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テレーゼ院長のセフィロト見聞録  作者: 西風の剣
第13章:農場での新たな取り組み
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第1話:雛鳥たちの農場へのお迎え

 マルクトギルドの問題を解決したあと、現在の農場を更に充実させるために、テレーゼは、マーヤにあることを相談します。

 アンコウ鍋パーティーが終わって数日後、テレーゼのギルド勤務日、昼食休憩時のことである。


 「マーヤ、教えて欲しいことがあるんだけど、マルクトの街で卵を産む鳥の雛って手に入るかしら?有精卵でも良いけど」


 「雛を飼うんですか?」


 「毎日料理に使う卵が農場で手に入らないかなと思って。卵を産むことのできる親鳥でも良いんだけど、折角だから雛が育って大きくなるところを、イーナやアンナたちに見せてあげたいと思ったの。それで、妹たち全員と話をして、もし雛が手に入るのなら農場に迎え入れようという話になったのよ」


 「街の郊外に、放し飼いで鳥を飼っている知人の家がありますので、「庭鳥」の雛か卵であれば、そこで手に入ると思いますよ。その鳥の特徴は羽ばたいても空を飛べないことと、オスは頭と喉元に付いている赤い飾りのような部分が雌よりも大きいので、大きくなるとすぐに見分けが付きます。羽の色は赤茶色や白が多いです。いつも庭にいて地面のエサをついばんでいるのですが、飼い主に懐きやすく、放し飼いをしていても敵に襲われない限りは逃げないことから「庭鳥」と言います。もし良ければ、勤務終了後に一緒に行きましょうか?」


 (話を聞く限り、ほぼ日本にいる鶏と同じみたいだけど、鶏ではなく庭鳥なのね・・・庭にいる鳥だから庭鳥という名前なのは、意味は解り易いけど何か駄洒落みたいね・・・)「ありがとう。よろしく頼むわね」






 ギルドの勤務終了後、テレーゼはマーヤの案内で、マルクトの街の郊外にある農家にやってきた。


 「おばさんいますか?」


 「マーヤかい?今日はどうしたんだい?」


 「この人は、ギルドマスター代理のテレーゼさんです。もし良ければこの人に「庭鳥」の雛か卵を分けてもらえませんか?」


 「初めまして、テレーゼです。自宅で少し農業をやっているんですけど、今度農場に卵を産んでくれる庭鳥を是非迎え入れたいと考えています。日々の食事で使用する卵を手に入れたり、鳥の排泄物を作物の肥料にしたいと思いましたので、マーヤさんにここを紹介していただきました。もちろん代金はお支払いしますので、雌雄で10羽ほど雛を分けていただけないでしょうか?」


 「あの不味い水薬を、あっという間に安くて美味しい粉薬に作り替えた凄腕のお医者さんかい?あの粉薬は家に置いておけば、農作業を頑張って疲れた後とか、何かと使う機会があるからホント助かってるんだよ。ありがとうよ。

 雛なら丁度今育てている所なんだが、親鳥を新しく入れ替える予定だった近所の農家が、鳥の飼養を今後止めるからと、そこに売る予定の雛が余ってしまってねぇ・・・引き取ってくれるのなら大助かりさ。半年も飼ってりゃ、卵を産む立派な鳥に育つよ。あと将来的に鳥を増やすつもりならメス10羽にオスも2羽くらいいたほうが良いから、メス10羽とオス2羽で銀貨1枚でどうだい?」


 「それで構いません。銀貨2枚お支払いしますので、雛を連れて帰るための篭と、雛に食べさせるエサも少し分けてもらえると助かります」


 「篭やエサも買ってくれるのは、うちとしては大助かりさ。しばらくは家の中の、目の届く場所に箱でも置いて育ててやりな。雛を放し飼いすると野犬とか蛇とかに食べられてしまうからね。ところで、篭はともかく、エサはどうやって持って帰るんだい?」


