第43話 動き出した時間
「……き、緊張してきた」
「し、しっかりしてよ。お姉ちゃんっ……!!」
「大丈夫だよ、私もいるし」
緊張する井上姉妹と、余裕な私、瀬戸可鈴。
凪沙の苦しみを知った金曜日、菜月ちゃんと仲直りを果たした土曜日を過ごし、今日は日曜日。
緊張する二人と共にどこに向かっているかというと……
「てか、綾人くん家にいるのかな?」
「いる筈だよ?連絡したら、今日は1日家にいるって言ってたから」
「……ですよね」
二人の仲直りも果たしたということで、今度は樋野くんとも仲直りというか、謝罪をしようということになったのだ。妹の菜月ちゃんの案だが、とても素敵な事だと思うよ。
二人だけでは不安だし、住んでる場所も連絡先も分からないということで、私もついていくことになった。
「あ、ここだ」
私がそう言うと、二人に更に緊張が走るのが分かった。でも、会わなきゃ話は始まらないし……と思い、遠慮なしにインターホンを押す。
少し経ってから、玄関の扉がガチャリと開く。すると、樋野くん本人が出てきた。凪沙は、まさかの本人登場に固まり、樋野くんも驚きで目を見開く。
しかし、菜月ちゃんは……
「急に訪ねて来てごめんなさい。でもね、本当に遅くなっちゃったけど、話したいことがあるの」
と、淡々と話を進める。樋野くんは、状況が理解できていないようで、何も返事をしなかった。
「……樋野くん?大丈夫……?」
私が尋ねると、樋野くんはハッとして意識を取り戻す。
「あ、ごめん。何か色々訳分かんなくて……とりあえず、立ち話じゃなんだし、上がって?」
***
リビングに通され、私たちは落ち着かないままテーブルにつく。凪沙と菜月ちゃんが隣同士で座り、その向かいに、私と樋野くんが座った。みんな、緊張した顔で、ガチガチになっている。
「……それで……話したいことって……?」
樋野くんが尋ねると、菜月ちゃんは答える。
「……たくさん迷惑かけてしまって、本当にごめんなさい」
そう言って深々と、頭を下げる。
すると、続いて凪沙も
「……私も、綾人くんの事たくさん傷つけた……。全部背負わせてしまって、本当にごめんなさい」
二人の言葉に、樋野くんは何度も何度も頷いた。そして、いつもの笑顔でニコッと笑う。
「顔あげて、二人とも」
二人はゆっくりと顔を上げる。
「僕は、二人に謝って欲しいなんて思ってなかった。僕の方が、ずっと謝りたかった。本当に、ごめんなさい。……この言葉が、いつか二人に届くんじゃないかと思ってたけど……今、やっと届いたね。でも、何か今の二人の様子見たら嬉しくてさ……何か、あの時に戻ったみたいだね」
その言葉に、二人は照れ臭そうに笑う。それにつられて、樋野くんも優しい笑顔を浮かべる。
「じゃあ、もう謝るのは終わりにしよう?僕たちも、それぞれ前に進むんだ。いい?」
「うん」
「大丈夫だよ。綾人くん。私、前に進んでるから」
「「え?」」
その発言に、凪沙も樋野くんも首を傾げる。
「私、通信高校に通ってるから」
「「「えええっ!?」」」
当たり前でしょ?とでも言いたそうな顔で、菜月ちゃんは話をする。
「……確かに少しの間落ち込んでたけど、このままじゃダメだと思って、お母さんに相談してね。お姉ちゃんには、話が出来る機会が無かったけどね……。それに、彼氏だって出来たし」
「嘘っ!?」
「本当だよ!……綾人くんよりも、すっごく素敵な人なんだから!」
菜月ちゃんが、そう言うと凪沙は驚きの表情を浮かべる。樋野くんは、面白そうに笑っていた。
「そうかー!!それなら良かった!僕もそれが聞けて安心したよ!」
「うん!……だから、二人もそろそろ……ちゃんと付き合っても良いと思うよ……?」
菜月ちゃんの発言に、凪沙はビクッとする。すると、綾人くんは、首を横に振った。
「菜月、違うよ」
「え?」
「凪沙にはね、素敵な相手がいるんだから」
「え?お姉ちゃんも?」
「今はまだ好きなだけだけどね」
「ちょっ、綾人くん……!?な、何で知って……!?」
樋野くんは、イタズラっぽく笑うと続ける。
「見てれば分かるよ!……特に自分の好きな人の事はね」
その発言に、3人揃って顔を真っ赤に染める。
そして、顔を見合わせて笑った。
止まっていたと思っていた時間は、知らない内に動き出していたみたいだ。
それから私たちは、日が暮れるまで、たくさん話をし続けた。
素敵な……本当に幸せな日曜日を過ごした──。




