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重荷

久々投稿です。読んでいただいてありがとうございます。

一応ここに書きますが、この作品はBLでは無いです。が、BLを匂わせてしまうような描写があります。私が書きたい物は、執着です。

  すみれお婆ちゃんの葬式の翌日。昨日は流石に行く気にもなれず、初めて日課を飛ばしてしまった。


 アイツ、怒っているだろうか。


 地元のまんじゅうを数個手に取り、鞄に仕舞い込む。お茶も淹れて、今日はご機嫌取りでもしようか。


 「母さん、行ってくるね」


 洗濯物を干す母の背中にそう投げかけた。


 「………」

 「母さん?」

 「……」

 「おーい」



 何度呼んでも、こちらを振り向かない。距離は遠くないはず。母の耳が悪くなったのか。全く反応がない。やれやれ、とその肩に手を置いた。


 「ねぇ、母さんってば」


 「っ!!!!!やだ!蛍、びっくりしたじゃない!」

 「え?」


 あまりの勢いに、こちらが驚く。足音を消して近づいた訳でもなく、小声で話していた訳でもなかったはず。ぴたりと動きを止めた俺を差し置いて、母ははぁ、と一息ついていた。



 「もぉ、脅かさないで。また明神様のところに行くのね。気をつけて行ってね」

 「う、うん…。行ってきます」



 

 母はくるりと、背を向けて、洗濯物の続きを始めた。



.



 祠の下の竹林に着いた。汗だくの体を引き連れて、その中に入ると違和感を覚える。


 (ん?なんか、今日は暑いな)


 いつも、ここに入れば冷たい風が気持ちよく通り過ぎて行くはずなんだが。白綴の神域が、何というか、今まで歩いてきた世界と地続きのような感覚がした。


 少し早足で、その坂を駆け上がる。何故か、早く白綴の存在を確認したくなったのだ。


 「おーい、白綴ー!」


 走り抜いた先、自分の気持ちとは裏腹に、宴会場の縁側に1人空を見上げる白綴がいた。


 (何だ、いるじゃないか)



 何処となく落ち着かなかった気持ちは、徐々に萎んでいく。

だが、俺が近づいても一向にこちらを見ようとはしない。気づいてないのか?なんか、デジャヴを感じる。

 みんなして、俺を無視して。今度は怒りがむくむく伸び出した。

ざくざく、砂利を踏み締めて白綴に向かい、手を伸ばした。


 「おい、しろつづ、っ!」


 ばしん、と肩を叩いた手は、力強く捕まえられてしまった。ぎり、と骨の音が聞こえるくらい強い力。思わず呻く。


 「ちょ、痛いだろ!なんだよ、」


 そう抗議すると、目の前の神はこれでもかと目を見開いて固まっていた。


 『蛍、いつからここにいたんだ』

 「は?さっき来たんだよ。呼んでも近寄っても気づかないから」


 何故か俺が責められていることにも腹が立つ。少し睨みつけると、白綴は、視線を彷徨わせ何かをぶつくさ呟いていた。


 『なんで…、何も、気配が無かったのに』

 「何言ってんだよ。お前がぼぉーーーっとしてるからだろ」

 『そう、なのか』


 ヒートアップして暑くなった顔を冷めた風が撫でて行く。あぁ、これだよ、この場所良いところは。その風を大きく吸い込み、吐き出す。

未だに掴まれたままの手首を離してもらうと、そこは赤くなっていた。


 (見かけによらず馬鹿力なんだよな)



 力なく地面を見つめている白綴に、饅頭を投げる。手の内に収まった饅頭に気を取り直し、こちらに視線を寄越した。



 「とりあえず、食うか」

 『…うん』




.



 

 

 水筒の中の氷がからからと音を立てている。紙コップに麦茶を注いで渡してやると、ちびちびと白綴は飲み始めた。

 俺は饅頭の包装をぴりりと破り、口に放り込む。こし餡のねっとりとした食感と、素朴な甘みに頬が緩む。


 「昨日はごめんな、来れなくて」

 

 そう静寂を切り裂くと、ワンテンポ遅れて白綴が頷いた。


 『良い』

 一言言って、饅頭を口にした。なんだ、今日はやけに静かだな。黙々と、その饅頭を見つめながら少しずつ齧り付いて行く。


 「……どうしたんだよ」

 

 違和感に触れると、彼はゆっくりと麦茶を飲んだ。


 『………別に。蛍にも事情はあるから』


 ふい、と顔を背けてしまった。もじもじと、紙コップを持つ手は動いている。


 (もしかして…)

