第3話:テレーゼの両親と若返り再び
テレーゼに会いに来たテレーゼの両親。
妹たちの想いに応え、テレーゼはみんなで両親と会うことにします。
農場運営の成功により、安定的に9姉妹が食べていくのに困らない状況を整えることができた、そんなある日の朝のこと。
「テレーゼちゃん、いる?」と、勝手口のモニター機能付きインターフォンから、容姿や雰囲気など全体的にテレーゼとよく似た女性の声が聞こえてきた。女性の後ろには女性よりやや背が高く、女性と同様にテレーゼと全体的な雰囲気がよく似た男性の姿も見える。
「テレーゼ姉さん、誰なんだ?」と、アデリナ。
「私の両親よ。私たちの方から両親のところに行くつもりだったけど、ここしばらく農場の収穫作業とかで忙しかったからその暇がなかったわね」と、テレーゼ。
「私たち、ここにいても良いんですか?」と、心配そうなカトリナ。
「ティアナ、カトリナ、アデリナ、ヘレナ、イーナには、旅行のあとで私の気持ちを話したと思うけど、私の自慢の妹たちを何で両親から隠さなきゃいけないのよ。その気持ちは今だって同じよ。ただ、あなたたちを紹介する中で、あなたたちがセフィロトという他所の世界の国に住んでいる妹たちだというのは話そうと思うんだけど、もし紹介されるのが嫌なら、話が終わるまで農場とかに出ていても構わないわ」と、テレーゼ。
「姉さん、私は、いや私たちは姉さんのお父さんやお母さんに会って話がしたい」
「テレーゼ姉さん、お願いだ!アタシをぜひ姉さんの父さんと母さんに会わせてくれ!」
「ヘレナとアデリナも口にしましたけど、私たち、テレーゼお姉さんのご両親に紹介してもらえると聞いて、凄く嬉しくて幸せだったんですよ。私たちは今更怖がったりしませんから」
「イーナも会いたいの!きっと仲良くなれるの♪」
「アンナも、イーナちゃんと同じ気持ちなの!アンナたちのことを知って欲しい!」
「アンナの言うとおりです。もしテレーゼさんがご迷惑じゃなければ、私たち妹全員をご両親に紹介して下さい」
「私も妹たちと同じ気持ちです。私は元々人間じゃない上に、生身の身体ですらないんですけど、それでも胸を張ってテレーゼさんと一生一緒にいたいという気持ちを、ご両親に知って欲しいと思うんです」
「ティアナ姉さま、私も植物の精霊ですから似たようなものですよ。姉さま、みんなでご両親にお会いしましょう」
ヘレナ、アデリナ、カトリナ、イーナ、アンナ、アリーナ、ティアナ、ペルレが、テレーゼの両親に自分のことを知って欲しいという全員の想いを、長姉であるテレーゼに訴えかけてきた。テレーゼも改めて腹を括ることにした。
「わかったわ。今から両親を家に入れるわね」と、テレーゼは勝手口に向かう。
勝手口の扉を開けると、「テレーゼちゃん、久しぶり。元気だった?近頃全然逢いに来てくれないから心配したのよ」と、テレーゼの母親であるテレージアがテレーゼに抱きつきながら話し掛けてきた。
「テレーゼ、元気にしてたか?」と、テレーゼの父親である剛史がテレージアに続けて話をする。
「ごめんなさい。ここしばらくずっと忙しかったから。私は元気よ。2人とも、元気にしてた?良ければ家に上がって。紹介したい人たちがいるから」と、テレーゼ。
「お邪魔するわね。テレーゼちゃんの紹介したい人って誰かしら?」
「テレーゼの友達が遊びに来ていたんじゃないのか?もし都合が悪いのなら出直すぞ」
「大丈夫よ。友達というか、私の大切な妹たちよ」と、テレージア、剛史、テレーゼの3人は、妹たちのいる居間に入る。
「あら、全員可愛い娘さんたちね♪あと、妖精さん?いいえ、この娘は精霊さんね♪初めまして。私、テレーゼの母でテレージアと言うの。みんなよろしくね♪」
「私はテレーゼの父で剛史という。テレーゼが仲良くしてもらってるようで、とても嬉しく思う。多分私たち夫婦とはいろいろ「違う」んだろうけど、そんなことは関係なく娘と深い縁を結んでくれているようで、心から感謝する。これから娘共々よろしく頼む」
テレージアと剛史が妹たちに、それとわかるくらい好意的に挨拶する。
「初めまして、テレーゼ姉さんの父さんと母さん。アタシは姉さんと一緒に暮らしているアデリナです。話には少し聞いてたんだけど、やっぱり姉さんの両親だけあって、2人とも姉さんによく似てるし、まるで姉さんが2人も増えたみたいだよ。姉さんと初めて逢って、何の見返りも求めずその場で骨折を治してくれたのと同じくらい、アタシびっくりしたよ」
「姉さんの妹のヘレナ、です。姉さんには、アデリナやカトリナと一緒にギルドの依頼を何とか終えてボロボロになってた私たちを家にあげてくれて、その上暖かいお風呂やご飯まで用意してくれて、その後アデリナもだけど、魔法が使えなかった私たちを、魔法が使えるように回復魔法で治してくれた。こんな凄い人なのに、私たちに凄く優しい姉さんみたいな人は、絶対に他にはいない。心の底から一生付いて行きたいと思ってる」
