱たる憤怒(インペイル)――お前(ルインズ)自身の魂のカタチだ』


 あの夜、俺の内的世界(オドの泉)から響いてきた、奈落のような虚ろの言葉。

 その言葉が真実なら、俺は……


「ここにいましたか騎士ルインズ探しましたよ」

「シスターミサイル2」


 シスターミサイル2は無邪気な笑顔を俺に向けた。


「ちょうどクッキーが焼けたところですあなたもおひとつどうですか?」


 どこまでも無垢(ピュリファイ)

 どこまでも俺を信じている彼女に俺は。

 嘘をつき続けなくてはならないのか。


「ああ、いただくよ」

「ふふっ食い意地の張ったあなたらしくもないですね? 何か悩み事でも?」


 流石シスター。

 俺の葛藤など見透かされている、か。


好調だよ(ラッサ)。何も心配いらない」

「……騎士ルインズ。ここは神の御下。どうか自分を偽らず、安心してくださっていいのですよ」


 全てをわかった上で、尚。

 俺を受け入れてくれるかの如き、シスターミサイル2の笑顔を見て、俺は。


 かけがえのない平和というのはここにあるのだと思った。

 思ってしまった(・・・・・・・)


「へえ」


 そんな資格なんて、俺にはないのに。

 だから。


「《憤怒(インペイル)》らしくもない。本気でこんなくっだらないモンに満足してるんだ」


 だから――こんなもの(・・・・・)を呼び寄せてしまう(・・・・・・・・・)

 美貌の少年……金髪に、どこまでも穏やかな笑みを浮かべている。

 だがその本質は(イヴィル)

 悪意に満ちた言葉と共に、膨れ上がる瘴気が物語っている。

 これは、世界に仇成す存在であると――


「貴様ッ」

「八獄脅威が一、《嫉妬(スラッシュ)》……別に欲しくもないけど貰っといてやるよ、この|世界《かけがえのない平和(笑)》」


 《嫉妬(スラッシュ)》を名乗った魔族は、どこまでも酷薄な笑みを浮かべる。


「キャアア騎士ルインズこれは一体……!? ハッ我が教会に土足で忍び込んだ魔族の背後に闇の後光が!?」

「シスターミサイル2! ここは危ない、逃げるんだ!」

「逃がすかよ、《憤怒(インペイル)》。それも含めてボクのモノだ」


 《嫉妬(スラッシュ)》がついと指を振ると、その影が捻くれ伸びて、シスターミサイル2を襲う手と変じる。

 無形の影から逃れる術は絶無(nowhere)――普通であれば。


光聖極(こうせいきょく)五十八式《<悔改めよ、後を省みて>》」 


 振るうは魔槍タングラム。

 俺の意のままに形を変える無形の槍。

 きっとそれは、《嫉妬(スラッシュ)》である俺自身が抱いた罪の形をしていた。


「おいおい……《大罪兵装(ゲヘナヴレイズ)》に階梯(カテゴリ)A+の光聖極(こうせいきょく)を付与するだって? めちゃくちゃをするなァ。ピュウゥウーーーウ」


 《嫉妬(スラッシュ)》は口笛を吹いて見せる。


「シスターミサイル2に手は出させない」

「ズルいなあズルいよ《憤怒(インペイル)》。ズルいから――」


 ざわりと肌が粟立つ。

 俺は咄嗟にその場を飛び退いて――


「|ボクも真似することにした《・・・・・・・・・・・・》」


 その選択を一生後悔することになる。



 影、が。

 影が、無数に分かれてゆく。

 影が無数に分かれてゆく影が、無数に。

 分かれてゆく。

 影が。無数に分かれて。影。が、無数に分かれ。てゆく。

 影。影が。影が、影が、影が影が影が影が影が。

 無数に無数に無数に無数に無無無無無無数数数数数数のののののの影影影影影影影影影影影影影影影影影影影影影影影影影影影影影影影影影影

 影影影影影影影影影影影影影影影影影影

 影影       影影影影影影影 影

 影影 影影影影影 影影影影影影 影影

 影影       影影影影  影影影

 影影 影影影影影 影影影  影影影影

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 影影影影影 影影影影影影影  影影影

 影影 影影 影 影影影影  影影影影

 影 影 影 影影 影影  影影影影影

 影影影影  影影影影影影影影影影影影

 影影影影影影影影影影影影影影影影影影




 影が。

 聖堂を、埋め尽くし、埋め尽くし、埋め尽くすようにして、シスターミサイル2に殺到する。

 飛び退ってしまった俺は、空中でそれを見ていることしかできない。

 永遠のように長い一瞬が過ぎてゆく。


光聖極(こうせいきょく)第八十八式《<飢えよ殖えよ地に満ちよ>》」

「は、八十八式……遺失式(ロストハイロゥ)! なぜ貴様のような魔族がそれを!」

「さあ。いつかの誰かを羨ましいと思って、貰ったんだけど……忘れちゃったな」

「神の奇跡を冒涜するか……!」

「そんなことないよ。すっげえ感謝してる……神に感謝カンゲキ雨霰、ってね。便利だもんコレ」


「だってさ」


 どこまでも邪悪に微笑んで見せる《嫉妬(スラッシュ)》。

 俺はようやく、その意図を掴んだ。


「やメローーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」

「神の奇跡に守護(まも)られたシスターだって、簡単に壊せる」


 ドス、と。柔らかい音が響く。

 ドススススンヌと。柔らかい音が立て続けに響く。

 一瞬遅れて、シスターミサイル2は、細切れになって飛散した。

 俺は。

 劣情のように沸き立つ衝動(インテンス)のまま。

 

「あ、壊しちゃいけないんだったか……奪おうとしてたのにね。失敗失敗」

「ああああ嗚呼アアアアあア嗚ああァああ呼アア!!!! 応えよ《憤怒(インペイル)》! 魔槍タングラム、過剰起動!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 天の川の如き光闇の濁流を携え、《嫉妬(スラッシュ)》に向けて飛びかかった。

 胸の奥で《憤怒(インペイル)》が嗤う。

 けれど今は聞こえない。

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