第2話:ギルドの協力とペルレの成長
農場運営を本格的に始動したテレーゼ姉妹は、諸事情を熟慮した上で農作物販売をギルドに委託します。また、末妹のペルレが短期間でとても頼もしく成長しますが、そんな彼女ならではの悩みがあるようです。
農作物の出荷に関しては、姉妹全員で熟慮の上、マルクトの街のギルドに協力を仰ぐことにした。ギルドも、有望な新事業による収入の増加は大歓迎であり、ギルドマスターのジークリットや、テレーゼ姉妹パーティー専属担当ともいえるマーヤからも全面的支援を得ることに成功した。
「テレーゼ、このイチゴという果物、今まで見たことも聞いたことも食べたこともないくらい美味い!あと、この焼き芋もとても美味い上に1人ではとても食べきれないくらいの大きさなのが凄い!ぜひギルドにも計画に加わらせてくれ!決して私がイチゴや焼き芋を娘のジークリンデと一緒に食べたいから、という理由だけじゃないからな!」
「テレーゼさん、このイチゴと芋は、本当に野菜なんですか?こんな甘くて美味しいものを生み出せるなんて本当に凄すぎます。その他の野菜も、マルクトの街の野菜と比べるまでもなく十分高級品ですから、私としては今後全面的にテレーゼさんたちに協力を惜しみません。ギルドマスター、良いですよね?もっとも答えは決まっているでしょうけど」と、ジークリット&マーヤ。特にジークリットは本音がだだ漏れである。
前述のジークリットとマーヤの感想のとおり、試食用として2人に提供したテレーゼ謹製の超大型イチゴ&唐芋の焼き芋が、2人から、というよりはギルドマルクト支部の全面的支援を得られるに至った不動のMVPである(但し、「M」と「V」はともかく、「P」((人間の)プレイヤー)ではない。イチゴと唐芋なので)。
手数料が引かれる分、実入りが少なくなり損になるのでは?と思われるかも知れないが、それ以上に、あらゆる政治的権力から独立した組織であるギルドが、テレーゼ姉妹の後ろ盾になってくれることで、野菜の直接的な出荷先をギルドに一本化でき、その結果、街の住民生活に根強く関わっているギルドに、販路の開拓を一任できる。
加えて姉妹への第三者(特にマルクトの街の権力者や富裕層)からの干渉を、ほぼ完封できることが非常に大きい。
出荷は、テレーゼとペルレが空間魔法から派生した物質転移魔法を用いて、商品に送り状を付けて人の往来を介さず、ギルドの倉庫に直接納入できるため、農場やテレーゼ姉妹の関与を知られる危険性が皆無と言って良く、二重に安全である。
主にテレーゼの手による品質が最高級の野菜が、マルクトの街の上流階級を中心とした層に認知されるようになり、一方で、テレーゼやペルレが成長魔法を使わずとも、妹たちが時間を掛け自然に任せ丁寧に栽培した、上質かつ比較的廉価な野菜は一般庶民向けに流通するようになり、住民全体の食生活にも好影響を与えるようになった。テレーゼ姉妹の農場運営は、完全に軌道に乗ったといえる。
一方で、月に数日は冒険者稼業を、一心同体のテレーゼ&ティアナを含めて、姉妹で4人ずつローテーションを組んで行い、留守番をするメンバーで農場管理を行うことにした。姉妹全員の冒険者としてのスキル維持、冒険者になって間もないテレーゼ(ティアナ)、イーナ、アリーナ、アンナ、ペルレへの技術指導と実戦経験の蓄積(いわゆるOJTである)、多角経営によるテレーゼ姉妹一家の収入安定化、などの理由による。
アリーナとアンナには幸い魔法の素養があり、訓練の結果、数種類の魔法が使えるようになっている。また、アデリナ、カトリナ、ヘレナ、イーナ、ペルレも、火炎放射魔法や冷凍魔法や飛行魔法など、妹同士で教え合いながら、テレーゼが開発した数種類の合成魔法を習得するなど、全員魔法上達が著しい。
「ヘレナ、アタシもやっと冷凍魔法を覚えたから、これでますますテレーゼ姉さんの役に立てるぞ!」
「アデリナの冷凍魔法は全体的にまだ粗い。猪のアデリナには、まだ解体した魔物の冷凍は任せられない。もっと練習して!」
「ボアって何だよ!ヘレナはアタシの火炎放射魔法を、まだ覚えてないじゃないか!」
「覚えてないっていつの話?昨日使えるようになった。これで討伐魔物解体後の後片付けは、アデリナがいなくても大丈夫」
「2人とも、そんなことで口論しないの。優しいテレーゼお姉さんが見たら悲しみますよ」
「ごめん・・・」「ごめんなさい・・・」と、アデリナとヘレナの会話を仲裁するカトリナ。
元々冷凍魔法は、別格であるテレーゼを除くと、ヘレナが一番の使い手であったが、出力はともかくとして魔法自体は妹全員が習得するに至り、ギルドに納入する討伐魔物の品質が向上した結果、報酬増額に少なからず寄与している。
