最終話 ありがとう
やり残したことがあるかどうかと言われれば……あるのかもしれない。
でも具体的に何かと問われれば、答えるのは難しい。
「……俺はさ、やり残したことだらけだと思う」
「……へ?」
直登なら、やり残したことなんて無いって、はっきり答えるものだと思っていた。
私が呆気にとられているまま、彼は話を続ける。
「素の自分を出して学校生活を送れば良かったなとか、勉強ばかりにとらわれずに、もっと遊んでおけば良かったなぁとか、自分がやりたいと思ったことを、もっとやっておけば良かったなぁとか」
すると、彼は私の方を向く。その真剣な眼差しにドキッとする。
「もっと可鈴と思い出作りたかったなぁ……とか?」
「……直登」
握られている手に、力が入るのが分かった。真っ直ぐに見つめられ、彼の瞳に吸い込まれそうになる。
「花火大会の時にも話したけど、時と場合によって使い分けてたからさ……可鈴に呆れられてるんじゃないかって不安だったよ。もし、普段からこのスタイルなら、あんなにキャーキャー騒がれなかったかもしれないし、もっとゆったりとした毎日を過ごしてさ……可鈴とたくさん思い出が作れたんじゃないか?って思うんだよな」
「……うーん、そんなこと無いと思うよ?」
「え?」
「確かに、王子モードの直登は女子からキャーキャー騒がれるような存在だったとは思うよ?でもさ、今の直登だってすごく魅力的だよ。素直じゃないけど、相手のことをきちんと考えてるところとか、不器用な優しさとか……挙げ始めたらきりがないけど、今の直登だって、普通に皆からモテてたと思うよ」
「そっ……そんなことっ」
「てか、そんな事気にしなくて良いんだよ!私は十分思い出作れたと思ってるし、これからまだまだ楽しいこといっぱい待ち受けてるんだから!」
私の言葉に、直登は目をそらし、下を向いてしまった。そんな彼の左手を私は両手で優しく握った。
「直登は直登だよ。……私は、そんなところも含めて本当の直登のことを……本当の君を好きになったんだから」
私のその言葉に、直登は顔をあげる。ニコッと微笑みかけると、腕を引かれギュッと抱き締められた。
「……可鈴っ……。俺もお前の事……好きだ」
「……知ってるよ」
「絶対に幸せにするっ……!!」
「……もう十分幸せだよ。……直登、これからもよろしくね」
すると、彼は優しく唇を重ねてきた。角度を変えて、何度も何度も繰り返す。
目を開けると、彼の優しい顔。ああ……幸せだ。
こんなにも幸せな事が他にあるだろうか。
結局、あなたが隣にいてくれることが一番の幸せなんだよ。だから、これからも……
「──直登、私のこと離さないでね」
教室の外から、凪沙、湊くん、樋野くんの話し声が聞こえてくる。きっと、もうすぐこの空き教室に入ってくるのだろう。
その時に、私のメッセージも見てもらおう。
黒板に記した、正直で一番伝えたい思い。
言葉で言うのは照れ臭いけど、ずっと変わらない思い。
『みんな大好きだよ!! 瀬戸可鈴』
ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。無事に完結させることができました(^-^)
たくさんのブックマーク、評価、感想、本当にありがとうございました。とても励みになりましたし、温かい気持ちにもなりました。
『本当の君を好きになる』いかがでしたでしょうか?
皆様の心の中に少しでも残ってくれると嬉しいです(*^^*)
本当にありがとうございました。
瑠音




