王の帰還 -Reditus Regis-・5
で、悪魔の谷駅に到着した私たちを待ち構えておったもの。
えらく長い銀色の箱の連なり…つまり、列車というものです。
で、その銀色の腹には駱駝らしい影絵が黄色で描かれておりますね。
そして、我々が乗るべき箱はここやでと心話で案内を寄越されたお方が、緑色のつなぎ服とかいう、乳や尻を隠す姿でお待ちかねでした。
「CAMEL EXPRESS…NB Rail ルーン大陸鉄道管理局の運行する駱駝急行へようこそ」
ええと、室見理恵様ですね。
で、この駱駝急行とやら。
あまりに長いので、駅によっては半分ずつに分けて停めることがあるそうです。
そして、その作業を要する駅では、停車時間が長めに取られておるとお伺いします。
で、なぜに長いのかという件ですが。
「学園都市駅で後ろに客車を繋ぐからです。まぁ、場合によっては西港市駅で子供たちを乗せた車両を切り離す代わりに、学園都市から東へ向かう子供たちが乗った客車をつなぎ変えますけどね」
で、お読みの方向けの説明では。
(この駱駝急行東行、パース…じゃなくて西の港町を出ると、東北東に進路を変えて悪魔の谷経由でルーン大陸中央の町を通ります。そこから羊や牛の放牧地を中心とした開発が予定されている盆地と、山々を越えてルーン王城市に達するのです。全行程は4,000キロを大きく越えますので2泊3日、西港市駅を朝8時に出てもルーン王城市に到着するのが3日目の夕方になるのです…そして、学園都市を経由することでお分かりかと思いますが、ルーン大陸の児童教育制度のために走っている列車の1本でもあります…)
ルーン大陸都市・港湾位置概念図
------------------------------------------------------
◯北部港町(ダーウィンに該当)
◯鋼の港(ポートヘッドランドに該当)
◯鉄の山(ピルバラに該当) ルーン王城市◯
(ブリスベンに該当)
中央平原町(アリススプリングスに該当)
⚫️悪魔の谷 ◯ 貨物港町
(シドニーに該当)◯
中港町(アデレードに該当)◯
◯西方港市 ◯南港町
(パースに該当) (メルボルンに該当)
------------------------------------------------------
つまりこの駱駝急行、学園都市駅で乗り降りさせる生徒が主なお客だそうなのですよ…。
加えて、悪魔の谷駅からはNB本土とルーン大陸を往来するふぁいんてっく社員の方などが利用なさいます。
つまり、悪魔の谷駅は悪魔の谷駅で、学園都市駅とは分けておく必要があった模様。
で、生徒たちが移動している制度については、永場支部で実施している異動配置制度を参考にしたとのリンジ-教務長のお話です。
(とりあえず総督の地位はミス・マリアンヌにお譲りさせてもらえることになりました…ただ、学園都市の長はやってくれと…)
で、永場支部の制度にも関わられたリンジーさんに聞けば、そちらにもポル=バジンという王城を兼ねたオテラがあって、そこで荘園に勤めるお子らを育てておるそうです。
で、向こうも広いひろーい大地を監督しておる関係もあって、列車が駅に着く度にポル=バジンを訪れたり、あるいは各地に送り出されるお子を中心に多くの人数が乗り降りしておる光景も、記憶や映像で拝見しました。
で、今はこのルーン大陸での牧畜事業の立ち上げのお勤めに従事しておられますが、まさに永場王国…永場支部で実施している内容に限りなく近い形で、淫化でも飼育しておりました羊やらくだなどを飼い慣らすことが進んでおります。
いえ、牛や豚、鶏など、畜生肉はもちろん、乳や卵も得られますのでね。
で、そうした産業育成に関わられた経験者ということで、その永場支部からジュリアーネ支部長が長期出向を言い渡されてルーン王城市に赴任しておられるのです。
(永場の北方では馴鹿を飼っておりますが、あれはそちら向きではありませんからね…それはそうとリュネの方々にはあまり馴染みがないと思いますが、乗馬訓練の案内もそろそろ来ておりますかと…)
げ。
(おばさま。淫化でラクダと馬とリャマとアルパカの飼育や訓練やらされましたよね…飛べるからええやんって乗馬の訓練サボってたの誰っすか)
エマネ。
そもそも馬に乗ったり、馬に車を牽かせてたのは西方族でしょうが。
あ、リュネにおった馬は少々小柄でして、こっちの世の馬とは少し違いますよ。
それと、あまり多くはなかったのです。
理由。
魔族に食べられます。
(禁止令は出していた…しかし、腹が減った連中がな…がな…)
というか、あんたら、あれ食べても栄養になるの?
