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本当の君を好きになる  作者: 瑠音
第4章『3年生』
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第42話 対面


 凪沙とお泊まり会をした次の日。私は、凪沙の家にお邪魔することになった。そういえば、凪沙の家に行くのって初めてかもしれない。



「──あなたが瀬戸さん?」


 玄関で凪沙のお母さんに迎えられる。


「はい。いつも凪沙さんにはお世話になってます」


 そう言ってニコッと微笑むと、凪沙のお母さんも優しく微笑んでくれた。


「いえいえ。こちらこそ、凪沙がいつもお世話になってます。仲良くしてくれてありがとうね」




 軽く挨拶を済ましてから、二階へと向かう。すると、部屋から女の子が出てきた。凪沙は、その子を見た瞬間、気まずそうな顔をする。


 あー……この子が妹の菜月ちゃんか。


 菜月ちゃんも、明らかに戸惑っている様子だ。


「こんにちは。お姉ちゃんの友達の、瀬戸可鈴と言います。突然お邪魔してごめんなさいね」


「……あ、い、いえ。どうぞ、ごゆっくり」


 そう言うと、逃げるようにして私の横を通り抜け、一階へと降りていった。

 私はその様子を見ながら、少し考え込んでいた。



「ごめんね。私がいるから、あんなに愛想悪いんだよ」


「え?そんなことないと思うけどね?」


 申し訳なさそうに凪沙がそう言うが、私はそうでもないよといった風に返事をする。今日の目的の一つは、凪沙の妹と話をすることだ。

 もっと、厳しい目付きで見られると思っていたけど、案外話は出来そうだな……。ちょっと頑張ってみようか。





***



「──ごめん、ちょっとお手洗い借りてもいいかな?」


「あ、良いよ!部屋を出て右に行けばすぐだから!」


「うん!ありがとう」



 私が部屋を出た瞬間、凪沙の妹がちょうど階段を上がってくるところだった。私は、ニコッと微笑みかけると彼女に近づく。

 彼女は、戸惑いながらも逃げようとはしなかった。



「……菜月ちゃん……で合ってるよね?」


「あ、はい」


「お母さんもお姉ちゃんも、いい人だね!私、これからも通ってきていいかな?」


「あー……母も姉も喜ぶと思います。是非」



 菜月ちゃんはそう言うと、凪沙に負けないくらいの優しい笑顔を浮かべた。なんだ、そんな素敵な顔出来るんだね。


「ありがとう!あ、トイレってどこにあるっけ?」


「あ、そこを真っ直ぐ行けばありますよ」


「了解!ありがとう!」


 そう言って、振り返った瞬間、小さな声で彼女は言った。





「──姉は……私の事、何か言ってましたか?」



 その小さな呟きを、私は聞き逃さなかった。自然と足が止まる。



「……それは、お姉ちゃんに直接聞いた方が良いんじゃないかな……?」


「……一年以上口を聞いていないので、話をする機会なんてないんです」


「どうして口が聞けないの?」


 私はそう尋ねながら、振り返る。菜月ちゃんは、片手で腕を押さえながら小さく震えていた。



「……私、頑固だから。なかなか自分の悪いところを認められなくて。……すれ違う度に、知らん顔して……。本当は、言わなければいけないことなんて分かっている筈なのに……。でも、空いた時間が長すぎて、私にはもうどうしようも出来ないんです」


「……そっか。私、ちょっと安心した」


「……へ?」


「菜月ちゃんも、お姉ちゃんと同じ気持ちだったんだね」


「同じ……気持ち」


「もう時効は過ぎてるんじゃない?きっと、怒りの気持ちなんてもう無いんでしょう?お互いに、ただ意地張り合ってるだけ。それで、一年以上話せないなんて……辛すぎない……?」


 私がそう言うと、菜月ちゃんは目元を手で覆った。


「もう十分、後悔も反省もしてるでしょ?私は、過去を見てきた訳じゃないけど、二人の様子を見てると、そう感じるよ?もう、楽になろうよ。楽にしてあげてよ。こんなの誰も報われないよ」


 すると、カチャリ……と小さな音を立てて、部屋の扉が開いた。そこには、目を真っ赤にした凪沙が立っていた。その姿を見た、菜月ちゃんはボロボロと涙を溢す。



「……私、お姉ちゃんなのにっ……気づいてあげられなくてっ、ごめんねっ……?菜月は、何も悪くないからっ……お姉ちゃんが悪いからっ」


「……な、に…言ってんのっ……。お姉ちゃんは、何もしてないじゃんっ……!突き放したのは私だよっ……?」


「突き放されるような事をしたのは……私だか──」


「──違うよっ!!」



 その声で、一度その場はしーんと静まり返る。


 すると、菜月ちゃんが呟いた。



「ごめんね……」



 その言葉に、凪沙は首を横に振る。



「ううん。私こそごめんね……?傷つけて、苦しめてごめんねっ……?菜月っ……ごめんねっ」



 その言葉に、菜月ちゃんは何度も頷いた。そして、二人揃ってその場に泣き崩れた。二人の泣く声が聞こえたのか、お母さんも階段を駆け上がってくる。

 私が、「大丈夫ですよ。」と伝えると、お母さんは、優しい笑顔を浮かべた。

 菜月ちゃんも、凪沙も、この素敵な笑顔はお母さん似なんだね。


 そう思いながら、私は凪沙の背を、お母さんは菜月ちゃんの背を優しく撫で続けた。






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