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旅立ち

初投稿です。読んでいただけたら嬉しいです。

光が、裂けていた。

夜でも昼でもない空の下で、白いものが崩れ落ちる。

本来なら空を切り裂くはずのそれは、力なく歪んでいた。

「……使うな」

かすれた声。

それでも、はっきり届く。

「まだだ。お前は——」

続きは、途切れる。


視界の端で、街が壊れていく。

建物が潰れ、人が逃げる。


その上から、“何か”が降りてくる。

巨大な影。

輪郭は定まらない。

——なのに。

目が、離れない。

腕が動く。

考えるより先に。

止めにいこうとしている。

「やめろッ!!」

声が響く。

目の前の人が、こちらを見る。

その目は——

これから起きることを、知っていた。


光が、集まる。

空気が、寄る。

形を持たないまま——集まっていく。

空間が歪む。

距離が消える。

世界の形が、崩れていく。

止めようとしているのに——

壊れていく。

「……やめろ」

今度は、静かな声。

命令じゃない。

願いだった。

その瞬間——

何かを、創った。

光が弾ける。

音が消える。

一瞬、すべてが止まる。

そして——

すべてが、抜け落ちる。


……何かが、足りない。


——


次の瞬間上を見ると

空は、どこまでも同じ色をしていた。

高くも低くもない。

遠くも近くもない。

ただ、広がっている。


その下に、白髪の少年は立っていた。

名前はない。

思い出せないのではない。

最初から持っていなかったかのように、何も浮かばない。

どこから来たのかも、何をしていたのかも分からない。


それでも、不思議と困ってはいなかった。

胸の奥に、空洞がある。

何も詰まっていない。

軽い。

それでいて、嫌ではない。


「……へぇ」

少年は、ただそれだけを呟く。

目の前には草原が広がっている。

風が吹き、草が揺れ、空と同じようにどこまでも続いている。


理由もなく、少しだけ笑った。

面白そうだと思った。

なぜかは分からない。

だが、それで十分だった。

一歩、踏み出す。


その瞬間、足元で小さく音がした。

石だった。

膝ほどの高さの、黒く透き通った石。

ただの石にしては、わずかに浮いている。

触れなくても分かる。

普通ではない。


少年はしゃがみ込む。

じっと見つめる。

「……生きてる?」


風の音だけが通り過ぎる。


やがて——

「気づくの遅いね」

声がした。

石からだった。

少年は驚かない。

ただ、少しだけ目を細める。

「やっぱり」

納得したように頷く。

「やっぱりって……普通驚くとこじゃない?」

石はわずかに揺れる。

「そう?」

少年は首を傾げる。

「だって、生きてそうだったし」

軽い答えだった。

考えた様子もない。

石は少しだけ黙る。

「……変なやつ」

そう言いながらも、どこか興味深そうだった。


少年は立ち上がる。

空を見る。

同じ色が、どこまでも続いている。

「ねえ」

振り返る。

「ここ、どこ?」

「さあね」

石はあっさり答える。

「私も全部知ってるわけじゃないし」

「ふーん」

それで終わる。

普通なら不安になる答え。

だが少年は、気にしない。


むしろ——

「いいね」

少しだけ、楽しそうに言う。

「何も分からないって」

石は、その言葉にわずかに引っかかる。

「……普通は困るんだけどね」

「でもさ」

少年はもう前を向いている。

「全部これからってことでしょ?」

空っぽのまま。

何も持っていないまま。

それでも、足は止まらない。

理由はない。


ただ——

面白そうだから。

それだけで、進める。

石は少し間を置いてから動き出す。

地面からわずかに浮き、少年の隣へと滑る。

「……どこ行くの?」

「さあ?」

少年は笑う。

本当に何も決まっていない笑い方だった。

「とりあえず、あっち」

適当に指をさす。


遠く。

何も見えない方向。

石は小さく息を吐くような音を立てる。

だが、止めない。

止める理由もない。

少年は歩き出す。

振り返らない。

後ろに何もないからだ。

前に、何もないからだ。

だから、どこにでも行ける。

空っぽのまま。

ワクワクしたまま。

世界はまだ、名前を持っていない。

それでも——

その一歩で、確かに何かが始まっていた。


少年が歩き出そうとした、そのときだった。

