マリアたちの選ぶ途 -Le choix du saint-・1
ある日の聖院本宮。
幹部会議室で開かれた聖院・痴女皇国合同幹部会の席上で、あたしはとんでもないことを発表せざるを得なくなったのです。
ええ。
地球寒冷化の兆候です。
具体的な傍証数値…気温や海流の温度はもちろん、雲の発生量や地域別の日射量などを挙げながら「氷河期突入までの期間が当初の予測より遥かに迫ってはいないか」を取り上げ、出席した両方の幹部に説明したところ…ええ、皆の表情がまず、凍りついたのです。
(あたしたちが先に凍ってどうするのよ…)
(そりゃ凍るような話をするからだよ…)
で、黒マリ…後述しますが、痴女皇国の方のあたしの話は置いときましょう。
実は、この寒冷化。
単一の要素で起きるわけではありません。
そして、過去の地球の歴史の研究でも、なぜ氷河期が起きたのかという課題は常に出ており「どれが原因か」を突き止める試みは常に行われていたのです。
ですが、犯罪の捜査のように「誰が犯人だ」というのを決める視点では、なかなか原因が特定できなかったようですね…まぁ、それはそうでしょう。
んで、ちょっとややこしい話になりますが、まず、スベンスマルク効果という仮説があります。
これは、太陽系の外の宇宙空間から飛来する「銀河宇宙線」というものによって地球の雲の量が変化しているという学説で、皆さんの世界では研究や実証実験がそこそこ行われていたと思います。
この銀河宇宙線が直接に地球上へ降り注ぐと、雲の量が増えるとされています。
一方で、太陽のまわりに形成されている巨大な太陽磁場。
これが強くなると、その銀河宇宙線を弾いてくれます。
しかし、太陽磁場が弱まると、宇宙線は地球に到達して雲の量が増えるという因果関係となるそうです。
で、雲の量が増えるとどうなるか。
一般的には、温室効果というものがありますが、それ以上に大きいのが日傘効果です。
これは、過去の地球の環境を激変させたといわれる数度の、巨大火山の噴火で立証されています。
聖院島(痴女島)の近所では蔵が立つ山として知られる火山があります。
この山は、連邦世界や皆さんの世界ではインドネシアのクラカタウ火山として知られているでしょう。
そして、歴史にも影響を与えた大噴火を、複数回発生させた山としても知られているのです。
お分かりでしょうか…大気中に漂う粒子が増加すると、太陽光線が遮られて地球が冷えるんです。
いわゆる、エアロゾル効果というもの。
で、もっと直接的に地球を冷やし…全球凍結と言われた現象を引き起こす有力な要素として、北極と南極の磁場が入れ替わる磁場逆転現象というものが挙げられるんですよ。
磁石って、N極とS極がありますよね。
地球も巨大な磁石みたいなものでして、北極がN極、南極がS極になります。
しかし、このNとSが入れ替わったらどうなるのか。
この「地磁気逆転」っていう現象が原因で冷えたとも見られています…古代の化石や岩石から発見された冷えた痕跡や、磁場が入れ替わった痕跡の時期を分析した結果、地球の寒冷化に多大な影響を与えたとされているのです。
まぁ、地球が冷え込む原因の話はとりあえず置いておきましょう。
で、あたしがこの件に注意を払っている理由。
聖院世界の地球と連邦世界地球が接触した当時…つまり、あたしがジーナかーさんとクリス父さんの娘であり、同時にクレーゼ母様の娘として生まれることになったきっかけなのですけど、とある事件の後で連邦世界の地球とNB政府によって、密かに聖院側の地球の探査や分析が行われました。
これには、聖院側も協力しています。
そして得られたのが「聖院側の地球の地下資源、特に化石燃料資源が連邦世界地球に比べて異様に少ない」という分析結果だったのです…。
これは、石油化学原料資源の枯渇危機が懸念されていた連邦世界側の関係者、特に汎銀河人類族連邦が正式名称である、一応の統一地球政府関係者に衝撃を与えたのです。
なぜか。
聖院世界の地球から、石油や石炭を得ようという目論見があったからです。
しかし、ないものは提供できません。
それどころか、あたしも聖院側の人間として「こっちに供給がないと聖院世界の文明はハッテンしまへんで」とコメントしてます。
いえ、実際にそうなんですから。
連邦世界の地球の発展の歴史をなぞらせようとすると、化石燃料は絶対に必要となります。
単に燃料としてだけでなく、合成物質の生成製造には必要不可欠ですから。
で、この件もあって、あたしたちは白マリと黒マリに別れました。
つまり、痴女皇国を建国した方のあたしマリアリーゼが通称:黒マリです。
そして、聖院が聖院のままで時間を進めて行く選択の時間軸に残ったあたしが通称:白マリです。
いわば、あたしが二人に別れたようなもの。
そして、二人のあたし達は協力してそれぞれの世界の統治に乗り出しました。
痴女皇国の方は、申し上げるまでもなくめちゃくちゃなことやってます。
しかし、そのめちゃくちゃなことをしてでも、可能な限りは人類という種を残そうという試みを続けていた。
そう、お考え下さい。
そして、痴女皇国の無茶苦茶で出た問題をフィードバックしながら、聖院が従来掲げていた「人の世を直に統べるなかれ」という理念に基づいて、間接干渉の立場を継続していたのがあたし白マリの方の聖院と、そっちに紐つけられた方の連邦地球やNBなのです。
ですから、痴女皇国の時間軸と連動している方の連邦世界では、黒マリと連携してむっちゃくちゃなことになってますけど、こっちの地球はそこまで無茶なことしてませんよ。
だいいちリュネ世界と接触、してませんし。
ただ、苗床技術。
これは、いざとなったら導入する予定です。
ただ、やるとしたら…NBでやる可能性が高いんですよね…。
と申しますのも、聖院側の地球。
これは元来、地球が経験しているはずの全球氷結という現象が起きていないのではないかとされているのです。
これは痴女皇国世界の地球でも、事情は同じです。
つまり、この先に聖院側も痴女皇国側も、地球で人を増やすどころか、文明社会のハッテンは難しいのはもちろんですね…後出しで、大規模氷河期が到来してくる可能性があるんじゃないかという分析すら出たんですよ。
で、全球氷結なんてことが起きたら、人類はひとたまりもありません。
では、どうやって対処するのか。
(エマ子なら地球の自転軸をいじるとか、宇宙線の入射線量を調節するとか、あるいは地磁極の再逆転…つまり元に戻すこともできるな…できるけど)
(そうなのよねぇ…それは単なる問題対処であって、そもそも資源量が少ないっていう聖院地球や痴女皇国地球の固有問題の一時的な棚上げでしかないのよね…)