 自分の勘は、果たして当たるのか。だが、コイツももういい歳だろうに。じとりと神を見つめる。



 「拗ねてんのかよ」


 そう言うと、面白いほどにその体が反応した。はぁ、と思わずため息をつくと、眉を下げた顔でこちらを振り返り勢いよく俺の言葉に反論した。


 『だ、えっ、いや!違う!断じて!』

 「じゃあなんだよ」

 『ぐっ………。……………………………寂しくて』



 長い間の後に、蚊が無く声でそう言った。

まぁ、こうなるだろうとは少し思っていた。寂しがり屋な所があるから、会ったらどやされるだろうと覚悟してきたのだ。

結果、寂しすぎて拗ねていたのだが。


 「いい歳した大人なのに」

 『ぐぬぬぬっ……!べ、別に!そんなに寂しく無かったし、1人でも平気だし!!』

 「どっちだよ」



 顔を真っ赤にして、ひたすらに否定してくる。はいはいわかりましたよ、と言ってやればヒートアップしてしまった。


 「昨日葬式だったんだよ。お世話になった隣の家のおばあちゃんが亡くなったんだ」


 理由を話してやると、先ほどの勢いは何処へやら。ぴたりとその口は動きを止め、一呼吸する。


 『………そう、』


 「なんとなく、ここに行く気が起きなくて。ごめん」

 『違う!蛍は、悪くない』


 食い気味に否定をする白綴は、俺の近くににじり寄ってきた。


 『…葬式のことは、五月雨から聞いていたんだ』

 「え?五月雨様から?」


 葬式に行かず、静かに消えていった五月雨様。あの後、白綴に会いにきたそうだ。俺が力を使ったことを話したんじゃないかと、冷や汗が伝ったが、どうも話していないらしかった。白綴から責められることはなく、胸を撫で下ろす。


 『世話になったと伝えてくれと言われたんだ。五月雨は、しばらく眠るとも言っていた』

 「そうなんだ」


 寂しくないといいな。愛する人を失った彼が、いずれ目を覚ます時、穏やかに生きていければいいと願わずにはいられなかった。


 『すまなかった、蛍。事情が事情故に、こんな愚かなことを言ってしまって』


 さらりとした髪が垂れ落ちる。

俺が気にしていないと言ってやれば、ゆるりと頭を持ち上げた。


 「…実は、俺。久々にお婆ちゃんと会ったんだ」

 『え?』

 「世話に、なったのに」


 するすると口を出てくる言葉に、白綴は静かに相槌を打ちながら耳を傾けていた。


 『何があったか聞いても?』

 「別に、面白い話じゃ無い」

 『それでも、いい。お前の話ならなんでもいい』


 力強い琥珀色の瞳と共に説得されてしまう。気まずい気持ちがありながら、辿々しく自分の過去を話して行く。


 「俺、昔から人じゃ無いものが見えてたのは言っただろ?そのせいで馴染めなくて、1人でいたところをすみれお婆ちゃんが良く構ってくれたんだ」

 『ずっと1人だったの?』

 「あぁ、今でも友達はいない。そんな俺を晩年まで心配してくれてたんだ。中学生に上がった頃から、めっきり会えていなかったけど」


 麦茶を一口流し込む。ぬるい感覚が喉を通って行く。

もっと、すみれお婆ちゃんと話しておけばよかったな。そんな後悔が、一昨日から抜けなかった。


 『…蛍、今の学校は楽しい?』


 白綴は首を傾げて言った。さっき友達がいないと話したばかりだろ、すこし笑って言ってやった。


 「え?楽しくは無いよ。ただ、勉強しに行くだけだ」


 ははは、と軽く笑う。その瞬間、白い手が俺の顔をとらえた。かちりと怪しく光る瞳と目が合った。


 『蛍。楽しく無いのなら、ここに居たらいい』

 「え?」


 温度のない声が、木々のさざめきと共に落とされる。太陽が雲に隠され、影が落ちる中、瞳だけが彩度を残す。不自然に輝く琥珀色に目が離せない。


 『勉強だけしに行くなら、ここでも出来る。私が教師になる。何も問題いらない』

 「いや、問題だらけだよ。何言って、」

 『ここに居れば、何にも脅かされず、悲しい思いもしない。何が問題なのだ』


 白綴は本気で淡々とそう言ってくる。俺を飲み込もうとしているかのように、髪の毛が視界を覆い尽くす。距離を取ろうと後ろに這いずったのがいけなかったのか、白綴は馬乗りになり、俺の動きを封じる。


 「あのな、そんな事親が許しやしないし、将来にも響くんだよ」

 『ここに一緒にいればいいだろ』

 「だ、か、ら!!俺だってそれができたらしたいよ!だけど、そんな簡単な事じゃねーの!!」


 退け!と今度は俺が掴みかかって、白綴を床に縫い止める。直ぐにそこから退いてやるが、白綴は一向に起き上がる気配はなく、天井を見つめていた。


 『……君はとても現実的だね』

 「みんな大抵そうさ」

 『苦しくなったら、逃げる選択肢もある』

 「…本当に嫌になったら棲みつくさ」


 隣にゴロリと寝転び、宴会場の天井を見上げる。今日まで気づかなかったが、天井には古めかしい絵が描かれていた。


 『この絵は、昔、私が起こした奇跡を描いた物なんだよ』

 「…え?」

 『不作が続いた村に、私が施しをしたんだ。雨は三日三晩降り続け、作物は過去1番の実りになった。…昔はそれくらい力があったんだ。………その力があれば、蛍だって』


 「え?なんだって?」


 ゴロリと横を向いた白綴の最後の言葉は聞こえづらく、聞き返しても何も返っては来なかった。




.




 「なぁ、そういえば、明日ここのお祭りだって」

 

 夕暮れに染まる空の下、帰り際にそう言ってやると、白綴は見るからに上機嫌となった。


 ここでの祭り。年に一回あるもので、村の人々が集まり花火やくじ引き、輪投げなど地元民による出し物が行われる。そして、宴会場には飲みの席が設けられ、どんちゃん騒ぎとなるのだ。


 『蛍も来るんだろ?』

 「あぁ、そのつもり。また明日な」


 白綴はどこか悲しそうな顔をして、また明日と呟く。全く、寂しがりやな神だ。


 

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