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Story〜明るい夜の物語〜

「あんれ?今日はお祭だよぅ。年に数回しか開かれないんだぁ、それを見に来たんじゃねえのぉ、お客さん?見ていきなぁ、うらは見に行けなぁけど、だってうら仕事だもんなぁ。まだ間に合うよ、行ってきぃな!語り部さんの話くらいは聞けるだぁよ!あれを最後に聞いたのは何年前だろうなぁ……うら、鮮明に覚えとるだぁ……」

 「オータムベリーズ」の店主のおっさんの一言で、一行は大きなかがり火へと進んでいる。

「リオン!まだ着かねえの?せっかく寝れると思ったのに……まったく俺の体長を考えろ、お前の6分の1もねえんだぞまったく」

「いや、もう何回目だよグレン。それにお前は足が4つあるんだから」

「関係ねえよ。大体お前の足より短いし、お前ら人間についていくのにこまめに動かすんだからひどく疲弊すんだぞ分かる?」

「ふん、これしきのことで疲れるとは。これだからエデュリス家のひ弱なものは」

「言ったなこの――」

 また始まったとリオンはため息をついた。レインのように、かわいいといって微笑みながらこの様子を見守ることなど出来ない。一緒に旅をすることになってから、グレンダとアリスの喧嘩は尽きない。ことあるごとにぶつかる。まだ一緒になって何分も経ってないのに。

「いいじゃないリオン。かわいくて」

「レイン、何で俺の心が読めるんだ」

「人の心を操る時には、人の心に侵入しないといけないから。慣れちゃった」

 侵入されているのは分かっている。かといってこいつに心の全てをさらけ出すつもりもない。大部分は防御している――何かに話しかけるとき、多くはその心に直接話しかける。心に入る術を学んだと同時に、心を守る術も学んだ。多くの人はこの術を知らない。おそらくは、心に侵入されたことも気づかないのだろう。

「皆さん集まりましたかな……」

 語り部であろう人の声が聞こえた。道がなくなって、広場に行き着いたときだった。広場には大きなかがり火が焚かれていた。その周りに、人垣が出来ていた。みんな好奇の眼をしている。これから始まるであろう物語を心待ちにする、子供のような目だ。何人か本当に子供もいたが。

 人垣の中に入り、人を掻き分け前に行くレインに必死でついていった。リオンは別に声が聞こえればよかったので、後ろでいいのだが。

 前に出ると、かがり火の前に座るのにちょうどよさそうな石があった。そこに、老人が腰掛けていた。真っ白な眉毛がぼうぼうに伸びていて、目を覆い隠している。

「座っていただいてかまいませぬ」

 その声と共に人垣が一斉に腰をおろした。あぐらをかくもの、ひざを抱えるもの、さまざまだ。しかしその目は皆、老人に釘付けだった。皆に合わせて座り込む。リオンはあぐらをかいてひざにひじをついてあごを乗せ、レインは足を抱えてひざにあごを乗せた。グレンダとアリスはそれぞれの主人の下にすりよった。アリスはレインの足元で横になり、グレンダはリオンの組んだ足の上に乗った。

「さて、わしは皆さんもご存知の古き伝承をお聞かせしましょう。

 遥か昔、この星は皆さんと同じ人間が、たがいに技術を競い合っていた。生活を便利にするのが目的だった。人々の生活はどんどん豊かになっていく一方、犠牲となったのが自然だった。人のために、いくつの木が切り倒されたであろうか。その自然に哀れみの心を持たなくなるほど、人間は堕落していった。人々は憎みあい、互いを陥れようと日々頭の無駄遣いをしとった。

 しかし、神様はちゃんと見ておられた。この星から海と森がなくなったとき、いきなり太陽の光が強くなったのじゃ――そう、昔太陽は、恵みを与えるものだった。植物を育て、人を温かく包んでおった――しかし、太陽は人に突然牙をむいた。

 どぎつい光に人々の肌は外に出るだけで黒く焦げ付き、ひどい人は煙が上がった。あらゆる、といっても人間どものせいで激減しておったが、動物や植物は死滅し、この星は大混乱に陥った。植物が育たないので食べ物もなくなり、他にもいろいろなこと――物を作ることもその一つだ――ができなくなった。こうして、人は太陽が出ているときには外に出られなくなったのだ。悔やんでも悔やんでも、もう遅い。