 「身体強化魔法が使えますので、袋に入った状態ならそのまま持ち帰れますので大丈夫です(流石にこの場で物質転移魔法を使うわけにはいかないわね・・・)」


 「こいつは驚いた・・・腕が立つお医者さんは、騎士さんが使うような魔法まで使えるんだねぇ・・・それなら、少し待ってな。雛やエサを用意してくるから。エサは背負子を用意してあげるからそれで持って行きな」


 そう言って農家のおばさんは、テレーゼに渡す品物を準備するため家の方に戻って行った。






 (テレーゼさん、無事に雛が手に入りそうで良かったですね)


 「ありがとう、ティアナ。あとマーヤがいてくれたお陰で、庭鳥の雛を手に入れることができて本当に助かったわ。それも仕事が終わった後に付き添ってくれてありがとう」


 「このくらいのことは、テレーゼさんがこれまでして下さったことに比べれば全然大したことありませんよ。ところで雛の育て方は大丈夫ですか?」


 「昔、祭りの日に両親に買ってもらった雛を、家で飼って親鳥に育てたことがあるから多分大丈夫だと思うわ」


 「それなら良かったです」


 「ところで、もし良かったらこれから家に遊びに来ない?大した物はないけど、確か今日はカレーだったと思うから、今日のお礼に夕飯でもどうかしら?。妹たちが作るのは甘口のカレーで、イーナやアンナもいつもお代わりして食べるくらいだからだから大丈夫だと思うけど、少し辛い料理は大丈夫かしら?」


 「カレーって辛い料理なんですか?初めて聞く料理ですが、子供たちが喜んで食べるのでしたら、とても美味しそうですね。喜んでご相伴にあずかりますね」


 程なくして農家のおばさんが、薄い黄色をした雛鳥たちの入った篭と、エサの入った袋が乗せられた背負子を持って戻ってきたので、その場で鑑定魔法を使うテレーゼ。確認の結果、持ってきてくれたのはとても元気な雛のようだ。どうやら良い雛を選んでくれたらしい。その場で銀貨4枚を渡すテレーゼ。銀貨の支払いが最初の約束よりも多いのは、良い取引をしてくれた農家への感謝の気持ちである。


 「アンタ、うちの雛の良さが解るのかい・・・それに対して当たり前のように気前良くお金を支払ってくれるなんて、ホント気持ちの良いお医者さんだねぇ。雛の育て方で何か困ったことがあったらいつでも言っておくれ」


 「ありがとうございます。また何かあったらよろしくお願いします」


 「おばさん、お世話になりました」






 農家のおばさんと別れ、ある程度農家から離れたところで、転送魔法で背負子を家に送り、マーヤに肉体強化魔法と回復魔法を掛けるテレーゼ。転送魔法を使うことに関しては、ジークリットとマーヤは農作物取引を通して既に知っていることなのに加えて、彼女たちは、ほぼ確実にテレーゼが「導師」の適性(=全属性持ちのこと。第10章第4話を参照のこと)があることも察しているようなので、妹たちや両親に準じた魔法行使が可能なのは気が楽である。


 「身体がとても楽になりました。ありがとうございます」


 「マーヤはこの2つの魔法は使えないの?」


 「残念ながら使えません」


 「それなら、今日の夕食後にもし良ければ覚えてみる?多分マーヤならすぐ使えるようになると思うわよ。魔法を練習していると遅くなるし疲れると思うから、家に泊まって行っても構わないわ」


 「本当ですか?ありがとうございます」


 「マーヤにはいつも本当にお世話になっているし、このくらいは大したことないわ」


 「そんなことはありませんよ。テレーゼさんみたいに魔法をこんなに気前良く教えて下さるような魔法使いは、たとえ師弟関係ですら滅多にいませんよ。

 加えて自分で魔法まで作れるなんて、王都の筆頭宮廷魔導師ですらそんなことはできないですし、その魔法を以前私に快く教えても下さったじゃないですか。教え方も凄く解りやすくて、お陰で私は、誰も知らない「謄写魔法」(第12章第3話参照)という魔法を覚えることができて本当に嬉しかったんですよ・・・」