(苗床の滋養にはならんのだがな…ほら、昔の淫化でいう、効果の葉を噛んで空腹をまぎらわす方法のようなものだ…)
つまり、腹減ってどうしようもない兵隊魔族が、仕方なくそこらへんの草を食う感覚で馬を食いよる。
ロッテによれば、そういう感覚らしいのです。
しかし、リュネでは貴重な畜生をそこらへんの草扱いで適当に食い散らかされても困りますので、育てとる地域に魔族が現れたら問答無用でしばく対象でした…。
しかも、ロッテによれば、人間でないと魔族の体の滋養にはならんかったらしいのですよねぇ。
そんな話をこっそりしておりますがね。
魔王と、力仕事を担当した労働魔族や見送りの西方民たちに送られて、わしらは列車に乗り込もうとしてるんですよ。
で、学園都市駅で駱駝急行に乗り込んだフユキとはこの悪魔の谷駅で合流することにしております。
で、あらかじめわしらが乗る箱に案内されていたフユキ、その中の豪華さに驚いたようです。
(お風呂まであります…)
そう言えばマリアリーゼ陛下のお姿が見えませんね…って、え?
(あたしはここからりええに付き合うから。んで、おばはーん、乗り込む人案内したげてー)
は?
ジーナ様、ルーン王城市でお待ちなのでは。
(いや、充電とか休暇とかふざけた事言うからさ、仕方なく乗せたんだよ…)
(まぁ、もともとイリヤさんたちや王様夫妻を乗せるって聞いてたから、総督仕様の特室車1両増結手配してオッケーだったけど…ジーナさんもあまりわがまま言わないで下さいよ…)
(ごめん理恵ちゃん…文句はうちをこき使いよる娘に言うて…)
でまぁ、その箱の出入口から顔を出されたジーナ様、箱から出て来られて魔王に挨拶。
「ところで魔王さん、苗床から離れて大丈夫ですの?」
「そうですな、むちゃせぇへんかったらたしょうは離れておってもいけるようにまりあはんがさいくしてくれましてな。聖母さまもわざわざのおこしでありがとうございます」
まぁ、ジーナ様がここに来られている理由は黙っておきましょう。
そして、実のところはこうして来られておる方が色々と都合がよろしいというもの。
なぜならば、このルーン大陸は借り物といえば借り物。
その借り物の元来の持ち主のお一人がここに来られて、魔王や我々と挨拶を交わすだけでも外交とやらを演出できるでしょう。
そして、借り賃の相殺のために色々と手続きをして頂いておるのがエヌビー政府であり、痴女皇国というのは学び舎でも教えておることですから。
そして元来のこのルーン大陸、もとはエヌビー政府の持ち物です。
しかし、それでは移り住んだ私たちにも税を納めたり、あるいはエヌビーの民と同じ水準の学校に通ったりはもちろん、お勤めで給金を稼いで必要なものを自分たちで買い求める暮らしをすることになってしまいます。
ですので…既に別のところでも話が出ております通り、英国という国の王様がエヌビーからルーン大陸丸ごとを買うか借りるかして、一旦はその王の財産にされております。
そして、行くあてがない彷徨の難民扱いのわしらのすみかとして、このルーン大陸を貸し付けておられるというのが建前なのです。
ただ、それをすると本当ならものすごい租税が英国の王にかかるらしいのです。
(オーストラリア一国分の資産税だもんなぁ…いくら英国王室が自発的に納税してるって言ってもデカすぎるよ…)
(せやけどあれ、自主納税やろ。バックれてもええんちゃうんけマリ公)
(そういう訳にもいかねぇだろ…それに厳密に言えば他のクラウン・エステート管理物件と同じでさ、元来は英国民に所有権がある土地を国王に信託してるって扱いなんだから…)