「そういえば」

石が、ふと思い出したように言う。

「君、名前は?」

少年は足を止め、少し考える。

「……知らない」

間が空く。

風が通り過ぎる。

石が、わずかに揺れる。

「えー、知らないことはないでしょ。記憶喪失でもあるまいし」

「……」

「え、まじで?」

少年は本気で言っていた。

今度は石が黙る番だった。

少しの沈黙。


「……じゃあさ」

石が口を開く。

「私はてん。君も決めよう」


少年は特に反応しない。

興味はあるが、こだわりはない。

「えーと……チョコ」

「いや」

即答だった。

「早くない?」

「なんか違う」

てんは少し考える。

「じゃあムギ」

「いや」

「ここ」

「いや」

「リース」

少しだけ間が空く。

少年は首を傾げる。

「……」

「よし、決まり」

てんは満足げに言う。

「今日から君はリースな」

少年——リースは、少しだけ考える。

だが、拒否はしなかった。

「じゃあ」

てんが続ける。

「あなたは今日から、私の足ね」

次の瞬間。

リースはてんを持ち上げた。


そして——

軽く、放り投げる。

「ちょっ!?」

てんが宙を舞う。

「ムギなにすんねん」

空中で叫び声が響く。

リースはそれを見上げる。

少しだけ笑った。

「リースだって」

「えー、リースって言ったよ」

「違う!!今ムギって言った!!」

てんは地面に落ちる寸前で、ふわりと浮く。

「まあいいじゃん」

リースは軽く言う。

「動けるでしょ?」

「動けるけど!!そういう問題じゃない!!」

怒っている。

だが、どこか楽しそうでもある。

リースはまた歩き出す。

てんはぶつぶつ言いながら、その隣に浮かぶ。

名前はまだしっくりきていない。

それでも——

悪くはない気がした。


数日後。


気づけば——森の中にいた。

「リース、ここどこー」

てんの声が、少しだけだるそうに響く。

ついこの前まで、見渡す限りの草原にいたはずだった。

それが今は——

木、木、木。

視界のほとんどが、濃い緑で埋まっている。

上を見上げても空は見えず、光は細く裂けるように差し込むだけだ。

気づけば、そんな場所にいた。

「さあ?」

リースは気にした様子もなく答える。

歩く足取りも変わらない。

迷っているという感覚すらないようだった。

「いや、“さあ?”じゃないでしょ……」

てんはため息のように言う。

「そろそろちゃんと休憩しない?ここ最近、あんまり寝れてないんだけど」

リースは少しだけ足を止める。

振り返りはしない。

「んー」

考えているのか、いないのか分からない返事。

そして——

ポケットから、小さなノートを取り出した。

「……何してんの?」

てんが怪訝そうに近づく。

「休む」

それだけ言って、

リースは地面にしゃがみ込み、ノートを開く。

何も言わず、ペンを走らせる。

さらさらと。

迷いなく。

描かれていく線は、どこか慣れていた。

てんは横から覗き込む。

「……包丁?」

少し首を傾げる。

「いや、ナイフか……?」

リースは答えない。

ただ描き続ける。

十分ほどして、ペンが止まった。

リースは立ち上がる。

「よし、できた」


「だから何して——」

言い終わる前だった。

ノートの上の絵が、淡く光り出す。

最初は弱く。

紙の上の線が、浮き上がる。

厚みを持つ。

やがて——

“そこにあるもの”になる。

「……え?」

てんの声が止まる。

それは、もう絵じゃなかった。

金属の冷たい光を放つ——

ナイフ。

リースはそれを手に取る。

軽く振る。

「これで切れるでしょ」

当たり前のように言う。

てんはしばらく言葉を失う。

「……いやいやいやいや」

少し遅れて、声が戻る。

「何それ。今の何?」

「ん?」

リースは首を傾げる。

「描いたやつ」

「いや見てたけど!!」

てんは少しだけ後ろに下がる。

「普通、絵が立体にならないから!!」

リースは少し考える。

「そう?」

本気で言っていた。

「……そうだよ」

てんは小さく呟く。


その目が、リースを測る。


——まるで、何かを確かめるように。


——何も言わない。


リースは気づかない。

ただ、手の中のナイフを見つめていた。

読んでいただきありがとうございます。

まだ何も知らないまま、彼は進んでいきます。

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