初対面
第5話です。水の神と出会った2人が向かう先とは
「あれ、水の神じゃん」
その人物は、軽く首を傾げる。
「そうだよ?」
何でもないように答える。
「ミクマっていいます」
少しだけ笑う。
「……なんで、」
「なんでって、ここらへん僕の担当」
「……水の神?」
リースが、ぽつりと呟く。
その言葉に、ミクマの視線がわずかに動く。
ほんの一瞬。
リースを見る。
目が、わずかに細くなる。
「……ああ」
軽く頷く。
それ以上は言わない。
踏み込まない。
——だが、
距離だけが、ほんの少し近づいた。
ミクマは海の方を見る。
さっき沈んだ場所。
水の下で、まだ何かが蠢いている。
「ここは——長居する場所じゃない」
穏やかな声。
だが、重い。
「もう少し離れようか」
提案というより、導きだった。
「……だね。今回はマジで助かった」
てんが小さく頷く。
ミクマは軽く笑う。
「気にしなくていいよ。僕の領域だしね」
少しだけ振り返る。
「ちょうどいいし——」
視線は、海ではなく陸へ。
「僕らの街、ナサに来る?」
リースはすぐには答えない。
少しだけ考えて——
てんを見る。
てんも、軽く頷く。
「行こっか」
「……うん」
ミクマが手を上げる。
その瞬間——
波が、形を変える。
船が、ゆっくりと動き出す。
岸へ。
誰も触れていないのに。
それが、当たり前みたいに。
「落ちないようにね」
波がやわらぐ。
リースは、それを見ている。
海ではなく——
ミクマを。
ほんのわずかに、手に力が入る。
名前のない衝動。
海と漁師の国——ナサ。
港には、船が並んでいた。
波に揺れながら、隙間なく。
人の声。
荷を運ぶ音。
魚の匂い。
そして——
街の中を、水が走っている。
細い水路。
その上を、小さな船が行き交う。
「……すご」
リースが呟く。
足が落ち着かない。
視線があちこちに動く。
気づけば、少し前に出ている。
その様子を見て、ミクマが口を開く。
「てんさん」
「あの子って、今いくつ?」
てんはリースを見る。
「詳しくは分からないけど——たぶん、十三くらい」
ミクマは小さく頷く。
「へー」
少し間。
「いつから旅を?」
「二週間くらいかな」
「あの子が、どっかに突っ立っててさ」
「へー」
短く返す。
だが——
その視線が、一瞬だけ止まる。
測るように。
すぐに逸らす。
「……あの子って、もしかして記憶喪失?」
てんは少しだけ間を置く。
「まあ、そんなとこ」
「……へえ、そうなんだ」
少しだけ視線を落とす。
それ以上は、続かなかった。
部屋。
簡素で、整っている。
てんはそのまま布団にダイブする。
「はぁー……疲れたー……」
転がる。
リースは、部屋を見ている。
窓。壁。天井。
置かれた物。
順に、なぞる。
やがてノートを取り出し、描き始める。
静かな時間。
夕方。
扉がノックされる。
「二人とも、そろそろ行こうか」
ミクマの声。
連れて行かれたのは、一軒の店。
「なじゅろう」
落ち着いた空気。
「いらっしゃーい」
女の人が近づいてくる。
迷いなく、リースの前へ。
「君がリース君ね」
視線を移す。
「で、あなたがてんさん」
——近い。
「私はエヒって言います。よろしくね」
「話はミクマから聞いてるよー」
少し笑う。
「海も知らずに、自作の船で飛び出した自殺志願者だって」
てんが苦笑する。
「ちゃんと見といてくださいね」
「……はーい」
そのときだった。
奥。
一人の男が、こちらを見ていた。
黒髪。
背は高い。
にこやかに。
リースと、目が合う。
一瞬。
男が、軽く手を上げる。
「こんにちは」
穏やかな声。
そして——
「リース君、会うの初めてだよね」
わずかに間。
「——たぶん」
ほんの一瞬、視線が揺れる。
「……まあ、この流れなら初めてか」
小さく笑う。
「カナマです。よろしく」
ご愛読ありがとうございます。ナサに到着した2人、カナマたちと出会いこの世界を楽しんでいきます。




