第五話
第五話
早く授業が終わればいいのに。
そんな風に思ったのは、小学生以来かもしれない。
そわそわしすぎて、友達に笑われたけど。
やっと授業が終わり、荷物をまとめて廊下に飛び出す。
すると、隣の教室から矢立が出て来るのが見えた。
「矢立~!」
「お前の声通るんだから、デカい声で呼ぶなよ」
「このまま部室行ける?」
「もう部室あるんだ?」
「元、軽音部だけどね」
「元?」
「今は人数足りなくて、同好会的な感じらしいよ」
矢立と階段を登っていると、後ろから呼び止められた。
「結」
「お、樹と岳も来てくれたんだ!」
振り向いて手を振る。すると、矢立に腕を掴まれた。
「‥‥鈴也、ちょっと‥‥」
「え、どうしたの?」
「もしかして、残りのメンバーって獣人?」
「二人が入ってくれたら、そうなるね」
「マジか‥‥」
矢立の顔が引きつっているように見える。もしかして、獣人が苦手なのかな。
「矢立、大丈夫?」
「あ、ああ、大丈夫‥‥」
「体調悪いなら、別の日に」
「大丈夫だって」
矢立は、明らかに無理して微笑んだ。だけど、それ以上言えず、四人で部室へと向かった。
「ようこそ、元アンド未来の軽音部へ!」
「なんだそれ」
「だって、今は同好会的な扱いだし。俺はヴォーカルで、樹がベース。岳と矢立は?」
「俺、ドラム。 親父の影響でカジった程度だけど」
「俺はギター」
「おお! 揃った! 矢立も経験者?」
「ま、まあ‥‥でも、独学だけど」
「すっげぇ!」
これ、もしかして本当にバンド作れちゃうかも⁉
「どんな音楽やんの?」
「へ?」
矢立からの質問に、思わず首を傾げる。
「好きな音楽でもいいけど」
「う~ん‥‥俺は何でも好き」
「俺は、元々あんまり音楽聞かない」
「俺もだな」
「おいおい、大丈夫かよ‥‥」
「もしかして、矢立は将来プロになりたいとか?」
俺の質問に、矢立が「ぐっ」と押し黙ってしまった。
「ごめん、変な事聞いた?」
「いや、そんな事はないけど‥‥‥‥だろ」
「え?」
最後の方、聞き取れなかった。
「ギターとかバンドって、モテるだろ!」
「え、そうなの?」
「さぁ‥‥?」
樹と顔を合わせ、首を傾げる。だが、岳だけが腕を組み、「うんうん」と頷いていた。
「え、岳もそうなの?」
「いや、俺は興味ない。けど、オヤジがそう言ってた。因みに、母ちゃんはオヤジの元ファン」
「おお!」
「マジか!」
「本当にあるんだな」
音楽を始めるきっかけなんて、ひとそれぞれだもんな。
「雄としては、雌の気を引こうとするのは当然だしな」
「求愛行動ってやつ?」
「本能か」
「やめろ! フォローがなんか恥ずかしい!」
矢立が両手で顔を覆い、耳まで赤くなっている。笑いが起こり、なんだか昔からの知り合いみたいな空気が流れる。いいな、こういうの。
「俺が言ってるのは、バンドとしてどんな音楽やるのかって事だよ! あるだろ、ロックとかヘヴィメタルとか。こん中で、作詞作曲できる奴いるの? それとも、流行りの歌とかコピーしてく感じにすんの?」
俺が首を横に振ると、樹と岳も同じように首を横に振った。
「マジかよ‥‥」
「じゃあ、矢立は?」
「いや‥‥俺も、作詞作曲なんてできないけど‥‥」
「まあ、おいおい決めれば良くない? みんなの好きな曲持ち寄って、引いてみるとかさ! 大会とか目標あるわけじゃないし」
「俺も、兄ちゃんにベース教わり始めたばっかだし」
「‥‥随分とヌルイんだな」
矢立が立ち上がり、自分の鞄を掴む。
「俺はバンドがやりたいんだ。お遊戯会なら、参加しない」
そう言って、出て行ってしまった。
「しょうがない。ギターはまた募集するか」
「そうだな」
どうして矢立は、あんなに真剣なんだろう。プロになりたいわけじゃないって感じだったのに。軽音楽部は大会とか無いし、出ても文化祭とかイベントくらいだ。凄く音楽が好きで、やるなら真面目にやりたいとかかな?
結局モヤモヤしたままその日は解散となった。
岳は入部を決めてくれたらしく、その日はそれぞれに入部申し込みの紙に署名して終わった。
「樹、モテたいってだけで、あんなに真剣になるもん?」
「矢立の事か?」
家が違う方向らしい岳と別れ、俺と樹は駐輪場に来ていた。
俺は、自転車の鍵を開けながら考えていた。
「冗談を抜きにしても、本能としてのそういう気持ちは普通だろう」
「そうだけどさぁ‥‥なんとなく、違う気がするんだよね」
「何がだ?」
「モテたいだけなら、バンドにこだわらなくてもいいじゃん? 髪型とかお洒落でもできる。もっとメジャーなスポーツやるとか」
「確かにな」
「う~、モヤモヤする」
「まあ、また探せばいい。俺と岳も、探してみるから」
「うん、ありがと」
結局、モヤモヤしたまま駅で樹と別れた。