テレーゼの妹たち全員、姉のテレーゼを強く見習って各自技量を磨いていたが、特筆するべきは、一番末妹のペルレが、短期間でサブリーダーのカトリナに勝るとも劣らない現場指揮官としての能力を開花させたことである。実のところ、テレーゼと時間的付き合いが最も長いのは彼女であるため、ある意味納得できることかも知れない。
その時々の状況に応じてテレーゼの過去の行動や思考を思い起こし、それを自分なりに熟慮して自分の糧として昇華することで、いわばテレーゼの分身や名代ともいうべき行動ができるようになったのである。とある宇宙の戦争で、民主主義国家に属する知略に秀でた将帥の養子が将帥の言動から学びを得て、いつしか将帥の分身や名代のように成長していき、将帥の急逝後は勢力の実質的代表を務めたことと少し似ているかも知れない。
そんな頼もしいペルレに対し、特にテレーゼ、ティアナ、カトリナといった上の姉たちは強く期待しており、彼女の判断を尊重して、極力彼女がフリーハンドで動けるよう配慮していた。
但し、ペルレが能力を開花させるほど、いわば別働隊のリーダーとして、テレーゼと一緒に行動する機会が確実に減少するため、ペルレがテレーゼたちの意図と自分への期待は強く理解していても、テレーゼを心底敬慕しているペルレは、次第に落ち込むようになった。
「ペルレは、最近は姉さまと一緒にお仕事が全然できないです・・・もっと姉さまと触れ合いたいです・・・」
「ペルレ、あなたが何でもそつなくできるから、つい甘えていたわ。本当にごめんね・・・しばらくの間、私と一緒にいてくれるかな?それで何か気付いたことがあったら、どんどんアドバイスしてちょうだい」
「ペルレ・・・テレーゼさんだけでなく、あなたが一番末の妹だと思えないくらい優秀だから、ついあなたに頼り切りで、姉の1人として申し訳なく思います。これからはなるべくみんなで、もう1人のリーダーを分担しましょう」
「テレーゼお姉さん。これからは、最低でもペルレと私が交代で、テレーゼお姉さんと一緒に仕事するようにしてはどうでしょうか?」
「姉さま、ティアナ姉さま、カトリナ姉さま、ペルレのために本当にありがとうございます。姉さまとしばらく一緒にいられるなんて、本当に幸せです。姉さま♡」
姉妹全員で議論を行い、カトリナとペルレが交代で、テレーゼと一緒に行動することが決まり、ペルレが目に見えて元気になったことは幸いであった。
あとパーティーの組分けの際、イーナとアンナは極力一緒に行動させることにした。イーナの人間換算の年齢がアンナとほぼ同じで、特に仲良しというのもあるが、別々に行動させるよりも一緒のほうが、いざというとき護りやすいという理由である。但し、いくら子供とは言え、元々キラーグリズリーだったイーナが並の相手に後れを取ることはまずないので、結局のところは、仲良しの幼い2人の妹たちを、極力一緒に行動させてあげたいという、姉たちや末妹ペルレの優しさである。
(農業をやるようになって、元々才能に溢れていた妹たち全員が、ここしばらくの間に、ますます頼もしくなって本当に誇らしく思うわ・・・姉である私も、もっと自分自身を磨かなきゃいけないわね・・・)と、決意を新たにするテレーゼである。
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
ツンフトマイスター(ギルドマスター)のジークリットは間違いなくマルクトの街のビッグガン(大物)であり、有能と評されるマルクト領主と対等に渡り合えるだけあって初代に迫るレベルで有能な人物ですが、良い意味でフランクな、もっと言うなら娘のジークリンデ絡みになると人間味溢れるところが作者は好きです。そんな彼女と事務処理能力に長けた副官タイプの受付嬢マーヤは本当に良いコンビだと思います。
あと、ペルレがここまで頼もしい存在になるとは、(例えば、魔法の能力や、前話で出て来た九九は、テレーゼと一心同体のティアナとともに既に使えたりと、元々妹たちの中でも能力的に抜きん出てはいましたが、そういったことを除いても)正直な話、作者もびっくりです。ペルレの急成長とテレーゼとの関係性は、作中で触れたとある知略に秀でた将帥とその養子に近しいものですが、登場人物の誰かが、特にテレーゼがこの世界から欠けてしまうということは間違ってもありませんので念のため申し添えます。
次話は、テレーゼにとって妹たちとともに最も身近な人たちが登場します。




