王の帰還 -Reditus Regis-・10.2
「でさぁ、小僧になってる方がここの女にゃウケがいいってのはわかるんだ、わかるんだけどさ…」
ええ、どうもこのお菓子屋…いえ犯し屋ジョニー、なんと百人以上の手下を従え、イングランド側で暴れ回ってたらしいんですよ。
しかも、北側の貴族には馬を提供されたり、あるいは資金を出してもろうたり。
「はっはっはっはっはっ、なるほど面白い試み…旅人を襲って食い散らかしておった山賊ども一家のようなことであれば流石に罰するが、昼間にイングランド女を襲って種をつけるとはなかなかに愉快な話じゃ…よし、我がスコッツの優秀な種をつけて参れ」
とか、むっちゃくちゃな事を言い出した貴人が後ろだてになってたそうなのですっ。
「しかも、その話ってよ、俺らがパブで飲んでて冗談混じりに「昼間みたいに亭主の留守を狙って襲えばいいんじゃね?」とか「イングランド女の取り澄ましたツラを涙目にしてやるのも是非やりてぇよな」とかよ、酒の上でのイングランドの悪口半分で盛り上がってたらよ、近くで飲んでたのが公爵様でよ…」
「英国のパブの前で泥酔して倒れてるんは労働者か貴族やゆうけど、ほんまに公爵の身分で飲むなやとしか言いようがあらへんわな…」
「ああ、聖母様だっけか…英国の連中、言うことがご立派なんだけどシモがご立派じゃないとかよ、ほら、色々いてるだろ…」
「うちの婿の父親が正にその部類でな…」
「親は選べねぇって慰めといてくれ…」
ただ、お貸し屋ジョニーとやら。
うちのフユキとかと同じ部類でしてね。
「まぁ、股ぐらがいきりたった時に大人のままなのはせめてもの幸いだな…」
で、ジョニーとやらは罪人の仕事の割り振りがあるとかで、大人の姿に戻してもらってから職務についております。
「でな、客人方にはここが初めてってのもいるだろうが、今は通いの事情持ちを含めたら万は働いてるんだ…この罪人寮で寝起きしてるやつはそこまで多くねぇけどな。そして、入れ替わりも毎日のようにあるんだが…」
で、この話をしておるのは痴女宮本宮四棟のうち、一番東側の罪人寮という建物の上の階。
アルトさんが長で、ペルセポネーぜ黒薔薇騎士団長が副局長となっておられる警務局の仕切りとなる刑務部というところです。
で、わしとかフユキとかエマネとかロッテはお初じゃないのですが、壁に何箇所も出ておる監視の画面とか、あるいは罪人の動きや配置を示す絵図だの、工場の操業の具合を見る絵図だのに圧倒されとるのはアトハとリミニ、そしてメリエンもだったのです。
(あのーイリヤ様、これって軍議とかにも使えませんかね)
(っていうかリュネ王城だと近いものが置かれとるはずやで。各地の聖母教会に監督役や巡視役を配置したり、あるいは荘園の操業や出来を見張るところができとるからな)
そう…聖環を装着された者の動きはこうして監視監督の対象となってしまうのです。
で、この刑務部では刑務課と、そして舎房課という二つの部署に更に別れているという話を聞くことになったのです。
「まず、刑務課は通商局や厚労局と連携して、罪人工場での出来高やら罪人の超過労働の監視などを行いながら、どの罪人にどの仕事をさせるかを決めてゆくのです。そして、罪人の数に過不足がないよう調整するのもここです」
「ただ、ここで管理してへん罪人もおるよな」
「ええとですね、事情罪人で門前町住宅から通っておる者については、職場配置や勤怠の扱いのみですね。罪人寮で起居しておるのは今ではほとんどが刑務罪人または警務罪人資格者ですから」
で、事情罪人という存在についても教えておきましょうか。
(例えば聖院学院を出た子が働く口に困ったとするやろ。そしたらあの目の前のでかい工場が立ち並んでるとこ…罪人工場で働くこともできるんや。ただ、そういう子はほんまの罪人と一緒にしたら支障があるから働き場所や寝起きの部屋も変えておるそうや…ですな、ジーナ様にダリアさん)
(ああそうか、イリヤさんもチンボテとか離魔悪所とかメキシコの罪人の扱いで詳しかったですな)
で、罪人の首輪の色が違う理由も教えておきます。
そして、ここで全ての罪人を管理していない理由も。
「そうですね、まず、あの画面をご覧ください」
と言ったペルセポネーゼ副局長が指示を出すと、とある工房の中が大写しになります。
すると、警備の騎士服を着た女と、そして上半身裸の逞しい男が大写しになります。
しかし、男は頭に警備の帽子を被っておるのです。
「あの警務騎士の隣にいるのが警務罪人と称される存在です。優秀な罪人や特殊業務への覚えよろしい者は罪人寮の掃除や日用品の管理出納などを司る掃夫ですとか、しふと配置や生産数や工程の管理を行ったり、新人の罪人を指導する班長組長といった監督工に就任できるのです。そうそう、食堂の調理も刑務罪人の仕事のうちですよ」
そして、ここの飯は、なんと食堂で食うのですよね…。
そればかりか、成績優秀な罪人であれば、1階の罪人食堂の上の階にある罪人用の購買で菓子を買うとか、更には私も何度か連れて行かれた「居酒屋罪人」が利用できるのです。
「昼間に限りますが、ランチメニューというものを出しますねん。罪人食堂は基本的に何種類かの定食しか出しませんし、その献立もビシッと決まってますから、それを食うしか楽しみがないわけですねん…」
「ですがダリア、けいむ罪人ともなればじばらですけど門前まちのしょくどうや、まさにそのいざかや罪人でおひるごはんをいただくこともできるでしょう…」
そう、仕事を覚えれば覚えるほど、使える給金の額も上がるし色々できるようになっとるのです。
で、罪人の地位で一番高いとされているのがその警務罪人なる存在なのです。
これはわし、教わってますしね。
つまり、罪人の身分でありながら警務騎士当番に入った女官と組になって、指示された見張りの場所に座るか、あるいは決められた場所の見回りをすることになるのです。
その場所には当然、あの「淋の森」も含まれてるんですよね…。
「もちろん淋の森を見張る仕事は重大な任務やで。ただ、いわゆるその、淋番は女官の婚活の場でもあるからな…ジュネスの視察のついでにその淋の森を必然的に見ることになると思うけど、驚かんといてな…」




