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誰とでも付き合う『快諾姫』が俺の告白を断った理由  作者: 林檎月


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1話 告白失敗

 高校生活といえば青春である。授業をサボって友達とカラオケに行ったり、放課後カフェでデートしたり。

 彼ら彼女らはまるで世界の中心が自分達だと言わんばかりに、日々を謳歌する。


 しかし俺は思う。友達と遊ぶ、恋人と逢瀬を重ねる、それが楽しいと思う奴もいればそうじゃない奴もいる。

 家でアニメを見たり、ベッドの上で漫画を読んだり。そういうことが幸せだと感じる人間だっている。


 青春が『楽しむこと』と定義するなら、インドア趣味だって立派な青春だといえるのではないか。

 だから、今俺が本屋でラノベの棚を睨み付けているこの瞬間も立派な青春の1ページなのだ。



 ♢



 7月。外のうだるような暑さを尻目に、俺は目の前のラノベ棚を睨み付ける。


「妹がヤンデレみたいですが、ぼっちなので何も心配いりません」、「ロリコン転生」果たしてどっちにすべきか。


 どちらも価格は836円(税込)。対して俺の手元には千円札のみ。買うとしたら、どちらか片方だけ。

 どうする?最悪どっちかは再来週のお小遣いの日に買うとして、今はどっちの気分だ?


 俺は目を瞑り、自分の胸に問いかける。


 どちらもギャグ調っぽいが、片方は学園ラブコメ、もう片方はアクションものだろう。

 漫画でもアニメでも、正直ラブコメは氾濫してるといっていい。実際、昨日の深夜アニメにも一本ラブコメ枠があった。

 だからここで買わなくていい気もするのだが、妹ヒロイン最近見ないんだよなぁ。

 でも、もう片方の「ロリコン転生」。こっちはもうタイトルから面白さが香ってきている。

 どっちにすべきか。


 俺は再び思案する。


 どっちも買いたいけど……財布にはどうあがいても千円しかない。

 …本当にそうか?もしかしたら、こんな時もあろうかと先月の俺がどこかにお金を隠しておいたんじゃないか?


 そう思い、俺は高校のバッグを漁り出す。


 お金、お金、お金……


 必死になってバッグの中をかき回していると、ふと視界の端に見覚えのある制服が映った。


 あれは、同じ高校の奴か?ぱっと見知らない奴っぽいが、学校外で会いたくはない。

 移動するか?いやでも、まだ買ってないしなぁ。


 そうして何度目かの思案顔を晒していると、同じ高校らしき生徒達は隣の本棚で会話を始めた。


 こっちに気付いた様子はないし、バレてないっぽいな。まあ、バレたところで何の問題もないが。

 さて、じゃあまた悩むか。


 俺は再度目の前の本棚を睨む。どっちにすべきか・・・いっそのこと別の選択肢探るか?

 ラノベ以外の、例えば・・・参考書とか。いや、ないな。


 ふと、隣から下卑た笑い声が聞こえてくる。


 何話してるんだ。内輪ネタか?それともクラスの陰口でも言ってるのか?どちらにせよ、俺には関係ない。

 と、思ったのだがどうやらそうでもないらしい。というのも、彼らが話していたのは俺のクラスについてだったのだ。


 例え俺の悪口を言っていようと、別に気にもならない。誰にどう思われようとどうでもいいからな。

 ただ、気にならないといえば嘘になる。


 俺は視線を本棚に固定しつつ、右耳に意識を集中させてみる。



『先輩ずるいっすよ!俺が最初に狙ってたのに!』


『さっさと告ればよかっただろうが。自業自得だ』


『それはそうっすけどぉ・・・』



 部活の先輩後輩とかだろうか。告るとか聞こえたが。さっき2年3組って言ってたし、俺のクラスの女子に対してだよな?

 引き続き俺は全神経を右耳に集合させる。



『だいたい告れば全部OKしてくれるんだから、告らない方がバカだろ』


『それはそうっすけどぉ。というか先輩、今彼女いなかったすか!?』


『そいつは2番目のキープ。今回作るのは3番目』


『じゃあ1人くらい俺に譲って下さいよ!』


『飽きたらな』



 学校にこんなクズ男がいるとは。

 俺は思わず横目で二人の姿を確認する。先輩らしき音は黒髪マッシュに黒いマスクをしていた。そして後輩らしき方はパーマがかった茶髪を遊ばせている。

 いかにもなクズ男ズ。高校生よりもホストの先輩後輩と言われた方が納得だ。


 まあとはいえ俺には関係ない話ではある。浮気が確定している彼女には可哀想だけど。

 そういえば告れば全部OKしてくれるって言ってたな。どこかでそんな噂を聞いたような。



『だいたい、先輩ならどんな女子でもいけるじゃないっすか!なんでわざわざ快諾姫狙うんすか!』



 快諾姫。その単語を聞いた瞬間、記憶の片隅に引っかかるものがあった。

 そうだ。同じクラスの夏川空。彼女がそう呼ばれていた気がする。いわく告白されたら断らないとか。いわく彼氏の言うことは全部聞くとか。いわく別れる時まであっさりと頷くとか。


 さすがに多少の脚色が入ってるだろうが、実際彼女の連れている男達は見る度に変わっていた。

 都合がいいだけの女の子。彼女とは何の接点もないが、その噂を聞く度に心配を浮かべていたものだ。まあだからといって、別に話しかけてまで忠告しようとまでは思わなかったけど。



