第110話 女子会
スポーツ交流会後はカーネリア様に連れられ、ブーランジェ公爵屋敷でのお泊り会だ。
「女子会」と呼ばれるものらしい。
参加者はカーネリア様と特に親しいご令嬢たち5人。
まずはいつものメンバーであるペタラ様に私、リチア様。リチア様は学院では1つ上の学年だが、ちょくちょく一緒に昼食を取っている。腐った趣味は相変わらずだ。
ヴァレリー様とは水霊祭の時以来仲良くしているのだそうだ。同じ公爵令嬢だし、趣味も合うらしい。
また、先輩とも短期間でだいぶ親しくなったようだ。こちらは騎士課程同士で気が合うのだろう。
用意された馬車に乗って屋敷に到着すると、ブーランジェ家の長男であるアラバンドとその夫人が出迎えてくれた。
公爵夫妻は今お出かけ中で、夕方まで帰らないらしい。
「皆さん、ようこそ。いつも妹が世話になっているね」
「お部屋の用意はできていますから、どうぞゆっくりなさっていってくださいね」
「ありがとう、お兄様、お義姉様!」
兄全員から可愛がられているカーネリア様だが、この兄嫁との仲も良好なようだ。
それからカーネリア様の案内で屋敷の中を見せてもらった。
さすが公爵家だけあって敷地は広く、離れには修練場がある。主に屋敷に詰めている騎士たちが修練するための場所だが、カーネリア様も昔からよくここで鍛えていたのだそうだ。
「小さい頃は、スピネルお兄様もここで剣を振っていたのよ。私はあんまり覚えてないし、今じゃめったに来てくれないけれど」
夕焼けで赤く染まり始めた修練場を眺めながら、彼女が言う。
「昔から飛び抜けた剣の才能があったって、上のお兄様たちは言っていたわ」
「そうでしょうね…」
スピネルの才能は、魔術師である私の目から見ても明らかだ。
剣の名門であるブーランジェ家の者の目には、幼いうちでもはっきりと分かっただろう。
「僕はこの前、お城で剣聖ペントランド殿に会う機会があったんだけどね。スピネル君ならいずれ剣聖の名を継げるだろうって言っていたよ」
「まあ」
「すごいですわね!」
スフェン先輩の言葉に皆が目を丸くした。
あのご老人がそこまで言ったのか。あの人、学院卒業後の殿下でもまるで敵わなかったくらい強いのに。
「やっぱり…!さすがお兄様だわ」
カーネリア様は誇らしげに頬を紅潮させた。
「本当にカーネリア様はスピネル様の事が大好きですねえ」
ヴァレリー様が微笑むが、カーネリア様は少しだけ唇を尖らせる。
「…好きだけど、でもちょっと妬ましいわ。お兄様の才能が」
「そうですね。妬ましく思うの、私もわかります」
同意すると、皆が驚いて私を振り返った。
「え、リナーリア様も?」
「リナーリア様は魔術の才能がお有りでしょうに」
「そうですわ」
皆口々にそう言ってくれるが、それは誤解だ。
前世での経験に今世での修練を上乗せしているから、人より優れて見えるだけでしかない。その事にどうしても引け目を感じてしまう。
「私の才能なんて大したものではないですよ。…でも、スピネルの剣の才能は本物です。それに、何と言ったら良いんでしょうか…才能そのものと言うより…」
上手く表現する言葉を探し、前世のスピネルの事を思い出す。
彼が学院を卒業する日、図書室で交わした会話。
王都を離れると言う彼は、今世よりも少し飄々とした雰囲気で…しかしどこか、つまらなさそうに見えた。
「持って生まれたその才能を、最大限に活かす場所を得られた。その事が羨ましいです」
それを聞いたカーネリア様が眉を寄せる。
「…それってつまり、お兄様が王子殿下に仕えてるのが羨ましいってこと?」
「まあ、そうとも言えますが…」
その才を正しく発揮できるなら別に殿下の元でなくても良いと思うのだが、でも殿下の元が一番発揮できそうな気がするし、私としても殿下の元にいてほしいし…。
やはり上手く表現できなくて、私は言葉を途切れさせた。
「でもきっとスピネル自身も、殿下に仕えられる事を幸せに感じてるんじゃないかと思います」
前世の彼とは別に親しくなかったし、個人的に会話を交わしたのはあの時くらいだ。でもやはり、今世の彼の方がずっと生き生きしているように見える。
それはただ立場が変わったからではなく、やはり殿下の影響だと思うのだ。
「…そうね。そうかもしれないわ」
カーネリア様も心当たりがあったのか、小さくうなずいた。何となく、少し複雑そうだが。
「でも、リナーリア様が羨ましがる必要なんてないと思いますよ」
「そうよねえ。リナーリア様はお兄様が出来ないことが出来る訳だし」
「それはまあ、魔術はスピネルより出来ますけど」
あとは勉強くらいかなあ…。でもスピネルだって成績良い方だしな。
大概の事は上手く出来る奴なので、私が明確に優っているのは本当に魔術だけだ。悔しい。
「うふふ、そうじゃなくてもっと他にありますよ、きっと。リナーリア様だけが王子殿下に出来る事」
ペタラ様がにこにこ笑う。
「ありますか?そんなの」
なんだろ。何があったかな。首を捻りながら考え込む。
あ、一緒にカエルの観察をすることか?
