フリージアへ
ボクらはおかわりの紅茶をもらい、次にすべきことについて話した。
「僕らの仲間…この国で魔法を扱えるのはもう20人もいないんだ。そのうちの何人かがフリージアにいる。潜入操作ってとこだね。そこでフリージアの宝の噂を調べてもらっているんだ。」
なるほど。意外に国境を簡単に超えることができるようだった。ほんと、フィスカがどれだけ閉じこもっている国か、嫌でもわかる。
「でね、宝は城のどこかにあるらしいんだ。『世界の真ん中に、奥深くに眠る』って噂があるって情報を掴んでくれたんだ。フリージアの中央にちょうど城がある。間違いない。」
クラウスは地図を見せてくれた。確かに地図のちょうど真ん中に城があるように見えた。
「ここからが重要だ。数ヶ月に何回か、フリージアで冴えある者や周辺の村の指導者を集めて情報交換会をするんだ。一応他国の人も呼ばれるらしい。それでね。」
一通の手紙を渡してくる。赤い禍々しい色をした紙だった。開けてある封蝋には恐ろしいデザインがされていた。
「これはフリージアの国王からの招待状だ。イリスを立て直し、そこそこ文明が進んだ国に僕らが変えたからね。これで城に入れる。」
そうか。他国や国の人々からみればクラウスは国を立て直したヒーローなのか。それは呼ばれるに決まっている。フリージアは他国の情報も盛んに入ってくる国なんだな。
「場内には2人程、従者を連れて行けるんだ。それをカロルってことにしたい。それで僕の役をしてくれるのがそこにいるライだ。」
指さした先には、先ほど紅茶を淹れてくれた彼だった。
「彼は僕らと同い年だし背格好も変わらない。それにライは変身魔法が得意なんだ。そうそう見破れるものじゃない。途中で入れ替わって城内を探すって作戦だ。」
褒められ、えへへと笑う彼は可愛らしかった。僕らと同い年とは思えないや。でも…
「分身した方が怪しまれないんじゃない?」
確かクラウスは分身魔法が使えたはずだ。そっちのほうが精度が高いんじゃないかな?
「分身は思っている以上に体力を使うんだよ。それに意識がどっちかに偏りがちだから、むしろ分身の方が怪しまれると思うんだ。」
そっか。それなら協力してもらって、入れ替わった方が安心するね。
「なるほど…大体やるべきことはわかったよ。それでその情報交換会はいつなの?」
「明日だ。」
明日⁈ 急すぎないか…?
「明日って…それもしボクがクラウスに会わなかったらどうするつもりだったの…」
思っている以上に急な作戦だということに驚きと呆れを隠せない。こんな大事な作戦、失敗はできないだろう。
「まあ僕には解っていたのさ。カロルがいれば絶対大丈夫だ。」
クラウスの底抜けに信頼してくれるのは嬉しいが、失敗できない不安がある。大丈夫かな…
「大丈夫だ、カロル。今はたくさんの仲間もいる。それに僕ら2人が手を組めば失敗なんてないさ!」
そう言って、手を差し伸べる。クラウスがこんなにも信頼してくれるんだ。ボクも気持ちに応えなきゃ。
「…クラウス、君を信じるよ。きっと成功させよう。」
ボクらは堅い握手を交わし、準備を始めた。
あたりはすっかり暗くなっていた。月明かりが全くない、暗い夜だった。クラウスが言うには今からフリージアに向かわなければ間に合わないらしい。
「カロル、ライ、準備はできたかい?最後にもう一度確認しよう。僕ら3人と運転のアルガーでフリージアに向かう。そして近くの、国境兵が見えない位置で僕とライが入れ替わる。それで入国するんだ。それで僕はしばらくこの透明透明を予めかけたマントで身を隠し、城内に潜入する。カロルはライについて行ってくれ。交換会が終わる前までには宝の場所を探す。連絡はそれでする。2人とも聞こえるかい?」
通信機のようなピアスから脳を介して、クラウスの声が聞こえる。一種のテレパシーのようなものらしい。これは魔法が扱える者同士しか使えない。ボクらにピッタリだった。
「よく聞こえるよ。」 「僕もばっちりです!」
「良かった。作戦はこんな感じだ。」
「ねぇクラウス、ボクが途中で抜けたらおかしくないかな?」
従者が途中で抜けるのは怪しまれてしまうだろう。どうやって行けばいいのかな?
「多分従者は別部屋で待たされるかどうか…もしそうでなくて難しいとなったら彼が助けてくれるはずだ。」
クラウスはアルガーさんを指さす。
「俺はそのピアスが使えない代わりに千里眼で見えているので安心してください!マントももう1つあるのでいざとなったら潜入してカールさんと代わるっす。多分、従者はいっぱいいると思うので誰も顔なんて覚えてないっすよ。」
なるほど…アルガーさんが見守ってくれているなら大丈夫だろう。なんて言ったってクラウスの仲間だ。信頼できる。
「さあ他に準備することはあるかい?なければ出発しよう。」
簡単に荷物をまとめ荷台に乗る。床板は固かったけれど、傍にあったクッションが柔らかくて心地よかった。
「カールさん、頑張りましょうね!」
ライくんは明るく声をかけてくれる。いい子だなあ。
「さぁ行こう!!」
クラウスの掛け声で馬は走り出し、荷台を引いてくれた。揺れるけど味わったことのない経験だ。案外悪くないな。
「フリージアに着くのはまだまだかかるんで、寝てても大丈夫っすよ。俺は起きているので。」
アルガーさんが言う。
お言葉に甘えて体力を温存するために、瞳を閉じた。