第48話 彼女の正体
『──もうこれ以上首突っ込まないで』
彼はそう言い放ち、私の目の前から消えていった。正直、湊くんからあんな事言われるとは思ってもみなかったから、ショックは大きかった。
でも、彼があそこまで乱れるのは、久しぶりに見た。いつも余裕げな笑みを浮かべて、私より冷静に物事を見ていて……。
そんな彼が見せたあの姿は、相当追い込まれて出てきたものだろう。何故そう思うのかって?
それは、彼が新学期早々学校を休んだからだ──。
***
「──やっぱりおかしい」
私の言葉に、3人は一斉にこちらを見た。いつもの空き教室で、昼御飯を食べていたところだったが、私の発言に3人は首をかしげる。
「急にどうしちゃったの……?」
「おかしいって……朝も言ってた桐谷くんのこと?」
「可鈴の気にしすぎだろ」
凪沙、樋野くん、直登のそれぞれの話を聞きながらも私の頭の中はモヤモヤしたまま。
「……だっておかしいと思わない?今まで休んでるところ見たことない湊くんが新学期早々休むって」
「普通に風邪でも引いたとしか思えないけど、何がそんなにおかしいんだよ?」
「……でも、可鈴の言いたいこともちょっと分かるかもしれないな」
「えっ?」
凪沙の言葉に、私はすぐさま反応する。
「桐谷くんから話聞いたことあるんだけど、皆勤賞狙って頑張ってたみたい。だから、どんなに高熱が出たとしても、とりあえず学校には行くって言ってたな」
「……なるほど」
「……だったら、アイツが休むには、それなりの理由があるって事か?」
「……私は少なくともそう思うんだけど」
「私も可鈴の意見に賛成かな」
「普段から桐谷くんのことよく見てる凪沙が言うんだから、僕もそれは信じてもいいと思うよ」
「ちょ、綾人くんは余計なこと言わなくていいからっ!」
「アハハッ!」
そう言ってからかい気味に笑う樋野くん。でも、確かに凪沙の言うことは信じるべき情報だと思うな。
そして、私と直登は今日配布されたプリントを届けるという理由で、桐谷くんの家を訪ねることにした。
***
ピンポーン……ピンポーン──。
呼び鈴を押す指は、変な緊張で少し震えていた。
湊くんに突き放された矢先に、私が家を訪ねても良かったのだろうか?でも、何かすごく嫌な予感がするし……やらずに後悔より、やってから後悔ってよく言うし、頑張れ私っ……!!
そう自分に気合いを入れた直後、ガチャリ……と重たそうな扉が開いた。顔を覗かせた人物に私は固まる。
「……どちら様でしょうか?」
「あ、僕たち桐谷湊くんと仲良くさせてもらっている、幸坂直登と、瀬戸可鈴と言います」
その言葉に、その女性はパッと表情が明るくなる。
……この女の人……花火大会の時に、湊くんと一緒にいた人だ。
「湊くんの……!どうぞどうぞ上がってください!」
女性は慣れた手つきでスリッパを取り出すと、私たちを招き入れてくれた。
……湊くんとこの人は一緒に暮らしているってことなのかな?勝手にスリッパを出すくらいだから、そうなのだろう。
***
「──湊くんはね、学校のこと何も話してくれないから、心配だったの」
リビングに通された私たち。私と直登は並んで座り、目の前には優しい笑顔を浮かべた女性。
「一緒に……暮らしてるんですか?」
私の言葉に、彼女は首を傾げる。
「……一緒に暮らしちゃダメかな?」
「いえ。そういう訳ではなくて──」
「──あー、もしかして湊くんから何も聞いていないのね?」
私は、その言葉に思わず身構えてしまった。
「申し遅れました。私、湊くんの母親の桐谷楓奈です」
「……え?」