すると、カーネリア様がジト目になって私を見た。
「多分だけど、今リナーリア様が考えてる事ではないと思うわ」
「そうですわね…」
「そうだね」
「…ええ!?」
その後間もなく公爵夫妻が帰宅したらしく、晩餐へと呼ばれた。
あのブーランジェ公爵と晩餐など前世以来だ。
思わず緊張してしまったが、公爵夫人はカーネリア様によく似たとても朗らかな方で、あれこれと明るく話題を振ってくれるので助かった。無口なブーランジェ公爵とは対照的だ。
公爵には以前ナイフをいただいたお礼を言いたいのだが、皆の前で言っていいか分からないので我慢だ。帰るまでに言う機会があると良いのだが。
そして、ここでもやはり私と先輩の武芸大会の話題になった。
公爵夫妻も、息子のスピネルが殿下と共に出場しているあの決勝を見に来ていたらしい。
「本当に見応えのある大会だったわ。あの子はちょっと情けなかったけど…」
「いえ、とても手強かったですよ。普通に戦っていたらきっと勝てませんでした」
実の母にまで呆れられているスピネルはちょっと可哀想で、私はやんわりとフォローを入れる。
スピネルにはちょっと油断した隙に私の氷狼を斬り捨てられた。彼でなければああも鮮やかに倒せはしなかっただろう。
しかし夫人は「それはどうかしら」と言い、公爵はむっつりとする。
「あれは甘すぎる」
うーん、やはり公爵は手厳しい。
しかし不思議なことに、あの武芸大会以来、女子からのスピネル人気は鰻登りのようなのだ。大会後の学院人気ランキングではなんと1位になっていた。
何でだよ。そこは殿下だろう。優勝だってしたのに。どうもスピネルに同情が集まった結果らしいのだが、いまいち納得いかない。
ちょっと情けない所が逆に良いとかだろうか?分からん…。
美味しい晩餐をご馳走になった後は、皆でトランプを楽しむことになった。
「ゲームは何にしますか?」
「皆でやるなら、ババ抜きとか神経衰弱とか…」
「神経衰弱はだめよ。リナーリア様が強すぎるわ」
「まあ、そうなんですか?」
「はい。得意です」
私は神経衰弱というゲームが非常に得意である。単純に記憶力が物を言うからだ。
カーネリア様などご令嬢たちとも何度かやっているのだが、私の勝率が高すぎてついには出禁令を出されてしまった。
前世で殿下などと一緒に遊ぶ時も、こればかりは私がほぼ100%勝っていたなあ。
「じゃあ、まずはババ抜きにしようか。これはシンプルだけど駆け引きもあって意外に奥が深いからね」
そんな先輩の意見が採用されババ抜きになったのだが、先輩はかなり手強かった。
カードを引く際あれこれ表情を変えるのだが、これが演技なのかそうでないのか全く分からないのだ。
惑わされないよう勘で引くしか無いが、そうすると人数が多い事もあって意外にカードが揃わない。特に後半は結構白熱した。
「…それじゃ、そろそろ着替えてベッドに入りましょ」
「はい」
女子会というのは、眠る前には皆でベッドの中でおしゃべりをする決まりらしい。
そのためにわざわざ大部屋にベッドを運んで集めたんだそうだ。
話題は当然のように恋話になった。
このメンバーの中で恋人がいるのはリチア様(実はちゃんといる。驚いたことに)とペタラ様だけなのだが、カーネリア様もヴァレリー様もその手の話に興味津々なのだ。
特に盛り上がったのはペタラ様とストレングの馴れ初め話だった。なかなかに面白かった。
ちなみにヴァレリー様はてっきり殿下が好きなのだろうと思っていたが、特にそういうつもりはなく、積極的に行く気はないのだそうだ。それよりも今は、秋からの学院生活の事で頭がいっぱいだという。
まあ彼女なら相当モテるだろうし、今から焦る必要などないのだろう。殿下以上の男性などいないと思うのだが…。
私は話のネタも少ないし概ね聞く側なのだが、聞いているだけでも意外に楽しいし、皆が楽しそうにしているのも嬉しい。
友達がいるって良い事だな…としみじみ思う。
前世ではろくに友達がいなかったので、友情の温かさというのは今世で初めて知った気がする。
こんな集まりができるのはきっと学生である今だけなのだろうが、こういう関係はこの先も大切にしていきたいな、と思った。