 こうして我らは今のごとく、夜の生き物となった。そして、500年ほど経った今に至る。

 植物や動物は許された。彼らは何の罪もないからだ。ただの人の欲望の餌食だった彼らは、一度滅びたこの星に、再び長い時間をかけて蘇った。もちろん、昔の植物や動物は滅びてしまったものも多くあるが……

 この星は今はこのように、海もあり森もありと、すっかり元に戻った。しかし、それまでに長い時間がかかったのは否定できん。昔の星と同じというわけではない、大きく変わってしまったが。

 太陽の光も弱まり、建物を焦がすことはしなくなった。植物も普通に育つことができる。が、いまだに人間は外に出られないほど強いが。

 さて、許されなかったわれわれ人間は、夜に生きる輩となった。我らが滅びるまで、この星に償わなければならない。そこで、夜に生きるための手段を必死に探した。

 まずは明かりが必要だ。しかし、昔のように大きな太陽という明かりがない。そこで、彼らは発見した……「月」という新たな明かりを。

 しかし、月は本当に太陽と比べて明るくなかった。それでも彼らはその光で生きていこうと考えた。新月の時には星の小さな明かりを頼り、それもない時はかがり火を焚いた。ちょうど今のようにな。この祭も、昔の人々の苦労をたたえてできたのだ。二度と同じ間違いをしないようにな」

 へえ、と周りから驚嘆の声があがった。

「だとよ、グレン」

 見下ろしてみると、グレンダは気持ちよさそうに寝ていた。柔らかな鼓動が足に伝わってくる。

 肩をすくめて、リオンはまた話を聞いた。

「さて、次は着るものが必要だ。彼らは遠い昔にすべてをつぎ込んできた技術を生かした。「綿花」という昔の衣服の原料となる植物は滅びた。昔あった科学的な材料は、人々は使うのをためらっていた。またそれでこの星に負担がかかるのではないか、とな。しかし、誰だっただろうか、月の光を集めて、それを織ることに成功した。どうやったのかは謎のままだが。まあ、現在、光は光を呼ぶ、ということで月の光でさまざまなものを作り、それを使ってまた新たな光を集め、利用する、というところまで進歩したが」

「月光夜剣もその一つよ」

 レインが小声で呟いた。

「とはいえ、我らはそれ以上の技術の発展は望まなかった。昔のような失敗を恐れたからだ。我らが成長したといえよう、その点においては。そして、月の光で出来たものは、今は高級品だ。集めすぎて月の光が尽きるのを怖がっていたためだ。今では、月の光で出来たものや服を持っているのは、大金持ちか王家・貴族ぐらいのものだろう。それか、昔からの由緒ある家系かだな。

 では、人々は何から物を作ったのか?簡単だ。以前の材料がなくなった場合、代用できるものを探した。

 肝心な食べるものは、なんとかほかに食べられるものがないか探したり、やはり今までの料理を食べるために、なくなった材料に代用できるものを探した。

 働くことは、すぐに見つかった。植物を育てたり、料理を振舞ったり、兵となってみなを守ったり、病気を治したり。

 こうして人々は、権力を持つことも、技術を発展させることも望まず、今の生活に満足して、質素に生きている。そうして、今の生活は成り立っている。

 人々が何千年とかけて学んだことは、おごる我々がいかに恐ろしくて残酷になるか、そしてそれを常に誰かが見ていること、それを許さないことであろう。われわれはそれを肝に銘じ、「今」という事実に満足し、この星にできる限り罪を償いながら、生きていかねばならん。