これ、わしには最初、信じられんかったのですよ。
なんで王が税を納めんとあかんのか。
(一応、うちのせこいおばはんが言うようにバックれられる。だけど王室はソブリン・グラント…王室不動産会社などから上がってくる資産収益から私的なものに限っては納税してるんだよ、国民への還元として。確かエリザベス2世陛下から始めた慣習だったな…ま、これは後で話すよ)
なるほど、国民の支持を集めるために自主的に義務を果たしておるのですか。
それならば納得です…そういえばそこの王家、子女は軍務も経験するそうですね。
(一応はやることやってるよって国民アピールが強い王家だからね、伝統的に)
(ともかく、イリヤさんら乗ってもらうぞ。話の続きは後やあと)
で、魔王とその配下の見送りを受けてわしらは箱の中の人となります。
「ええとな、王様と王妃様はこの部屋。で、お付きの人部屋にメリエンさんとイリヤさんやな。まぁお付きの部屋ゆうてもこうして扉を開けたらひとつながりになるし…で、エマネちゃんとロッテさん、ほんまはうちと一緒に隣やねんけど、さっきうちとマリ公がしとった話の続きも兼ねて、王様と王妃様にはこのややこしい領地の関係をお教えしとく方がええやろ…なんせ、リュネ世界の皆さんがなるべく楽に暮らせるようにと関係者一同頭抱えた結果やからな、現状」
------------------------------------------------
じーな「ほんっまややこしいねん、本国の王室が絡むと」
マリア「今回に限ってはおばはんに同意する…なんであの国はこうもややこしい事が好きなのかってな」
いりや「聞く前から頭が痛くなります…」
じーな「まぁまぁ。で、NB本星は言うまでもなくNB政府が治めておる独立主権国家や。そして地球を統治する汎銀河人類族連邦と、名前だけはたいそうな国家とは独立と建国以来、ずっと冷戦関係が維持されてるねん」
マリア「何度か百光年の距離を越えてガチに攻め込もうとしてたけど全て頓挫した過去があるんだよ」
じーな「で、英国はここでNB政府に対して二枚舌の態度を取ってるねん。つまり、英国系の移民国家としてNBを英連邦傘下の衛星国家として承認しとるんやわ。ただ、英国はその汎銀河人類族連邦の傘下国家にもなっとるから、表立っては仮想敵国扱いなんやわ、NB」
えまね「えええええ」
ろって「つまり…例えばリュネに黙って西方が魔族と和睦するようなものかね」
マリア「まぁそんなとこ。そして、密輸手段をサン=ジェルマンさんが提供することで、地球から必要なものを取り寄せるどころか、地球から移転した企業の工場やら何やらを向こうに造ってんだよね。もちろん現地法人も設立されてるんだけど」
じーな「で、ここでうちらの話の最初の方で出てきてた「連邦世界の金とNBの金は直接両替できなかったり、こっちのメディアウォッチで支払いなんか絶対無理」っちゅう問題が生じたわけよ」
マリア「ただねぇ…イングランド銀行…英国の国立銀行は、連邦政府に対して独自通貨を流通させる権利を悪用して、NBポンドと本国ポンドを両替する手続きを受け付けるようにしたんだよ…で、本国のポンドは連邦ドルに両替できるからね…」
じーな「で、その両替手数料で儲けておるんや…さすが汚い英国きたない」
マリア「かーさんがなんで怒ってるのかって言うと、NB軍人の俸給を連邦地球で使える代わりに手数料がっつり引かれるからなんだよな(ニヤリ)」