 (作者注釈:セフィロトでは、魔法使いの弟子は師匠から魔法技術を直接教えてもらうのではなく、見て覚えることが美徳とされている。あまつさえ、魔法使いにとって「飯の種」に等しい魔法技術は、師弟関係でなければ尚更気軽に教えることなどあり得ず、その意味では、テレーゼのように惜しみなく第三者に魔法の知識を教え、教えた相手の成長を楽しむかのような鷹揚な魔法使いは本当に稀である)


 「そう言ってもらえると私も嬉しいわ」


 などと会話を交わしながら、ピーピーと可愛く鳴く雛鳥たちの入った篭を大事に抱えて家路を急ぐテレーゼとマーヤである。






 テレーゼがマーヤに掛けた魔法の効果もあり、普通に歩くよりも早く自宅に到着する2人。自宅にはアリーナ、アンナ、イーナがいて、他の妹たちはまだ農場にいるようだ。


 「ただいま。みんな、遅くなってごめんね」


 「お邪魔します」テレーゼとマーヤは3人に声を掛ける。


 「テレーゼお姉さん、お帰りなさい。今日はマーヤと一緒だったんですね。もうすぐカレーも出来上がりますよ。ところで、その雛は庭鳥ですね。先日のテレーゼお姉さんの話にもありましたが、この子たちを農場で飼うんですか?」


 「ええ。マーヤには、農場で飼うための雛を手に入れるために農家を紹介してもらったのよ。アリーナ、今日の夕食はマーヤの分もお願いね」


 「わかりました」


 「アリーナさん、街に住んでいた頃よりも元気そうですね」


 「テレーゼお姉さんに病気を治してもらっただけでなく、その後も娘共々私たちを本当に護ってくれますから」


 「本当に良かったですね」


 アリーナと永年の知己であるマーヤは、旦那や父親という一家の大黒柱を喪ってから苦労続きであったアリーナ母娘が、日々幸せに暮らしていることを改めて確認できて嬉しそうである。


 「テレーゼお姉ちゃん、お帰りなさい♪わー、ひよこさんたち可愛い♪」


 「このひよこさんたち、テレーゼお姉ちゃんが前に話していたようにお家で飼うの?」


 「ええそうよ。イーナとアンナもひよこさんたちのお世話、お手伝いしてくれるかな?」


 「わーい♪イーナはアンナと2人で頑張るの♪」


 「イーナちゃんと一緒に、ひよこさんたちを一杯お世話する!」


 「2人ともありがとうね。もちろん私たちも、2人と一緒にひよこさんたちのお世話をするわよ」


 黄色い毛玉が寄せ集まったかのような可愛らしい庭鳥の雛たちを見て、イーナとアンナが飼育を頑張ってくれるようだ。テレーゼ姉妹の農場は、現在農作物の栽培・収穫と、ポーションやジャム作成などの加工を若干行っているが、今日農場に仲間入りした雛たちが大きくなって放し飼いできるようになれば、今以上に充実して行くだろう。少しずつ成長していく農場とともに、妹たちと一緒に過ごす近未来はきっと楽しいに違いない・・・と、強い期待を感じるテレーゼである。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


 テレーゼ姉妹の農場に新たな仲間が加わりました。イーナやアンナがお世話を頑張ってくれるようなので、今後の成長が楽しみですね。


 作者の幼少の頃、父方の祖父母や伯母宅の庭先に、地鶏と呼ばれる濃い赤茶色をした鶏たちが飼われていたことを思い出します。本章は、そのことを思い出しながら綴りました。


 次話は、マーヤを迎えての夕食と、マーヤの魔法練習の話です。

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