第49話 何が起こっている……?
目の前の女性……いや、湊くんの母親と名乗る人の姿をまじまじと見つめる。
どう見ても、二十代前半にしか見えない。とんでもない若作りをしてるとでも言うの?いや、それはあり得ないだろう。だとしたら、この人は……
「し、失礼ですけど……何歳ですか?」
「私?24歳。……あ、そうだよね!最近、湊くんのお父さんと結婚してね、だから本当のお母さんではないんだよ!」
その説明を聞いて、ようやく自分の中で納得がいった。湊くんのお父さんの再婚相手だったのか。
ということは、花火大会の時あんなに嫌そうにしていたのも、まだお母さんのことを受け入れられていなかったからなのかな?
「……あの、湊くん今部屋で寝てるんですか?」
「へ?」
私の質問に、彼女は目を見開く。
「いや、まだ帰ってきてないけど……どうして?」
「え?帰ってきてない……?」
「ええ。まだ学校にいるはずだけど?」
「え?湊くん今日学校休んでるんじゃないですか?」
「へ?朝、いつも通り制服を着て出ていったんだけど……?」
全く噛み合わない話。どういうこと……?
この戸惑っている様子から、この人が嘘をついているとは思えないし……じゃあ、湊くんは一体制服を着てどこに行っているんだろう?
隣にいる直登を見るが、特にこころあたりは無さそうだ。
私たちは、プリントを預けると家を後にした。一応、「何かあれば連絡をください。」と、私の電話番号を渡しておいた。
……一体、湊くんは何がしたいのだろう?もう少し、あの家には通う必要がありそうだ──。
***
プルルルル……プルルルル……プルルルル──。
「……もしもし?」
『あ、もしもし?桐谷くん?』
電話の向こうから聞こえる、遠慮気味な優しい声。いつもと変わらない彼女に、少し安心している自分がいた。
「あー、井上さん。今日はごめんね。急に休んだのに、連絡もしないで」
俺は、なるべく悟られないようにと先に自分から休みについて触れる。
『ううん。大丈夫だけど……どうしたの?』
「あー……ちょっと風邪引いちゃってね」
『……風邪?……それだけ?』
「うん。どうしたの?」
『……いや、皆勤賞狙ってた桐谷くんが、そんな簡単な理由で休むかな?って……』
「アハハッ……。よく覚えてたね。そんな話」
『……当たり前でしょ?だって──』
「──ねえ、井上さん」
彼女が次の言葉を言う前に、俺は彼女にとって残酷な言葉を告げる。
「会いたい」
『…………え?』
どれだけ残酷だと分かっていても、今の俺には彼女に頼るしかなかった。
『どっ、どうしたのっ……?熱があるんじゃ──』
「──熱なんかないよ」
そして、また彼女に期待させるような事を言ってしまう。
「井上さんしか頼れないんだ。お願い」
『……う、うん』
電話を切ってから、深くため息をつく。
俺って、本当に最低だな──。
***
「──何か、どんどん悪い方向に進んでいってないか?」
直登の発言に、私も樋野くんも何も言えなかった。
湊くんの家を訪ねた次の日、今度は凪沙が学校を休んだ。湊くんも、もちろん学校には来ていない。
「……でも、凪沙が学校を休む理由が分からないんだけど」
「……考えられるのは……瀬戸さんと同じように、桐谷くんと何らかの形で接触して、拒絶されて、ショックを受けてしまった、とか?」
「凪沙の事だからありえるね」
いつもより空気の重たい空き教室。普段なら、5人でここに集まって、他愛もない話をして、笑い合っていたのに……。
どうしてこんなことになってしまったんだろう……?
私が、無理に湊くんに関わろうとしたから?そもそも、花火大会の時にあの様子を見ていなければ……。色々な想いが巡っている時、直登が口を開いた。
「とりあえず、俺と可鈴は今日も桐谷の家に行く。樋野は、井上に連絡を取ってみてくれ。推測する前に、本人に事実を確認しないとな。それが、今日の放課後の予定だ。良いか?」
落ち着いてそう話す直登。こういう時に、冷静な人がいてくれることは本当にありがたいことだ。
そうだよね。頭で考えているだけじゃ何も変わらない。
私たちが動くしかないんだ──。




