プロローグ
「またか……」
そう呟いたエカテリーナ・リアプノフの目に入ってきたものは、見慣れた天井と見知った侍女達であった。
そして最早見飽きた、
「おおっ! エカテリーナ! やっと目を覚ましたかっ!」
と言って抱きついてくる父の泣き顔。
えっと……確か今回でたぶん二〇一九回目であったか。
途中から数えるのも面倒になってきたので、エカテリーナにもこの数字が正しいかどうかはわからない。
しかし確実に言えることは、エカテリーナはまた“振り出し”に戻ってきたということだ。
乙女ゲーム『淡く白く』の悪役令嬢として転生して以来。エカテリーナは何度も繰り返してきた。
流行り病からの回復、目覚め。そして始まる学園生活。あとはまぁ乙女ゲームお約束の、婚約破棄イベントからの処刑エンド。
この流れを延々繰り返してきたエカテリーナは今回、ある挑戦を決意した。
処刑エンド回避?
いやいやいや。
そんなものはエカテリーナはとっくに諦めていた。
ヒロインをいじめないパターンだけで百四十九回回。
婚約者である王太子を諦めるパターンは百十七回。
そもそも学園に行かないというパターンが百十三回。
その他にも、前世で読んだ悪役令嬢モノを思い出し、それはもうありとあらゆるパターンを既に試したのだ。
その上でエカテリーナは一つの結論に至った。
処刑エンド回避は無理、と。
だから今回エカテリーナはある挑戦に思い至った。
それが悪役令嬢RTA。
すなわち、いかに素早く処刑エンドを迎えられるのか。
そのRTAに挑戦することを決めたのだ。
人間、何の目標も無いままに生きていくには退屈がすぎる。
実際、エカテリーナはここ直近の四十九回ほど処刑に向かって無為に過ごしてきたが、そろそろ飽きてきていた。
最初の目標期限は一ヶ月。
学園入学が四月初旬。そしてなんやかんやとイベントをこなして、エカテリーナ断罪イベントが進級記念パーティーのある二月末。そして処刑が春休みの始まる三月の初旬。
本来ならばおよそ十一ヶ月かかる流れを、まずは一ヶ月間に縮めてみせる。
エカテリーナは胸にその決意を刻みながら、先ほどからしつこく抱きついてくる父を引き離した。
そうと決まれば時間は無駄にはできないのだ。
ここに今、処刑までの最短ルートを目指す、エカテリーナの悪役令嬢RTAが始まった。