第二十話 完結
第二十話
優紀です。
文化祭からの一週間は、本当に慌ただしかった。
結くん達の演奏が学校中で話題になり、体育館内の映像ではなかったものの、音が入った動画がネットで拡散されてかなりバズってしまった。
個人の特定には至らなかったものの、謎のバンドとして噂が噂を呼び、あっと言う間に若者の間に広まって行った。
一番驚いたのは、僕がhideawayのなっちゃんさんに送った動画を見た常連さん達が、実は音楽業界の中では知る人ぞ知る大物揃いだった事。そして、プロのスタジオに招待されたのだ。
結くん達は、まだプロになるかどうかは考えていないと、一度は断ったのだが――。
「大人のお遊びに付き合え」
と、半ば強引にスタジオに連行された。勿論、僕も。
今思えば、あの時の経験は結くん達‥‥いや、僕たちにとっての分岐点になったと言える。
十年後―――。
「樹、早く早く!」
「そもそも、お前が飛行機で爆睡して起きなかったから」
「ごめんて!」
周りの目を気にせず、空港の到着ロビーから二人が飛び出して来た。
僕の傍にいた二人組の女性から、小さな黄色い悲鳴が上がる。通りすがりの男性が二人を二度見。空港内のスタッフまでもが、チラチラと二人を見ている。
「二人とも、こっち!」
僕が手を振ると、二人が言い合いながら駆け寄って来る。
「優紀! ごめんね、優紀もツアーで疲れてるのに、迎えに来てもらっちゃって」
「大丈夫ですよ、僕は三日前には帰って来てましたから」
突き刺さる視線を避けるように、二人を車へと案内する。
「もう皆さん待ってますよ」
「マジ⁉」
「優紀、次のヨーロッパツアーの演出なんだが」
「帰って三十分で次の仕事の話⁉ 少しはゆっくりしようよぉ。久しぶりの日本だしさぁ‥‥あ、温泉とかどう⁉」
車を走らせ、いつもの場所へと向かう。
僕たちは日本に帰ってくると、必ず顔を出す場所がある。
少し寂れた裏路地に駐車し、「本日貸し切り」と小さな札が掛けられた店の扉を開く。
「おかえり!」
小さな熊の獣人が駆け寄ってきて、結くんに抱き着く。
「うわぁ、大きくなったね!」
「僕も!」
結くんと樹くんが、小さな熊の獣人に囲まれる。
「やっと来たか」
高校時代よりも貫禄が出た岳くんが、一番小さな子を抱き上げる。岳くんは高校卒業後、実家の養蜂に専念。高校からお付き合いしていた幸子さんと結婚して、今では五児のパパだ。
「相変わらず、世界中飛び回ってんなぁ」
「蒼真、赤ちゃんもう直ぐだって?」
「まぁな。俺達の結婚式、親戚中で伝説になってんだけど」
「あはは」
蒼真くんは大学に進学。結くんが「一緒にやろう」と誘っていたのだが、そもそもギターをやっていたのは幼馴染の気を引こうと思ってやっていたからと断った。
あの文化祭の後―――蒼真くんは見事、幼馴染の彼女とお付き合いに成功。
三年前に結婚式を挙げ、今は奥さんのお腹に新しい命が宿っている。
実は、蒼真くんの結婚式で樹くんと結くんがサプライズで曲を披露。今や世界的に有名な二人の演奏に岳くんと新郎が参加し、参列した親戚たちが大騒ぎになった。
店の中を見渡すと、いつもの常連たちとなっちゃんが、温かく迎えてくれる。
皆と話しをしている結くんと樹くんの顔が、いつもより少し幼く見える。
ここの空気が、あの懐かしい高校時代に戻ったみたいにしてくれるのだろう。
「そんじゃ、早速やろうか! あ、榊先生は?」
「少し遅れるって。もうすぐ来ると思うよ」
「お前、ツアーで散々歌ったんだろう」
「喉に良い蜂蜜ドリンクあるぞ」
「何やる?」
結くんがマイクを持ち、ニヤリと笑う。
あの日、僕たちで奏でた始まりの音は、十年経った今でも変わらない。
「もちろん‥‥サイダー・ブルーから!」
完
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
「君の歌、君の隣」は、アルファポリス様の方でも掲載させていただいております。
そちらの方では、AIさんに作ってもらった、イメージイラストも載せてあるので、ご興味のある方は覗いていただけたら嬉しいです。
また次の作品も読んでいただけたら嬉しいです。ありがとうございました。




