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本当の君を好きになる  作者: 瑠音
第4章『3年生』
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第44話 伝える



 ガラララ──。

 いつものように、教室の扉を開けて中に入る。先に来ている生徒は、友達と話をしたり、宿題をしたりと様々だ。

 自分の席に座ろうとしたその時、私は一瞬固まる。


「……お、おはよう。桐谷くん」


 いつもなら私が席に座って彼の事を迎える筈なのに……。今日は、早かったんだな。

 読書をしていた彼は、私の声にすっと顔を上げる。


「あ、おはよう。井上さん」


 そして、いつもの優しい笑顔で微笑む。

 私は、荷物を用意しながら緊張をほぐすためにも、自分から彼に話しかける。



「今日は早いんだね。びっくりしちゃった」


「うん。井上さんと話がしたかったからね」


「……え?」



 出しかけた教科書をそのままに、桐谷くんの方を見た。彼は変わらず笑みを浮かべている。


「……でも、俺が話を聞く必要も無さそうだね。何か、スッキリしたっていう顔してるもん」


「……桐谷くん」


「やっぱり瀬戸さんはすごいね」


「……うん。本当にすごい。尊敬するよ」


「まあ、これで俺もひと安心だよ!」


 桐谷くんは、うーんと伸びをすると再び本に手を伸ばす。


「──桐谷くん」


「ん?」


「私、話があるの」





***



「──ねえ!!何でそんなに怒ってるの!?」


「うるせぇよ!!自分で考えろ!!」


「考えても分からんないから聞いてるんでしょ!?」


「……うるせぇ!!!!」



 朝。月曜日の朝。憂鬱な月曜日の朝……迎えに来た直登は私の事を怒っていた。

 理由を聞いても全く教えてくれず、とりあえず直登に追い付こうと早足でついていく。登校するだけで、すごく汗をかきそうだ。



「ちょっ、ねぇっ……待ってってばっ!!」



 これ以上進むと、学校の生徒が増えてくるのでまずいと思い、私は直登の腕をガシッと掴んだ。直登は、ギロッと私を睨みながら振り返る。


「……お前、ふざけんなよ」


 直登の一言に私は固まる。え、怖い……。そう思った次の瞬間──



「──じゃあ言わせてもらうけどな、お前連絡ぐらいよこせよっ!!週末の間、家に行ってもいねぇし、連絡は返って来ねぇし、お前まで変なことに巻き込まれたかと思っただろうがっ!!ふざけんなよっ!!」


「え」


「めちゃくちゃ心配してたのに、今日は普通に眠そうに出てくるし、心配してた損したわ!!ふざけんな!まじで、ふざけんな!!」


 メールとか、全然気づかなかったというか……もしかしたら、後回しにしてたかも……。とにかく、凪沙と菜月ちゃんと樋野くんの事で頭が一杯で……。


「……ご、ごめんなさい」


「うるせぇ。当分許さねぇから」


「え、な、直登っ……ごめんってば!!」


「許しませんー」


「ごめんなさいー!!!!」




***



 私と桐谷くんは、あの空き教室に来ていた。金曜日は、私がこの教室を汚してしまったけど、すっかり綺麗になっている。皆がやってくれたのかな……?


 桐谷くんは、1つの机に寄りかかり私の言葉を待っているようだった。私は、大きく息を吸い込むと、彼の目を真っ直ぐ見つめた。



「……ずっと言わなくちゃって思ってたけど……遅くなっちゃった。私……桐谷くんの事が……好き……」


「井上さん」


「桐谷くんは、可鈴の事が好きだからって伝えることすら諦めてた。……でもね、それじゃあ私は何一つ変われないなって思ったの。桐谷くんが誰を好きでも構わない。私が貴方の事が好きなんだよって伝える事から始めようって思ったの」



「……ありがとう。すごく嬉しいよ」



「……桐谷くん……私、桐谷くんの事まだ好きでいてもいいかな……?」



 私がそう尋ねると、桐谷くんはニコッと笑う。


「井上さん。人を好きになるのに許可はいらないんだよ?てか、こんな俺の事好きでい続けてくれて……本当にありがとう」


 その言葉は、私の胸にじんわりと染み渡った。桐谷くんの優しさに、目の奥が熱くなる。



「私、桐谷くんの事好きになって良かったっ……!」




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