『ああいう都合の良い女、誰だって1人は欲しいだろ。それに、どこまで言うこと聞くのか知りたいしな』



 下卑た笑顔を浮かべるマッシュ。こんな男がモテるのだから、世も末だ。



『まあ飽きたらお前に譲ってやるよ。俺の中古だけどな』



 さすがに言葉を失う後輩。そりゃそうだ。聞き耳を立てている俺だってドン引きなんだから。


 それからしばらく下品な会話を繰り広げた後、ホスト2人は退店していった。つられて俺も店を出る。先程まで悩んでいたものとは別種の懸念を抱えながら。



 ♢



 家に帰り、夕飯を済ませ早々に部屋へと戻る。

 いつもならスマホを片手にアニメを観てる時間帯。しかし今はとてもそんな気分にはなれない。


 俺はスマホから適当に音楽を流し、ベッドへ身体を預ける。


 あのマッシュが言ってたこと。そして言動諸々を振り返るに、告白対象の快諾姫こと夏川空が碌な目に合わないのは確定的と言える。

 どうする?今日のことを教えておく?でも、いきなり話したところで「何だこいつ」という目で見られかねないしな。

 かといって、このままというのも夢見が悪い。う〜ん。どうするべきか。


 指をこめかみに当て、ぐるぐると思考を回す。


 そもそもあの男が言ってたことが全て冗談という可能性もあるんじゃないか?

 男特有のノリというか、後輩の前でカッコ付けたかっただけで本当は普通に好きだった可能性もある。

 その場合、心配するようなことにはならないだろう。


 俺はスマホを取り出し、無造作にショート動画を再生し始める。

 動物動画、ネタ動画、アニメの切り抜き、次々と網膜に映像が映り出されていく。


 分かってる。全ては可能性にすぎない。

 彼女が酷い目に遭う可能性も、普通に彼氏ができて幸せになる可能性も、どちらも同じように存在している。だからこれは俺の問題だ。


 もしあのマッシュの会話を聞かなければ知らん振りもできただろう。でも、聞いてしまった。最悪の未来が起きうることを知ってしまった。

 ならば、やるべきことは1つだ。…でもどうやれば?


 俺はベッドに座り込み、再度思考を回す。


 先生に告発するとか…いや、誰と付き合うかは結局夏川次第だ。教師の範疇じゃない。

 クラスで噂を流すとか…それも手だが、ただのぼっちに拡散力があるとは思えない。

 あとは…うーん。思い付かないな。


 その後もあれかこれかと考え続けたが、有効な策は見つからず不貞腐れたように寝転んだ。


 俺でも実行できて、なおかつちゃんと牽制になるもの…何かないのか、何か。


 それでも思い付かず、現実から目を背けるようにテレビを付ける。液晶には深夜帯のラブコメアニメが流れていた。


 なんだっけこれ。ああ、そうだ。クールな同級生を段々と氷解させていくやつだ。

 どうやらアニメはクライマックスらしく、主人公がヒロインに告白している。


 告白か。断られるかもしれないのに、よく出来るよな。俺なら絶対無理だ。


 どうやら成功したらしく、主人公とヒロインは幸せそうに笑い合っていた。

 そしてその背後には当て馬らしき男キャラと女キャラが悔しそうな表情を浮かべている。


 …もし、気になってる女子に彼氏が出来たなら諦めるしかないよな。

 仮に振られたとしても、目の前でそんか光景が繰り広げられてたら自分も告白しようと思わないはず…これだ!



 ♢



 翌日。

 俺はさっそく快諾姫こと夏川空を廊下へ呼び出した。


 褐色の肌に、大きな瞳、真紅の髪をたなびかせ彼女は現れる。


 モデルと言われれば納得してしまう程の美貌。こんな機会がなければ近付くことすらなかっただろう。オタクとギャルは相容れないのだ。


「呼び出してごめん。伝えたいことが合って…」


 テンプレのような台詞。まるで本当に告白するみたいだ。

 いや、まあしはするのだが。それはあくまで恰好だけ。にも関わらず、心臓は高鳴り呼吸が浅くなる。


「よかったら…」


 口が渇く。思考が止まる。それでも何とか声を搾り出す。


「俺と付き合ってくれ」


 言えた。言えた!

 これで俺の役目は終わり。受け入れられようと、断られようと、しばらく彼女に告白しようとは思わないはず。

 それにしても、世のカップルはこんな試練をこなしてきたのか。凄いな。


 ほっと胸をなでおろしながら彼女を見る。

 告白された相手というのはどういう表情をしているのだろう。困ったように笑うのか、それとも一切の無表情か。どうせなら、笑っていてほしいものだが。


 そんなことを考えながら、焦点を快諾姫に合わせると殺意にも似た鋭い視線が返される。


「ひっ」


 あまりの迫力に思わず後退さってしまう。何だあの顔。まるで親でも殺されたような、仇を見る顔だ。


「お断り」


 そんな俺の動揺など知ったことではないとばかりに、彼女は冷めた声でそうピシャリと言い放つ。


「用が済んだなら早く消えて」


「あ、ああ…」


 それ以上何も言えずに俺は逃げ帰るように教室へ戻った。教室に足を踏み入れた瞬間、クラス中の視線が俺へ突き刺さる。

 ざわざわ。ひそひそ。どうやら、既に話は広まっているらしい。そしてその日、俺たちの学校に一つの新たなあだ名が誕生したのだった。『玉砕男』、と。

 ……酷すぎる。

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