じーな「笑い事ちゃうぞ…マリア、お前とかマリアンヌの学費、宙兵隊のうちの給料だけやったら賄えんから最初はうちのNBの方の報酬からも出してたんやからな!(泣)」
マリア(ラッツィオーニのおじさんが連邦政府事務局長になってから、NB関係の和平活動の協力予算でかーさんに支援できるようになったんだけど、それまではかーさんの実家の会社とか大変でね…皆さんも覚えてるかな? 聖院の食堂でご飯食べさせてたっての…あの時期よあの時期)
じーな「うちも金には苦労しましてな(泣)」
マリア「まぁ、おばはんの嘆きはともかく、リュネの皆様にはそういうことで泣かずに済むように、あたしらもそれなりに手を打ったんだわ」
じーな「例えばやな、今、ルーン大陸から送ってもろとる麦とか大豆とかジャガイモとか、あと畜産関係。これ実はルーン大陸王室自治領政府にNBは金、払うてへんねん」
えまね「えええええ」
いりや「いくら私でも、それはちょっと変だとは思いますが…」
マリア「で、この措置は本国王室やNB政府の課税を回避するためでもあるわけよ。ひらたく言うと税金逃れのためにさ、ルーン大陸については特別領土貸与法だっけ? 本国王室に貸してる賃貸料をルーン大陸から上がってくる資源や農産物の現物相殺にすることで、実際の現金移動を解消する便宜法案通しただろ、かーさん」
じーな「通称・外星難民救済法。ゆうたら昔の日本の税の租庸調のルーン大陸版みたいな感じにして、そっちで余った農産物とか肉類とか鉱物資源を買い取る代わりに諸々の課税やクラウン・エステートへの賃借料やら課税やらをNB政府とテンプレス・エステートNB支店が代替する形にさしてもろた」
マリア「ちなみにあたしの会社はこの場合、ルーン大陸という不動産の管理の代行会社って位置付けだよ。つまり、マンション管理会社の立場」
じーな「で、本国から百光年離れてるせいで王室保護領の保護にかかる軍事力や警察力は英国が担保できへんから、テンプレス・セキュリティ英国本社にルーン大陸保護領の警備事業を委託したゆうのが書類上の体裁やな」
マリア「つまり、ここでルーン大陸の管理費用や警備費用が発生するわけだけど、この金額を調整して王室に納入する保護領賃貸費やら諸費用とほぼ相殺されるようにしてんだよ」
じーな「つまり、関係者がお互いに金を払ったり現物を提供することで実際の金のやり取りを解消しとるねん。ただ、その計算が面倒で…田野瀬さんが英国本国のHMS大蔵省を経由して痴女皇国に出向してる立場を使って、この辺の処理をしてもろてるんよな」
マリア「たのがこのルーン大陸に来てたのはその辺の財務処理もあったんだよ」
じーな「んで、本国の扱いに準拠してクラウン・エステートの資産はNB国民の信託資産として非課税扱いにしとるやろ。これでほんまなら莫大な税金だの賃料だのが建前は仮想敵国の連邦の経済システムを通さずにNB国内だけで処理できてることになるからな…」
マリア「これだけのことをして、やっとルーン大陸の中でリュネや西方や魔族の皆様がある程度は好きに統治できる土台が整ったんだよ…」
じーな「うちも何本、NB下院にルーン大陸絡みの法案を通す手伝いさせられたか…自由労働党内の議員への勉強会とかも含めたら死ぬかと思たんやぞ!(涙)」
いりや「それを思えば列車の旅もごほうびというものでは(きらーん)」
じーな「ああっイリヤさんが捕食者の目になっとる!」
マリア「諦めろおばはん。何のためにあたしがかーさんをその車両に乗せたと思ってんだよ(にやり)」
じーな「うちを接待してくれぇええええ!(絶叫)」