「初めまして、お父さん、お母さん。私はカトリナと言います。アデリナやヘレナと同じパーティーを組んでいて、テレーゼお姉さんに本当に良くしてもらっています。あと、お父さんがお気づきのとおり、私たちは地球人ではなく、セフィロトという別の世界の国にいて、お姉さんが私たちの世界に来てくれて逢うことができました」
「イーナだよ♪元々キラーグリズリーっていう熊だったけど、テレーゼお姉ちゃんに魔法で人間にしてもらって、毎日みんな一緒に楽しく暮らしてるの♪」
「初めまして、テレーゼさんのお父さん、お母さん。私はイーナの母でティアナと言います。森で命を失った私は、縁があってテレーゼさんと母娘一緒に暮らすようになりました。テレーゼさんからは、イーナ共々名前を付けてもらったのですが、そのことで私たちの心の繋がりが強くなったんだと思います。そして、私とイーナがずっと幸せに暮らして欲しいと言ってくれて、テレーゼさんは我が身の危険を一切省みず、自らの心と身体の中に私を受け容れてくれました。そして今は2人で一緒に生きています。テレーゼさんと出逢えたことは、母娘とも本当に涙が出るくらい嬉しくて、日々幸せを感じています。そんなテレーゼさんがこの世に居る限り、ずっと一緒にいたいですし、いなくなるときには、私も一緒に連れて行って欲しいと心底思っています」
「アンナ、テレーゼお姉ちゃんに街で左手を治してもらったの。そして前に住んでた家がなくなったとき、テレーゼお姉ちゃんが一緒に暮らそうと言ってくれて、本当にうれしかったの!テレーゼお姉ちゃんはいつもすごく優しいし、アンナとても幸せなの!」
「お父さん、お母さん、初めまして、テレーゼさんの妹のアリーナです。街でテレーゼさん・・・お姉さんに娘のアンナを助けてもらったばかりでなく、教会や病院ですら治せなかった、私自身の「気管支喘息」というとても重く苦しい病気を、お姉さんの魔法で完全に治してもらえたんです。更に、家賃が払えず家を失った私たち母娘を受け容れてくれて、日々護ってくれています。私はお姉さんは、教会で話を聞く豊穣の女神様である、地母神様の化身だと言われても信じられますし、そのくらい心底お姉さんを慕っています」
「私は、ペルレです。私が鉢植えのエケベリアだった時に、お父さまとお母さまから、施術室でお水をかけてもらったことがあるんですよ・・・私は、姉さまにずっと逢いたかったんですけど、セフィロトに来て、その想いと姉さまの強い魔力が合わさって今の身体を得られたんだと思います。それで姉さまに逢うことができました。お母さまの言うとおり、私はペルレフォンニュルンベルクという植物の精霊です」
アデリナ、ヘレナ、カトリナ、イーナ、ティアナ、アンナ、アリーナ、ペルレが、交代でテレーゼの両親に自己紹介をする。豪胆さでは間違いなく人後に落ちないどころか卓越している剛史とテレージアも、口々に娘の善行と娘への強い想いを伝えられて、相当驚嘆したというのが正直な話であるが、同時に娘と同じく、他人の感情や善悪に聡い2人は、娘と彼女たちとの良い出逢いを、心底喜ばしく思っていた。
もっともテレーゼは、「お父さん、お母さん、それよりも私は見た目で30歳くらい若返ってるんだよ!そっちのほうは全然驚かないの?」と、そのことに対しては小揺るぎもしない両親にツッコミを入れる。
「そんなの、テレージアの若い頃とうり二つだし、第一若返ったくらいで我が子を解らなくなるくらいの薄っぺらな親子関係ではないつもりだぞ」
「剛史さんの言う通りよ。テレーゼちゃんが若返ったなんて、羨ましいを通り越して凄いわ!何をやったらそんなことになるの?」
妹たちを護ることに掛けては本当に豪胆かつ一生懸命なテレーゼ、そんな彼女の両親だけのことはある・・・薄々ではあるが、自分たちの正体を出逢った直後から看破していた眼力や、そんな未知の存在をテレーゼと同様に躊躇なく受け容れてくれた懐の深さ、自分の娘が若返ったと知っても動揺一つしないほどの肝の据わり方・・・まさにテレーゼの両親だと、心底納得させられるレベルの似たもの親娘ぶりで、2人とも間違いなく只者ではない・・・妹たちは全員心底驚嘆しながら、このやりとりを聞いていた・・・
テレーゼは、簡単に自分がセフィロトに来た経緯や、若返った経緯などを説明する。そして、「ところで、私のことよりも・・・お父さんとお母さんが、家に入る前よりも、相当若返っているように見えるのは、気のせいかな?まるで私が、お母さんと2人でドイツから日本に帰国した頃を思い出すんだけど・・・」と、気になっていたことを口にする。