 これがわしの話の全てじゃ。今まで皆さん、ご静聴ありがとう」

 万雷の拍手が鳴り響く中、老人は静かに立ち上がり、人々の中に消えていった。

「グレン、おい、起きろ」

「起きている。全て、聞いていたさ」

 信じるかどうかは後にして、リオンは思った。

 何度聞いても、この物語は、俺たちを戒めてくれる。

 決して忘れてはならない。

「おーい、他にも話が聞きてーよ。誰か面白い話しろよー」

「そーだそーだー」

 周りががやがやと騒ぎ出す。

「あ、そーだ、昨日旅人さんがここに来たよなー」

 周りの目が一斉にこちらを見る。噂というのは伝わるのが早い。グレンダはリオンのひざからしゃなりと飛び降りた。

「あー、俺がする。そば猫の歴史」

 周りには聞こえなかったらしい。

 何でだよと憤るグレンダに、リオンは静かにいった。

「おい、そば猫をつけているやつしか、そば猫の言葉はわかんねえぞ。他のやつらには全部『ニャー』にしか聞こえないんだから。お前が教えてくれただろ、それ」

「ちっ」

「じゃあ、そこの旅人さんが話をしてくれるんだとよ!」

 喝采が巻き起こる中、リオンは立たされ、前に押し出された。

「何で俺なんだよ」

 ぱっとみると、レインが周りの人々に言っていた。

「そうそう、私、あの人の話術に引き込まれちゃって、いっしょに旅をしようと……」

 あのやろう。

「話、してくれよ!」

「旅人さんっ!!」

 リオンはため息をつくと、石に腰掛けた。寒かったのでちょうど後ろにかがり火があって好都合だったが、石はちょっと熱かった。火のぬくもりだと思いたかった。

 何の話にしよう、と一瞬考えた。そこに、いい案が思いついた。

 咳払いをすると、一同が一気に静まり返った。

「これは今から2年前の話だ」

 レインの表情から、これから何を語ろうとしているのかを悟られたことが分かった。

「とある王家の血筋の家があった。そこの家の兄妹は、少し風変わりだった。

何しろ父親は騎士で、義を重んじた。それを子供達にも叩き込んだ。そして母親は有名な妖術師だった。

 父親は兄妹の兄の方に、騎士になるための教育を施した。母親は妹の方に、妖術師になるための教育をした。しかし、二人はその状況をよく思っていなかった。

 兄は妖術師になりたかった。妹は騎士になりたかった。そうであるがゆえに、二人の仲良し兄妹は、それぞれの知識を教えあった。そして、互いの立場をうらやんだ」

 不意に目の前に、二人の男女が透き通った姿をあらわした。周りからどよめく声があがる。リオンも驚いて、とっさに目をやると、レインがにやりと笑って、さりげなく両手を前に突き出していた。その手からは光がかすかに出ている。妖術を使ったのだろう。

 二人は気にしていない。いや、聞こえないのか。とにかく女の方は、腰まである長髪で、水色の透き通ったような長いワンピースのようなものの上に、銀色の透き通ったようなベストを羽織っていた。そして、袖を捲り上げ、必死に剣の素振りをしていた。汗だくになって。

 男の方は、刈り上げた髪の毛で、皮の上着にゆったりとした、足首をしめたズボンにブーツを履いて、両手を突き上げて炎を出していた。

「女の子が剣術をねえ」

「服が汚れちまうよ」

「男が妖術など……」

 観客は不思議そうに声をあげていた。

「ったく父上はおかしい。俺は騎士なんてやりたくない。妖術師になりたいんだ。髪だって伸ばしたいのに無理やり……」

「兄上はいいよ。私は騎士になりたいのに、母上がだめ、女の子だからって。髪の毛も切りたいのに妖術で使えるとかいって許してくれないんだよ。妖術なんていや、人を惑わすなんて」

「お前の方がうらやましいよ。いちいち剣を振るって人と戦うなんてごめんだ、めんどくさい。妖術を使ったほうが早いし、何倍も苦しませられるのに」

「ねえ兄上やめて。私、人を不幸にするなんていや」

 男女がしゃべりだす。観客はまたもやいろいろ言い始めた。

「いい子だねえ」

「男のくせに」

「ねえ、あの女の人、髪が白髪だよ。苦労しているのねえ」

「えー、ばあちゃん。あれ銀髪じゃない?光ってるし」

「男の子だって同じだよ。変な髪」

「あー」

 リオンの一声に、いったん聴衆は静まった。

「そこで、二人は立場を交換しようという話になった。そうすれば幸せになれると。お互い、容姿はよく似ていたしな。

 しかし、その願いは、かなわなくなった。父親が、妹を嫁に出すことにしたからだ――まだ14歳なのに。しかも、自分の兄である王に」

 がやがやと声があがった。

「ただでさえ曲がったことが大嫌いな妹にとって、近親相姦などもってのほかだった。しかし、彼女の他に、そのあたりで美しい、王の条件にぴったりの娘はいなかった。そして婚礼の前日の晩、彼女は忽然と姿を消した――それ以来、彼女は行方不明だ。2年経った今でも見つかっていない。ある人は母から習った妖術で姿をくらましたといい、ある人は思い悩んで塔から身を投げたという。真相はわかっていない」

