もっと知りたい
向かう、その先には——
まだ、知らないものがある。
朝。
まだ空気が冷たい時間に、二人は目を覚ました。
簡単に食事を済ませ、また歩き出す。
道は上りだった。
足元には草や花が増え、木々の間から差し込む光が少しずつ強くなる。
言葉は少ない。
だが、歩く足は止まらない。
やがて——
視界が、開ける。
「じゃじゃーん」
てんが、少し誇らしげに言う。
その先にあったのは——
広がる世界だった。
どこまでも続く青。
水で満たされた大地。
その向こうに、空を突き破るようにそびえる山。
遠くでは、空を舞う影が見える。
反対側には、色を失ったような大地——砂漠。
そして、そのさらに奥には、人の営みがある場所——国。
すべてが一望できる。
言葉が出ないほどに。
「……」
リースは、ただ立ち尽くす。
そして——
静かに、涙がこぼれた。
「……すごい……」
言葉がうまくまとまらない。
それでも、必死に伝えようとする。
「あの、水だらけの場所……何?」
「海だよ」
「……あそこ、黄色い」
「砂漠」
一つ一つ、教えていく。
リースは、それを受け取る。
「……すごいな……」
ぽつりと、こぼす。
「綺麗だな……」
少しだけ笑う。
「もっと、知りたいな」
その言葉に、てんは静かに頷く。
優しい目で、リースを見る。
「じゃあ——見に行こうか」
リースは振り向く。
その顔は、さっきまでとは違っていた。
空っぽだったはずの中に、
何かが少しだけ詰まり始めている。
「うん」
迷いはなかった。
下り道。
さっきまで見ていた景色が、少しずつ遠ざかっていく。
「いやー、気に入ってくれてよかったよ」
てんが軽く言う。
リースは少しだけ考えてから答える。
「ありがとう」
そして続ける。
「もっと知りたいし……てんとも仲良くなりたい」
てんは少しだけ驚いたように、間を置く。
それから——
「そうだね」
やわらかく答えた。
その表情には、優しさと、少しの嬉しさが混じっていた。
しばらく歩く。
風の音だけが続く。
ふと、リースが言う。
「そういえば」
「ん?」
「てんって、弱いよね」
「なんやってー!?」
すぐに反応する。
「こう見えて最強のうちの一人よ、私」
「何が最強なの?」
少し考える素振り。
「んー……愛嬌?」
「ほら、やっぱり」
「えー?」
リースが、少しだけ笑う。
つられて、てんも笑う。
「……あんた、なんやかんやで初めてちゃんと笑ったね」
「そう?」
「いいことよ」
てんは少し前を見ながら言う。
「誰かとじゃなくてもいい」
少し間を置く。
「笑ってれば、世界は見えてくる」
風が吹く。
「笑わないとね、狭い範囲しか見えないのよ」
その言葉は、どこか優しかった。
リースは何も言わない。
ただ、少しだけ前を見る。
さっきまでより、遠くを。
しばらく歩いて
てんが、ふと思い出したように言う。
「じゃあさ」
少し前を見ながら。
「次、どこ行こうか」
リースは立ち止まる。
さっき見た景色が、頭に浮かぶ。
広がる青。
「……青いとこ」
短く言う。
てんは一瞬だけ考えてから——
「ああ、海ね」
少しだけ笑う。
「いいね。行こうか」
「私も行きたいし」
それだけで、足りた。
二人は、また歩き出す。
今度は——
同じ方向へ。
遠くにある、あの青を目指して。
まだ、何も分かっていない。
それでも——
少しだけ、知った。




