第1話 屋根裏部屋の目覚め
頭が、割れるように痛い。
「う~ん」
喉の奥から漏れ出たのは鈴を転がすようなか細く甲高い声だった。
自分の声だとは思えない。
瞼をゆっくりと開ける。
視界に飛び込んだのは、見慣れた白色の病院の天井でも、冷たい点滴のチューブでもなかった。
傾斜のついた天井。
黒ずんだ太い梁が露出し、埃とカビの匂いが漂っている。
傾いた小さな天窓から差し込む光が、宙を舞う埃をぼんやりと照らしていた。
20歳の記憶が蘇る。
私は病院のベッドの上にいたはずだ。
消毒液の匂い、心電図の規則的な電子音、日に日に動かなくなる自分の体。
死を待つだけだったあの白い部屋。
そこからの記憶が途切れていた。
身を起こそうとして、その軽さに息をのむ。
病気で重く動かなくなった体に痛みない。
視線が恐ろしいほど低い。
固く冷たいわらのベッドから起き上がり、自分の手元を見つめる。
そこにあったのは白く華奢で、驚くほど小さい、丸みを帯びた子どもの手だった。
自分の胸元を見下ろして、さらに言葉を失った。
身に着けているのは、ぶかぶかでボロボロの洋服だ。
生地は雑巾のように擦り切れ、黒ずんだ汚れや破れ目が目立つ。糸くずがほつれた袖口から覗く腕は細く痛々しかった。
きしみと悲鳴を上げるベッドから降りて冷たい板張りの床を素足で歩く。
部屋の隅、埃を被った姿見を見つけ、千鳥足で歩み寄った。
ヒビの入った鏡の表面に映っていたのはつやを失った銀髪に、青白く痩けた頬。
ボロボロの服を着た、捨て子のような少女の姿。
どう見ても、5歳くらいの幼子の体だった。
その中央で大きな琥珀色の瞳だけが、不気味なほど冷やかに自分自身を凝視していた。
手足の短さ、筋力のなさ。
5歳という身体の自由の効かなさに途方に暮れかけた時、部屋の扉が重々しい音を立てて開いた。
嫌な音を立てて開いたのは、背の低い木製の扉だ。
「あら、起き上がっているのですか」
入ってきたのは、黒いドレスの上にシワの寄ったエプロンをつけた侍女だった。
彼女は挨拶をするでもなく、ドブネズミでも見るような、底意地の悪い、あくの強い蔑んだ目線をこちらに向けてくる。
手にした木製の盆を粗末なテーブルの上にガタリと叩きつけた。
「お食事です。残さずお召し上がりくださいね、お嬢様」
お嬢様という言葉には、隠そうともしない嫌味と嘲笑がこもっていた。
侍女は背を向け、大きな音を立ててドアを閉めた。
外からカギをかける金属音が、静かな屋根裏部屋に虚しく響く。
テーブルの上に残された皿を見て眉をひそめた。
そこにあったのは、人間が食べるものとは言えない残飯のような食事だった。
カビの生えた部分を削ぎ落としたようなカチカチの硬いパンの切れ端に、野菜のくずや雑多な残り物が浮いた、腐敗臭のする薄いスープ。
ゴミを押し付けられた格好だ。
「なるほど、そういうことね」
誰もいなくなった薄暗く寒い屋根裏部屋で呟く。
幼い喉から出た声は可愛らしいものだが、その瞳に宿る意思は20歳の大人のものだった。
病室で自由に動くこともできず、ただ死を待つだけだった前世。
それが、小さくとも健康で、自分の足で立てる体がある。
ボロボロの服、残飯同然の飯、そして人間扱いすらしてこない召使いの冷酷な視線。
置かれた環境は最悪で、惨めそのもの。
病院のベッドでただ消えていくのを待っていた頃に比べればマシだ。
小さく握りしめた手に、静かな燃えるような決意を込めた。