2人が家にやって来て1時間も経たない間に、どちらも30代後半~40歳の容姿になっていた。身近な知人・友人では、マルクトの街のギルドマスターであるジークリットと、ほぼ同年代かやや若いくらいに見える。もっとも、娘や妹たちのことに夢中で、自分たちのことは、娘に言われるまで気付かなかったようだ。
「姉さま、おそらくですが、姉さまがいつも身につけているティアナ姉さまの魔石に潤沢に蓄えられた姉さまの魔力が、強力な若返りの力としてお二人に働いたんだと思います。ですから、お二人は間違いなく若返っていますね。肉体年齢は外見と同じく、30代半ば~40歳相当に若返っているようですし、寿命も若返った分は確実に延びていると思いますよ。本来魔法が使えない日本にあるこの部屋で、こんなことが起こったこと自体凄く驚くべきことだと思います。
但し、若返りのような魔力は、その魔力を抵抗なく受け容れられる親しい関係の相手にこそ強い効果を発揮することと、常時姉さまの魔力に包まれ護られている私たち妹の場合、ほぼ全員が成人になったばかりか幼児で、少なくとも姉さまと同じ以上の年齢でないと、魔力の効果は発揮されないんだと思います。ですから、他の人が同様に若返るのかと言われると、凄く疑問ですね。
最後に、お二人が若返った経緯ですが、おそらく姉さまが、元々高齢のお父さまとお母さまの身を案じていて、無意識に若返って欲しいと強く願ったからだと思いますよ」
テレーゼの疑問にペルレが答える。魔力はテレーゼには靄のように感じる程度であるが、ペルレは精霊の持つ力によるものかは不明だが、はっきり目視でき魔力の効果もある程度解るようだ。
「お父さん、お母さん、姿見が隣の部屋にあるから見てきたら?」と、テレーゼは両親を隣の部屋に案内する。
隣の部屋から、姿見を見た両親(特にテレージア)の、いかにも興奮したような声が聞こえてきた。
「自分が若返ったのもびっくりしたけど、それ以上に剛史さん、若返ってますます格好良くなったわ!惚れ直したわ♪イッヒリーベディッヒ!」(ドイツ語の「アイラブユー!」)
「テレージア、元々年齢より若く見えたけど、今は若く見えるんじゃなくて、私も含めて本当に若返ったんだな。テレーゼの姉と言っても普通に通じるだろうな。イッヒアオ」(ドイツ語で「私も」と、同意を意味する。もちろん、テレージアの求愛の言葉に応えての返事である)
「あら、若返ったのを誉めてもらえて、私の求愛にも応えてくれるなんて、二重に嬉しいわ♪あと、テレーゼとテレージアは、元々殆ど同じ名前とされているんだし、テレーゼちゃんの姉って・・・凄く良い響きだわ!」
などと、ノロケも混じったテレージア&剛史の会話。娘や自分のみならず、最愛の旦那が若返ったテレージアのテンションは、いろいろと限界突破した模様である。
「これって、私が自覚なしに勝手に両親を若返らせたことになるけど、本当に良かったのかしら?」
「良いに決まってるわよ!今日からテレーゼちゃんの姉みたいな母親・・・凄く良いわね♪こんな親孝行の娘がいてくれて、私は本当に幸せだし凄く感謝しているわ。あと、テレーゼちゃんの大事な妹たちなんだから、私たちにとっても娘たちね。こんなにたくさん娘が増えて嬉しいわ♪」
「テレーゼ、本当にありがとう。いつテレージアを置いて先にあの世に逝ってしまうのか、最近は時々考えてしまっていたからな。あと、テレージアの言う通り、テレーゼが我が身を賭して全力で護っている妹たちなら、私にとっても大事な娘たちだ。今度みんなで家に遊びに来なさい。心から歓迎するぞ」
「ありがとう、お父さん、お母さん・・・」
テレーゼの疑問に、テレージアと剛史が謝意を示す。加えて、妹たちのことも心から受け容れてもらえた。そんな両親の娘であることが心底嬉しくて誇らしくて・・・いろいろと張り詰めていたテレーゼは、約40年ぶりに母テレージアの膝の上で号泣するのだった・・・それを優しく抱きしめ、日頃テレーゼが妹たちにするように、テレージアは優しくテレーゼの頭を撫でている・・・そんな最愛の妻と娘を、剛史は少し照れくさそうに見つめていた。
長姉テレーゼと父母の、心温まるやりとりを見ている妹たちの目にも涙が浮かんでいる・・・とても優しく暖かく幸せな家族の一コマである。
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
テレーゼの妹たちが剛史とテレージアに好意的に受け容れられて何よりです。流石にテレーゼの両親だけあって元々一廉の人物であることは間違いないのですが、テレーゼが無意識に若返らせたことで、ある能力を得て更にパワーアップしています。そのことについては次章以降で明らかになると思います。
次話は剛史&テレージアとその娘たちとの心温まる交流がメインの話になります。