 観衆がしんとなったとき、リオンは言った。

「これが俺の話だ。あ、この娘を見つけたとか、情報を知っていたら、俺に教えてくれ」

 人垣が徐々にわれ、それぞれ散っていった。誰もこちらにこない。方々でひそひそと話しながら、彼らはその場所を後にしていった。

「あれ?いつのまにか兄妹も消えてるし、客も消えてる」

「うーわっ、リオン、どんまーい」

「レイン、軽く言うな」

 立ち上がって仕方なく旅籠へと戻りはじめる。

「俺、そんなに空気が読めないような話したか?シルクの情報も手に入っていいと思ってたんだけど」

「あのねー、リオン。やるなら面白くて楽しい話か、盛り上がる話か、ためになる御伽噺とかだよ。絶対あんな暗い話しらけるって」

「もうしらけたわ。それならお前がやればよかっただろ。ちくしょー、俺に押し付けたのは誰だよ」

「まったく誰だろうねー」

 そんなこんな、いまや静まり返った路地を歩き、やっと騒がしい旅籠に戻った。開け放した扉をくぐり、店主を呼ぶ。

「おーお客さんどうだったぁ?語り部は?間に合ったかい?」

「おかげで」

 そこへ、奥にいた客達が騒ぎ立てる。

「おい、やめろよおやっさん!そいつと話すのはやめたほうがいい!!そいつらは妖術を使うんだ!」

 陽気な店主は肩をすくめ、リオンたちのほうに顔を向けた。口調が様変わりしている。

「まあ何でもいいが、泊まるのか?食うのか?」

「泊まる」

 リオンはすぐに答えた。グレンダが足元でのどを鳴らす。

「分かった。1名と――」

 睨んだグレンダをちらりと見て、店主は苦笑する。

「1匹な。分かった」

 後ろから視線を感じ、リオンは振り返った。

「あのー、リオン。私たち今晩泊まる場所がなくて……」

 レインとアリスが、こちらにうるうるした視線で見つめてきて、一歩下がった。

「なんだ。ここあいているか聞いてやろうか?」

「いや、お金持ってなくて……えへっ」

「……分かった。それなら店主さん、2名と2匹で。これでいいだろ?」

 ため息をついて半ば呆れて言ったりオンに、突如レインが猛烈な勢いで抱きついた来た。思い切りよろける。

「うわっほんと?もう最高。リオン愛してる」

 心底嬉しそうだ。だが、抱きつかれたことなんてほとんどないリオンには衝撃だった。しかも、異性に。

「分かった分かった、そんぐらいで嬉しがるなんて――」

 るんるんるん、と鼻歌を歌って顔を肩に摺り寄せるレインには、聞こえていないようだった。生身の人間の温かさと鼓動を感じ、リオンは顔が赤くなるのを感じ、どぎまぎした。

「分かったから!離れろ!!」

 こうしてやっとのことでレインを離させ、料理を部屋にもってくるように注文した。そして、案内された部屋に行き着いて、火照るからだがベッドに倒れこんだ時、旅籠の客達の視線を思い返していた。額から汗をぬぐいつつ、この村を明日発たなければならないと、リオンは夜明けの空を窓から見ながら決心した。


「ふふっ――」

 レインは、そのまま寝てしまったりオンを見つめていった。朝日が窓から差し込んで、リオンの顔を照らす。ワインを飲み干し、レインはリオンの顔の傷跡に、細く白い指を走らせた。

「うぶな人。無垢で、無防備で、なんだかうらやましい」

 リオンの耳元に、レインは顔を近づけて呟いた。

「まさかここで会うとはね」

 妖艶に――唇を近づけて微かにささやく。

「お前は……の……ものだ」

 朝日に赤い目が、ギラリと妖しく輝いた。

さてさて。いよいよ次章、大きく物語が動き出します!

旅する一行の前に現れた、切なる願いを持つ少女。

そして、レインの新たな能力とは?シルクは見つかるのか?

お楽しみに!!

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