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ep.2

9/10


……何故だ! どうしてこんなことになってしまったのだ!!











「何が……何が起こっている……!」



男は震えた手でリモコンをとると、慌ててテレビのチャンネルを回した。

画面の人物やレイアウトは変わるが、どの局でも同じ内容が放送されている。



『謎の技術を使っての犯行か!? 大手の〇〇銀行から大金が盗みだされる』


『被害総額はおおよそ7億円とみられている』


『犯行は今なお続いており——』


『被害は拡大。金庫を開けず(・・・)の犯行に警察も手が出せない模様』




何が、何が起こっているんだ。


男は状況が理解できなかった。否、理解したくなかった。


しかしそれは明白なことである————自身の発明品が使われた犯行であると。





男が開発したとある装置————『空間瞬間移動装置』


その名の通り、離れた地点に瞬間移動できる装置である。

これを使えば某アニメのドアの形をした装置のごとく瞬間移動できてしまうのだ。



テレビでの言葉、『謎の技術』、『金庫を開けず』……なにより男は今日見てしまったのだ。

研究室から装置が盗まれたことに。





「何故……」


何故あの装置の使用法を知っている。いや、そもそも何故装置の存在を知っている?

装置はまだ誰にも知らせてない。誰も知っているはずがないのだ。

知っていてはおかしいのだ。



『犯人グループは今だ特定できず……』

『そもそも単一犯かグループでの犯行かさえ……』



そして、どうして盗みだせた?

あの研究室には幾重のセキュリティシステムを仕掛けている。

指紋、虹彩、網膜、静脈、音声、筆跡を用いる生体認証システムも勿論導入している。

悪用されたら大変だとセキュリティを磨いて磨いて管理していたというのに。

何故入ることができた?

これではまるで——研究室にいきなり現れて持ち去っていったようではないか。

しかも最新のセキュリティを通りぬけて。


最も奇妙なのは……何故画面に映っていない(・・・・・・)



『速報が入りました!』



動転したアナウンサーの声で男はハッとした。

視線は自然とテレビの画面に向く。



『××総理が……自宅にて何者かに殺害されました』

    『カメラ! カメラ急いで!!』

『△△大臣も殺害された模様です』

    『どうなってるんだ! こんな短期間に!』

    『分かりません! 私たちにも何が何だか……』

『……ニュースをお伝えします。午後1時26分——』



ニュースには次々起こる事件に怒号が入っていた。

関連性がないとは思えないスピードで入る悲報、訃報、凶報。



男は目の前が暗くなるように錯覚した。

両の足で体重を支えることも儘ならず、ペタンとソファーに、崩れ落ちるように座る。


……これはテロだ。


自分の発明が——人類の役に立つはずの発明が——前代未聞の大規模テロに使われてしまったのだ。



「う……ぁ……あぁ……うわぁぁぁあああ!!!!」





9/27


きっとこれが最後の日記となるだろう。

これを誰かが拾うかも分からないが、今の私には記すことしかできない。だからあの後に起こった事を此処に記そうと思う。


まず記す前に私が今いる場所について話しておこう。

私は今、一種の『異次元空間』に避難している。

異次元空間とは、私が元いた時空から少しだけはみだした空間……例えるのは難しいが、クリームパンを握ったとする。そのときに、パンからはみだすが下には落ちないクリームがあると思う。そのようなものだ。……つまり、元の空間の一部であるが、少しだけ座標がずれているために、元の空間から簡単には干渉できない空間だ。


装置の開発中に偶然見つけた産物だが、しかし長く存在できる空間ではない。もってあと1,2日だろう。

といっても此方から元の空間に戻るのも簡単にはいかない。

だからこの手記自体誰にも見られはしないのだろうが……


……あの大規模テロが起こった後も被害は続いた。

最初は「何者か」による被害だったがヤクザや、その他裏の団体の手に渡ったのか、辺りは無法地帯となった。

更にこの国だけでなく、世界へと被害は広がった。

最後には……「世界の終焉」を掲げる宗教団体の手にも渡ったらしく……この先は想像せずとも分かると思う。





結局、私は逃げてしまった。


私に出来るのは、この惨状を記し、己を責めることだけだ。



私はきっと思い上がっていたのだ。「人類の役に立つはずの発明」など、傲慢だっただけだ。




疑問は残る。

どうしてアレを盗めたのか。

しかし今それを此処で論じても後の祭りだ。


だから、もし。これを見てくれる人がいたならば覚えておいてほしい。私たちの世界で何があったのか……

私に出来るのは、唯それを望むことだけだ。

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